第17話 絶望と希望
ズゥゥゥゥゥゥゥンン!!
(また.....身体が.......)
再び地面に引っ張られるような感覚に陥るウィル。
だが、強度は更に増しその場から動くことさえできない。
ゾーイ「こちらにも少し多く魔力を込めました______もう、動くことはできませんよ」
ゾーイはゆっくりとウィルに近づいてゆく。
ゾーイ「アナタは......この杖で頭から串刺しにしてあげましょう______先ほど、ワタシの身体に傷をつけてくれたお礼にね」
ウィル「くっ......」
(どんどん近づいてきやがる。せめて、腕だけでも......!)
ナイフを持つ腕を何とか動かそうとするが、小刻みに震えるだけで全く使い物にならない。
ゾーイ「ワタシを攻撃したいのですか? 残念ですが......そんな状態では不可能ですね。それに______そのナイフ.......既に風を纏っていないようですが」
ゾーイの言う通り、ウィルのナイフは既に元の状態に戻っていた。
ゾーイ「超高火力の風の刃......魔力で身体を覆っているワタシを傷つけるとは大したものです。しかし、かなりのマナを消費するようですね。そして_______その特性上、風を纏えるのはほんのひと時なのでしょう?」
その指摘は正しかった。
ウィルの使用する"アウルスガーレ"は、扱う武器を常時強化するものとは全く逆の代物。
瞬時に爆発的な攻撃力を得る代わりに、その使用は限定されたものとなり、更には大量のマナも消費する。
事前にカーティスに伝えられていた、現在ウィルが使用できるアウルスガーレの回数は___
ゾーイ「2回......それが、今のアナタが風の刃を使用することができる回数。残りはあとは1回.......万が一、あれをもう1度浴びせられると考えると.......とてもじゃないですが気分が良くないのでね___しっかりと、動きを封じさせてもらいますよ」
(全部お見通しかよ.......こいつ、カーティスみたいに俺のマナの量がわかるのか?)
徐々に死が近づいてくる。
誰が見ても希望などないこの状況。
だが、ウィルの目は光を失ってはいなかった。
ウィル「でも......大丈夫だ。まだ......」
ゾーイ「希望は捨てませんか......とても良い目をする。でもね......ワタシは、その目が光を無くす様を見る方が好きなんですよ」
スピカ「ウィルさん!」
ウィルの死を予感したスピカは、目に涙を溜めながら叫ぶ。
目の前でこれから起こることを想像し、すっかり冷静さを失っていた。
カーティス「まだ望みはある」
スピカの心を落ち着けるように、カーティスが優しく語り掛ける。
カーティス「ウィルはまだ諦めていない。キミにはまだ......できることがあるだろう?」
***
数時間前
空き家にて______
ウィル「そういえばさ、スピカは徹夜してまで何の魔法を覚えたんだ?」
寝ているスピカを見つめながら、ウィルはカーティスに尋ねた。
カーティス「破邪の魔法だよ」
ウィル「破邪の......魔法?」
カーティス「ああ。少し特殊な魔法でね。対魔族用の......切り札とも言える魔法なんだ」
ウィル「そんなに......凄い魔法なのか?」
カーティス「そうだね。今回の戦い......おそらく一筋縄ではいかないだろう。もしかすると、私がサポートできない場面が訪れるかもしれない。けれど___その魔法を使えば、ほんの数秒だけ状況を逆転できる」
そう言うと、カーティスは開いていた本をゆっくりと閉じた。
カーティス「ただし、この魔法はかなり特殊でね。持っているマナの最大量など関係なく、全てのマナを消費する。だから______おのずと使用するタイミングは限られる」
ウィル「タイミングかぁ.......絶体絶命のピンチ......とか?」
カーティス「ふふ。まあ、訪れないに越したことはないがね」
***
カーティス「ウィルは君を信じている。だからこそ......君はその想いに応えるんだ」
スピカは涙を拭った。
自分になにができるのかを思い出し、真っすぐにウィルを見つめた。
スピカ「......はい!」
(ウィルさん......私が必ず........あなたの刃を届かせます!)
一方、ゾーイは既にウィルのすぐ目の前へと迫っていた。
ゾーイ「気分はどうですか? アナタはそこから一歩も動くことができず、この杖で串刺しにされるんです。さぞかし恐ろしいことでしょう。ですが______安心なさい。仲間もすぐに後を追わせてあげます。まずは彼女から........そして______」
ゾーイはカーティスを見てニタリと笑った。
ゾーイ「カーティス.......そこで見ていなさい.......彼がただの肉の塊になるのを。そして_______絶望に染まったオマエの表情........堪能させてもらいますよ」
ゾーイは持っている杖を振り上げた。
ウィルの全身が小刻みに震えだす。
仲間を信じ.......いつでも動き出せるように。
そして___
その想いに応えるかのように.......
白い光が辺りを覆った。