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第11話 風の刃

朝起きると、ベッドの脇にある小さなテーブルの上に、新しい服が用意されていた。

おそらく、村長が用意してくれたものだろう。

食事や寝床だけでなく、衣服まで_______


隣のベッドには、既にスピカの姿はなかった。

多分、村長の家だろう。


用意された服に袖を通すと、俺は部屋を後にした。



スピカ「おはようございます♪」


家の扉を開けると、朝食中のスピカとカーティスの姿があった。

「おはよう」と挨拶を返し、俺はスピカの隣の席へと座る。


カーティス「おはようウィル。昨日はよく眠れたかな?」


既に食事を終えたカーティスの右手にはティーカップが握られている。

湯気が立ち上り、辺りには優しい香りが漂っていた。


ウィル「ああ。お陰様でね」


コーネル「おはようございます、ウィルさん」


村長がティーカップを持ってやってきた。

おそらく、スピカの分だろう。


ウィル「おはよう村長。新しい服、使わせてもらってるよ」


用意してもらった服は全身黒色だった。

上はジャストサイズだが、下は少しゆったりしている。

恐らくこういうデザインなんだろうが______


それにしても、この村の雰囲気にはマッチしていないな。


コーネル「サイズはいかがですかな? 1年前に村を飛び出した孫が着ていたものなのですが......」

「背丈もウィルさんとさほど変わらないので、もしかしたらと思いまして」


なるほど、そういうことか。

村長の孫だったら、まだ若そうだし_______

服にも、自分なりのこだわりがあったんだろうな。


ウィル「ちょうどいいよ! ありがとう。色々と世話してくれて」


コーネル「それはこちらのセリフです」

「少々お待ちください。今、お食事の準備をしますから」


ウィル「村長!」


スピカの前にティーカップを置き、台所へ向かおうとする村長を呼び止める。


ウィル「お孫さんの服、大事にするよ」

「少なくとも、今日はボロボロになることはないと思う」


それを聞き"にこり"と微笑むと、村長は奥へと消えていった。


カーティス「それで......頭の中は整理できたのかい?」


ウィル「ああ......今日はちゃんと狩ってくるよ」


カーティス「ほう......随分と良い顔をしている」

「なにか策がありそうだ。......良ければ聞かせてもらえるかな?」


俺は、狩りの中で気が付いたこと。

そして______


今日、自分がすべきことをカーティスに話した。


カーティス「なるほど。どうやら、上手くいきそうだね」

「それなら......君にこれを渡しておこう」


そういうと、カーティスはテーブルの上に預けていたナイフを置いた。

もともとあった窪みの部分には___

魔石がはめられている。




ウィル「え!? もうできたのか?」




カーティス「ああ。今日の狩りに持って行くといい」

「食事の前に......込められている魔法について教えておこう」


カーティスから一通り説明を受け、朝食をとった俺は再び東の森へと向かった。


そして、俺が村を発ったあと______


カーティス「じゃあ、スピカ。君には君でやってもらいたいことがある」

「もう一度その本を使って、新しい魔法を覚えることができるか、試してもらえるかい?」


スピカ「え? は、はい!」

「でも......昨日、今日で数が増えることなんてあるんでしょうか?」


カーティス「そうだね。珍しいことではあるが......」

「この短期間で5つの魔法を覚えることができたんだ。君であれば......可能性はあると思っているよ」


スピカ「わかりました! じゃあ、やってみますね」


スピカは目をつむり、本の表紙に触れた。

本が開き、自然にページがめくれていく。


スピカ「え~っと......あ! 3ページ! 3ページあります!」


カーティス「ほう!」


感心したような表情を浮かべると、カーティスは本を受け取った。


カーティス「素晴らしい。君には本当に驚かされ......」


そう言いかけたところで、ページをめくるカーティスの手が止まった。


カーティス「この魔法は......」


受け取った本をスピカの前に置くと、彼はそのページにそっと手をのせた。


カーティス「スピカ。君にはこの魔法の習得に挑戦してほしい。あまり時間はないが......君であれば習得できるかもしれない」


その真剣な表情から、この魔法の重要性を感じたスピカは、小刻みに何度も頷いた。


スピカ「わ、わかりました! 頑張ります!」


食事を終えると、スピカはすぐに外へと出た。

村の少し奥にある大きな井戸。

その前に置かれている小さな椅子へと腰掛ける。


本を開き、書かれている詠唱紋を心の中で何度も唱えると______

スピカはそっと目を閉じた。


はやる気持ちを........

抑えるかのように。



***



東の森______


ブォォォォォォゥゥ!!


大地を揺らす叫び声。

ウィルの目の前には、群れるアミールバイソンの姿があった。


ウィル「さて、それじゃあ......」

「リベンジさせてもらおうか!」


その目は、真っすぐターゲットを見つめている。

高らかに叫ぶ___

最初の一頭を。


アミールバイソン______

動物にしては、妙に連携が取れていた。

その理由は......

バカでかい声で鳴いてるあいつ。

あいつが他の奴に指示を出していたんだ。


おそらく奴は、この群れのリーダーなんだろう。

その鳴き声に合わせて、取り巻きどもは動くんだ。

ってことは_______


ウィル「俺は、お前だけを狩ればいい」


まずは避けることに集中しろ。

どこから突っ込んでくるかを見極めて、少しずつあいつに近づくんだ......


ブォォォォォォ!


合図とともに、他のアミールバイソンが次から次へと突っ込んでくる。


スッ......スッ......


大げさに避けたらダメだ。

隙をつかれて、他の奴の体当たりを喰らっちまう。


スッ......


攻撃を避けながら、ウィルはターゲットへと確実に近づいてゆく。


すると______


ブ......ブォォォォォォゥゥ!!


焦りが入り混じる叫び声とともに、四方八方から一気に突っ込んできた。


ウィル「な......まとめて!?」


ブワァ......


グシャァ......!!


すんでのところで空中に跳び上がると、静かに木の枝へと着地した。


ウィル「ふぅ......」

「だいぶ、焦ってんな」


上から様子を見ると、突っ込んできた数匹は互いにぶつかり合って倒れている。


ターゲットは、じっとその様子を見ていた。


取り巻きは___

近くにはいない。


ウィル「ここだ!」


勢いよく枝を蹴ると、ウィルは一気にターゲットの間合いへと脚を踏み入れた。


ブ......ブォ


ウィル「もう......遅い!!」


目の前に陣取り、左の腰にあるナイフの柄に手をかける。

そして______





カーティス「いいかい、ウィル。その魔石には"風の魔法"の詠唱紋が刻まれている」

「ナイフを握り、想いを込めれば発動するが......初めのうちは、感覚がわからないだろう」

「だから......心の中で唱えるんだ」

「君が呼ぶ、その魔法の名前は......」





ウィル「アウルスガーレ(疾風の梟)」


次の瞬間、魔石が緑色に怪しく輝いた。

その光に呼応するかのように、風の刃がナイフを覆う。


ーースキル《絶対殺すマン》発動ーー


ウイル「おらぁぁぁぁぁぁ!!!」


元の長さの数倍にも及ぶ、風の刃。

落ちる木の葉を巻き上げながら、敵を目掛けて一気に振り抜く。

すると______


ズルッ.......


ズダァァァァァン!!


心臓ごと真っ二つにされたターゲットは、その場に崩れ落ちた。

ウィルは振り返ると、残ったアミールバイソン達に視線を移す。


ウィル「で.......お前らはどうすんだ?」


睨みをきかせると___


ダダダダダッ!!!


残りのアミールバイソン達は、四方八方へと逃げさっていった。


ドサッ


緊張の糸が一気にほどけたのか、ウィルは大の字になってその場に倒れこんだ。


ウィル「はぁ......疲れた~!!!」


言葉とは裏腹に、その表情はとても清々しかった。

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