怪盗ハンターより、愛と共に Part.1
『熾天使の指輪を頂きにあがります。
怪盗ハンターより、愛と共に――――。』
カーンカーンと鼓膜を突き破るような鐘の音がセルバレム城内の空気を震わせた。
警告を示す鐘の音に尻を蹴られ、城内の鎧を纏った兵士達が足を急がせる。
剣を持つ者、ボウガンを持つ者、ローブを纏った魔導士だって、こんな夜間に尻を叩かれるとは思ってもいなかった。
「――――あそこだ!」
城の巨大な庭園に出た兵士達の内、一人の男が何かに気付いて城の屋根を指した。
屋根の上には満月を背景に黒いマントを靡かせる人影が一つ。
「It's SHOW TIME」
人影が弾むよな口調で告げた言葉は、兵士達の怒号にかき消された。
「捕えろ! 捕えろっ!」
魔導士達は黒マントの行く手に回り込み、ボウガンを持った兵士達は一斉に矢を放つ。
無論、矢が一目散に向かうのは屋根の上に佇む人影。
「ザンネン、当たってあげないんだから」
深く被ったフードの下に見えたのは木製の仮面。
分厚い仮面の中で可愛らしい声を響かせ、矢から逃げるように走り出す彼女こそ盗みの予告状などとふざけた真似で、静かなはずの城を怒号飛び交うショーのステージに変えた張本人。怪盗ハンター。
その速さは兵士達のようなヒューマンのそれではなく、次から次へと城の外壁に突き刺さる矢を掻い潜った。
「速い!」
飛んでくる矢を持ち前の走力とアクロバットな動きでかわし、彼女が向かう先は魔導士達が先回りした城の西側庭園。
「ノコノコとやってきたな!」
屋根の上で声に足を止めたハンターが見たのは一斉に魔法を展開する魔導士達の姿。
どうやら彼らも形振り構ってはいられないらしく、城の天井や壁面ごと彼女を潰すつもりのよう。
「げっ! ちょっと、ここあんた達の――――」
「撃てぇ!」
無論、命まで取ろうとしている相手だ。ハンターの言葉を耳に入れることもなく一斉に炎の砲丸を放った。
「自分達の城壊すつもりですかぁぁぁぁ!」
炎の砲丸はぶつかった屋根を破壊し、瓦礫は天井を突き破って城内へ流れ込む。
一発、また一発と飛んでくる炎の砲丸から全速力で逃げるも、先に足場の屋根が崩壊。
そのままハンターの身は瓦礫と一緒に城内へ転落してしまう。
「あいたた」
何とか起き上がりはしたが、落下した衝撃で少しだけ体が痛んだ。
だがハンターにそんな悠長なことを言っている余裕もなく、城の外から「中を探せ!」と余裕のない怒号が届く。
「弁償とか言われても知らないから」
次から次へと城内に兵士が足を踏み入れる中、ハンターも瓦礫の上で立ち上がり城内を豹のような速さで駆け抜けた。
「いたぞ!」
が、またしても兵士達に見つかってしまう。
「ふぅん、随分女の子の気持ち分かってるみたいじゃん」
先読みしたように待ち受けていた見た限り五名の兵士。
彼らが横一列に並べるほど大きな廊下だが、ここは一本道。ハンターに残された退路は後方だけ。
「でも偶然なんでしょ?」
一本道で偶然鉢合った。ただそれだけのことと甘く考えたハンターが後方を振り返る。
しかし、そこには七人の鎧を纏った兵士達。
「残念だったな、逃げ場はないぞ」
「あちゃちゃ、まずったかな」
剣に槍に、銀色の刃を向ける兵士達の兜の奥で瞳がギラついた。
彼女を捕えること、そして奪われた財宝を取り返すこと、それが自分達の出世に直結するからなのだろう。
「大人しくしろ」
「はいはーい、降参降参」
ハンターが投げやりな言葉と共に腰から取り出したのは掌に丁度収まる程度の白い箱。何を隠そう、彼女がこのセルバレム城から盗み出した宝。
「それはっ!?」
突如、取り出されたそれに驚愕しているが、それも束の間。
あろうことか白い箱を取り出した彼女は行く手を阻んだ兵士達の方に放り投げたのだ。
「盗んだものは返すから、ちゃーんと見逃してね」
セルバレムにとって、それだけでなくセルバレムを含むエヴァネスヘイム帝国全土にとって大事な品が宙を舞ってしまっていることに唖然とし、兵士達は慌てて白い箱に飛びついた。
「決して落とすんじゃないぞ!」
――――が、
「なんちゃって」
仮面の下でハンターがケタケタ笑い声をあげる。
刹那、白い箱から勢いよく白煙が噴射。一瞬にして周囲を包み込んでしまった。
「何っ!? なんだこれは!?」
突然視界を奪われ慌てふためく兵士達。
彼らが投げられた白い箱は偽物だったと気付くまでしばらくかかった。
一から十までハンターの掌で転がされる彼らがそれを知った時にはもう遅い。
「製作系スキル、”メーク・スモーク・ボム“」
煙の中に飛び込んできたハンターは、正確に記憶した兵士の位置だけを頼りに視覚が機能しない煙の中を突き進む。
そして一人の兵士の影が見えた途端に跳躍。
兜に覆われた頭を踏み台にして煙の外、兵士達の遥か後方に出てくる。
「ざ・ん・ね・ん、嘘は女の十八番なの」
仮面をずらして覗かせた可愛らしい顔は舌をベロンと出して、煙の中で翻弄される兵士達を嘲笑っていた。




