ダンジョン戦争 5
「かなり油断していますね。すでに気持ちは植物系エリアのエリアボスに向いています」
ダンジョンに侵入したスペシャルチームは、飛行系エリアを難なく攻略し、植物系エリアに入った。植物系エリアは意図的に弱い魔物を配置しており、油断を誘うようになっている。
「このエリアの魔物は大したことないな」
「罠が少し多いが、大したことはない」
「ボスも火属性に弱いから大丈夫だ」
そんな会話が聞こえてくる。
「予定通り、B地点に到達したッス。罠を発動するッス!!」
ダクネスが罠を発動した。スペシャルチームの斥候は、面倒くさそうに解除しているし、他のメンバーもうんざりした様子で見ている。
この罠は大した威力は無いが、解除に時間が掛かる。さあ、地獄の始まりだ。
「グレートコングの投石を開始します」
タリーザがグレートコングを使役する。
斥候部隊員は罠解除に集中しているし、他のメンバーも気を抜いている。突然の攻撃にスペシャルチームは、冷静さを欠いていた。
更に追い打ちをかけるようにロックゴーレムを展開する。
スペシャルチームの槍使いが叫ぶ。
「なに!!ロックゴーレムだと?植物エリアでゴーレム系が出現するはずがないのに」
ロックゴーレムはそれ程強力な魔物ではない。良くてCランク程度だ。しかし、今まで出現しなかったエリアで出現したことに驚いている。それに、帝国軍ではエリアごとの戦い方をシステマティックに決めているし、場合によっては武器を持ち換えたりする。
植物系エリアの魔物は素早い割に防御力が低く、反対に鉱山系エリアでは防御力が高く、素早い動きをしてこない。
今回の2番の剣士も植物系エリアでは、軽めの片手剣を装備し、鉱山系エリアでは長剣を装備して戦っていた。予期せぬ魔物に出くわし、予定していた作戦も崩れたので、パニック状態だ。
骸骨騎士様は言う。
「これもオルマン帝国軍の弱点なのだが、臨機応変な対応が苦手のようだ。作戦を確実にやり遂げる能力は高いが、一端計画が崩れると脆いところがある。その辺は指揮官がフォローしないと駄目なのだがな・・・」
骸骨騎士様は自分の後輩達の不甲斐ない戦いぶりを少し残念に思っているみたいだ。
戦いはというと、奇襲を仕掛けたこちらが有利だった。魔法使いの火魔法もロックゴーレムで無力化し、弓使いには絶えずグレートコングが投石で牽制しているので、実質後衛部隊は何もさせていない。
後衛の援護のない中でも剣士と槍使いは奮戦していた。
「そろそろ、剣士を潰しましょうか?」
ミランダ社長が言う。
それに合わせてタリーザがトレントを5体展開して剣士に攻撃に当たらせる。トレントは植物の魔物で、戦闘力は、ほぼない。しかし、これも作戦だ。
普段なら冷静に対処していたであろう剣士が、必殺技の連続攻撃に出た。あっという間にトレントは切り伏せられる。
「行け!!グレートボア」
連続攻撃の後に隙ができる弱点を狙い、潜ませていたグレートボアが突進する。グレートボアはイノシシ型の魔物で、こちらもCランクの魔物だ。しかし、突進攻撃だけなら、かなりの破壊力がある。
グレートボアの突進をまともに喰らった剣士は吹っ飛ばされた。
更にドーンという音とともに罠が爆発した。急な戦闘で焦った斥候が罠の解除に失敗したらしい。
斥候も大怪我を負っている。
「簡単な構造の罠なんスけど、慎重に解除しないと駄目なんスよ」
ダクネスが言う。そういう罠を選んだダクネスもセンスがある。
ここで槍使いが大声を出す。
「撤退だ!!負傷者の回収が済んだら撤退しよう。それまで俺が攻撃を防いでやる」
この状況でダンジョン攻略は無理だと判断したらしい。槍使いは防御だけを考えれば、かなりの実力者で、Cランク程度の魔物であれば、近寄らせないことくらいは容易だった。魔法使いが連続魔法で援護する中、回復術士と弓使いで負傷した剣士と斥候を回収し、素早く撤退していった。
こちらとしてもパーティーの殲滅が目的ではないため、追撃はしなかった。
骸骨騎士様は言う。
「撤退の判断と撤退要領についてはよく訓練されておるな。この戦いを見るかぎり、指揮官は、部隊員の人命第一としていると分かる」
「そうですね。過去の戦闘記録を見ても、パーティーメンバーの誰か一人でも重傷を負った場合は、迷わず撤退してますね」
戦闘は終了した。私達の勝利だ。
「それでは行ってきます」
私はみんなにそう言うと、作戦本部の様子を探りに向かった。
作戦本部もパニック状態だった。
「なに!?攻略に失敗して2名が重症?あり得ん・・・・」
「エリアボスにすらたどり着けないなんて・・・・」
「しかも、ロックゴーレム、トレント、グレートコング、グレートボアにやられたって?全部C~Dランクの魔物じゃないか!!」
副官が言う。
「ダンジョンに異変が起きていることは間違いない。とりあえず、撤退したパーティーを呼んで来い。分析するぞ」
会議は遅くまで続いていた。
「結局は油断していたとうことだな」
「そうだ、そういうことだ」
「次のパーティーは、油断しないように指導しておこう」
作戦本部員は、スペシャルチームが攻略できなかった事実を受け止めきれない様子だった。
(人間誰しも見たいものしか見ないからね)
「明日の攻略パーティーは予定どおりのメンバーで臨ませる。今回の反省として、斥候部隊員が罠を解除している間は気を抜くことなく周囲の警戒に当たらせるように指導しておけ!!」
大きな作戦変更はなさそうだ。ただ、罠解除中の奇襲攻撃はもう使えなさそうだった。
私は情報を持ち帰り、報告をすると反省会が始まる。
「罠の解除中の攻撃は上手く行ったッスね。それに植物系エリアでゴーレムも出現させたのも、良かッス」
「あれは、ナタリー先輩の失敗談を参考にしたんですよ」
「A-2ダンジョンの事件でしょ?ミーナさんから聞いて大笑いしたわ」
(こいつら、私を馬鹿にして・・・)
でも実際、A-2ダンジョンで、鉱山エリアに設置する予定のスポーン(魔物発生装置)と湖エリアに設置するべきスポーンを間違えて反対に設置してしまった。そのため、ロックゴーレムが出現すると同時に湖に転落するという奇妙なシチュエーションを作り出し、反対に鉱山エリアでは、水もないのに魚系の魔物が出現し、すぐに死滅するという異常事態を引き起こした。
悪夢のような光景が昨日のことのように思い出される。
ひとしきり笑いが起きた後、真面目な話に戻った。
「今回は鉱山系エリアで迎え討ちましょう。次に来るパーティーは、剣士が2人、槍使い、弓兵、魔法使い、斥候です。前衛が3人いるので、普通なら鉱山エリアは、物理攻撃メインで戦うパーティーが有利なのですが、それを逆手に取りましょう」
ヘンリーさんの作戦を聞く。
今回も心配なさそうだ。
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