↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミに恋する青い鳥  作者: 細川晃
第8章 誓い
70/116

7 約束




 感情が抑制されていく。


 思考がどこまでも冴えわたっていく。


「…………」

 誰かが耳元で囁いた。


 武器を――。敵を――。人を――。世界を――。

 虚無と絶望に打ちひしがれ、それでも静かに耳を澄ませていると、その声も段々と聞き取れるようになっていく。


 武器を掴め。

 敵を殺せ。

 人を救え。

 世界を再生へと導け。


 壊れた蓄音機のように、何度も何度も繰り返されるそれは、まるで呪詛だ。

 つわものに戦いを強いる呪いの言葉だ。


 ――ああ、本当に気持ちが悪い。


《おい小春、返事をしろ! 小春っ!》

「……まこと?」

 埋没していた意識が急浮上する。


 視界内に映像通信を行う際の小窓が立ち上がり、そこに血相を変えたマコトの顔が表示されていた。否応なしに非常事態の発生を認識させられる。


 今現在の周囲の惨状を見てマコトが驚かないように、こちら側からは音声だけを送信するように設定しておく。


「なにがあったのですか?」

《キメラの大群が異界から押し寄せてきたんだ!》

「――!」


《真っ黒な特異点がいくつも開いて、奴らがうじゃうじゃとあふれ出てきてるっ! 現時点で敵総数は三万以上、まだまだ増えてるぞ!》


 意識するまでもなく僕の体は動き始めていた。

 アリス様の部屋を飛び出し、走りながら群青色の眼帯をむしり取ると、自室にて黒い眼帯に付け替る。続けざまにメイド服を脱ぎ捨てタイトなパイロットスーツを着込んだ。


「マコト、渡り鳥をこちらに向かわせてください」

《すでに送った。今、賽原市の上空を飛行中、あと五十秒もすれば到着するはずだ。それで、そっちは大丈夫なのか?》


「その話は、少し長くなるので後にしてください。これが終わったら、すべてを説明します」

《……小春》

 マコト、なんて顔をしているのですか。


「大丈夫です、僕は戦えますよ」

《……っ!》

 詳しく語らずとも、察しのよいマコトは理解してしまったのだろう。

 そして不必要に追及しない彼女の気遣いが、今はただただ有り難かった。


「戦時特例、並びに賽原基地司令官の権限を行使し、有坂真中尉は、現時刻をもって二階級の昇進。階級を少佐とします。有坂少佐、あなたは遊撃部隊です。ハミングバードは、スタンドプレーこそが、モットー。しばらく独自に動いて構いません。全力でキメラの進行を阻止してください」


《――はっ、了解しました。雪風司令、どうかご武運を》


「マコト、あなたが死んだら、僕は絶対に許しませんからね」


 通信を終えて鶺鴒館のロータリーに出た直後、賽原基地から飛来した純白に輝く物体が正門前にピンポイントで降下した。


 着地の衝撃を和らげるための逆噴射によって巻き上がった土煙が晴れた時、僕の眼前に姿を現した戦略兵装機構〝渡り鳥〟は、すでに前面装甲を開放し、柔らかな素材で覆い尽くされたコックピットを外気にさらした状態であった。


 渡り鳥を装備し、即座に出撃する。


「――ゆけッ」

 肩部左右の荷電粒子推進機構が最大出力で噴射され、機体は超音速の爆音を山間に轟かせながら、弾丸よりも素早く上空を駆け抜けた。


 顔中にこびりついていた彼女の血液は瞬時に燃え尽き、灰となってこそぎ落されていく。

 導入された次世代の超電導技術が機体にもたらす恩恵は、想像以上に絶大であった。


 機体動作が以前までとは別物と呼べるくらいに軽やかなのである。

 まるで新型機であるかのように、機動性が格段に向上していた。


 エネルギー変換効率の劇的な向上によって、発熱量は従来の百分の一以下にまで抑えられ、どれだけ速力を上げようと、機体内部に熱が蓄積されることもない。

 ついに機体の発熱量に対して、冷却性能が上回ったのである。


《敵影補足》

「消えろ! 根こそぎ! 全部!」


《荷電粒子砲〝雷鳥〟起動完了》

「全リミッター解除、出力最大」

《了解、出力最大。すべてのリミッターを解除します。――警告、ムクドリ型永久発電機構からの電力供給一八〇ギガワットを突破、最高出力を更新しました》


「チャージ」

《了解》


 雷鳥の砲身たる右腕内部に蓄えられた膨大な電気エネルギーが発露し、時間の経過と共に纏う純白の雷光は、その輝きを急速に増していった。


 最高速を維持しつつ、賽原市の旧市街地を横切り、そのまま横須賀の最前線へと急行する。

 スラム街の数キロ手前まで接近していた軍勢の進路上に躍り出ると、肉眼では直視もままならない雷光を湛えた右腕を数千体のキメラによって構成された敵の前衛へと突きつける。


《発射準備完了》


「荷電粒子砲〝雷鳥〟――発射」


 光速に限りなく肉薄した荷電重金属粒子が放たれ、青白い光弾となって敵陣に突き刺さる。


 ひかりが解けて、ひかりが爆ぜた。

 ひかりが地上を洗い流す。


 前衛の敵集団は跡形もなく消し飛んだが、それでも奴らの進軍速度は衰えを知らない。

 キメラが尽きるのが先か、砲身が燃え尽きるのが先か、それとも僕自身が奴らに食い殺されるのが先になるのか。


 いずれにせよ、僕のやることは変わらない。

 ただひたすらにキメラを排除するのみである。


 キメラは必ず滅ぼす。


 だってそれが、彼女との最後の約束なのだから。




第八章・完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。