怪盗ハンターより、愛と共に Part.5
年齢はそう変わらないだろう。
だが、相手は手に豆ができるほど剣を振るい、戦闘用のスキルを身につけた戦闘特化の軍人。
「君は裁きを受けるべき人間だ!」
「捕まえられたら、裁きでも何でも受けたげる」
青年の進行方向から大きく逸れ、城の外へ飛び降りようとするも彼はそれを許さなかった。
「逃がさないっ!」
まるでハンターの行動を分かっていたように青年は方向転換し、剣の切っ先を突き出す。
「うっそ!」
ハンターも素人ではない。
迫る自らの命を狙った刃に気付き、逃走を諦めて後方に飛び退いた。
「覚悟しろ! ハンター!」
一振り、もう一振り。更にもう一振り。
力を込めて振るわれる剣の速度は先程までハンターを追いかけていた兵士達とは段違いで、常軌を逸した速さを持つ彼女でなければ間違いなく刃に捕まっていたことだろう。
(亡者の進撃は使えないし、ここから城の外に飛び降りられるのは一か所だけ)
仮面の下で焦りの色を見せていたハンターは一蹴りの後退で青年との距離を大きく離した。
「あぁっ! あれはドラゴン!?」
素早さ以外は能力も経験も全てにおいて上回る青年を前にとったハンターの行動は、これまで彼を相手に二度使って全て成功を収めた作戦。
酷く初歩的な作戦だが、元々素直な感性を持つ彼の心を苛々させたりと揺さぶることで効果は絶大。
――――少なくとも、これまではこの作戦で彼から逃げきってきた。
「何度も同じ手が通用するか!」
が、二度あることは三度なかったらしい。
ハンターの冗談など全く気にせず、青年は一瞬にして距離を縮めて手にした剣を大きく振るう。
「ひぃぃぃぃぃ!」
まさか作戦が失敗するとは思ってもいなかったハンターは慌ててしゃがみ、何とか横に振られた剣を回避することに成功したものの、刃は彼女の被っていたフードを僅かにかすった。
「くっ!」
「あっぶなっ!」
そのまま側方に飛び込み、再度青年との距離を取るハンター。
だがそれが無駄だということは互いに理解していたらしく、優勢劣勢は依然変わらない。
「幾らかわそうとも逃げ場などないぞ!」
距離を取っては縮められる。
そんなイタチごっこを終わらせるには何かアクションを起こすしかなかった。
何か、青年が攻撃を止めざるを得ないような大きなアクションを――。
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
刹那、火薬庫の屋上でハンターの大声が響き渡る。
あと一歩後ろに下がれば城の中庭に真っ逆様、そんな危機的状況でハンターの分厚いグローブを纏った右手に握られていたのは盗んできた白い指輪ケース。
「それはっ!?」
ハンターの小さな手が握る指輪ケースに気付いた青年は踏み出そうとした足を止め、渋々剣を降ろした。
「勿論、これが何だか分かるわよね」
火薬庫の下では「あそこだー!」などという兵士の声が聞こえたが、天高く掲げた指輪ケースに気付き火薬庫の突入を躊躇っている。
「それを返せ! それは大切な――」
「一歩でも近づいたらこれを思いっきりぶん投げる」
返品を求め、青年が一歩を踏み出そうとした瞬間、ハンターの声が彼の足をピタリと止めた。
「君は……何処まで卑怯なんだ……」
足を止め、剣を降ろし、苛立ちの滲む顔でハンターを睨んだ青年。
「幾ら私でもこの短いスパンで精巧な偽物を何個も製作するのは不可能、冗談抜きで本物のこれがあんたの感情任せな行動で壊れでもしたら……あんたの立場、無くなっちゃうんじゃないの?」
「……見逃せとでも言うのか」
「いやいやぁ、私もそこまで悪魔じゃないって、どうせ私がぶん投げでもしたらあんたは怒り狂って私を殺しに来る。
私も人の子なんだし、死ぬのは絶対嫌だし捕まるのも絶対嫌」
指輪の入った白い箱を手の上に乗せ、ハンターは微笑む。
「これだけの罪を犯しておきながら、傲慢な」
「私とあんた、この狭い屋上で一対一でやりあっても私に勝ち目はない、だから私と取引しない?」
「取引……だと?」
これ以上、体力を削り合えばハンターが敗北し捕まってしまうのは目に見えていた。
そこでハンターが持ち出したのは取引。
「私が盗んだ指輪を返す、そしたらあんたは指輪を取り返したヒーローになれる。
あんたは私を逃がす為の経路をこっそり確保する、ここにいるのがバレちゃった以上、飛び降りた先にも兵士はいるだろうし逃げ切ったと思ったら捕まるなんて御免よ」
火薬庫からの逃走は彼女がここへ足を向けた時から周知の事実で、火薬庫から飛び降りた先にも兵士は配置されている。
ここで万が一、青年を振りほどいても消耗した体力のまま兵士の中に飛び込んでいくのは幾ら世間を騒がせている怪盗『ハンター』と言えど自殺行為。
持ちかけられた取引に青年の顔は更なる歪みを見せた。
「僕が、泥棒の……?」
「そうよ、あんたも帝国軍の騎士ならしたいでしょ? 出・世」
「出世の為なら何をやってもいいなんてことがあるか! 騎士の称号はその者の実績に与えられる勲章だ、それを不正なんてもので……」
「真面目、でも真面目ってつまんないのよね」
指先で白い指輪ケースを開くと、顔を出したのは緑色の宝石があしらわれた高価な指輪。
手にしている物が間違いなく本物の『熾天使の指輪』であると認識させたかったのだろうが、そんな思惑は見事に成功。
革製グローブに握られた本物を見て青年の体は更に凍り付いてしまう。
「……卑怯者め」
「泥棒だもん」
憤怒を滲ませながらも青年は剣を腰の鞘に納め、戦闘態勢を解いた。
「分かった、取引だ」
「分かればよろしい」
小さな歩幅が青年の方へ一歩踏み出す。
(必ず隙が生まれる、その隙をつければ……)
青年と、
(さて、どう出る? オズワルド君)
ハンターの思惑が交差し、
(君を処刑台に送るのは――)
(勝つのは――)
二人の距離が縮まっていく。
(僕だ!)
(私よ!)




