ダンジョン分析
朝食を終えると私とヘンリーさんはミルカさんの案内で、ダンジョンの視察をすることになった。まず案内されたのは、高級なホテルや飲食店、商店やその従業員達が居住するエリアだった。町の中央には雲を突き抜ける程高い塔がそびえ立っている。私達はいきなりダンジョン内のマスタールームに転移してきたので、外からダンジョンを見るのはこれが初めてだ。本当に壮観な眺めだ。町もそこら辺の都市が太刀打ちできないほど発展していた。
「一応ここもDP回収ゾーンになります。ここだけで1日に最低でも100万ポイント、多い時で200万ポイントが得られるのです」
「凄い!!200万ですか?」
「なるほど、定住者が5000人前後、一人1時間10ポイントとして、それくらいにはなるか。ラッセルさんのダンジョンを立て直すのに、このダンジョンを参考にして、人族の居住地もDP回収ゾーンにする方式を採用させていただきました。ところで、この方式はどうやって思いつかれたのですか?」
「全くの偶然です。ダンジョン経営を始めた当初の姉は、あの塔を10個くらい作るつもりでDP回収ポイントを設定したそうです。途中で飽きて結局止めてしまったのですが、人族が勝手に住み着いてしまったのです」
ミルカ様は町の中央にそびえ立っている塔を指示しながら答えてくれた。
「偶然にしても凄いですね」
次はいよいよ塔の内部に入る。入口には豪華なロビーと受付が設置されていた。それに転移スポットも設置されているようだった。
「ここが入口になります。各階層を突破すると突破した階層まで転移できます。ただダンジョンに入るのにも、転移スポットを利用するにしても安くない使用料を払わなくてはなりません」
ミルカ様に金額を聞いたら、かなりの高額だった。聞かなければよかったと思う。
1階層~3階層はオーソドックスな迷宮ダンジョンだった。特に凝ったところもなく、ごくごく普通だ。
採取素材もドロップアイテムも粗悪でお世辞にも素晴らしいダンジョンだとは言えない。ダンジョン経営学部の学生が実習で作るレベルだ。
「ダンジョン経営の素人だった姉は勧められるまま、外注したのです。かなりのDPを請求されたらしいのですが、その業者に『こんな素晴らしいダンジョンは他にありませんよ』と言われて、それを信じてしまったのです。多分騙されたんでしょう」
ミルカ様の話では、今でも1階層~3階層は当時の最新式の素晴らしいダンジョンだと思い込んでいるため、改変せず今日に至るらしい。
続いては4階層で、森林フィールドのようだ。ここは24時間滞在しなければ5階層への転移スポットが出現しない設定になっている。
「当初は24時間、様々な脅威が襲い掛かる恐怖のエリアにしようと思っていたらしいのですが、途中で姉の意欲が無くなってしまい、ただの静かな森になってしまっています。意外なことにここはダンジョンでも人気のスポットになっているのです」
よく見て見るといいところの貴族が家族連れでキャンプをしている。子供達にちょっとした冒険気分を味わわせることができるので、人気だという。入場料が馬鹿高いだけで、それなりに護衛を付ければ1~3階層は余裕で突破できるだろう。ミルカ様の話だと、ここの冒険者ギルドのメインの仕事はバカンスに来た貴族の護衛だそうだ。
そして、5階層は両手剣を持ち、立派な鎧兜を纏ったスケルトンが1体だけいるスポットだった。今も戦闘の真っ最中だ。スケルトンと戦っているのは明らかに高位の貴族と分かる年配の男だった。貴族の男もなかなかの腕前だ。(私も決して強くはないが、それなりに戦闘経験はある)
しかし、スケルトンの剣技は別格であっという間に打倒された。貴族の男は立ち上がり、何度も向かっていくが、打倒されてしまった。
それにしてもこの戦闘は何かおかしい。貴族の仲間達が全く手出ししないのだ。そして貴族の男が打倒されるとまた別の貴族の男がスケルトンの前に進み出てきて、スケルトンに一礼してから切り掛かった。
「今戦っているのはオルマン帝国の宰相ですね。他にもオルマン帝国四大公爵家の一つ、ブラックローズ家の関係者、それに現皇帝の弟も来てますね」
(なんでそんな人たちがいるの?)
そんなことを思いながら戦いを見ていたら、オルマン帝国の宰相は善戦もむなしく、打倒されてしまった。倒れている宰相に向かってスケルトンは言った。
「スピードがかなり落ちているぞ!!それになんだブクブクと太りおって!!」
「すいません!!宰相ともなると業務が多忙でして・・・」
「弛んでおる!!稽古が終わるまでお前はその辺を走っていろ!!次に来た時に太ったままだったら、ただではおかんぞ」
なぜか分からないが、スケルトンに宰相が説教されている。シュールな光景だ。
「理解に苦しむのですが、冒険者だけでなく、貴族や騎士団などがここに大挙してやってくるのです。人族は虐められて喜ぶ趣味でもあるのでしょうか?」
しばらくして、高位貴族の集団は整列し、スケルトンに手土産を渡し、深々と頭を下げて去って行った。そうしたところ、そのスケルトンが私達に近付いてきて、ヘンリーさんに声を掛けた。
「貴殿はなかなかの手練れだな。一つ手合わせしてみんかね?」
「光栄です。私はダンジョン経営学部の学生で、ヘンリー・グラシアスと申します。研修で訪れております。よろしくお願いします」
ヘンリーさんは収納魔法も使えるので、アイテムボックスから片手剣を取り出す。
「我は名もなきスケルトンだ。骸骨騎士と呼ばれている。いざ!!」
そういうと二人は激しく打ち合い始めた。ヘンリーさんは剣技も完璧で骸骨騎士様に負けていない。骸骨騎士様も感心している。
「魔巧流か?かなりの使い手だ。だが負けん!!」
魔巧流とは万能型の魔法剣士を養成する流派で、魔族領では割とポピュラーな流派だ。剣だけに頼らず、魔法や搦め手を織り交ぜて戦うのがその特徴だ。
それから、骸骨騎士様は本気を出したみたいで、ヘンリーさんは防戦一方だった。しばらくして、ヘンリーさんは片手剣を弾き飛ばされてしまった。
「参りました」
「恥じることはない。それに魔法や搦め手を織り交ぜれば勝負はどうなっていたか分からんしな」
勝負には負けたが、ヘンリーさんは骸骨騎士様に認められたようだ。
「貴殿等とは少し話がしたい。ミルカよ、頼めるか?」
「承知しました。ちょうど昼時ですので、食事を取りながらでも致しましょう」
(えっ!!スケルトンと食事するの?)
そう思ったが、心配はなかった。短時間ではあるが、骸骨騎士様は人間の姿に戻れるそうだ。
そして私達は6階層のセフティースポットまで転移した。
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