馬鹿息子
カーン男爵領のB-5、B-6ダンジョンでの活動の後、少し休暇をもらい、実家のダンジョンに帰省したがゆっくりできなかった。元隊員達はもとより、元々いる魔獣達に、召使いのようにこき使われた。燻製肉やクッキーを作り、モフモフマッサージを行う。
こんなことなら、自宅でゆっくりしていれば良かったと思ってしまう。
疲れが取れないなか、今日は久しぶりに出勤する。
あれ?キョウカ様がいる。
「おはよう、ナタリーちゃん。キョウカ様達も「ダンコル」の臨時職員になったから」
聞いて驚いた。スタッフが増えている。「試練の塔」のキョウカ様、ミルカ様、骸骨騎士様が加わることになった。給料は特にいらないらしく、好きな時に来て、好きな仕事をするみたいだ。
「そこの寝坊助さん。もっと早く出勤しなさい!!それと早くお茶を入れて」
ミランダ社長が言うには、ワクワクしすぎて、前日は眠れず、事務所が空く前に到着していたみたいだった。
午前中は事務処理などをして過ごすが、キョウカ様は何もしていない。執筆活動をしているミランダ社長がたまにする質問に答えるくらいだった。なので、理不尽に「マッサージをしろ」とか言ってくる。給料を払っていないので、何も言えないが、正直邪魔だ。それに自前の机と椅子は無駄に豪華だ。「試練の塔」から持って来たらしい。
態度に出ていたのか、ミランダ社長に注意される。
「色々あるから我慢してね。役職は特別顧問だから、そのつもりで接してね。特別顧問でもあり、専属契約をしているクライアントでもあるんだからね」
(ここでも私は召使いか・・・)
昼食後、来客が来た。紳士的な初老の魔族の男性で礼儀正しく挨拶をしてくれた。
「初めまして、通称「光の洞窟」の前ダンジョンマスターのマルクス・アントニウスです。依頼というか、とりあえず話を聞いてから決めたいのですが・・・」
「申し遅れました。「ダンコル」の代表ミランダ・マースです。ミスタリアグループのラッセル会長のご紹介と伺っております。詳しいことはお聞きしていませんので、内容を教えていただければ幸いです」
「分かりました。お恥ずかしい話ですが・・・」
マルクスさんは話始める。
「光の洞窟」はノーザニア王国の王都ノビスランドの西、馬車で1日の距離にあるダンジョンで、希少な金属も産出される鉱山ダンジョンらしい。数年前に息子にダンジョンマスターを引き継いだのだが、これが馬鹿息子だった。何を思ったか、ダンジョンボスに多額のDPをつぎ込んだそうだ。
購入したダンジョンボスが厄介な魔物で、スポーン(魔物発生機)から生み出される量産型ではなく、一点物の強力種らしい。かなり強力で、魔物活性化の特殊スキルを持っていて、頼みもしないのに岩系(ゴーレム等)やメタル系(メタルソルジャー等)などの魔物を次々と生み出すみたいだ。
マルクスさんが言うには、息子さんのネロスさんは「厨二病」という病に罹っているのではと心配しているらしい。
私はハーブティーとクッキーを出し、マルクスさんは相談を続ける。
「普通のダンジョンならそれでも何とかなるのですが、うちのダンジョンは少々特殊でして・・・」
「光の洞窟」は10階層からなるダンジョンだ。1~5階層は全く魔物が出ない。以前は魔物が出現していたらしいが、現ノーザニア王国の国王が魔物を駆逐したらしい。「光の洞窟」はスポーンを使ってないらしく、魔物を自生させている。なので駆逐してしまえば、魔物は出現しない。魔物が自生している点は実家のダンジョンと同じだ。
ノーザニア王国も鉱石が多く採取できるので、1~5階層までしか立ち入らない。国が厳重に管理しているので、国が許可した鉱石の採取者以外はダンジョンに入ってこないみたいだ。
「よくそれで、採算が取れますね?」
ヘンリーさんが質問する。
「そう思われるのも当然です。これが特殊事情なのですが、6階層~10階層はゴブリン族が多数居住しています。ゴブリン族は魔族でも最弱の種族です。先々代のダンジョンマスターのときからですかね、魔族領で生存競争に勝てず、逃げて来た集団がダンジョンに逃げ込み、ダンジョン内で増えていったのです。ゴブリン族から滞在ポイントを回収できるのでDPに困ることはなかったんですよ。それからは、6階層に罠を張り巡らし、一点物の魔物を購入して、たまに国の監視の目をかいくぐり、6階層以下にやってくる迷惑な冒険者を撃退するのがメインの業務でした」
ミランダ社長が納得したように小声でつぶやく。
「そうだったのね。1~5階層に全く魔物がいないのに6階層から罠が張り巡らされ、強力な魔物が出現するなんておかしいと思ったのよ」
(ああ・・ここに迷惑な冒険者がいた)
ミランダ社長のつぶやきは運よく、マルクスさんには聞こえなかったみたいで、話が続く。
「それが今回、馬鹿息子がやらかしてくれまして・・・。ミスリルリザードなんて・・・」
ヘンリーさんがまとめる。
「つまり、ゴブリン族が今までどおり暮らせるようにダンジョンの環境を整えることが依頼内容ということですね」
「その通りです。ミスリルリザードを討伐できれば解決できるのですが、かなり強力でして、このままいけばゴブリン族がいなくなってしまい、ダンジョンは破綻してしまいます。なんでミスリルリザードなんて厄介な魔物を購入したんだか・・・ダンジョン協会も止めてくれればよかったのに・・・」
マルクスさんは頭を抱える。
ミランダ社長は言う。
「1階層~5階層にも魔物が活性化して出現するということは、ノーザニア王国も動くと思います。最悪、ミスリルリザードとノーザニア王国の調査団とが鉢合わせして、とばっちりでゴブリン達も被害を受けると思います。状況は切迫してますね」
「そうなんですよ。最悪はダンジョンをダンジョン協会に譲渡して、ゴブリン族を保護してもらうことを考えないといけないのですが・・・ゴブリン族には情もありますし、私達はどうしたら・・・」
そんなとき、キョウカ様がやってきて自信満々に言った。
「私が何とかしてあげましょう。跪き、心から頼むのです!!」
(仕事をもらう立場の人間が言うセリフではない・・・)
「あれ?キョウカ様ですか?「試練の塔」の。どうしてここに?」
「私はここの特別顧問で最高責任者です。それにここの者達に「試練の塔」の雑務をやらせています」
(だ・か・ら・・・あなたは肩書だけのただの臨時職員なんだってば!!それを最高責任者だなんて、大嘘もいいところですよ)
「そうなんですね。それは心強い。ここに来るまでは迷っていたのですが、決めました。すぐに契約しますので、よろしくお願いします」
無茶苦茶だが、契約は成立してしまった。
キョウカ様が私の方を見て、ドヤ顔でニッコリしていた。
本当に腹が立つ。
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