決着
日に日にグリード子爵軍はボロボロになっている。グリード子爵軍からすれば3日もあれば、領都を制圧できると思っていただろうに、1週間経過しても森の中、兵力は半分の150名にまで減ってしまった。それに夜襲もある、しかも正確に。本当に絶望的な状況だろう。
こういうときこそ、交渉で上手くいくことが多いそうだ。
今日、ミランダ社長が不意にやってきた。B-5ダンジョン(恵みのダンジョン)の転移スポットを使ってやってきたみたいだが、ヘンリーさんとミルカ様達に何か話していた。
「すべて上手くいったわよ。もうすぐ帝国の調査団が来るみたいよ」
聞いたところ、キョウカ会で宰相と軍務大臣にキョウカ様が圧力を掛けたらしい。
『あなた方は地方や僻地への思いやりが足りません。これは私に対しても愛情がないということなのでしょうね。地方からの陳情は切実な願いです。真摯に対応しなさい。今後真摯に対応するのなら、ここで二人に前借りでお仕置きをしてあげましょう』
言っていることが無茶苦茶な気がするが・・・。それでも効果があったみたいで、ネリス商会を通じての書状が宰相と軍務大臣に届いたときにはこれまでにない位迅速に対応したみたいだった。
そして次の日、調査団がやって来た。文官が5名、その護衛が5名だった。その中にはカーン男爵の次男のモンドさんがいた。オゴディさんなんかは照れくさいのか「遅いんだよお前は!!」とか言っていたが本当に嬉しそうだった。そして一際目を引くのは屈強な体をした初老の男性軍人だった。トーマス・ダンカンという武人で将軍らしい。一目で凄い人だと分かる。かなり大きい大剣を持っている。
文官の代表にカーン男爵が説明する。忙しい合間に書類や証拠を集めていたので、それを提示する。
「これは酷い!!よくまあこれだけ・・・・。それにこれは氷山の一角かもしれません。たちまち、こちらがグリード子爵から受け取ったこの付近一帯の税収が帳簿と全く合いません」
文官の代表の説明によるとこの付近の税は、グリード子爵が取りまとめて、中央に納めるようにしているのだが、近隣の領から集めた額と実際にグリード子爵が中央に納めた額に大きな開きがあるみたいだった。
「すいませんね、話が逸れてしまって。今回の件に話を戻しますと間違いなくグリード子爵が悪いと思われます。私どもとしましては、ここでグリード子爵から話を聞いてすぐに処理したいのですが、ご協力いただけませんか?」
結局、中央から来た文官の要望としては、ここでグリード子爵に簡単な事情聴取をして、身柄を拘束したいとのことだった。こちらとしては願ってもない申し出だ。
そして、文官達が来た2日後にボロボロの状態のグリード子爵軍と対面する。場所は街道に設置された砦だ。この砦を抜けられると領都まで、一気に攻められてしまう。
すると、グリード子爵軍から男が一人、馬に乗り進み出てきた。
「我がグリッド・グリードだ!!カーン男爵よ。降伏しろ!!」
件のグリード子爵のようだ。ボロボロの状態で降伏せよとは厚かましい。すると文官の代表が砦から声を上げた。
「待ちなさい!!グリード子爵!!私はオルマン帝国監査本部審査官のクロムウェル・ダーソンだ。グリード子爵には今回の騒乱及び公金横領の容疑が掛かっている。大人しく投降し、事情聴取に応じよ!!」
「審査官殿!!それはそちらのカーン男爵の謀略だ!!息子が惨殺された正当な仇討ちだ!!」
それからしばらく、書記官とグリード子爵の問答が続いたが、堂々巡りだった。グリード子爵は最終的には、「このまま攻め込む」とまで言い出した。ここで声を上げたのは今回の護衛責任者で将軍のトーマス・ダンカンだった。
「息子の仇討ちがしたいのであれば止めはせん!!ただ、それは領兵には関係ないことだ。我が見届人になってやるから、一騎打ちで決闘をいたせ!!」
これにはグリード子爵も従わざるを得ない。決闘にはグリード子爵が出ることになった。そしてこちらはと言うと、少し揉めていた。
カーン男爵が「儂が出る」と言ったら、オゴディさんを始めとした息子さん達が出ると言って聞かなかったりした。結局は二男で騎士団に入団しているモンドさんが出ることになった。
「父上!!私にも活躍の場を与えてくださいよ。せっかく戻って来たんだし!!それに私はあの骸骨騎士様に合格をもらっているんですよ!!」
(その骸骨騎士様はここにいるんですけど・・・・。まあ人間の姿だから気付かなくても仕方ないか)
私は骸骨騎士様に尋ねる。
「大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だ。派手さはないが一生懸命に技を磨いていた。武器防具に頼り、性根が腐り切った奴に負けるわけがない」
しばらくして決闘が始まる。グリード子爵は大柄な体だが、かなり太っている。昔は強かったのだろうが、今は不摂生が祟っているのだろう。それを補うように高級な防具と盾に身を包み、長槍を持って進み出ていた。それなりの魔術士ならすぐに分かるが、部下に指示して身体強化の魔法をかけれる限り、かけてもらっていた。
(正々堂々やる気は全くないじゃん)
一方、モンドさんは均整の取れた体付きで、一目で鍛えていることが分かる。騎士団の軽鎧に身に纏い、武器は片手剣だ。
決闘が始まるとグリード子爵が攻勢に出る。長槍のリーチを生かして、モンドさんを寄せ付けずに一方的に攻めている。
「ロンメルさん、本当に大丈夫なんてしょうか?かなり押されてますけど」
「何を言っておる。上手く捌いているし、押されているのはグリード子爵の方だ。グリード子爵も攻撃を止めてしまえば敗北することが分かっているから、あのような戦い方をしているのだよ」
「そうですぞ、お嬢さん。ロンメル殿の言うとおりだ。この程度の相手に後れを取るような指導を我が部隊はしていない」
「うむ。トーマス殿は良い指導をされているな。一つ手合わせをしたいものだ」
「弟子を褒めていただき、有難い。是非とも」
(この人達は武人なだけあって、意気投合しちゃってるよ。どことなく雰囲気も似てるし)
しばらくして、決着がついた。モンドさんがグリード子爵の槍を真っ二つに叩き切り、喉元に剣を突き付けた。グリード子爵も降参する。
「我の負けだ・・・。とでも言うと思ったか!!一斉にかかれ、総攻撃だ!!中央の役人も皆殺しにすれば証拠は残らない!!」
(本当に腐りきっている・・・)
これに激怒したのは武人二人だ。
「貴族の風上にも置けん!!オルマン帝国貴族がここまで落ちたとは嘆かわしい」
「ロンメル殿、恥ずかしいところをお見せした。おい!!殲滅するぞ」
ダンカン将軍は部下に指示を出す。ダンカン将軍と部下は砦から飛び降りてグリード子爵に向かって行く。それに合わせて、別で潜んでいたダンカン将軍の部下20名もグリード子爵軍に向かって行く。
(気付かれないように潜んでいたらしい)
私がオロオロしていると、ロンメルさんが声を掛けてきた。
「我が出るまでもないな。腐った連中もいるが、ああいう武人が多く排出できていることは誇りに思う」
あっという間だった。グリード子爵は拘束され、奪還にきた領兵も次々に切り倒される。
カーン男爵軍もあっけに取られている。オゴディさんが言う。
「モンドも強くなったと思ったが、まだまだだな。精鋭部隊は本当に心強い」
これで一件落着だ。
私も活躍したし・・・・
(お腹すいたよ~クッキーちょうだい)
(肉をくれ!!)
(マッサージして)
ちょっと空気読んでよ!!
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