ダンジョン戦争 2
領主である勇者と共に作戦本部を訪れた私とヘンリーさんを出迎えてくれたのは、なんとロイさん(カーン子爵の五男さん)だった。
なんでも、作戦本部で研修を受けているようだった。ロイさんが簡単な説明をしてくれる。
まず5人パーティーを10組作りダンジョン攻略に向かわせる。そこで情報を一括集約して作戦本部が分析する。分析した結果を基にパーティーの組み替えを行う。それを愚直なまでに繰り返す。
部隊員も疲労が溜まらないようにシフトを組んで、ダンジョン攻略→休息日→訓練日を繰り返すみたいだ。本当に合理的だ。もっと詳しく知りたいと思い、ロイさん質問をする。
「少し具体的な話になりますが、ダンジョン攻略で難しいと感じたところやボス戦における具体的な戦術を教えて下さい。それから部隊員の能力的なことと部隊編成の具体的なやり方を教えてください」
「えっと・・・そこまで詳しくは僕も把握してません。すいません」
それには、オルマン帝国軍部隊の副官が答えてくれた。部隊長のダンカン将軍は、このダンジョン攻略作戦にはタッチしておらず、ギルドの訓練所で地元のゴブリン達や冒険者に訓練指導をしているらしい。後進の育成のためだという。
「質問内容から察するにそちらのレディはかなり優秀な方のようだ。副官の私が答えましょう」
(優秀なレディ?照れてしまう)
しかし、この後の副官の発言に私は激怒してしまう。
「こちらに連れてきている兵科は近接戦闘要員が槍使いと剣士、遠距離攻撃要員が魔術士と弓兵、それに回復術士と斥候部隊員です。冒険者ランクで言えばA~Bランクの者が各兵科に2~3人はいます。後は若手中心のメンバー編成なのでC~Dランクがほとんどです。パーティー編成ですが、戦力が均衡するようにバランスを意識してますね」
「上級ランクの者だけでパーティーを組んだりはされないのでしょうか?」
(訓練をメインのパーティーと攻略メインのパーティーに分けているはずだ。そうに違いない)
「それでは訓練になりませんよ。そんなことをしたら攻略パーティーが続出してしまいますね。与えられた情報を基に限れた戦力で戦うからこそ、いい訓練になるんです。我々にとってみれば、セントラルハイツ学園にある学生向けの訓練ダンジョンみたいなものですよ。まあ、あそこも学生のときは攻略するのに苦労しましたけど」
(私達が一生懸命作ったダンジョンが「学生向けの訓練ダンジョン」ですって!?)
舐めている。舐めきっている。怒りで怒鳴りそうになった。
気が付くとヘンリーさんが私の肩を掴んでいた。何も言わず、首を横に振っている。私の怒りは顔に出ていたようだった。
質疑は、それで終わり、私とヘンリーさんは作戦本部の資料を見せてもらった。かなり分析されている。こっそりと転写スキルを使って、ほとんどの資料を写し取った。
帰り際にヘンリーさんは言った。
「さすが天下の帝国軍だ。これは龍神様にダンジョンの難易度を上げるように進言しないといけませんね」
ヘンリーさんも内心では腹が立っているようだった。
ダンジョンに戻るとダクネスが声を掛けてきた。
「どうしたんスか?ナタリーさんが、めっちゃ怒ってるッス!!」
「会議を開きましょう。そこで話すわ!!」
すぐに今後の対策について会議をすることになった。今回は骸骨騎士様だけでなく、ミランダ社長にも来てもらった。
私が事の経緯を説明した。みんな怒り心頭だ。特に「学生向けの訓練ダンジョン」という言葉はダンジョン関係者にとって最大限に侮辱する言葉だ。駄目なダンジョンを揶揄するとき、「学生向け」とか「お子様用」とかいう言葉を使う。副官にその意図があったかどうかは不明だが、許せない。
骸骨騎士様が口を開く。
「話は分かった。我も最大限協力しよう。ところで、ナタリー殿に何か策はあるのか?」
「そりゃ・・・・あ、あります」
そう言えば、怒っていただけで、特に対策なんて考えていなかった。後輩の3人が期待を込めた目で私を見ている。何か答えなくては・・・・。
「DPを大量につぎ込んで、ボッコボコにしてやりましょう!!」
(もはや作戦でも何でもない)
これには意外に新人スタッフ3名は賛成してくれた。
「私は賛成です。舐められたら終わりですからね」
「そうッス!!ボコボコにして皆殺しッス!!」
「龍神様のダンジョンを侮辱するということは、龍神様を侮辱したのも同じ。灰も残らない位に焼き尽くしましょう!!」
ダクネスとタリーザは過激だった。
ここでミランダ社長が待ったをかける。
「その気持ちは十分分かるけど、そういうことじゃない気がするわ。相手を屈服させるには、違うやり方があると思うの。せっかくなので、オルマン帝国の大将軍であったロンメルさんの意見を聞きましょうか?」
骸骨騎士様に話を振ると
「その前に我のこの部隊に対する感想を言う」
と言った後に少し間を置いて、怒鳴った。
「この部隊は舐め腐っておる!!いくら作戦が上手くいっているからと言って、部外者を何の警戒もなく作戦本部に招き入れ、ペラペラと自慢するとは信じられん。我が指揮官であったなら、首を刎ねていたかもしれんぞ!!我もこの部隊に鉄槌を下してくれる」
これにダクネスとタリーザが囃し立てる。
「そうッス!!皆殺しッス!!」
「殲滅してやりましょう!!」
「と、まあ前置きはこのくらいにして、我の後輩でもあるので、奴らに奢り高ぶっていたことを反省してもらいたい。そのためには・・・・・」
骸骨騎士様が言うには、オルマン帝国の国民性として、名誉を何よりも重んじる。なので、単純にダンジョンの難易度を上げただけでは、逆に喜んでしまうという。「我々の実力が認められ、ダンジョン側も難易度を上げるしかなかった」と。
なので、ダンジョンの難易度はそのままで、全く攻略できない状況を作り出すことが一番の屈辱を与えることになるとのことだった。
私は骸骨騎士様に聞く。
「具体的に、どのようにすればいいのでしょうか?」
「簡単なことだ。我らも同じことをしてやればいいのだ」
骸骨騎士様の案を聞いた後にミランダ社長が言った。
「これだとしばらくの間、休みは無しね。みんなそれでいいの?」
それくらい、今のテンションなら問題ない。私は言う。
「ミランダ社長。それは愚問ですよ」
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