女帝
そして私達はダンジョンマスターのキョウカ様にお会いすることになった。お会いする場所は、謁見の間と呼ばれる場所らしい。中に入ると無駄に豪華な調度品が所狭しと並べられていた。玉座のような立派な椅子に腰かけていたのは、ミルカ様に良く似たエルフの女性だった。ミルカ様と同じようにメロンのような胸をお持ちだ。違いはミルカ様よりも険しい表情と目つき、それとキラキラした派手なドレスを着ているところだろうか。
「よく来られましたね。私がダンジョンマスターのキョウカ・カノンですわ」
「ヘンリー・グラシアスです。研修をさせていただきまして、本当にありがとうございます」
「ナタリー・ヒューゲル・・・」
私が挨拶を仕掛けるといきなりキョウカ様に遮られた。
「あなたには聞いてません。汚いアバズレ!!貧相な顔を見せるないでください!!」
(よく知ってるよナタリーちゃんでしょ。可愛い顔してるじゃない)
いきなり洗礼を受けた。ミルカ様が念話で通訳してくれなければ、もう心が折れていたと思う。
「お姉様!!ナタリーさんから燻製肉の差し入れを頂いております」
「よくまあそんな下品な物を持ってこれたものですね。私が喜ぶと思ったのですか?」
(これ好きなのよ。ラッセルにもらってから嵌っているのよ)
私は俯いて恐怖に耐えていると、更にキョウカ様が怒り出す。テンションが上がって来たみたいで言葉使いが更に乱暴になる。
「アバズレ!!あなたに聞いてるですよ。何か言いいなさい!!」
(何を言っても、罵倒されるので、適当に答えちゃってください)
「えっと・・・キョウカ様がお好きだと人伝手に聞ききましたので」
(ラッセルさんの名前は出すと迷惑がかかるので、出さないほうがいいだろう)
「この期に及んで、責任を人に押し付けるの?」
(私のためにわざわざ用意してくれたのね。うれしいわ)
「そんなつもりはありません。キョウカ様がお喜びになると思いまして・・・」
「もういい!!下がりなさい!!」
(疲れたでしょうから、ゆっくり休んでね)
キョウカ様との怒涛の謁見を終えた私は、ぐったりしていた。今思ったのだが、ミルカさんの通訳は本当に正しいのだろうか?
謁見が終るとミルカ様に滞在用の部屋に案内された。私とヘンリーさんには個室が与えられた。かなり豪華な部屋だった。普通ならテンションが上がって、楽しい気分になるが、ミルカ様の言葉で更に暗い気分になった。
「ナタリーさん、お疲れさまでした。お姉様にかなり気に入られましたね。初対面であそこまでされることはまずありません。それと今後の予定ですが、夕食までは自由にしてください。夕食の少し前に呼びにきます。夕食は姉と一緒に取ります」
それから夕食までは憂鬱な時間を過ごした。ヘンリーさんにこの先どうすればいいか相談したが、さすがのヘンリーさんも今のところ、打つ手はないとのことだった。ただ、
「どうしても耐え切れなくなったら言ってくれ。何とかするから」
と優しく言ってくれた。こういうところが人気がある所以だろう。
そして、いよいよキョウカ様との夕食が始まる。夕食の前に私はミルカさんにドレスに着替えさせられた。例え普段の夕食でも正装が基本らしい。鏡を見ると自分でもなかなかイケてると思ってしまった。着替えとお化粧を手伝ってくれたメイドさんの腕が良かったのだろう。
もちろんヘンリーさんも正装している。普段もカッコいいが、正装姿は一段とカッコいい。ルキアさんが羨ましがるだろう。
私達が食卓に着いてしばらくして、キョウカ様とミルカ様がやって来た。緊張が走る。一体どんなことをされるんだろう。
しかし、予想に反してキョウカは何もしてこなかった。そればかりか優しい言葉を掛けていただいた。
「少し衣装を変えると綺麗になるものね。ミルカさん、明日は二人にダンジョンを案内してあげなさい」
「えっ・・・あ・・はい分かりました」
キョウカ様の言動は予想外だったらしく、ミルカ様も給仕をしてくれていたメイドさん達も驚きを隠せずにいた。
料理は美味しかったし、キョウカ様も特に何もしてこずに食事会は終了した。キョウカ様が去った後にミルカ様が話しかけてきた。
「こんなことは今までありませんでした。私も戸惑っています。普通はもっと虐めてくるはずなんですが・・・。お二人には話したいことがありますので、この後お時間をいただけますか?」
「「もちろんです」」
そして、ミルカ様は話し始めた。
「お二人に話したいことは、姉のことです。姉があのような性格になってしまったのには訳があるんです。それは私達ハイエルフを含めた長命種の宿命でもあるんです。ハイエルフは1000以上生きるとされています。長命なエルフでも私達の半分も生きられません。ましてや人族なんて・・・・・」
ミルカ様の話によるとキョウカ様は明るく人懐っこい性格だったそうだ。好奇心も旺盛で普通のハイエルフは他の種族と交流することがほとんどなかったのだが、キョウカ様は積極的に多種族と交流するようになった。
そうすると何百、何千人と親しい者達を見送らねばならなかった。それはそういうものだと割り切れればよかったのだが、優しいキョウカ様はそうはいかなかかった。いろんな種族と仲良くしたい、でも別れはつらい、キョウカ様は葛藤したそうだ。
そんなとき、ダンジョンを作ってみないかと打診があったそうだ。もう1000年以上前の話で、ダンジョンを作った目的は気分転換だったらしい。当初は階層を増やしたり、トラップを仕掛けたり、魔物を設置したりとダンジョン経営にのめり込んでいったそうだ。それでも500年ぐらいするとダンジョン経営も飽きて、ダンジョンを畳み、他種族との交流を絶って引きこもろうかと思うようになった。
当時から人気のあったダンジョンなので、ダンジョンを畳むにしてもダンジョンの入場者を減らさなければならないと思ったらしい。そうしないと迷惑がかかると思うところが心優しいと思う。入場者を減らすには入場者を片っ端から殺戮するのが手っ取り早いが、心優しいキョウカ様は当然そんなことはできない。なので、地味に嫌がらせをすることにした。
まず、ダンジョンのドロップアイテムや採取素材をあからさまに質を落とし、ダンジョンに併設している宿泊所やレストランの料金を帝都の5倍の価格に釣り上げた。
(今ではオルマン帝国も発展し、同水準の価格になっているらしい)
プライベートでは、特に気に入った相手には辛く当たるようになった。嫌われて誰も近付いて来なくなるのを狙ったのだ。当初の見立てでは、100年もすれば誰も来なくなるだろうと思っていたが、予想に反してダンジョンは発展し、キョウカ様に虐められたいというコアなファンも誕生してしまった。
ここまで、発展したダンジョンを今更畳むことなんてできないし、キョウカ様は年を追うごとに不安定になっていくのでミルカ様は心配しているみたいだった。
「今まで話したとおり、私もどうしていいか分からないのが現状です。あなた達をここにお呼びしたはこの状況を何とかしてほしかったからです。場合によってはダンジョンを畳んでも構いません。そのときは今雇用しているスタッフが困らないような措置をしていただきたいんです」
「あっ、あのミルカ様。何とかって言われましても私もヘンリーさんもただの学生ですよ。まあ、ヘンリーさんは凄く優秀ですけど・・・」
「マスター会議でラッセルさんから伺いました。お二人の力でダンジョンの問題だけでなく、もっと深い問題を解決していただいたと。なので、どうか力を貸してください」
(「力を貸してください」と言われましても私は燻製肉をせっせと作っていただけなんですから)
そんなことを思いながらヘンリーさんを見た。やっぱりヘンリーさんはカッコよかった。
「それが研修というのであれば、私達は課題をこなすまでです」
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