怪盗ハンターより、愛と共に Part.2
鍵開けや変装などの盗賊職固有のスキル。
それからダガーを駆使した戦闘系スキルを上げる傍ら、ここぞという時に仕えそうな製作系スキルをコツコツ上げていたのが功を奏したらしい。
積み上げた自身の実力で兵士達の包囲網を掻い潜ったハンターの足取りは愉快そうに弾んでいた。
「ふんふーん、決まった決まった」
煙幕付きの偽物を作れるようになったのは最近らしく、実践で使ったのは初めてのこと。
初の実戦投入でこれだけ上手く使えれば気分が良くなったって仕方ない。
「おっ、上に行くべきかなぁ……それとも庭に出て逃げ切るか……」
浮かれ気味なハンターの前に現れたのは城の二階へ繋がる階段。
少しだけ悩んだ後、彼女は一階の大きな庭園から逃げることを決め、上へと繋がる階段を気持ちよさそうなスキップで横切っていく。
ハンターの黒い影が階段を横切ってから五秒は経ったか――。
「にゃあぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴と共に涙目のハンターが戻ってきて、階段を全速力で駆け上がる。
「待てぇぇぇぇぇぇ!」
そしてその後からやってきて階段を駆け上がったのは三十人は下らないであろう大所帯の兵士達。
「捕まえろぉ!」
ヒューマンである兵士達がそれを遥かに凌駕する脚力を持ったハンターに敵うはずもなく、踊り場を旋回して城の二階に辿り着いた頃にはもう見失ってしまっていた。
「逃げ足の速い奴め、下の奴らには上への警戒を強めるよう指示を与えろ、我々は分散して二階を探すぞ!」
リーダー格のような男が兜の下で渋い声を響かせると、一階へ急いだ三人の兵士を除いて他の兵士達は三人から五人程度の組に別れて二階を探し回る。
「一刻も早くあの婚約指輪を取り戻さなければ……」
焦るリーダー格の男が醸し出す威圧的な空気に彼と同じ組になった兵士達は動揺を隠せなかった。
「やけにピリピリしてますよね」
しばらく探し回ってもハンターの姿は見つからず、苛立ちを募らせたリーダー格の男の後方で気の弱そうな男が彼の耳に届かない様、隣の兵士に呟いた。
「婚儀が近いこの時期だ、あの指輪がコソ泥なんかに奪われたとなっちゃ兵士長も俺達もどうなるか分かったもんじゃない」
「そうですよねぇ」
隣の兵士も呆れた様な口調で呟き、皆兵士長の背を見て考えることは同じかと気弱な兵士が溜め息を漏らした途端、彼の視界に蠢く影――。
「あれは!?」
「どうしたっ!」
声をあげた気弱な兵士に瞬発的な反応を見せたのは是が非でも盗まれた指輪を取り返したい兵士長。
「あっちの方に! おそらくハンターがっ!」
「何だと! あっちか!」
左右の壁に設置されたランタンが照らす廊下を慌てて駆けていく兵士長。
無論、その後を部下の兵士達も急いで追いかけた。
――――ただ一人、気弱な兵士を残して。
「婚約指輪ね、あいつこんな物を盗んで来いなんて何考えてるんだか」
遠くの方で聞こえる「こっちだ!」という兵士長の声に分散した兵士達の足が向かい始めた頃、突如として兵士の口調が女々しいものに変貌する。
「盗賊スキル“容姿偽装”、熟練度上げといてよかったぁ」
刹那、気弱な兵士の体にノイズが走ったかと思えば、まるで服を脱ぐようにしてハンターが現れた。
「ふぅ、変装してからさり気なく混ざってみたけど案外気付かれないもんね」
兵士長を走らせた方とは真逆へ駆け出すハンター。
二階で姿を眩ませた後、彼女は細い廊下の天井に張り付いて通過する兵士長一行の最後尾に何食わぬ顔で混ざっていたらしい。
「おっと」
分散した際、真逆に向かっていた兵士達が慌てて走ってくるのに気付き、影に身を潜める。
ただ壁に張り付いていただけという、簡易的な隠れ方だったが苛立ちを募らせる兵士長の言葉で慌てた兵士に勘付かれることはなく間抜けな背中を見せて通過していった。
「このスリル、ホント堪んない」
仮面の下で笑みを浮かべるとハンターは再び豪華な装飾に彩られた城の中を駆け抜けていく。




