怪盗ハンターより、愛と共に Part.6
ハンターを射程に入れて尚、青年は動きを見せない。
対するハンターも右手に持った指輪ケースを素直に差し出す。
互いが互いに心の中を探り合い、乾いた空気を電撃が走っていた。
「先に受け取る? それとも後払い?」
「君の望みは?」
「後払い、かな?」
「なら先に受け取ろう」
青年も手を出し、指輪ケースが彼の手に乗せられようとした瞬間――――、
「甘いよ、オズワルド君」
「君の考えることなんて、丸見えだ」
腰に差した剣ではなく隠していたナイフを取り出し、青年の繊細な一撃がハンターを貫く。
否、もう既にハンターの姿は視界から消えてしまっていた。
「何っ!?」
速い。
いや、そういう問題じゃない。
ハンターは一瞬にして目の前から消えるというイリュージョンを見せつけたのだ。
「だから甘いのよ、私の手が触れられる位置に来た時点でゲームオーバー」
「体が……重く……」
背後から聞こえたハンターの陽気な声に振り向く、その中で青年は自らの体に起こった異変にようやく気付いた。
ハンターが肉眼で捉えられないような超身体能力を得たわけでも、消え去るというイリュージョンを使ったわけでもない。
彼が彼女を捉えられなかった原因はただ一つ――。
「スティール・ザ・ステータス、これ覚えんの苦労したんだから、あと五分後には元に戻ると思うよ」
青年が振り向いたそこで目にしたのは、ハンターが左手の指で挟んだカード。
彼女が予告状なんかに使うその白いカードには赤い文字で『Speed』と記されている。
「まさか……僕の速さを盗んだのか!」
「大・正・解、そんじゃ私はこの辺で」
指輪ケースをしまい、思うように体を動かせない青年を背にハンターは軽快な足取りで火薬庫から城外へ飛び降りることのできる場所へ向かった。
ハンターの背を眺めることしかできない青年は怒りに打ち震えていた。
才能を持ちながら盗みなどという下らないことにしか使わないハンターも、そんな犯罪者にさえ敵わない自分の弱さも、許せずに怒りが込み上げてくる。
「ナーイスタイミング!」
飛び降りた先で待ち受ける無数の兵士達。
しかしハンターは飛び降りることはせず、突如飛んできた前半身が鷲、後半身が馬といった翼を持つ奇妙な魔物・ヒポクリフに手を振る。
「じゃあね、また会えたらそん時はお手柔らかに」
飛んできたそれは火薬庫の屋上で巨大な翼を休め、ハンターに頬を摺り寄せた。
「あーこらこら、帰ったらまた遊んであげるから、ね?」
ハンターに大分懐いているヒポクリフは彼女の言葉を理解しているのか、首を頷かせて再び巨大な翼を広げる。
「待て、ハンター!」
「何? 言っとくけど今のあんたじゃ私を捕まえることなんてできっこないから」
「最後に……聞かせてくれ」
「昨日今日の付き合いじゃないしね、優秀なオズワルド君の質問ならある程度答えたげる」
「君は、何故それほどの力を持ちながら盗みなどという下らないことに使う!」
泥棒に向ける質問ではない。そんなことは青年も重々分かっている。だが聞かずにはいられなかったのだろう。
そして、対するハンターもそれを決して嘲笑うことなく、真摯に質問を受け止めた。
「私はただスリルが欲しいだけ……こんな世界に生まれたんだもん、百二十パーセント楽しまないと損でしょ?」
「楽しむ……だと」
その言葉を最後にハンターはヒポクリフの背に乗って城を飛び去ってしまった。




