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神聖都市大戦争 Part.2


「怪盗ハンター、指輪の偽物を盗んだとかいうコソ泥か」


 無論、レオーナの耳にもハンターの噂は届いており、彼女が偽物とはいえ熾天使の指輪を盗み出した際は驚いたものだ。

 しかし当時は大して警戒もしていなかったものだ。なにしろ、レオーナはハンターもまた婚約に反発するギルドの何処かに所属している一人としか捉えていなかった。


「何故、奴が聖杯のことを知っている! 何処から嗅ぎ付けたっ!」


 だが聖杯のことを知っているのならば話は変わる。

 大方、ハンターという泥棒はレオーナの企みを知っていて、婚約の儀の直前のこのタイミングで予告したのだから。


「クソッ、クソックソッ! 何をボーっとしている! さっさと消せ!

 帝国にあのバカ皇子には魔眼の効果が聞いているとして、他の連中に聖杯のことを気取られるわけにはいかん!」


 明日。ようやく明日。待ちに待った瞬間が訪れるのだ。

 難なく進んでいた計画に突如立ち込めた暗雲に焦り、怒り、レオーナは額から大量の汗を流す。


「貴様っ! 何故このことを私に教えない! 見えていたんだろ!」


 暴発する怒りの矛先にレオーナが選んだのはコヨーテ。

 彼の胸倉を掴み、礼拝堂全体に響き渡る程の怒号をあげる。


「まっ、待て、見えなかったんじゃ……言っておっただろう、ここ最近は見える未来が変化することがあると……」

「本当だろうな?」

「……本当じゃ」


 物凄い剣幕に押され、コヨーテは恐る恐る頷いた。


「使えない奴め、だったら今見えている未来を教えろ! 私はネフティスを召喚できているか」

「明日、其方は――――ネフティスを召喚しておる」

「他には? 今ハンターとやらは何処にいる! 帝国軍の動きは!」


 強い力で胸倉を掴まれ、成す術の無いコヨーテは再び頷き、口を開く。


「ハンターは既に祈りの塔の中じゃ、それから中の罠が作動して――」

「祈りの塔だ! 祈りの塔に行け!」


 コヨーテの口が止まるのを待たずして、レオーナが再び怒号をあげる。

 しかし祈りの塔へ立ち入れるのは司教以上の人員のみ、無論それを知っている教徒達は互いに顔を見合わせて立ち往生していた。


「オディノス司教は何処だ! あいつを連れていけ!」


 後々、地方の教会に散った司教や司祭が聖堂に訪れるが、それでは遅い。

 現在聖堂の中にいる司教はコヨーテ、レオーナ、オディノスの三人であり、祈りの塔に立ち入れるのもこの三人。

 すぐさま「はい」と大きな返事をした教徒達がオディノスを探す為に、礼拝堂から駆け出した。


「それから帝国軍は――――」


 続きを口にしようとしたコヨーテが、狐につままれたような顔をして制止する。

 次の瞬間、礼拝堂正面の大きな扉が音を立てて開いた。


 大きな扉をくぐり、中に入って来たのは――――青髪の青年オズワルド率いる帝国兵達。

 この事態には流石のレオーナも大口を開けて驚いた。既に彼女が最も警戒していたことが現実になってしまっているのだ。


「失礼致します、レオーナ様にコヨーテ様もお揃いでしたか」


 あまりにも大所帯での出迎えに驚き、頭を下げたオズワルドが次に頭を上げた時、彼の視界に酷く見慣れた文言が目に入る。


「これはっ!?」


 教徒達の必死な清掃作業で何を盗むか、という肝心な部分は見えないとはいえ、目に映ったそれがハンターからの予告状と理解するまで時間は要さなかった。


(この青臭い小僧が、なんていうタイミングで来やがるっ!)


 拳を強く握り、下唇を噛むレオーナ。

 そんな彼女の行動が自分に向けられたものとはいざ知らず、予告状に驚いたオズワルドは単身レオーナの下に駆け寄る。


「レオーナ様、コヨーテ様、これは一体……ハンターが来たのですか!?」

「そっ、それは……」


 言い淀むレオーナと彼女を不安げに見つめるコヨーテ。


「熾天使の指輪といい、奴も婚約に反対する勢力の一人なのか? 以前はお見苦しい結果に終わってしまいましたが、今度こそは捕まえてみせます!

 もしよろしければ、奴が何を狙っているのかを御教え願いたい」


 だが言えない。言えるはずがない。

 言い寄るオズワルドを前に、遂には唇を震わせるレオーナだったが、隣で深呼吸をしたコヨーテが彼の要望に応えた。


「ハンターが狙っているのは、我々がラグ・マリアに祈りを捧ぐ儀式に使う杯じゃ。

 金で造形された高価な物である故、狙ったのだろう」

「神への貢ぎ物にすら手を出すとは、罰当たりな」


 コヨーテの見事なフォローに安寧の息を漏らしていたレオーナ。

 しかしオズワルドが悔しそうに拳を握り呟いた後、再び純粋な瞳で言い寄ってくる。


「その杯は今どちらに?」

「中庭を抜けた所にある祈りの塔の最上階に」


 言葉を詰まらせたように言い淀むレオーナだったが、すぐバレる嘘よりも真実を話すことを選んだ彼女。

 それを聞くなり、オズワルドは連れてきた兵士達に「ここで待っていろ」とだけ告げて、中庭の方へ急いだ。


「レオーナ、どうするつもりだ」


 慌ただしく走っていくオズワルドの背を見送るレオーナに小さな声で語り掛けたのはコヨーテ。


「うるさい、黙れ! 馴れ馴れしく私の名を呼ぶな!」


 母ベルディヤヒに与えられた名を誇りに思っているレオーナは、激しい反発と共にコヨーテンに殺意さえ見えそうな目を向けると、オズワルドの後を追って祈りの塔へ急いだ。

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