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史上最悪のクーデターPart.5


「しかしまあ、期待でこんな物騒なことを語るほど怖いもの知らずじゃない。

 幾つかの事実を基盤として、想定した考えられる限り最悪のケースだという話だ」


 微笑みを崩さないまま、ラーマは続けた。


「ベルディヤヒ・ミルドバーグ……コヨーテの伴侶となる前の名はベルディヤヒ・マハト。

 マハト家は召喚(サモン)スキルの扱いに秀でた、ヒューマン族の中でも一位二位を争うという召喚師の家系だ……その力は魔法系、召喚系のスキルの扱いに長けたエルフ族や私達ホビット族ですら凌駕すると名高い」


 ベッドに腰を掛け、膝に頬杖をつきながらラーマの話を真剣に聞くアキラ。


「つまり、彼女は初めからネフティスの聖杯に宿った召喚系唯一無二の技能(ワンオフスキル)に気付いていて、それを召喚師である自分が使う為にオークションで落札したと考えられる」


 しかし頬杖をついたままのアキラの「ちょっと待って」という一言が、彼女の話を遮った。


「何かな?」

「それだけ凄い家の人ならネフティスの伝承を知っててもおかしくないってのは分かったわよ。

 でも、伝承を知ってるなら勿論、歴代の召喚師達が幾ら発動しようとしても叶わなかったってのも知ってるでしょ」


 するとラーマは大きく頷く。


「うむ、賢明な答えだね……たとえそれがマハト家の子であろうと発動させるのは不可能だ。

 彼女は知っていただろうし、おそらく試したが発動はできなかったんだろう、そして落札したネフティスの聖杯は彼女の死後コヨーテとレオーナに託された」

「死後? 死んでるの? そのベルディヤヒって人」


 伝承や夢物語と呼ばれる話を切り出すものだから、最初は冗談半分に聞いていたアキラもラーマの話に興味を抱き始めていた。

 そこでようやく知った、話の登場人物であるベルディヤヒの死。


「三年前に死んでいるよ、いや――――殺された」

「誰にって聞きたいけど段々見えてきちゃったわ、それ絶対嫌な話でしょ」

「勘の良さは君が大泥棒だからかな? おそらく君の予想通り、ベルディヤヒを殺したのはエヴァネスヘイム帝国軍さ。

 君も知っての通り、彼女が嫁に入ったラグナ教団はギルドへの資金提供を昔からしていて非常に大きいギルドとのパイプを持っている」


 説明を始めるも、出てくるどの言葉もアキラには受け入れられなかった。


「帝国がギルドをよく思ってないってのは聞く話だけど、そんなことの為に殺したっていうの?」

「話はこれからなんだ、落ち着きたまえよ。

 ラグナ教団という組織はね、元々反皇帝政権思考の強かったマハト家の子・ベルディヤヒの登場で姿を大きく変えてしまっているんだ」


 アキラはいつの間にか頬杖をつくのをやめ、前傾姿勢になって聞き入る。


「大いなる流れに背を向け独立する者達への敬意を形とし、できる限りの資金提供と困ったら助け合える程度の協力関係を築いていたんだがね……。

 ベルディヤヒは傘下にいた反皇帝政権志向の強いギルドと結託し、教団とそれを取り巻く彼等を革命軍に仕立て上げようとした」


 段々見えてきた話に、アキラは息を呑んだ。


「じゃあ、ベルディヤヒは本当に帝国を転覆させるつもりでネフティスの聖杯を競り落としたってこと?」

「その通りだよ、国家を転覆させるだけの力を手にしたと知ってか否か、活動が徐々に目立ってきたラグナ教団を止める為の見せしめに選ばれたのがベルディヤヒだ」


 随分酷い話だが、アキラも理屈が分からないわけではない。

 ベーランブルクでブラックマーケットを経営していたバーキンス達違法商人ギルドでさえ、ラグナ教団と結託関係にあるのだ。

 それを危険視して、動きを止める為の手を打つのは当然のこと。


「幸か不幸か、ネフティスの聖杯は最愛の妻を殺されて帝国を恨むコヨーテの手に遺された……規模が大きすぎて頭のおかしくなりそうな話だけど、同情はしちゃうわ」

「やはり、家族がらみの話には弱いかい?」


 アキラがこちらに来る前、笠原明良として生きていた頃の話を彼女自身の口から聞いていたラーマ。

 彼女がこの手の話に弱いのも重々理解しているらしい。


「考えるところはあるよねぇ……でもまあ、同情してるだけってわけにもいかないか」


 大きく息を吐きだすと、アキラはその場で立ち上がった。


「それが今の君の仕事だからね、これからもいいビジネスパートナーであってくれることを切に願うよ」

「はいはい、それでさっきから肝心な話すっぽかしてんだけどさ……歴代の召喚師達が使えなかった聖杯を、コヨーテはどうやって使うつもりなの?」


 アキラの見下ろす先でラーマは「よくぞ聞いてくれた」と満足げに首を頷かせている。


「大方、熾天使の指輪を使うつもりだろうね……あれには如何なる条件をもクリアしてスキルを使用するといった力がある。

 最も自分に扱えないスキルを人の体に刻むことはできないから単品では意味などないし、一度使うと待機時間(クールタイム)に入ってしまう為に連発も不可能……使いどころはなく、こちらも只の美術的価値のある皇室御用達アクセサリー程度にしか思われていなかった。

 指輪にスキルが付与されていることすら知らない者もいるだろう」


 宿屋の二階から見える市街地では、ギルドにも教団にも直接的なつながりはないであろう子供達がキャッキャとはしゃいでいた。


「婚約の儀当日、指輪はレオーナの指にはめられてネフティスの聖杯が始動する、相変わらず気色悪いぐらいの情報量だこと」


 子供達も、それを傍から見守る母親達も、一週間後に待ち受ける悲劇を知らない。


「私の情報網を持ってしても分からない箇所は多く、容易に欺かれる……今回の相手は非常に厄介なわけだけど、君の手に負えるかな?」

「怪盗ハンター様に盗めない物なんかあるわけないでしょ」


 そう大口を叩いた三日後のアキラは、改めて敵の厄介さを理解した。

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