男、ぬらりくらりと寄生虫
前世において俺はラノべ作家だった、異世界転生、転移物語を書きまくってた、身清らかなチェリーなおっさん。楽しかった。充実していた。
フッ、所詮、あの世界、あの世界だけの、あの世界のみの定義の上に成り立つ……異世界だったのだよ。それをそうなのだろう、と、信じていただけなんだ。フフフフ。
あくせく働かなくてもいい身分になった俺。書を読み書く事に没頭出来る至福の日々。しかしそれなりの労力、役割を果たさなければならない。それは閉じこもるここでは、一服の刺激剤となる。
「ホーホケキョ、ケケ、ほほぅケキョん、ケキョ……」
アントワネットが手を出せと言わんばかりに、桃色オーラを発している。そりゃそうだ、彼女は俺との間に赤ちゃんを授かり、そしてそれをヤツに手渡せば、無罪放免、自国に帰れるからだ。
「ね!旦那様、今晩忍びに行ってもよろしい?やや子さえ産んで渡せば、自由ですもの。わたくしの国で遊んで暮らしましょう」
楊貴妃が目を輝かせ聞いてくるのを、取り掛かっているのが、書き終えたらね、しつこいのは嫌いだよ、と花の香りのお茶を飲みながら話して、黙らせる。
「ほー!ホケキョ、ケキョケキョ」
アントワネットがそうそう、わたくしのお国と行ったり来たりしましたら、良いのではなくて?と口を挟んだが、勿論それにも、待っててねとかわす。
だって俺は終わったら用無しなんだぜ?あの時のヤツの声は、俺だけに聞こえたのだろうか。
特に身分高く、欲求が殊の外強いこの二人を、第一と第二にしたのは、俺の言うことをきかせるために、あえて選んだ。
帰りたい者と帰りたくない者と分かれる鹿の園。俺はそれを、ぬらりくらりとちょろまかして、日々を過ごしている。
「⇒〜↑→↓□……♡」
クレオパトラは、このまま皆と仲良く、ここで穏やかに過ごしたい。と話す。彼女の国は、戦争で焼き尽くされ滅びて無い、他国に行けば見世物小屋に行くか、ペットとして飼われるか、どちらかと、前に話しをしてくれた事がある。
楊貴妃が仕込んだ、催淫剤入のお茶、解毒させる薬草を仕込んだ菓子を運んできた彼女。それを一つ手に取り、頬張る俺。
ほろ苦さと甘さが広がる。俺もそう、終わったら用無し命無しだからね。
彼女を選んだもう一つの理由は、運命共同体、ここでのんびり暮らすためなら手段を選ばない。という繋がりからである。ちなみにそんな考えの者達は、ここに囚われている中では、ごくごく一般的なものだと、最近気がついた。
だってそうだろう?俺の反感を買わない限り、遊んで暮らせるのだから。それに気がついた者達は早々に、色恋等と忘れて楽しく日々を過ごしている。
自由な暮らし。政略も策略も無い。学びたければ書籍がある。物質的な欲ならばある程度ならば叶う。
そう俺はある日、鳥もいいけど、四足の動物が欲しいと声を聞き、犬猫、うさぎ、栗鼠、ハムスター、もののけの犬、キツネリス、ついでに傘持つ、となりのもふもふ妖精等、出すべく妄想を高めて……。
ポポポん!ぼわわわーん!と出てきたのだ。
うお!アニキャラもいけるのか、なので当然、意識を高めて試す。ちょっと詠唱ぽいのも取り入れよう。
「いでよ!ドラゴン!」
ぼふぅぅう!バン!
ふおお!すげぇ!本格的なのが出たし!但しサイズがデカイ分、クラクラとする、後で寝ようとかんがえながら、それは巨人族の彼女に贈った。ペットを飼いたかったのか手を叩いて喜んでくれた。
しかし、俺と同じ種族を出そうと企んでみたが、それは鯨の条理に反するのか、うんともすんともならず、代わりにひどい頭痛に襲われた。なのでそれからは試していない。
皆に欲しいた言われれば、可能な限り、出すことにしている。ある事に気がついたからだ。幸いにして、妄想力は完璧である。異世界作品書いてて良かった。
宮殿には、思った通りにドワーフの王子がいた。彼は退屈で退屈で死にそうと言うので、何がほしいと聞くと
「工房」
そうか。やはりそうなるのか、靴屋さんかね?それとも鍛冶屋?と聞くと、靴屋と言うので、広い宮殿の玄関ホールの一角に出してみた。
「ひゅう!さんきゅー、王様」
指をパチンとして喜んでくれた。それ以来ここに住む者達の靴をせっせと創っている。
風の糸、花の糸を紡ぎたいという、難題を言ってきたシルフ、エルフには、あれこれ考え、紡ぎ車やら、機織り機を思案し出してみた。
「きゃぁ、ありがとう、これで素敵なドレスが創れますの」
嬉しそうにくるりくるりと、軽やかに宙を舞った二人。そして、その後、楽器が欲しいといえばそれを出し、祭りがしたいといえば、盆踊りを開催したり、縁日をやってみたり……、イカ焼き、たこ焼きを出すと、楊貴妃が目を細め、口をおさえて引いていたが……。
アイスクリーム、リンゴ飴、フラッペ、綿菓子は皆の心をガッチリ掴んだのは言うまでもない。忘れそうになる記憶から楽しい、を汲み上げ皆に振る舞う日々。
そして思った通りだった。性欲が薄く淡くなっているのだ。そういう気にならないのだ。すなわち、妄想力を使い、現実化にしているのが、原因と思われる。なので物質欲を叶える為に、それを使えば使うほど、そちらが枯れ果てている。
これは……渡りに船か。そして一番側近くの彼女達、アントワネットと楊貴妃は、俺の子供を授かろうと、あれこれ二人で組みキャッキャッとやっていることが、楽しいらしい。傍から見てると、そこに生き甲斐を感じている様だ。
どう考えても彼女達は大人世界を知っている様だし、現実を知ったら、めんどくさい事になるのは、目に見えている。なので……このままでも良い。
そして、ある時ふと気がつくだろう。今……いつなのだろうと、外に出て、果たして帰る場所はあるのかと、それに気がついたら、
果たして、帰りたいと思うのか?
何しろここは、衣食住は誰もが桁外れ、神レベルの王族並。外に出れないのなら、と書物が押し込まれている図書室完備の建物。
そして、ある程度ならば、思えば望み叶う俺。まさにパラダイス!快適な生活空間なのだから。そして住まう者たちも、無理無体な望み以外は、叶えて貰える事が分かっている。
ヤツはこう言った。
『やや子は神のお恵みだから』
そう、ここはそういう世界なのだ。それだけは俺の世界と少しばかり沿う。俺はここの主となり、最初に皆に触れを出した。許されていたからだ。
『俺以外の前で閨話はしない事。鯨に対しても、だ。俺の世界では、のろけ話や、お手を出してもらってませんの話をすれば、やや子が授からぬという掟があった。皆には不便をかけるが堪えて欲しい。その他の望みは可能な限り叶えよう。それと俺は、こなさなくてはならない任務がある』
しばらくはそれに没頭したい、なので待っておれ!と切り口上で格好良く決めた。勿論任務云々、やや子云々はでっち上げだが。
取り掛かるのに、紙を出して書こうとした。しかしそれでは異世界雰囲気が楽しめない。何しろここには寿命が無い。鯨から与えられた使命を果たす迄は、時が止まっている。飽きない工夫をしなくてはならない。
羊皮紙……いや違う、もっとこう……変わった素材に羽根ペンでガリガリ刻みたい。そう悩みつつ、歩いていると、巨人族の彼女がドラゴンのぺぺを連れ、散歩しているのに出逢った。
「旦那様、それならば我が里に生える、文の木の葉っぱはどうですか?」
四方山話の間に悩みを挟むと、そう教えてくれた。それは俺の世界ならば、さしずめ『タラヨウ』だろう。傷をつけると、文字を書いたようになるその葉っぱ。小学校の時に手紙を書いて、出した記憶が微かに有る。
面白そうなので、どんな物かを、根掘り葉掘り取材をした。大きさは自由に設定すればいい。
「いでよ!文の葉!広く大きく我の願いを叶えろ」
広い広い自分の部屋で、ひとりそう言葉を出す。
ボワン!と手漕ぎのボート位の大きさのそれが、姿を表した。それに合わせて漆黒の羽のペンも、ペン先にはダイヤモンドを仕込んでみた。
フフフフ、それにしても俺の妄想力、最高だな。完璧。緑色濃い葉に裸足となり乗り込んだ俺。まるで航海にでも出る様だ。
そしてカリカリ、カリカリとペンで物語を刻みつける。日本の文字で。
ここに来た時の事を。異世界鯨との出会いを……日々の事を、詳細に、念入りに、細かに記して行こう。コレが書き終えなければ、やや子を授かる行為は出来ぬと、そういう事にしておこう。
カリカリ、カリカリ、俺は書きすすめる。時々に、空に白い入道雲が現れ、ヤツが調べにやってくる。
「まだなのか?」
そう聞く。焦れた様に聞く。
「神の思し召しが無いようで、こういう事は、焦ってはなりません。気を長くしてお待ちくださいまし」
そう答えを返す。のらりくらりと鯨の思惑から、すり抜ける。上手く立ち回ればいい。駄目だと言われる事を守り、完全防備の行動、思考の中、好きな物をお取り寄せをして。
この世界で俺は満足をし、今、平和に暮らしている。ただ、この先はわからない。七つ。やや子ね。もし、異世界鯨が進化をし、テレパシーを得たら……ヤバいけどね。
その時は、そうだな、先ずは楊貴妃の薬を、飲んで飲んで飲みまくり、思いっきりハーレム生活を満喫しよう、全身全霊をかけ女に狂うとするよ、フフフフ、ハハ、我ながらゲスな考えだけどな。
そして特筆すべきは、俺がチェリーな限り、鯨もまた……穢れなき乙女なのである。彼女の寿命が尽きるまで、それか事態が変わるまで、のらりくらりと生きぬいて、楽しむ事にしようかな。
終。
お読み頂きありがとうございます。
主人公が生粋の、ヒモ野郎に思えてしまうのです。ヤデスワー。
そしてこの作品は、ホーホケキョの美声を聞いて、出来上がりました。




