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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
二章 ショウネシー領で新年を
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22. ハイエルフ

 この世界にいる種族は、主に人とドワーフとエルフだ。


 人だけが、ドワーフやエルフと混血することができて、稀に片親の特徴しか受け継がない、純粋なドワーフやエルフが生まれることもある。


 ハーフは人に分類されて、遠い先祖にエルフやドワーフがいるというのも珍しくはなかった。




◇◇◇




 マグダリーナ達はショウネシー邸のサロンに集まっていた。そこには、使用人のケーレブやグレイ親子も揃っていた。


「さて、ハンフリーの要望もあって、僕たちハイエルフについて知ってもらう為に集まってもらったんだけど」


 ニレルは落ち着いた声で話し始める。ハイエルフの単語に、ダーモットがぴくりとした。


「僕は正確にはハーフだからね。詳しくは大長老のエデンから話して貰おうと思う」

「おっと、丸投げかい? だがいいだろう。ニレルからのお願いだしな」


 エデンは大袈裟に肩を竦めてから、勿体ぶって紅茶を口に含む。


「では、どこから話そうか」




◇◇◇




 創世の女神は、精霊とその力の源、精霊元素を生み出し、この世界に空と海と一つの大陸を作った。


 そして精霊に物質元素を纏わせ、精霊だが肉体を持った生き物を作った。ハイドラゴンとハイエルフだ。


 最初に女神に作られた彼らは、不老であり、不死に近い長い寿命を持つ。


 そして額に、精石と呼ばれる強力な魔力器官を備えていた。


 女神はハイドラゴン、ハイエルフ達に魔法を伝授した。これが原初魔法だ。精霊元素と魔素を用いて物質元素と魔力に影響を与える強力な魔法だ。


 そして女神はハイドラゴンとハイエルフたちと共に、植物や獣を創っていった。



 この時に女神から直接魔法を伝授されたハイエルフは始まりのハイエルフと呼ばれた。



 ハイドラゴンは与えられた使命により、女神に創られた始まりの金・白・黒の三頭より増えることはなかった。


 ハイエルフは種族を増やすことはできても、女神が思う程には増えなかった。



 そして女神はハイエルフに似て、より獣に近く、だが寿命も特徴も違う三種族を造り三つの国にそれぞれ住まわせた。


 エルフ族、ドワーフ族、人族だ。


 エルフ族にはハイエルフに似せて他の二種族より強い魔力と膂力、長い寿命を与えられた。


 ドワーフ族には忍耐強さと身体の頑強さ、そして物作りの才能を。


 人族は一番寿命が短く弱いが、他種族から学習する能力と他種族と混血もできる強い繁殖力を。


 最後に女神は、ハイエルフに三種族の国をまとめ平和に導くよう伝えると、神界に還られた。


 ウシュ帝国の始まりである。




◇◇◇




「一応、俺はその始まりのハイエルフの一人な。エステラの師匠でニレルの叔母であるディオンヌも、ニレルの母親で初代ウシュ帝国の王だったエルフェーラもな」


「そのエルフェーラ……ニレルのお母さまが、今の女神エルフェーラなの?」


 マグダリーナの問いに、エデンは頷いた。


「治癒と浄化の力に長け、帝国を一番長く統治した良き王として、王位を退いた後も三種族に長く語り継がれた。そうして長く名が残ったせいで、後の世に女神扱いされちまった。ウシュ帝国の滅亡と共に、創世の女神の名を知るものが、生き残ったハイエルフしかいなくなったからだ」


 エデンは長い足を組んで座り直す。


「エルフェーラは王位を他のハイエルフに譲ったあと、金のハイドラゴンと魂を通わせニレルを産んだ。ニレルは世界にたった一人だけの、ハイエルフとハイドラゴン、両方の性質を受け継いだハーフだ。一応我々はハイエルフとして受け入れているがね。という訳で、ニレルは俺の次に年寄りだ。んはは」



 ウシュ帝国は栄えた。


 エルフの魔法とドワーフの技術を、ハイエルフが仲立ちして様々な魔導具も出来た。またハイエルフは三種族の王達に原初魔法を与えた。


 三種族はハイエルフを崇めながら地に増え、そしてやがて争いを始めた。


 エルフ族がハイエルフに似た己達が、三種族の中で一番素晴らしい種族だと主張し、他種族を隷属しようとして、ドワーフ族が反発した。


 二種族の争いを止めようとした人族の王は殺され、争いは加速した。


 エルフ族とドワーフ族は人を奴隷のように扱い、王の居なくなった国を瞬く間に廃墟にした。


 エルフ族とドワーフ族を諌め生き残った人族を助けようとした、当時のウシュ帝国の王は、エルフ王とドワーフ王の奸計により弑され、その精石をエルフ王が手にし、精石の強大な魔力と原初魔法で三種族もハイエルフをも己が下に治めんとした。


――だがそれはハイドラゴンの使命を呼び覚ました。



 世界の魔力が偏り過ぎて異常をきたし、どうにも出来なくなった時に、世界を破滅させる使命だ。



 三頭のハイドラゴンの内、金のハイドラゴンが、神命によりウシュ帝国を一夜のうちに滅ぼした。


 金のハイドラゴンは亡きウシュ王の精石を取り返し、ハイエルフ以外の原初魔法を使うものを丁寧に焼き殺してから、世界を、滅そうとした。


 その時、エルフェーラをはじめとした、多くのハイエルフが、肉体を捨て精霊と化し世界の魔力を正常に戻した。


 金のハイドラゴンはそれを見て、世界を破滅させずに女神の御元へ還った――



「その後世界には魔獣が生まれるようになり、かろうじて生き残った三種族は頑張って今の状態まで地に増えたのさ。そうして原初魔法はハイエルフだけのものになった」


 ハンフリーは話の大きさに目を丸くしているが、ダーモットは落ち着いた様子で聞いた。


「君たちハイエルフはそんなに長く生きてるのに、存在がまるで伝わってなかったのは、身を隠していたからかい?」


「そうだなー、俺やディオンヌはそんなつもりはなかったな。住みやすさのために頻繁に住処を変えることはあったけど。だが、他の生き残りはそうじゃなかった。他種族を恐れて女神の森に引き篭もり、変わり映えのない永生の身を嘆いて精霊化した奴が殆どだ。子を成し生きたものも、子には精霊化を行える完全な原初魔法……その為に必要な創世の女神の名は伝えなかった。そんなんで、今じゃ生存が確認できるハイエルフは世界に六人しか居ないのさ! その上完全な原初魔法を使えるのはニレルとディオンヌの弟子だったお嬢ちゃんだけだ。んははは!」


「つまり、半数のハイエルフが我が領に……」


 ハンフリーは呆然と呟いた。



 黙って聞いていたダーモットが質問する。


「聞いてもいいかい? エデン殿は始まりのハイエルフなのに、完全な原初魔法は使えないのかい?」

「くっは、そうなんだ。高度な原初魔法に必要な、創世の女神の名の記憶を奪われたのさ。愛しのディオンヌに!」


「ああ、ディオンヌ殿はエデン殿に精霊化して欲しくなかったんだね」


 ダーモットが静かに言う。


「なるほど、数少ない同胞の為にも、始まりのハイエルフという存在は心強いですしね」


 頷くハンフリーを見て、これが既婚者と独身者の違いかなぁとマグダリーナは思った。

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