怪盗ハンターより、愛と共に Part.4
最近世間を騒がせている怪盗『ハンター』を捕らえた。
決して奪われることのあってはならない『婚約指輪』を回収できた。
焦っていた領主や兵士長、実際に槍で華奢な肉体を串刺しにした兵士達。
皆が歓喜していた。
が、それも束の間――――。
「おい、あれ」
一人の兵士が異変に気付く。
あろうことか空中で串刺しにしたハンターの体が透け始め、その体を通して月を見ることができたのだ。
「なんだ!?」
全員に動揺が走った瞬間、ハンターの体は身に纏う全てを含めて光の粉と化し消え去ってしまう。
「消え……た……」
「スキル、なのか?」
特殊な技能かとも思ったが、何しろ彼らはこんなスキルを知らない。
「馬鹿な、奴は一体何を」
喜びに浸っていた領主の顔に曇りが見えたと思えば、城内に彼の怒号が響き渡る。
「何をしている! 探せ! 探せぇ!」
「はっ!」
その言葉に兵士達は慌てて散開したが、目の前であのようなイリュージョンを見せられたのでは探す当てがないというもの。
とにかく何処という明確な目標を立てずして、兵士達は城内を駆け回った。
既に火薬庫に侵入していたハンターの笑みなど彼らが知るはずもない。
「私のイリュージョンは楽しめてもらえたようで」
仮面の下で浮かべる笑みは彼女が槍で刺されて死ぬ直前に浮かべたものと同じもの。
「まっ、ここまでくるわけもないし、お仕事完了ってことで」
そんな自信を胸にハンターの弾むような足取りが火薬庫のらせん状に伸びた階段を昇っていく。
この火薬庫はかつて前線基地として使われたセルバレムにとって最も重要な施設であり、最も危険な施設。
故に施錠は強固で、外部の人間が簡単に出入りできるような場所ではない。
だからこそ、ハンターには「ここまでくるわけない」という明確な自信があった。
彼女は侵入しているものの、外からの施錠には一切触れておらず鍵はかかったまま。無論、窓などない。
「まさかこんなところで使うハメになるとはね」
鍵開けスキルで開けれないことはないようだが、彼女は今回それをしていない。
「待機時間は十二時間、うっわ長!」
いつものことながら彼女はそのスキルの持つ異常とも言える待機時間に改めて呆れる。
『亡霊の進撃』。それは世界でただ一人、ハンターだけが持つ唯一無二の技能。
「亡霊の進撃って使いたくないのよね、一回死ななきゃならないし、痛いし」
軽快な足取りでハンターが向かうのは火薬庫の屋上。
練習用の大砲が一つ設置されたそこは敵国の襲撃を受けることの無くなった今では、ただの火薬消費施設。
「まっ、人も壁も通り抜けれるってのはこの泥棒向きかぁ」
持ち主の死をトリガーとして作動する亡者の進撃は、ハンターが串刺しにされたあの瞬間に作動。
全ての兵士と火薬庫の分厚い壁を通り抜けて今この場所で見事死傷を受ける前の状態に再生したのだ。
「怪盗ハンター様、歓喜のウイニングラン~、なんちって」
そんなことを言いながら屋上に出た瞬間、ハンターの視界に飛び込む一つの影。
「やはりここから逃げるつもりだったか、ハンター」
「げぇっ!? なんでここにいんのよ!」
それは鎧を纏った青髪の青年。
おそらく自分と同い年ぐらいの彼をハンターは知っていた。
「今日という今日は君の悪行に終止符を打つ! 正々堂々、僕と戦え!」
腰に差した剣を勢いよく抜き取り、その切っ先をハンターに向ける青年。
「正々堂々って、それ泥棒に向かって言う台詞じゃないでしょ」
青年の真っ直ぐな言葉に呆れるハンターだったが、彼から向けられた眼差しは真剣そのもの。
「これまで何度も君の姿は見てきた、君のそのスキルはただの泥棒のものではない」
「褒めても何にも出ないけど?」
分厚い木の仮面にこもってしまっているが、ケタケタという嘲た笑い声が聞こえる。
「君のその力は紛れもなく本物だ、それを下らないことに使うことが許せない」
「あっそう、せっかくいい男なのに色々と台無しだわ」
「君の中に戦士としての心があるのならば、今ここで僕と戦え」
「絶対イヤ、私九割以上は自分に分がある戦いじゃないとしない主義なの」
ハンターの口から出てきた言葉に青年の声が震えた。
「君は……」
「ん?」
震えの正体は――――怒り。
「君は一体何処まで卑怯な人間なんだ!」
「ざ~んねん、私ヒューマンじゃないの」
刹那、二人の足が勢いよく石畳を蹴り飛ばした。




