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悲劇の花嫁は涙する Part.2


 四つん這いになったレオーナは芝を毟り、土を握る。

 悔しさで思い切り噛んだ唇からは線を描くように血が流れた。


「レオーナ・ミルドバーグ、貴様を帝都まで――」


 レオーナを捉えようと彼女の下に歩み寄った男性兵士。彼の迂闊な行動にオズワルドが「止まれ!」と大声で警鐘を鳴らすも、既に遅い。

 手を伸ばし合えば触れ合えるような距離まで近付く男性兵士の方へ猛禽のような鋭い眼光を向け、レオーナが口を開いた。


「私を守れっ!」


 刹那、男性兵士の中で理性が弾け飛ぶ。

 どうしようもなくレオーナが愛おしい。どうしようもなく彼女を守ってあげたい。たとえ仲間の命を奪うことになっても構わない。

 心を鷲掴みにされた兵士は剣を握り、レオーナを捕獲しようと駆け寄って来た兵士を斬りつけた。


「何っ!?」


 無論、斬りつけられた者は動揺を隠せない。

 何故自分は仲間に斬られたのか、何故体が痛むのか、何故血が溢れてくるのか。そんなことすら分からないほど動揺し、混乱する。


「お前もだ、憎き帝国の犬共を殺せ! 殺せ! 殺せぇ!」


 その場に立ち上がったレオーナは次から次に男達を虜にし、仲間同士の殺し合いを強要した。

 矛先はオズワルドにも向けられようとしていたのだが、彼はレオーナの“魅了する魔眼”を知っている。

 レオーナの足下ばかり見て視線を合わせようとしないオズワルドのことは即座に諦めたレオーナは、ドレスの裾を両手で持ち上げて一心不乱に駆け出した。


「待て! そっちは!」


 レオーナが走って向かった先にあるのは礼拝堂。だがオズワルドが危険視したのはそんなことではない。

 彼女が向かう先には避難中のエイジャースを乗せる馬車があるのだ。

 所詮、日頃室内にばかりいる女性の足。オズワルドが走れば追いつくのは容易い。しかし追おうとしたオズワルドを狂気に満ちた目をした兵士達が止めた。


「憎い、帝国の犬が……憎い」


 誰もがレオーナの虜。レオーナを守る為なら自分の命すら省みぬ、傀儡。

 あえて命は狙わず、兵士達の剣を薙ぎ払って足下を凍てつかせるオズワルド。苦しい表情を浮かべながらも、レオーナのいいように踊らされる仲間達の動きを止めることに成功した。

 ――――が、何もレオーナに魅了されたのは剣を持った兵士ばかりではない。


「愛の前には、何者も無力」


 低い声で呟く大きな杖を持った兵士の下から、大人一人分の直径はあろうかという火炎弾がオズワルド目掛けて放たれた。

 しかも一つだけではない。二つ、三つとオズワルドを焼き殺そうと飛んでくる。


(氷晶の壁が待機時間(クールタイム)だという時に、なんて都合の悪い)


 オズワルドが持つ最大の防御手段はバハムートの攻撃を凌ぐ際に使用した。

 元々、魔法の類が得意というわけでもないオズワルドの手元に使えるスキルの種類は少なく、中でも防御手段となれば種類もクオリティも高が知れる。

 出現させた巨大な氷の拳を一つの火炎弾にぶつけて相殺、残りの火炎弾には地面から生やした大きな氷柱をぶつけた。


「駄目かっ」


 しかし残り二つの火炎弾は止まらない。

 それもそのはず、元来氷と炎では炎に分があるのは当然のこと。


巨人の足(ギガントフット)!」


 苦虫を噛み潰したような面持ちで地面から生やしたのは、氷で造形された二本の巨大な足。

 蹴り上げるように突き出された足は見事に二つの火炎弾を打ち消し、何とかオズワルドの身を守る。


「これで使えるスキルはもうない……だったら!」


 スキル使用を躊躇したのも、氷で巨大な拳を造形する『巨人の拳(ギガントナックル)』と同じく巨大な足を造形する『巨人の足(ギガントフット)』を使い切ってしまえば、彼が頼れる魔法系のスキルが全て待機時間(クールタイム)に突入してしまうのだ。


 いわゆる手札切れの状態で、オズワルドは剣を構えて駆け出した。

 これで一人の魔導士は抑えられる。しかし、残り二人は更なる魔法を放つ準備を始め――――。


「くそっ、間に合え!」


 剣の柄で魔導士の溝を思い切り殴って蹲らせると、すかさず残りの魔導士の下へ駆け出した。

 迅速な動きは二人目の魔導士も捉えることができたのだが、最後の一人を止めることはもうできない。


 かわすこと自体は不可能ではないのだが、避ければレオーナに操られている仲間の兵士達に当たってしまう。しかし、火炎弾を凌ぐ手段は手元に残されていないというジレンマに苛まれ、悔しそうに顔を歪めた。


「オズワルド君ってもしかして人徳とかない? そりゃそーだよねぇ、少女っていうか主に私のセンチメンタルな心を何度傷つけたことか」


 刹那、軽快な言葉と共に現れたアキラが魔法を放とうとしていた男性兵士の背から『Vision』と描かれたカードを抜き取る。


「なんだっ!? 帝国の犬は何処にいる! 女の声は誰のものだ!」


 放とうとしていた魔法を止め、慌ただしく体を動かして周囲を確認する男。しかし彼の目には暗闇以外の何物も映ることはない。


「悪いわね、あんたの視覚は怪盗ハンター様が盗んじゃった! でも大丈夫、あんたが目を覚ます頃には戻ってるはずだから」


 何せ、アキラが抜き取ったのは視覚なのだから。

 すぐさま慌てる男の背後に回り込み、細い腕で首を締めるアキラ。十秒程度呼吸を絶ったところで男は意識をなくし、力なく崩れてしまった。


「……礼を言うつもりはない」


 まるで汚物でも見るような瞳でアキラをジッと見つめた後、オズワルドは小さく舌打ちして不機嫌さを強調する。


「あーあ、せっかく助けてあげたのになぁ」

「そんなことよりレオーナだ、彼女の向かった先には皇子が――」


 オズワルドの言葉を塗りつぶし、遠くの方から男のものと思われる断末魔が聞こえた。

 あろうことか、声のした方角はレオーナの走り去った先。エイジャースが乗り込む馬車のある方角。


「ったく、諦めの悪い女だこと」

「皇子!」


 呆れたように大きな溜め息をつくアキラと対照的に、オズワルドは顔を真っ青にして礼拝堂の方へ走り出してしまう。


「ほんっと追いかけっこ好きよねぇ……あいつ」


 また溜め息を漏らしたアキラも、渋々オズワルドの後を追った。

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