第12話 決戦の日
カーティス「お疲れ様。どうやら......大成功だったみたいだね」
ウィル「ああ! リベンジ成功だ!」
誇らしげな顔を浮かべるウィルを見て、カーティスは優しく微笑んだ。
ウィル「それと......この魔石、ホントに役に立ったよ」
「ありがとな。わざわざ作ってくれて」
カーティス「そのことなんだが......」
カーティスは一度目を閉じると_______
またゆっくりと開き、ウィルを真っすぐに見つめた。
カーティス「ひとつ......君に謝らなければならないことがある」
「その魔石には、最初から詠唱紋が刻まれていたんだよ」
「だから、それはただ魔石を取り付けただけなんだ。それだけなら......さほど時間はかからない」
ウィル「ってことは......」
「このナイフ、昨日の狩りでも使えたってことか!?」
カーティス「まあ......そうなるね」
じゃあ、こいつはわざと武器を渡さずに狩りに行かせたのか。
しかも____
苦戦するのをわかった上で。
昨日あれだけ、ズタボロにされたんだ。
本来なら、恨み言のひとつでも言うべきなんだろうが________
不思議と、あまり腹は立たなかった。
こいつのことだ。
おそらく____
ウィル「なにか......考えがあったんだろ?」
カーティス「ああ。この魔石の力を使う前に、君に身に着けて欲しい力があったんだ」
ウィル「身に着けて欲しい......力?」
カーティス「状況を判断する力。話したと思うが、魔族というのはかなり厄介な相手でね。今回の戦いでも、恐らく特殊な場面に何度も遭遇することになるだろう」
「もちろん、私もできうる限りのサポートはするが......一瞬が判断を分ける場面では、君自身が臨機応変に立ち回る必要がある」
確かに______
風を纏うあの魔法は強力だった。
もし、最初からあれを使っていたら......
1頭くらいなら狩れていたかもしれない。
そして......そこには、学びなんて一切なかっただろう。
カーティス「君はアミールバイソンの特性に気付き、見事狩りを成功させた」
ウィル「って言っても、ヒントはもらったけどな」
カーティス「だが、答えを導き出したのは君だ」
「それに、わかっていても実行するのは難しい。特に近接戦闘を主軸とする者にとっては、近づくことさえ困難だ」
「しかも、それを無傷でやってのけるとは......」
随分と感心してくれてるな。
昨日、スピカが褒められてるのを見ていたせいか______
嬉しいっていうよりも、安心感の方が大きい。
なんとか......追いつけたって感じだ。
カーティス「どうやら、君のほうは準備が整ったようだな」
ウィル「君のって......スピカはまたなんかやってんのか?」
カーティス「新しい魔法の習得をしている最中だ。明日までには間に合わないかもしれないが......」
「覚えることができれば、この戦いの大きな切り札になるだろう」
新しい魔法___
ホント、凄いなスピカは。
カーティス「それよりも......せっかく大物を仕留めたんだ。コーネルさんに届けてあげたらどうだい?」
そうだな。
これだけの量だ。
きっと喜んでくれるだろう。
ウィルは荷車を引いて、カーティスと共に村長の家へと向かった。
*
コーネル「おお! まさか本当にあのアミールバイソンを......」
村長は目を見開き、荷車に積まれている狩りの成果を見つめている。
ウイル「へへ。こんだけあれば、当分食料には困らないよな?」
コーネル「十分過ぎますとも。村人と手分けして、調理させてもらいます」
「と言っても......皆、まだ恐怖で家から出ることはできていませんが」
そう言うと、村長の表情がみるみると曇っていった。
そうだよな。
平和だった村に、急に魔族なんかが現れて______
みんな辛い想いをしている。
しかも、この人は村長だ。
誰よりも、みんなのことが心配だったはず。
それなのに......
俺たちに気をつかって、気丈に振舞ってくれていたんだよな。
ウィル「安心していいよ」
「明日になれば......全部終わるから」
村長の目には沢山の涙が溜っていたが、決してそれをこぼすことはしなかった。
「ありがとうございます」
荷車から材料を少し降ろすと、村長は台所で下ごしらえを始めた。
ウィル「それにしても......まだ十分時間はあるんだよな」
「なにか、他にできることはないかな?」
そう言うと、カーティスは村の奥の方へと目を向けた。
カーティス「この村には大きな井戸があるだろう?」
「どうやら、だいぶ前から水が枯渇しているらしい」
ウィル「そうなのか? じゃあ......普段、水が必要な時はどうしてんだ?」
カーティス「どうやら、水は我々が通ってきたあの湖から調達しているそうだ」
あの湖か。
確かに水は透き通っていたし.......
飲み水としても使えるんだろう。
ウィル「なるほどね.......じゃあ俺が汲んでくるよ」
「この手袋があれば、余裕だしな」
カーティス「すまないね。では、よろしく頼むよ」
そのあと、俺は水を汲みに湖へと向かった。
気分転換にと釣竿を渡され、小舟に乗って釣りもした。
釣れた魚はちょうど4匹。
村長の分も含め、晩飯の確保にも成功した。
家での食事を終えると、スピカはすぐに外へと出た。
どうやら、魔法を覚えるために少しでも時間を使いたいらしい。
「あまり無理はするな」と言いたかったが______
今回ばかりは、もう時間がない。
やれることは全てやらないと。
結局________
俺が眠りにつくまでに、スピカは戻ってこなかった。
***
朝を迎え、隣のベッドに目をやるが、スピカの姿はなかった。
もう、村長の家にいるんだろうか?
扉を開き、外へ出ると______
スピカ「ウ.......ウィルさ~ん......」
そこには、目を半開きにしてふらついているスピカの姿があった。
ウィル「おいおい! どうしたんだよいったい!?」
スピカ「ちゃんと......覚えましたよ......魔法......」
まさかこいつ___
徹夜でずっと修行してたのか!?
いくら時間がないからって、なんて無茶なことを。
ウィル「取り合えず一旦......」
ポス......
スースー
スピカは俺にもたれかかり、そのまま寝息をたてた。
ウィル「はぁ......まったく」
「......よく、頑張ったな」
***
スピカ「はっ!!」
スピカは目を覚ますと、辺りをキョロキョロと見回した。
そこには自分のベッドに座るウィルと、窓の外を眺めるカーティスの姿があった。
ウィル「お、やっと目覚めたか!」
ニヤッと笑うウィルを見つめるスピカの顔は、だいぶ動揺している。
スピカ「私......寝ちゃってたんですか!?」
ウィル「ぐっすりとな。ってか、そんなに慌てなくてもいいぜ?」
ウィルは親指で窓のほうを指さした。
カーティス「ああ。ちゃんと間に合ったよ」
窓の外はすっかりオレンジ色に染まっているが、約束の時にはまだ多少の時間があった。
ウィル「ほら、これ!」
スピカのもとへ歩み寄ると、ウィルはパンと果物をひざ元に置いた。
ウィル「軽く食べとけよ。腹空かしてたら、いざって時に動けないだろうしな」
「すみません.....」と呟くスピカに、カーティスが声をかける。
カーティス「ウィルから聞いたよ。まさか本当に間に合わせてしまうとは......」
「本当に、よく頑張ってくれた」
ウィルとスピカのもとに歩み寄ると、カーティスは2人の手を握った。
カーティス「君たちは素晴らしい。やるべきことを、全てやりきったのだから」
「あとは......自分を信じて戦えばいい」
ウィルとスピカは目を見合わせた。
互いの瞳に、不安の色は一切ない。
3人は、戦いに向けて最後の話し合いを始めた。
そして________
決戦の夜を迎える。
*
外へ出ると、そこには村人たちの姿があった。
ここに来て、初めてその顔を見る。
恐怖で外に出れないと聞いていたが......
「村長から聞いたんだ。あんたたちが......あの魔族と戦うって」
「村の人間でもないのに......命をかけてくれるなんて......なんて言ったらいいか......」
「本来なら、私たちが何とかするべきなのに......」
村人たちは、みな下を向いていて全く生気を感じられない。
カーティス「気になさらないでください。」
「そもそも、あなた方はなにも悪くないのですから」
「で、でも.......」
スピカ「困ったときはお互い様です!!」
村人たちを真っすぐ見つめると、スピカは言葉を続けた。
スピカ「ここに来て、村長さんには沢山お世話になりました」
「沢山美味しいものを食べさせてくれたし......暖かいベッドだって!」
「でも......そんなことで命をかけるなんて......」
スピカ「美味しいものを食べると幸せになります!」
「暖かいベッドで眠ると幸せになります! それに......野宿は寒いです!」
「私は、そんな幸せを村長さんに沢山もらいました」
「なのに......ここにいる魔族は、そんな村長さんが大切にしているこの村を滅茶苦茶にしようとしてる!」
「私は......絶対に許せません!!」
村人たちは唖然としている。
そりゃそうだよな。
いくら恩義があったって、命なんてそう簡単には賭けられない。
それに______
そんなのがなくたって、助けようとしてただろ。
ホント、どこまでもお人好しで......
凄い子だ。
ウィル「まあ......俺たちのリーダーがこう言ってるからさ。あんま気にしないでくれよ」
スピカ「え!? リーダーって......私がですか!?」
慌てふためくスピカの姿を見て、俺は思わず笑ってしまった。
そんな俺たちの様子を見た村人たちから______
少し、笑い声が聞こえた。
ウィル「それよりさ......俺たち、晩飯まだなんだよ。スピカに関しちゃずっと寝てて、パンと果物しか食べてないんだ」
「だから......」
そう言うと_______
村人たちが、次々に声を上げた。
「皆で、ごちそうを作って待っています!」
「食べきれないくらい沢山用意しますから!」
「だから.....必ず帰ってきてくださいね!」
さっきまで、この人たちからは生気なんて全く感じなかった。
みんな、どこか諦めたような表情を浮かべていて......
でも______
今は違う。
覚悟を決めた顔だ。
彼らは、俺たちが帰ることを信じてくれている。
最初は、スピカの気持ちに背中を押された部分が大きかった。
彼女の気持ちを、無下にはしたくないって。
でも......もう違う。
これは、俺自身が選んだ戦いだ。
この風の刃で必ず____
みんなの未来を切り開いてみせる。
コーネル「皆さん......どうかご無事で」
ウィル「ああ! 行ってくる!」
スピカ「はい!」
カーティス「お任せください」
村人たちを背に、俺たちは村の奥へと歩き出した。
負けられない戦いが_______
これから始まる。
*
今宵は満月
地上を照らす月光は
死への招待状か
それとも
祝福の光か




