神聖都市大戦争 Part.3
◇
疲労した体をようやく獲得した睡眠時間で休めていたアキラを、ドタバタ慌ただしい音が叩き起こした。
黒マントのフードを被り直し、木の仮面で顔を隠し、起き上がった彼女の足元で重たい扉が勢いよく開く。
「ハンターは何処にいる!」
そう言ってこの祈りの塔に入ってきたのは、オディノス司教を筆頭とした教徒達。
見事なまでに自分の思惑通りな展開に、アキラは仮面の下で思わず笑顔した。
「探すぞ!」
複数の教徒達が祈りの塔へ足を踏み入れたその時、アキラが眠っていた壁の淵から飛び降り、彼等の背後に立つ。
突如降りてきた影に驚き、すぐさま教徒達が振り返るも既に遅く、アキラの分厚い革のグローブを着用した手が彼等からそれぞれ『speed』、『Power』のカードを抜き取っていた。
「何っ!? 体が、重く……」
突如全身にのしかかる重圧に四苦八苦する教徒達を全員蹴り飛ばし、オディノス司教の首から下がる十字架をもぎ取るアキラ。
「あんたら司教がつけたこの十字架には罠が反応しないってのは調査済みなのよ」
あまりにも円滑に進んだ作戦にアキラは心を躍らせ、塔の壁を這うように最上階へ伸びる螺旋階段を駆け抜けた。
その間も聖杯を守る為の罠は作動せず、これもまたアキラの調査通りらしい。
「そんじゃ、さっさと聖杯を盗んで帰りますか!」
嬉々として走るアキラの足が徐々に最上階へ近付く中、教徒達が悶え苦しむ一階の入り口を跨ぐ足音が一つ。鉄の擦れ合うカシャカシャという音は薄暗い塔の壁を幾度も反響し、アキラの耳にも届いた。
「帝国兵が来ちゃったか」
ここはラグナ教団の教徒達だけしかいるはずのない聖堂。鎧を着ている者などいるはずもない。
もしいるとすれば、今日この場所を訪れるはずの帝国兵だけである。
「ハンター! 止まれ!」
アキラが想定していたのはあくまで、帝国兵が来るということまで。それが誰かまでは想像もしていなかったらしく、塔の中を反響する聞き覚えのある声に思わず驚いた。
「ちょっ!? なんでオズワルド君がここにいんのぉ!?」
「神への貢ぎ物に手を出すとは恥を知れ!」
よく知る青年オズワルドの登場に驚きはしたが、十字架を持たない彼は塔に足を踏み入れられない。
「お言葉ですけど、神様なんて祈りを捧げるほど崇高なもんでもないから!」
「この教団の存在までも愚弄するとは、やはり君は裁かれるべき最低の人間だ!」
「ここまで来れるんなら来てみなさいな! 迂闊に入ったら罠が――――」
高を括っていたアキラ。しかし、彼女の思惑とは裏腹にオズワルドは塔の中を進み始めたのだ。
「ちょっ! あんた馬鹿じゃないのっ!?」
予想だにしていない行動に階段を昇る途中で足を止め、一階を見下ろすアキラ。
「待て! 迂闊に入れば罠がっ!」
追いついて塔の内部に入ってきたレオーナの忠告も空しく、オズワルドが踏み出した足に罠は反応し、床が妖しい輝きを放ち始めた。
「なんだ、これはっ」
罠の存在を知らなかったのだろう。オズワルドは足下から放たれる輝きに驚いていたが、それも束の間、侵入者を駆逐する為のガーゴイルが出現してしまう。
初めて見た祈りの塔のガーゴイル。その姿はオズワルドにもアキラにも、更なる衝撃を与えた。
地上で最もグロテスクな悪魔とも称されるガーゴイルだが、人間の子供サイズから大人サイズが一般的なふり幅という中で、このガーゴイルは人の四倍はあろうかという巨大な体躯を持っている。
「いやいやいや! デカ過ぎるでしょぉぉぉ!」
ガーゴイルが深い青の瞳に映したのは、罠を作動させたオズワルド――――ではなく、最も聖杯に近い場所にいるアキラだった。
大きな翼を羽ばたかせ、自らに施されたプログラム通りに聖杯を守らんとアキラへ襲い掛かるガーゴイル。
「ちょっと待った! あんたを起こしたのはあっちのイケメン君が――――」
階段を一段飛ばし、二段飛ばしで駆け上がるアキラの訴えも空しく、ガーゴイルは広げた翼で螺旋階段を破壊しながら襲い掛かった。
「なんで私ぃぃぃぃぃ!?」
アキラ一人など簡単に握りつぶせるであろう手が振るわれ、木造の階段も石造の壁も全てを破壊する。
間一髪で避け、階段を駆けるアキラだったが、対するガーゴイルも未だピンピンしている彼女の存在に気付いて叩きつけた腕を振るい、階段を下からどんどん削り取っていく。
「あわわわわわ!」
幾ら人型最高峰の俊敏性を持つケットシーとはいえ、ガーゴイルの剛腕が振るわれる速度には容易く追いつかれてしまった。
――が、ただで捕まるような彼女ではない。
「あらよっと! チョロいチョロい!」
あろうことか、アキラは向かってくる剛腕の方へ飛び込み、ガーゴイルの腕に見事着地。間髪入れず胴体の方へ一気に駆け抜けた。
ガーゴイルの背中まで到達した頃だろうか、急に翼を羽ばたかせ、振り払おうと大きく暴れ始める。
一方のアキラも、こうして暴れられることは想定内だったようで、ガーゴイルの太い首に捕まって必死に耐えた。
耐えたが、痺れを切らしたガーゴイルが自らの体を壁に打ち付けようと動き出す。
「甘い甘い、激甘だね」
咄嗟にアキラはガーゴイルの背を踏み台にして空中に身を投げるも、飛び出した先に足場はない。
このままガーゴイルに殺される前に塔の一階へ叩きつけられて無残な死体を晒すことになってしまうことになるが、アキラは腰元から取り出したロープの鉤爪を上空へ投げ飛ばした。
矢の様に飛び出した鉤爪は見事に壁の石と石の間に突き刺さり、ピンと張ったロープの先でアキラが右へ左へ揺れる。
「ほーら、こっちだよこっち」
壁に突き刺さった頭を抜くガーゴイルを挑発すると、ロープをたぐい寄せるように昇っていき、頭に乗った瓦礫を振り払うガーゴイルの遥か上の階段に足をつけた。




