第18話 スピカの切り札
スピカ「セイントフィールド!」
スピカが高らかに叫んだ。
白く眩い光がウィルを中心に広範囲へと広がってゆく。
そして、光に包まれたその場所には____
シーン......
ひと時の静寂が訪れた。
ゾーイ「な......なんだと? 紋章と結界が.......消滅している!」
辺りを見回すゾーイは驚愕した。
光に包まれている範囲の紋章と結界が、完全に姿を消している。
(聞いたことがある.......己のマナと引き換えに、全ての魔術の効果を消し去る魔法......我々魔族に対抗するために人間どもが生み出した______最後の切り札)
ゾーイはスピカを見て歯ぎしりをする。
ゾーイ「やって.......クレルジャアナイデスカ.......!」
だが、冷静さを失ったことに気が付くと、自分を落ち着かせるように一瞬目を閉じた。
そして、ある重要な記憶を呼び覚ます。
ゾーイ「ソウカそうか......取り乱す必要などなにもない。なぜなら.......この光は間もなく消滅する! そうなったあとで.......ゆっくりと止めを刺せばいいんです。ねえ!? ウィル......」
目を開くと、既にそこにはウィルの姿はなかった。
目を離したのは___
瞑った一瞬のみ。
ゾーイ「な......一体どこへ!?」
慌てて辺りを見渡すゾーイ。
だが_______
ウィル「アウルスガーレ.......」
ゾーイのすぐ後ろから聞こえたのは、呪文の名を呼ぶウィルの声。
そして____
ナイフを纏う風のうなり声だった。
ズバァァァァァァアア!!!
振り下ろした風の刃は、再びゾーイの肉体を切り裂いた。
ゾーイ「グァァァァァアア!!!!」
洞窟内に響き渡る叫び声。
大量の血しぶきとともに________
ゾーイはその場に崩れ落ちた。
息を切らし、片膝をつきながらウィルはその様子を見つめていた。
ウィル「やった......やったぞ......」
ウィルの勝利を確信し、スピカもそっと胸をなでおろす。
スピカ「......やりました! カーティスさん.......ウィルさんがやってくれましたよ!!」
興奮気味に語り掛けるスピカ。
だが、カーティスはジッとゾーイを見つめている。
ふたりのもとへと駆け出したウィルがゾーイを横切ろうとしたその時______
カーティスがいち早く異変に気付いた。
カーティス「ウィル! まだだ!」
その声と同時にウィルは後ろを振り向く。
すると___
グサァァァ......!
肩に何かが突き刺さり、遥か後方まで吹き飛ばされた。
ウィル「うぁぁぁぁぁ!」
スピカ「ウィルさん!」
慌ててスピカがウィルの元へ駆け寄る。
スピカ「ウィルさん! 大丈夫ですか!? ウィルさん!」
ウィル「ああ.......当たったのは左肩だ。大丈夫........心配いらない」
ウィルは自分が先ほどまで居た場所を注視する。
そこには______
禍々しい殺気をまき散らしながらその場に立つ、ゾーイの姿があった。
その足元には........折れた杖の一部が転がっている。
ウィル「あの野郎.......杖で防いでやがったのか......!」
ゾーイ「ユルサナイ......」
「ゼッタイニユルサンゾォォ!! コノムシケラドモガァァァァァ!!!!」
けたたましい叫び声と共に、ゾーイの目の前に黒い球体が出現する。
それは、壁に触れそうなほど巨大な球体。
ゴゴゴゴォォォォォオオ!!
そのあまりにも強大な力に、洞窟全体が悲鳴を上げる。
ゾーイ「マトメテケシテヤルゥゥゥゥ!! カタチモノコラナイトオモエェェェェ!!」
球体が勢いよく押し出されると、それは辺りにある小石を巻き込みながら徐々に3人と元へと迫っていった。
ウィル「なんだよ.......あれ」
(......やべぇ......すぐに逃げねぇと......)
ウィルは隣にいるスピカに視線を向ける。
(この怪我じゃあスピカを抱えては逃げられない。それに___こいつは不死身なんだ。例えあれに巻き込まれたとしてもきっとだいじょ........)
ギュッ
スピカがウィルの腕を掴んだ。
その手は......震えている。
(違うだろ! そういう問題じゃあないんだ.......この子を置いて逃げるなんて......絶対にやっちゃいけないんだ......! だって____)
ウィルは前方を睨みつけた。
ウィル「スピカ......俺の後ろに」
迫りくる巨大な球体は、空気を震わせながら近づいてくる。
それは、既に目の前まで迫ってきていた。
(多分......俺はここで死ぬ。だったらせめて........)
ウィル「初めてできた俺の仲間........スピカ。俺は、絶対に君を守るよ。」
ウィルは立ち上がり、前へと歩いてゆく。
スピカ「ダメ.......ダメですよぉぉ!! ウィルさぁぁぁん!!!」
手を伸ばし、泣き叫ぶスピカ。
(スピカ.......短い間だったけど......本当に楽しかったよ。笑ったり怒ったり.......コロコロ変わる君の表情を見てると、自然とこっちが笑顔になれた。ありがとう_______俺にとって君は......最高の仲間だったよ)
ウィルは立ち止まると、一度だけ両頬を叩いた。
(こういうのはあんまり好きじゃないんだけどな.......でも___結局、最後は根性だろ! この身体で......受け止めてやらぁ!!)
ウィル「さぁ.......こぉぉぉぉいぃぃ!!!」
目の前に迫る黒い球体がウィルの身体を吞み込もうとした.........
その時___
?「ホント、男ってバカばっかりね~」
ウィルの耳元で、誰かがそう囁いた。
(誰だ.......それにこの匂い.......澄んだ水の........香り.......)
そして、次の瞬間________
ドプン...........
静けさを纏う水のヴェールが、巨大な黒い球体を包み込んだ。




