295. 最後の日
竜火の祝祭が終わると、年末まで静かに過ごすことになる。
新年に領都で行うバーベキューやスライム掬い競争。
今年からはアンソニーも王宮の新年の舞踏会へ参加することになるので、今回の進行役はパイパーとヨナスが受け持ってくれることになっていた。
スラ競の景品はすでに発表されており、リィンの町から図書館で字や計算を習いに来ている子供達から聞いて、ドワーフの参加希望も既に来ている。
今回の景品も豪華だった。
魔法伝授の巻物。
ヨナス製収納鞄。
アーベル製防御魔法付与付マント。
マンドラゴンの緑葉亭ペア宿泊券(星惹苑での食事付き)。
ヴァイオレット服飾店お仕立て券。
1粒真珠のネックレス。
特別賞のススス王国果物盛籠。
これはもう盛況になること、間違いない。
領都に人が集中しすぎないよう、リィンの町でもマンドラゴラゴン達がさっそく、新年の女神の塔で「新年4日間女神の恩恵アップキャンペーン」を開催するらしい。
もちろん町長のマグダリーナも、女神の塔の持ち主指定されているエステラも、星読みのルシンすら、マンドラゴン達に聞くまで、そのことは知らなかった。
「なんであの銀鼠マンドラゴン達は、女神様とツーカーなの……!?」
つうといえばかあなんて、マグダリーナの前世的にも死語な表現を使って悔しがるエステラを見て、おそらく前世でのエステラは、理奈の親世代かそれより上くらいだったのかなと予想した。時々聞こえる鼻歌もそんな感じだから。
「謎は多いし、薄緑色の野生のマンドラゴラゴン達とはかなり様子が違うのは確かよね」
領都で土いじりしている野生のマンドラゴンたちは寒さは得意でないのか、この季節は顔見知りの独身農夫の家でゴロゴロしているらしい。使役もされていないのに。
ナードを抱えたレベッカが、エステラを見た。
「ススス王国でも新年に何かされますの?」
「うん。あっちのマンドラゴン達もツーカーだから、各地の神殿で飛行パレードするらしいわ」
ススス王国にいる〈神兵獣〉のマンドラゴンたちは、葉の色まで落ち着いたダスティブルーの色をしていた。そうなると、透き通った銀緑の葉と白い体、ピンクの肉球らしきものを持つプラは特殊個体なのだろう。色も可愛らしいが、他のマンドラゴン達より小柄だった。対して〈神兵獣〉たちの方は、野生のマンドラゴンより大きい。
ショウネシー邸のサロンでミルクティーを飲みながら、マグダリーナとエステラは情報交換も兼ねたお喋りに花を咲かす。帳面を広げて、理想のマイホームの間取りを描きながら。
その隣では、アンソニーとライアン、レベッカの3人が、アッシの魔法表示画面に映し出されるススス式キノコ住宅に見入りながら2人の話を聞いていた。
水色の暈を屋根にした大きなキノコの家は、ちゃんと窓ガラスや扉もある。人も住める大きさだが、一戸建てに暮らす魔獣数もまちまちで、皆好きに改装したりしているらしい。お庭もある。
「スライム達の家が、人も住めるような大きさなのは何か意味があるの?」
ライアンに聞かれて、エステラは頷いた。
「シグアグルム達には物を売るだけじゃなく、掃除なんかの家事代行事業もしてもらおうと思ってるの。だから人の住まいや道具に慣れてもらった方がいいと思って」
アンソニーの顔がぱっと輝いた。
「あ! もしかしてもう辺境伯領で事業を始めているんですか」
「え、なんでわかったの? トニー」
「リィンの町で見覚えのある騎士さま達が、家が綺麗になって衣類の臭いも消えたおかげで彼女ができたとお話しされていたのを聞いたのです」
「そうなのよ! 魔獣討伐をしてる騎士さん達は普段から鍛練で衣類が汚れやすく、通気性の良くない防具や魔獣の体液なんかで洗っても取れない臭いとも戦っているのよ! でも秘伝の家事魔法を覚えたスライムなら、その悩みも一発解決! 家事事業の選ばれしシグアグルムはエルフマッチョのぬめるような汗汚れやスパイシーな体臭にも対応可能よ」
拳を握り締めるエステラに、一同はパチパチと盛大な拍手をおくった。
マグダリーナ達がエルロンド観光へ行こうとしないのは、どんなにエルフの顔が良かろうが、ケンちゃんさんお1人でお鼻への刺激が思ったより強いな、という気持ちを、誰もが心の片隅にそっと閉じ込めていたからだった。
「戦士のくせに臭いで敵に居場所を教えてどうするの!」
「構わん。全て屠ればよ」(ゴッ!!)
そのままエステラの鋭いアッパーカットを顎に受け、脳震盪を起こして倒れた隙に、シグアグルム家事代行部隊の訓練の為に、何度も何度も何度も着衣のまま全身くまなく鎧の隙間さえもピッカピカに洗浄され、暴行を受けた乙女のように震えていたケントを思い出して、ハラは楽しげに笑った。
◇◇◇
新年の日は今年も晴れ。そして時々ふわふわと花びらのように雪が舞った。
通年通りにハイエルフの歌舞奉納が終わると、皆一斉に新年の奇跡の花を取りにいく。
同時に奇跡の花が、リィンの町のダンジョンの1階で、ススス王国全土で舞っていた。
マグダリーナはハイエルフの歌舞を堪能した後、家族揃って王宮へ出かけないといけない。
新年の今日は、眠り妖精精霊との契約の最終日。早めにお菓子を用意した。
今日中に帰って来れるかわからなかったし、最後の最後で契約を台無しにしたく無かった。
(どうかどうか、エステラが怪我もせず無事でいられますように……!!)
祈りを込めて、お菓子の上にさらに女神の奇跡の花を振りかけて、妖精の祭壇、精霊の祭壇に順に置いた。
変わり映えもなく、お菓子が消えていく。と思ったら、祭壇も一緒に消えてしまった。
(これで本当に、契約が終わったんだ……)
しんみりした気持ちで見届けて、一息ついたところで、マグダリーナの頭の上が騒がしくなった。
「たま〜ぁっ、やめてたまー」
「タマちゃん?」
慌てて頭の上にいたタマを両手で下ろすと、タマの周りに羽根の生えた光がいくつもぶつかってくる。
「痛いのー」
「ちょっと! やめてちょうだい!!」
妖精達だ。
マグダリーナがタマを庇うように抱きしめても、隙間からタマを突いてくる。
「もう! いい加減にしないとわたしも攻撃するわよ!!」
「リーナぁぁぁ」
とうとうタマが泣き出して、宝石の涙をこぼすと、妖精達はこれだとばかりにそれを拾い、今度はマグダリーナの左手に集まりだした。
手を振り払おうとすると、ふわりと妖精達は姿を消し、マグダリーナの左手の人差し指にタマの宝石でできた指輪が光っていた……。
「なんなの……もしかしてこれを造る為にタマをいじめたの……?」
宝石は白く半透明で、中でキラキラと水が踊るように水色の光が揺れている。タマに似てるなと思った。
とても綺麗だけど、製造過程を知っているので、正直微妙な気持ちだ。スライムは儚い命なので、攻撃するの本当にやめてほしい。
タマは泣きやんで、じっと指輪を見て、その短い手を伸ばしてもちっと触れた。
「これ……タマなの! リーナ、これはタマの形代ー。これをつけてれば、離れててもリーナとタマは一緒なのー」
「ええと、迷子になっても居場所がわかる的な……?」
タマはぷるっと頷いた。
「それにいつかタマが儚くなった時は、この宝石の中に魂を入れて、リーナの時が来るまで一緒にいられるのー。タマはリーナと一緒に女神の庭にいくよー。同じ魂だもん」
「タマちゃん……」
マグダリーナは唇を噛んで、涙を堪えた。
「そんなのまだまだ先のことなんだからね! 王宮から戻ったら、またみんなで女神の塔でレベリングしましょう」
「うん、ずっと一緒にいる為にー」
「ええ、一緒にいる為に!」
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