男、鯨の話を聞き、策略を練る
前世において俺はラノべ作家だった、異世界転生、転移物語を書きまくってた、身清らかなチェリーなおっさん。楽しかった。充実していた。
フッ、所詮、あの世界、あの世界だけの、あの世界のみの定義と、法則の上に成り立つ……異世界だったのだよ。それをそうなのだろう、と、信じていただけなんだ。フフフフ。
「ここは鹿の園じゃ、どれが良い、この世界における種族から見栄えするのを、チョイスしてきたぞよ。ささ!励め!」
異世界鯨はなんと、その扉の向こう側に、見目麗しい各種族の姫君に若君を、拉致監禁していたのだ。
神からのスキルなのか、自動翻訳状態の俺。音が耳を通し脳に直接入り込み、カチリと組み合わさり言葉になり、理解している感覚。
鯨の喋る声は、そのまま例えると、フルートの様な音なのだ。音楽が巨体から産まれている。と言い表した方が良いかな。翻訳機が動かなければ、心地良い様な気がする。
じっとそこでまっていた。するとこれぞ宮殿!という建物から、ちらほらと姿を現す異世界人達。
うぉぉぉ……!なんかデカイ!巨人族?無理無理、ヒャー、シルフにエルフか?空飛んでるし、こりゃドワーフなんてのも居そうだな。
じっと目を凝らして眺めていると、透き通ってるのは霊体か!わけのわからぬ、空想世界の存在達がそこにいる。勿論、俺に近いサイズの姿形をしたのもいるが。
う……、美人がいる。何だこれ!レベル高い!勿論、ここは鯨が空飛び喋る異世界。完全人型は、ごくごく一部だけど。
「あ。あの。質問を許して下さいませんかね?」
「何じゃ?申してみよ」
「先程何かやや子云々とか、お聞きしたのですが……」
俺は気になっていたことをぶつけてみた。
「ああそうじゃ、外国の二つ目の男と、この世界の者との間に産まれた『やや子』を七体喰らえば、妾は子を宿せるのじゃ、そろそろ『適齢期』になる故、お子が欲しいのじゃ」
気さくに教えてくれるのは良いのだが、おい、この鯨、適齢期って、乙女なのか!そして取り込んだら宿せるって、自家受粉なのか?
「で、なんで男が混ざってるのですかね?それにサイズも……」
「それはだな、どんな種族が『種』か、分からんかったからだ。心配せんでもいい、ここに集めた男は、子を妊む事が出きる種族じゃ、いたれりつくせりじゃろ?ささ!ここの主となり、快楽に溺れろ、好きにしろ、サイズ合わないものはスルーしろ」
何という無茶ぶり。頭がクラクラとする。何をどうするのか、そりゃ知識はある。しかし前世において、俺は清らかな身で生涯を終えたのだ。
なので次こそは……と思うのだ。素敵な娘と恋をして、ウフフ、きゃきゃきゃと時を過ごし結ばれて、ウェディング。乙女と言われようが、これだけは叶えたい望みなのだ。
それに産まれた俺の分身というべき、きっとたぶん、可愛らしい赤ちゃんを、鯨の餌にするのかよ!それも七つとな?……少なくとも7回、ゴホゴホ、ゲフゲフ……。そんなのダメダメ。
「お子は神からの、授かりものじゃからなの、どの花が実を結ぶのが、検討もつかん。なので、七つ集まるまでは、お前はこの『鹿の園』の主じゃ。年も取らぬ、触れを出すのも構わぬ、ここに居るものは従う事になっている故。但し外に出たいは駄目じゃ。後、妾を弑する事もな、それ以外は好きに過ごしたらいい」
ほほーん、主ね、つまりこの空間の王か。それに済む迄不老不死?鯨の言い分を、なんとかかわせば……おおお!こ、これは……これは!
俺の頭の中で、この先の展開が大きく広がる。それはまさしく俺が、生前夢見ていた暮らし。期待が膨らんで行く。
「あの……もう一つ良いですか?」
俺は、ぽやーとしながら、質問を重ねた。何じゃ?と聞いてくる異世界鯨。
「その、七つ捧げた後の俺の処遇は……」
「ん?用無しになれば……」
答えながら、ふしゅうんんん、ふしゅんん……口をパクパクさせて、真っ白な霧を吐き出している。それはモヤモヤと広がり、鯨自身を覆い包んで行く。
ここから消えるのかな?そう思った。仰ぎ見る場所に、夏場の入道雲が、もくもくと湧き上がって行くようだ。白い空間なのに、雲を思い出したからか、天井には、青い空が生まれていた。
「天井、空が……青い」
「お前がそう思ったからじゃ」
「思えば叶うのですか?」
返ってきた言葉に、驚いてしまった!何それ凄いの!
「ある程度はな、楽しく過ごすが良い」
「どうしてそこまで俺に……」
そう追いかけて聞く。怪しい、美味しい話には裏がある。何かあるのならば、出来る限り、知っておかなければならない。ここは異世界なのだから。望みが叶うならば対価がいるだろう?そうではないのか。
膨らんだ期待に、ざわめくものが混じる。冷静が入り込む。
雲が出来上がる。そして風が生まれた。流れに乗り消えゆくそれ。答えは返して貰えないのか。焦る自分。
「ホーホホホ、まあ、楽しゅう暮らせ、そして最後は……」
最後は?被さるように聞いた。もう雲は霞のように薄くなっている。青い空が広がる、真夏の空が……何処からか蝉の鳴き声が聴こえ始め、雀の囀り迄も産まれている。
「フフフフ、最後はお前を喰らうに、決まっているだろうが……、その時は、慈悲とやらを授けてやる。弑してから丸焼きにしてやろうぞよ、ホーホホホ」
しゅん……と消えた。やっぱりそうだったのか。と心をざわつかせる事なく俺は、立ったまま空を見上げ、冷静にそう思った。




