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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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609/2112

六百八話 ルマルディとメルとシャルドネの屋敷

 

 メルたちが到着する前日、贋作屋ヒョアンさんの屋敷に招かれた。


「総長様~。いきなりだけど、総長代理のメル副長ってどんな女の人なの?」


 と、贋作屋ヒョアンさんが発言。


「メルはかなりの切れ者だ。【血星海月連盟】の維持も彼女のお陰。足を武器にする美人さんで、おっぱいダイナマイティだ」

「ん、まいてぃ?」

「そうだ。くろまてぃだ。特徴的な打ち方から、おっぱいホームランを打つ、って何を言わせる!」

「何が、おっぱいホームランよ! って、自分でツッコまない!」


 ユイが掌底モーションを取りつつ、ツッコミを入れる。

 すると、エヴァは俺がプレゼントしたヌベファ金剛トンファーを袖から出し、


「――くろまてぃってだれ? おっぱいほーむらん?」


 と、聞いていた。


「エヴァ、気にしちゃだめ。シュウヤは、レベッカのツッコミがないと思って盛大にボケているだけだから」

「ユイさん、真面目な顔でボケ潰しか」

「ふふ、ごめん」


 笑みを浮かべたユイに近寄って脇でもくすぐってやろうと思ったが、ヴィーネに腕を掴まれた。

 ヴィーネは無言で腕を抱きしめてくる。

 俺の腕を抱きつつ、自身の銀色の虹彩をオカオさんと贋作屋ヒョアンさんに向けていた。


 そして……チラッと俺を見て微笑むと、また、新しいメンバーに視線を戻す。

 その意味は『ご主人様、今はふざけてないで、こっちが先だろう?』という意味だろう。


 確かに、と。

 頷いてから贋作屋ヒョアンさんに向け、


「話を戻すと【天凜の月】を実質、切り盛りしているのは副長のメルだ。そのメルは父に魔人ザープを持つ。ザープも【天凜の月】の客人、いや、もうメンバーと呼べるか。そのザープも独自の戦いがある。現在のメルはヴェロニカの筆頭従者の一人。平たく言えば、メルは俺の孫の眷属ってことだ」

「不死の眷属の仲間入り……光魔ルシヴァルの一員でしたか、メル副長は……さぞや、優秀なのですね」

「そうだ。先も話をしたが、元々がペルネーテで活動していた【月の残骸】の総長だったからな。かなり有能だよ。だから【天凜の月】での俺の立場は、総長や盟主っていうより、お飾り&番犬といった役割担当かな。特攻隊長とか?」

「違う違う。ヒョアンさん。シュウヤの文言は本気にしちゃだめだからね」


 と、ユイは半笑いだが、半ば本気で語っていると分かる。

 そのユイが、


「いつも控え目に謙虚が基本な男がシュウヤ。そのシュウヤは、ちゃんとした【天凜の月】の総長よ。番犬と特攻隊長ってニュアンスは合っているかもしれないけど、特攻隊長って立場は、もう不死身の渾名が付いたベネットかもしれない」

「ん、でも、番犬じゃなくて、番猫?」

「そうよ。って、ロロちゃんのこと?」

「ンン」

「あ、頭巾の中から声が」

「ん、ねんねの邪魔しちゃった。ごめんねロロちゃん」

「――にゃ」

「あ、顔が出た、小鼻ちゃんに糸くずが!」

「では、わたしが――」

「にゃ」


 頭巾から顔を出したらしい黒猫(ロロ)はヴィーネに糸くずをとってもらったようだ。


「で、ヒョアンさん。話を戻すと、シュウヤは、サイデイルのフォローに忙しいけど、十分、総長の仕事をしているから」


 ユイが熱い眼差しで俺を見ながらそう語る。

 褒めてくれるのは嬉しいが……。


「はい、その辺は大丈夫です。クナから聞いていますし、わたしはヘカトレイル出身の闇のリスト。魔竜王討伐に貢献したお話や【月の残骸】が【新街】で事務所を構えて【白鯨の血長耳】と争いもなく、その【月の残骸】と繋がりの深い中小の商会を発展させたことも知っています。偶然に、領主もその【新街】に公的資金の投入を開始。ですので、必ず、裏がある。と思っていました」

「あの時かぁ」

「はい。それだけでなく、ホルカーバムの【梟の牙】の幹部と【ガイアの天秤】の争い。地下街(アンダーシティ)の一部浄化の噂も。更に、ヘカトレイルで起きた謎の槍使いブーム! 俺が、我が、わたしが、槍使い! と名乗っては、槍使い大会まで開かれていましたから」

「ん、今も?」

「当時に比べたら少ないですが、はい。そして、その影響もあって、槍使いの絵と槍使いの装備品が売れに売れて……うふふ、贋作品でたんまりと儲けさせてもらいました!」

「メルから聞いたよ。槍使い専門のトーナメントに興味を覚えた」

「それもそっか。わたしと離れた直後に、ヘカトレイルで冒険者になったのよね」

「おう。魔霧の渦森で一暴れしたあと、城塞都市ヘカトレイルに直行した」

「わたしが閉じ込められていたゾルの家……そして、わたしの店で、分身体のわたしとの出会い。魔迷宮でのハンカイの救出と、ヴァライダス蟲宮での、キッシュとの出会いに繋がるのですね」

「……そう考えると、何かくるもんがある」


 クリドススやノーラにアンジェも、ここで会った。


「ふふ」

「……そうね」

「ん、シュウヤと、もっと前に出会いたかった」

「それを言ったら身も蓋もないでしょう。昔があるから、今があるんだから」

「ん」

「ということで、ヒョアンさんが、シュウヤを総長として信用しているのは分かった。けど、話はまだあるんだ」

「話とは、俺のことか?」

「そう、オカオさんとヒョアンさんに、総長としての仕事をやっているシュウヤをちゃんと分かってほしくて! シュウヤの態度は飄々としすぎる面があるし、手柄があっても、『あぁ、そんなこともあったな』とか、水のように、何事もなかったようにして流そうとする。自然体を貫くから」


 ユイがそんなことを。


「ヒョアンさんとオカオさん、いいかな?」

「勿論です。もっと聞きたい」

「わたしもよ」

「わたしと父さんと鴉さんは西の帝国領を両断するように旅をしていたの。そして、血文字でメルとベネットにヴェロニカ先輩と血文字でやりとりしてたんだ。要所要所で、シュウヤからの指示が利いた。と、濃密な闇ギルド戦の顛末を聞いている。ヴェロニカ先輩はアメリちゃん見守り会会長の仕事が忙しいからあまり参加しなかったようだけど」


 ユイがそう語ると、エヴァも、


「ん、メルは、シュウヤが的確な指示を出すから、わたしも安心して仕事ができる。と、いつも語ってた。そして、わたしでさえ読めない先の展開を予測してくるから、凄く頼りになるって言ってた。わたしも、傍で見ていたから分かる」


 ユイに負けじと熱く語った。


「第二王子ファルス殿下との仕事か」

「そう。キリエと一緒に尋問に協力した」

「黒髪隊の生き残りのキリエか。メルからは、キリエが持つ帝国側の情報はもう殆ど伝えたと、聞いている」

「だから、西の戦争はオセベリア王国が有利。同時にキリエは不安がってた。自身の利用価値がなくならないように必死。王国側でレムロナとフランに、メルたちと、アシュラー教団と貴族との橋渡しに、悪い商会と貴族の尋問に忙しい……あと、言いたくなかったけど、シュウヤのことが好きみたい。わたしと会うたびに、シュウヤのことを思い出していた」

「そっか」


 正直なエヴァ。

 だが、微妙な面だ。

 心が読めてしまうと、知りたくないことも知ってしまう、辛さがあるよな。


 すると、話に割って入るように、贋作屋ヒョアンさんが、


「納得です。皆が信頼しているシュウヤ様なのですね。わたしたちとクナを懐に招いた【天凜の月】の総長様がシュウヤ様でよかったとつくづく思いました。わたしも贋作屋の異名があるように、できる限り、【天凜の月】とシュウヤ様に貢献しますから」


 すると、クナが、


「あのヒョアンが、殊勝な心がけね?」

「火を熾ししトセリアや、オカオはともかく、わたしを引き受けてくれるんだから、当然よ。で、クナ。副長のメルさんが来たら、今後の戦略についてじっくりと、お話がしたいのだけど」

「分かってるわ。詳しくは天凜の月の事務所か、船宿で直に会ってからお願いしなさい」

「俺も伝えておく」

「ありがとう。トセリアにも連絡する」


 ヒョアンさんは頭を下げてくる。

 俺は頷きながら、


「銀船を操縦できるレイ・ジャックと、マジマーンのカーフレイヤーもヘカトレイルに来る予定だ」

「ん、黒猫海賊団の拡充!」

「今にして思えば、船乗りたちを雇って正解だったわね」

「銀船とカーフレイヤー。銀船の動力源はミスティが凄く興奮していた」

「そのミスティはペルネーテ」

「うん。学院の仕事もある。その学院の仕事について、レベッカとやりとりしてる」

「その新しい船をヘカトレイルに寄越す理由は、ハイム川の東部からローデリア海に出るためでしょうか。東は戦争中ですが、七戒のベニーも一緒ですよね」


 クナが聞いてきた。


「そうだ。メルは、ハイム川の港の都市に拠点がほしいと血文字で言っていた。で、肝心のハイム川の東が戦争中だから、三角州のセナアプアに留まるかもな。ま、キッシュとの兼ね合いもある。手を出してきそうな大貴族と、その辺の複合的な交渉のために、ヘカトレイルに来るメルたちだ。既に、血文字で用件は伝えた。もう作戦は始まっている」


 クナは体を震わせて、


「……素晴らしい。慧眼です。シャルドネ・フォン・アナハイムとの交渉はすべてが絡む事象で、かなり重要ですからね。そして、もう既に動いていたとは……」


 かなり前から、その予見はあったからな。

 サイデイルが安定すれば、利権を狙うものどもが集まるのはごく自然の流れ。


「わたしでは、どのような話となるか展望が読めない。この混沌とした状況を、副長メルさんが予測できるのならば……交渉役としては、わたしより一枚も二枚も上手と認識します」 


 そう真面目に語るクナ、途中から形相が怖くなった。

 邪悪めいた顔つき、この辺は魔族クシャナーンだ。


 そして、ヴィーネも、影響を受けたように、昔、見せていたような邪悪な面を浮かべる。


 予想するに、クナとメルをライバル視? 

 クナも好敵手と睨んだか、メルを。


 クナ、メル、ヴィーネか。この三人を相手に交渉はしたくねぇ。

 すると、ユイが、オカオさんとヒョアンさんをチラッと見てから、俺を見て、


「で、シュウヤ。改めて、わたしたちのことを紹介しといたほうがいいかも」

「おう、頼む」

「はい」

「そうですな」


 オカオさんとヒョアンさんも、そう返事をして頷く。


「うん、で、わたしの名はユイ。昔はサーマリアで鳴らしていた。知っていると思うけど、総長であるシュウヤは、光魔ルシヴァルの宗主だから。で、わたしは、その宗主のシュウヤの直系<筆頭従者長(選ばし眷属)>で、家族の一人だから、よろしく!」


 と、神鬼・霊風を掲げる。

 魔刀アゼロスとヴァサージは腰だ。


「噂は聞いたことがあります」

「わたしも聞き及んでいます」

「そう、知っているのね」


 ユイは恥じらうように視線を下げる。

 何を恥じらう、俺はすぐにユイの片手を握って、


「――過去は過去」


 ユイを引き寄せる。

 ぎゅっと強くユイを抱きしめた。


「気にするな」


 と、ユイを優しく離す。


「シュウヤ……ありがとう――」


 そのユイは俺の頬にキスをしてから、オカオさんとヒョアンさんに振り向き、


「【月の残骸】の名前の時は、それなりにペルネーテで活動していた」


 オカオさんとヒョアンさんは返事をして頷く。

 ユイは俺に一度熱い眼差しを寄越してから、離れた。


 続いて、エヴァが、


「ん、わたしの名は、エヴァ。同じく筆頭従者長。ペルネーテでメルの仕事を少し手伝った。でも、今はシュウヤの手伝いをがんばる――」


 ユイが離れたところにエヴァが抱きついてきた。

 ワンピース越しの柔らかい感触が、たまらない。


 すると、


「ンン、にゃ~」


 と、頭巾から出た黒猫(ロロ)が、エヴァの肩に移る。


「ん、ロロちゃん」


 そのままエヴァの背中を滑るように地面に下りた。

 そこに、ヴィーネとキサラにヘルメが傍に寄ってくる。


「わたしは元ダークエルフのヴィーネ。ご主人様の最初の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>だ」

「……ヴィーネさんが羨ましい。わたしの名はキサラです。まだ眷属ではありません。かつては、四天魔女と呼ばれていました。シュウヤ様は黒魔女教団の光と闇の運び手(ダモアヌンブリンガー)で救世主」


 キサラが自己紹介していると、ヘルメが宙空でダンスをしながら、


「――わたしは常闇の水精霊ヘルメですよ。あなたたちは、眷属ではないですが、閣下の新しい下僕として、それ相応の働きを期待しています」


 ヘルメはオーラのように水飛沫を発した。


「にゃおお~」


 と、中空で踊るヘルメに肉球アタックしている相棒が鳴く。


「はい、皆様に、精霊様と神獣様、よろしくお願いします。名はオカオです。戦いの才能に自信はありませんが、鑑定はがんばるつもりです」

「わたしはある程度戦いに自信がある。先も述べたように貢献はしたいからね。内実は手伝ってほしいことのほうが多いけれど……」


 と、贋作屋ヒョアンさんはクナを見る。

 クナは微笑みながら、


「委細は明日」

「うん」


 ルマルディさんとアルルカンの把神書は黙って聞いていた。

 アルルカンの把神書は真上に曼荼羅魔法陣を出している。


「あと!」


 と、ユイが注目を呼ぶように発言。

 <ベイカラの瞳>を発動した。


 黒い双眸が、瞬く間に淡い雪景色となる。


「どうした?」

「クナだけでなく……忠告したい」

「そっか」


 ユイは双眸の端から白銀の細小波のような微かな魔力を出すと……。

 ルマルディさんとアルルカンの把神書を睨む。


 ルマルディさんに対しての忠告?

 そして、そのユイは、ルマルディさんからクナに視線を移す。


「――クナ。メルと同様に頭の切れる貴女だから余計なことかもしれないけど、二人は闇のリスト。余計な敵を【天凜の月】に呼び込んで、混沌を楽しもうとしていないでしょうね」

「ふふ、怖いわ……でもユイの魔刀と同じく鋭いですね。その通りで、オカオのほうは大丈夫ですが、ヒョアンには敵がたくさん居ます。ただし、それは野暮って奴です。皆さんも、既に織り込み済みでしょう」


 クナはユイに向けて微笑む。

 少し遅れてチラッとルマルディさんを見た。


 ユイも頷いてからルマルディさんを見る。

 その視線の意味は……。

 ルマルディさんに対しての女としての牽制と、セナアプアの件もあるか。


「まぁ闇ギルドだしね。うん」

「ん、敵は昔から無数。シュウヤの近くにいると、つい安心しちゃうけど」


 エヴァの言葉に皆が頷く。

 もう知っていると思うが、ルマルディさんに説明するか。


 ルマルディさんは顔色が悪くなっていた。


 アルルカンの把神書は彼女の耳元でヒソヒソ話を展開中。

 その本が開いて、金具の部分で、ルマルディさんの綺麗な耳を挟んで、解放するという遊びをしていた。


 ルマルディさんは何もせず。

 蒼い瞳で俺をジッと見ている。

 レドンドさんだけでなく、クリドススの話を黙って聞いていたように、【天凜の月】の名は知っている。


「シュウヤさん、迷惑をかけると思います。セナアプアの評議員はしつこいですから」

「分かっている。そういう正直なところも気に入った。聞いたように、俺は【天凜の月】の総長。盟主って立場なんだ。【白鯨の血長耳】とは同盟関係にある」

「……はい、わたしの経緯の話をしました。空極という立場でレザライサと争ったこと。所属していた空魔法士隊の【円風】と、その空魔法士隊の【円風】を持つ評議員ヒューゴ・クアレスマ様についても」


 俺は皆を見て、


「そっか、フィナプルスの夜会を体感しているうちに、か?」


 そう聞くと、ヴィーネもクナも『はい』と答えてヘルメも頷く。

 ルマルディさんに視線を向けると、彼女も頷く。


「はい。クナさんたちの、魔塔アッセルバインドとエセル界の技術情報が漏れているといった会話と、シュウヤさんが、血長耳との関係を聞いてきたことから……〝もしかして、闇ギルドの関係者なの〟と考えていました。そして、皆さんから【天凜の月】の盟主が、シュウヤさんであると聞いたのです」

「それもそっか。時間は十分あったと。フィナプルスの夜会は、俺の感覚では数日。あの場では、数時間ってとこか?」

「はい」

「ん、長く感じた」

「うん……痛かったけど」

「ユイは一番がんばった、えらい!」


 エヴァはそう言って、ユイの手を握る。


「……そして、皆さんが、シュウヤさんを助けようと、フィナプルスの夜会に干渉を続けて、がんばっている最中にも……皆さんは、わたしのことが気になっていたようですから……アルルカンの把神書とセナアプアの追っ手についても、話をしたのです」

「他にも俺たちのことを聞いたのかな? もうクリドススとレドンドとの会話を見ているから、闇ギルド関係に関しては、知っていると思うが」

「はい、シュウヤさんが、レザライサと仲がいいとも知りました」

「なら、幻滅したかな。ルマルディさんは、レザライサと競争相手で、殺し合う仲だったと聞いたし」

「いえ、しません! シュウヤさんを一目見て、心が惹かれましたし、何も変わりません」


 蒼い双眸は力強い。


「……ありがとう。才色兼備のルマルディさんから思われるのは、凄く嬉しいや――」


 俺は素早くルマルディさんと間合いを詰めて、


「ハグしていいかな?」

「――え、あ、はい」


 抱きしめてあげた。

 ルマルディさんの心臓が高鳴って、じんわりとした汗を掻いていることが分かる。


「――アモーレ、爆発か! アモーレ~、アモーレ、ワッショイ、ルマルディ、応援するぜ」


 アルルカンの把神書だ。

 口笛を吹くと、頁を開きながら、ハートの形をした幻想的な魚を出して、喜びをアピールしながら周囲を漂った。


「アルルカン……ありがとう。でも、アモーレってどこの言葉?」

「クククッ、内緒だ。シュウヤとがんばるのだぞ」


 すると、背後から、


「ちょっと、何を、がんばるのよ! キサラ、<補陀落(ポータラカ)>を許可」


 ユイが叫ぶ。


「はい――」

「わたしは翡翠の蛇弓(バジュラ)を!」

「ん、サージロンの球?」

「エヴァ、無理に参加しなくていいから」

「ん、分かった」

「……ごめんなさい、皆さんが……」


 ルマルディさんは俺から離れると、遠慮気味にそう発言。

 その間にも、ユイ以外の皆の不満の声が聞こえる。


 俺は、


「皆がどう思おうと、態度を変えるつもりはない。好意には好意だ」

「強引だけど、実にシュウヤらしい……」

「ん、かっこいい。でも……」

「堂々と、わたしたちの前だからこその態度ね」

「弱い雄のように、付和雷同とナヨナヨとしないところは、やはり強い雄……」


 ヴィーネは怒ってないのか分からない。

 が、背後から声が響く。


 俺は構わず、ルマルディさんに、


「美しいものは美しい。愛のある優しさの前では、くだらねぇ紊乱びんらんがどうとかの倫理なんてゴミだ。どんなに着飾ったところで、男には、ちんこがあるんだからな。で、遊蕩とまではいかないが、女郎買いもする俺だ……ルマルディさんは、それで平気なのか?」

「はい」


 警告したつもりだったが、


「即答だな」


 ルマルディさんは優しく微笑む。


「拒絶されるよりは受け入れてくれるほうが嬉しいですから。それにシュウヤさんの言葉は、普通の女性を遠ざける言葉でもありますが、男の本音です。どんなに理性を持っていたとしても、美しいと思える心は、とても素直……。そして、わたしは、一期一会を大切にしたい。もう後悔はしたくない」


 拒絶と後悔とは、ルマルディさんを振った男がいるのか?

 性格もよさそうな美人を拒絶とか……。


「ルマルディさんを拒絶か……俄に信じられないが」

「……わたしが悪いのです、ですが、それは過去のこと……」

「詳しくは聞かない。と、言いたいが、気にはなる。話したくなったら話してくれ」

「ふふ、はい。陰日向のない男性なのですね。わたしが知る男性とは明らかに違う。凄くユニークです」


 正直でユニークか。

 だが、皆のことを思うと……。


「ユニークはそうかもだが、皆が、嫉妬している気持ちを知りながら、蔑ろにしながらも……ルマルディさんの好意に応えようとしている。かなり自分勝手でエロが、俺だ」


 そう、エロい俺を好きにならずともいいんだ。


「だからですよ。とても正直で真っ直ぐな方。同時に嘘でごまかそうとしない。傷つけまいと距離を取ろうとする。優しい気持ちに溢れていると分かる……」

「そうだろうか」

「シュウヤさんは自分を卑下した言い方をしましたが、本当に皆さんを蔑ろにしてますか?」

「してないつもりだ」

「はい。その答えが――今ここにあります」


 ルマルディさんがそう語りながら、腕を皆に向けた。

 背後の女性陣がだんまり。

 そして、ルマルディさんは、


「ふふ、シュウヤさん。その自らの気持ちを語った顔色を皆さんが見たら、すぐに皆さんも怒るのを止めますよ」


 照れるが、そうなの? 

 と、俺は背後を振り向いた。


 皆は俺を見て笑みを浮かべてくれた。

 可愛く美人さんの眷属たちと常闇の水精霊だ。


 と、互いに目を合わせて頷き出す。


「たしかに嫉妬した。憎たらしくもある。けどね、その顔と笑みを見ると、すべてが吹っ飛ぶの。それに、わたしを受け入れてくれた時と同じ! エロだけど誠実、なんて言っていいか分からないけど、まっすぐな男がシュウヤ」

「ん、わたしも嫉妬した。けど、シュウヤはフィナプルスの夜会から戻ってきてくれた……異世界のルエルたちと一緒に過ごしていたかもしれないのに、わたしたちに謝りつつ、わたしたちのことをいつも考えて、ちゃんと戻ってきてくれた…………」


 エヴァは涙ぐむ。

 俺の気持ちを読んだか。


 ユイとヴィーネに肩を撫でられていくエヴァ。


「……閣下の普遍の愛は、皆に通じています」

「ご主人様……そして、しゃくだが一目惚れの雌が語る言葉は、事実だ……更に言えば、強い雄のご主人様に、美しく強い雌が靡くのは仕方がない……受け入れよう。第一の<筆頭従者長(選ばし眷属)>として、ご主人様の気持ちを優先させる。ルマルディ、空極の空戦魔導師よ。わたしは空の戦いを知らない。その、空の戦いを、魔法使いのありようを……一から教えてくれると嬉しい……だからこれからもよろしく、頼みます」


 ヴィーネは素の感情を途中から抑えて、最後は丁寧にお願いしていた。

 それを聞いていたルマルディさんは少し、驚いて、


「は、はい」


 と、返事をしていた。

 するとクナが、


「わたしも嫉妬心はあります。が、そんなことは些細なこと。ヴィーネが語るように、至高の御方のシュウヤ様が、美しい女性の求愛に応えただけ。心臓を捧げたシュウヤ様のことを応援します。むしろ、ルマルディが【血月布武】の戦力となれば、セナアプアの評議員共に楔を打てる。それだけでなくアルルカンの把神書も……グフ♪」


 クナは双眸が怪しく煌めいて、アルルカンの把神書を凝視。

 アルルカンの把神書は身震いしたように書物の体を揺らすと、ルマルディさんの背後に隠れるようにゆらゆらと移動した。


 クナは話を続けた。


「むしろ、フィナプルスの夜会の出来事を聞きますと……優しすぎるところを危惧します。すべての女性を救おうと、腰砕けで動けなくなる日が来るのではないかと……そのほうが怖い。シュウヤ様用の精力増強剤も研究しなければ……」

「あれ以上強くしても困るから、クナ、しないで」

「ん、クナ、ダメ」

「エヴァちゃんが言うなら止めておきます♪」

「ん」


 クナとエヴァは微笑み合う。


「クナのそれは一理ありますね。閣下も前に、『美女たちが住む楽園を作るのなら少しは興味があるが』と仰っていました。ですのでクナ、素晴らしい洞察です。ルシヴァル神聖帝国の参謀の一人に加えてあげましょう」


 ヘルメは随分前に冗談半分で俺が語っていたことを覚えていたのか。


「精霊様に認めていただけるとは! 嬉しい限り――」


 と、膝で地面を突く。

 ヘルメから水を浴びているクナは、嬉しそうだが、エロい。


 双眸の色が近いキサラはルマルディさんを凝視。

 そのキサラは、


「……クナや精霊様や皆さんのように、達観はできません。今も、嫉妬で息が苦しい……しかし、これも愛の一つ。受け入れる努力をします。光と闇の運び手(ダモアヌンブリンガー)のシュウヤ様は、自由奔放で眷属の皆を愛しているということ。また、それが出来る……他に類のない偉大な男が、わたしの惚れた、槍使いですから!」

「……キサラは眷属ではないのに、精神が成熟しています。やはり四天魔女。そして、閣下の偉大な<筆頭従者長(選ばれし眷属)>候補です」

「ヘルメ様。温かい言葉を……ありがとうございます。そして、もったいなきお言葉です。あぅ、お水が……」


 ヘルメがクナに続いて、キサラにも水をぴゅっとかけている。

 祝福の洗礼っぽい。


 俺はルマルディさんを見て、


「ということで、ルマルディさん。よろしく頼む」

「はい、本当に眩しいぐらいに堂々している。風光明媚な男性です。だからこそ、モテると分かります。皆さんが独占しようと躍起になるほどに」


 熱を帯びた視線で持ち上げをくらうと……。

 動揺してしまう。


「……ルマルディさんよ。照れるから……」

「シュウヤさん。もう気軽にルマルディと呼んでくださいまし……」

『……まったく、モテすぎぞ! 女子が好きな器よ。まずは、妾とのイチャイチャを――』


 サラテンの念話はシャットアウト。


「分かった、ルマルディ。それでルマルディは、正式に俺たちの仲間になる。ということでいいのか?」


 と、ルマルディに聞く。


「……はい」


 少し顔を赤くしたルマルディ。


「やったわね、強い仲間が増えた」

 

 嫉妬していたユイだが、やはり強い仲間が増えることは嬉しいようだ。


「黙っているけど、アルルカンの把神書も、いいわよね?」

「おう。当然だが、シュウヤはモテるぞ。いいんだな?」

「……いまさらよ」

「クククッ。分かった。このシュウヤならお前を任せられる。そして、敵が増えた今、シュウヤの眷属となれば確実にルマルディは強くなる。空極を超えた、空神に!」

「また急な話だ。眷属化については、先客がいる」

「チッ、さっさと眷属化しろ」

「……血を失う暴虐的な痛みを、お前にも味わってもらうかな」

「クククッ、速やかに前言を撤回しよう。……忘却、したから許せ」

「許さない」


 と、アルカイックな笑みを意識しながらアルルカンの把神書に近づく。


「ひぃぃぃぃぃぃ、神獣~~~~~」


 と、把神書は奇声を上げて下で寝転がっていたロロディーヌの側に泣きつく。


「にゃ?」


 と、肉球アタックを受けるアルルカンの把神書。

 爪研ぎを受けると、アルルカンの把神書は表面の肉球マークを輝かせて、ルマルディの頭上に避難した。

 忙しい奴だ。


「それじゃ、皆、またデートしながら宿に戻ろうか。明日は【天凜の月】の事務所かな」

「「はい」」

「ん、その前に――」


 と、エヴァが後ろから抱きついてきた。


「あぁ~わたしだって!」

「速い、が、ご主人様の一番はわたしだ!」

「――わたしもですよ! 今回のフィナプルスの夜会の出来事で、評価が天井突破したはず――ぐふふ♪」

「クナに負けていられない! シュウヤ様をお慕いしている気持ちは変わらない――」

「にゃお、にゃおおお~」


 と、皆が集まってきた。


「閣下も大変ですね、モテモテです。しか~し。閣下の邪魔はしないように!」


 と、常闇の水精霊ヘルメが、ルマルディ以外の皆を押さえるように、俺から引き離した。


「うう、いつもと同じだけど、お尻の水が……」

「ん、水というより、ぽかぽかのお湯? あ、ユイのお尻が輝いている」

「え? あ、エヴァも……」

「ん、皆?」

「は、はい……」

「ンンン、にゃおぉ~」

「ふふ、ロロちゃんも太股のお毛毛ごと、輝いているのね!」


 本当だった。


「ヘルメ、ありがとう。だが、皆の尻を輝かせないでいい。ロロの尻も輝いているし、腹もか?」

「はい、新しい神獣の力が宿るマークちゃんです」


 と、ヘルメらしく、元気でアメイジングなポージング。


「ふふ」


 と、傍で笑顔を見せるルマルディ。


 空極の空戦魔導師ルマルディ。


 頼もしい仲間が増えた。

 サイデイルにしろ、【天凜の月】にしろ、俺に付いてくるにしろ、彼女の戦いはアルルカンの把神書の戦いを見る限り、多彩と予想が付く。


 直に見たい。

 その空戦の戦いは、アルルカンから少し聞いているが。


 そうして、次の日。



 ◇◇◇◇



 相棒とアルルカンの把神書は棚の上だ。

 互いに【天凜の月】の事務所の様子を眺めつつ、黒猫(ロロ)は首下から一対の触手を出し、アルルカンの把神書は、僅かに開いた書物の間から魔力の線を出して、その触手の骨剣と魔力の線の先端を宙空でぶつけ合う。ぶつかり合うたび、幾何学模様を宙に彫りつける勢いで火花が散った。棚の硝子に、万華鏡のような火花模様を幾つも映し出していく。

 その火花と反射模様は芸術めいて、すこぶる綺麗だが、大本の触手と魔線の動きは、じゃんけんか、綾取り風の遊びにも見えた。


 楽しそうに遊ぶ黒猫(ロロ)とアルルカンの把神書だ。


 下で働いていた【天凜の月】の事務員たちは、驚いて、仕事が手に付かなかったが、次第に黒猫(ロロ)と魔法書が楽しく遊ぶ様子を見て和んでいった。


 目の前の可愛いチェリもその一人。


 そのチェリに、


「女王キッシュの眷属にならないのか?」 


 と聞いた。


「うーん……女王様かぁ。キッシュに、もうサイデイルに来ても大丈夫だろう。と呼ばれていますが、まだ返事をしていないのです」


 キッシュの【筆頭従者】になれば血文字でいつでも連絡が可能だし、光魔ルシヴァルの不死の仲間入り。

 光魔ルシヴァルの筆頭従者になったら強さは倍増だ。

 敵に襲われても、よほどのことが無い限り生き延びることができるだろう。

 そんな光魔ルシヴァル化の誘いを受けても、チェリは返事を保留している。

 迷っているようだ。キッシュの筆頭従者の枠は三人。

 俺の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>と<従者長>の枠とは違う。

 だから眷属化の話自体が、貴重なんだが……。 

 チェリも、それは承知して、永遠の命に魅力を感じているはず。

 んだが、ルシヴァルとなれば、自分は永遠に若いまま……。

 周囲の人々は、歳をとり、お爺さん、お婆さんとなる。

 子供も生めるか分からない。

 子供がほしい、ほしくない、といった考えもあるとは思うが。


 そして、極端だが、聖女アメリの姿を思い出す。

 彼女は眷属化を断った……『普通にお婆ちゃんになりたい』と。

 ……病気のお父さんのために薬草を売っていたアメリ……いい子だ。


 そんなことを考えながら、チェリに、


「……そっか、ま、慌てることはない」 

「はい」


 ニコニコと屈託のない笑みを浮かべるチェリ。

 そのチェリが、また、視線を棚の上に向けた。


「……シュウヤさん。ロロちゃんと器用に遊んでいる、あの喋る魔法書? 魔術書? は、どういった経緯でお仲間に?」

「名前はアルルカンの把神書。後ろで、事務員と話をしているルマルディの相棒だ。そのルマルディとアルルカンの把神書は、追われていたから助けたんだ」

「シュウヤさんらしいです」

「俺たちは魔術書の実験を行う途中でもあって、特別な部屋に転移した」


 と、クナを見る。

 そのクナは微笑んだ。


「転移後も、壁が自動的に動いて部屋が現れたんだ。そこで、ある魔術書の実験を実行した」


 わざと間を作る。

 チェリの視線が俺の双眸から唇に移る。

 彼女の頬にあるソバカスちゃんが可愛い。


「……はい」

「その瞬間、俺は、その魔術書の中に吸い込まれた、魔術書が構成する異世界に取り込まれたんだ」

「ええ? そ、そんなことが」

「その魔術書の異世界も濃密で大変だった。その冒険中、今、ロロと遊んでいる、あの喋るアルルカンの把神書に助けられて、俺もだが、仲良くなった」

「冒険中とは、旅行でもするように語っていますが、魔術書の中の異世界とは、こことは違う、狭間(ヴェイル)の魔穴に、影の世界や、お伽噺の別世界ってことですよね」

「そう」

「もしかして、その実験した魔術書とは、地下オークションに出品されるような呪いのマジックアイテムとか、神話(ミソロジー)級のマジックアイテムですか?」

「普通ではないことは、確実。しかし、こうして――魔槍杖もある。左目にはヘルメも居るし、大丈夫だ」

『ふふ』

「わぁ、それが、魔槍杖バルドーク!」

「「おぉ」」


 右手に出した魔槍杖バルドークを、チェリだけでなく皆が注目して、どよめきの声を上げていた。


「魔竜王の素材だ、凄い……」

「あれが……槍使い様の……紫色の柄に穂先が聞いているのと違うけど」

「とにかく、総長が出した魔槍だ。英雄の証拠……」

「信じられないけど、黒猫ちゃんといい、今、盟主様がここに居るんだよね……」

「うん……握手してほしい」

「……あ、オリカ、だめよ。盟主様には複数のお相手がいますから……」

「ひぃ……」


 と、キサラとヴィーネとユイの視線を浴びたオリカという可愛らしい事務員の女性は、失神したように倒れていく。

 俺は、その魔槍杖を仕舞いつつ……。


 チェリに笑顔を向けた。

 そのチェリは、俺の腰を見ながら、


「その異世界を内包した魔術書は、腰の書物とは違うのですね」

「違うが、腰のほうも、異形の魔城の守り手だった魔界八槍卿が棲まう。ま、魔術書は曰くがあるから知らないほうがいい」


 と、話を濁した。

 彼女に、それぞれに契約主が居る特異な魔女たちが管理する魔界四九三書の〝フィナプルスの夜会〟or〝魔女ノ夜会集〟に、ドルライ人とアニュイル人の争いに海があったとか、説明しても……理解はあまりできないだろう。


 それに、詳しく説明して、魔界四九三書を狙う見知らぬ者が、チェリに向かってしまうかもしれない。


「分かりました」


 さて、メルはもうヘカトレイルに到着済みだから、そろそろか。

 血文字でオカオさんと贋作屋ヒョアンさんに会ったと、連絡があった。


 返ってくる答えは分かっているが、あえて、


「で、副長はまだか?」


 と、チェリに聞く。


「もうじきかと」

「船宿から近いから、もうすぐでしょ」

「ん、オカオさんと贋作屋ヒョアンと会ったって血文字の連絡がきた」

「はい、事前に連絡をしてましたから」


 クナがそう発言。

 すると、ユイが、


「ここは前にも来たけど、新街が変わりつつあることは分かる。通りの角に、靴屋さんと農作物の店もできていたし」

「ん、前は残飯を漁る人族に鱗人(カラムニアン)がたくさん居たと聞いた」

「うん、まだ貧富差はあるけどね。再開発が進んでいる」

「女侯爵も戦争ばかりではない。傘下のヘカトレイル後援会という大商会は複数のコネを持つ」

「資金力もかなりのモノですね。わたしも昔お世話になりましたよ」


 ヴィーネとクナの言葉に、俺は頷く。

 地下オークション中に色々と買っていたシャルドネ。

 そして、魔王の楽譜をオークションが行われる前に、買いあさっていたのもヘカトレイル後援会だった。


 皆とそんな会話を【天凜の月】の事務所で行いつつ、まったりとメルを待つ。

 すると、出入り口付近に複数の魔素を感じた。


「――総長! チェリ、ただいまです」


 出入り口付近から、メルたちが顔を見せた。

 メルの表情がいつもより赤めいているが、


「マイロード、お待たせしました」

「……シュウヤ殿、あの時は世話になった」

「どうも、シュウヤさん」


 カルードとマジマーン。

 ゾスファルトとベニーとレイも顔を見せる。


「おう、メル、相変わらず、美人女将だ」


 うむ。おっぱいダイナマイティ、おっぱいクロマティだ。


 俺の顔を見ていたエヴァが、


「ん、おっぱいクロマティ?」

「ってエヴァ、シュウヤの気持ちを直に言っちゃだめよ」

「ん、ごめん」


 エヴァは舌を少しだして、謝る。

 可愛いから許す。


「? ふぅ……変わらない総長と皆さん。そして、総長の顔を見て安心しました」

「そうか?」

「……そうですよ。色々と活動しすぎ! とヴェロニカも怒っていましたよ」

「色々というか、手に入れたマジックアイテムをだな……」

「そのマジックアイテムが問題なのです。総長は冒険者。手に入れたアイテムを調べるのは、楽しい瞬間であると認識しています。そして、新入りのクナと皆の力を信じているからこそ、好奇心があるからこその、総長だと分かっていますが数時間とはいえ、この世界から総長がいなくなった! この事実は、ただもう恐怖でしかなかったです。改めて、総長の存在感といいますか……総長をお慕いしていると、強く強く認識しました。あ、いや、こ、これは、今は、はい、すみません、タイミングではないですね、取り乱してすみません」

「いや、気持ちは嬉しい」

「え、は、はい。それに、ヴィーネさんと、エヴァさんと、レベッカさんの連続した狂騒めいた血文字は凄まじいモノでした。凝固していく血の文字を見て……恐怖を感じるとともに総長が魔術書に取り込まれた状況を聞いて……あぁぁぁ、と、わたしも胸が締め付けられる思いを感じたのですから……」


 メルが顔を赤らめながら早口で語る。

 冷静なメルが珍しい。


「当初のレベッカからの血文字も凄かったからな……で、悪いが、早速、本題といこうか」

「は、はい」


 メルから纏められた羊皮紙を受け取って見ていく。

 【天凜の月】と黒猫海賊団に関する物。

 傀儡兵と不死身のベネットが活躍した話。

 ハイム川黄金ルートの【血星海月連盟】の縄張りの位置と宿屋。


 他にも、王太子、第二王子、第三王子、公爵、侯爵、子爵、大騎士序列一位~九位、元八頭輝の闇ギルドたち、八巨星の闇ギルドの大まかな情報が載った書類。


「総長、その赤丸で記した貴族が王太子の第一王子派の連中です」

「そっか。でもさ、あまり興味がなかったから聞かなかったが、王太子という位があるんなら、もう次期国王は決まったようなもんなんじゃ?」

「だからこそ第一王子派は主流派です」

「まぁ、この赤丸の多さからしてそうなんだろう」

「しかし、王太子レルサンは、ラドフォード帝国との戦争で大失態。竜魔騎兵団団長として騎乗しているエンシェントドラゴンに傷を負わせたことも、兵の士気に関わりますし、致命的です。そして、総長が表と裏で力を貸している第二王子ファルス殿下の兵が、その失態が続く兄の軍団と武の公爵の紅馬騎士団を、弟として救出に向かう形で、サーザリオン領を奪還。大いに活躍した。現在も、結果を出し続けている……これにはルーク国王もいたく感銘を受けたと聞きます」

「勝てば官軍、負ければ賊軍か。ま、猫好きの大騎士ガルキエフの活躍と中小貴族の詰め腹の件は、前にも聞いた」

「はい。続いて、東の有力貴族の筆頭であるシャルドネとの密約を交わし、同時にレムロナ、フラン、エヴァさん、キリエの活躍により、中小貴族だけでなく【王の手ゲィンバッハ】の組織と中央貴族の切り崩しに成功。面談を拒否してきた宮廷魔術師サーエンマグラムとは意思疎通がとれませんでしたが……」

「すまんが、王の手ゲィンバッハってだれ? 大蔵大臣ではないだろうし、王の手ってのは、宰相とか丞相じょうしょうというイメージがあるが、合ってる?」


 と、聞くと、周りから注目が集まる。


「その通り。宰相に近い立場、王を補佐する権力者です。王都グロムハイムやら、南の大国セブンフォリア方面で活躍しています。ラングリード侯爵とも繋がりがあるので、不安な面がありますが、老獪で切れ者なのは確かです。そして、港が多い都市は富が集まりますから遠いローデリア王国との伝もあるとか聞いたことがありますよ」


 と、七戒のベニーが片方の眉を動かして反応を示す。

 マジマーンは頷く。衣装がメルと似ている服だ。

 早速、【天凜の月】の幹部か。


「そっか、中央貴族の話を続けてくれ」

「はい、高級官僚たちとの権力争いにも力を示し始めた第二王子の働きに、ルーク国王も、『ここまで権謀術数に優れているとは、しらなんだ……〝蒔かぬ種は生えぬ〟というが……人知れず努力を重ねていたのか、ファルスよ。ファルスを王太子にするべきか……』と声を漏らすようになったと聞いています。そして、密約を交わしたシャルドネも、サーマリア王国との戦争でムサカの周辺と、そのムサカの都市の半分を手中に収めた。一見は、苦戦しているようですが、ムサカだけでなく、トリトン領と旧フローグマン領に飛び地とはいえ、オセベリア王国の橋頭堡が誕生した。この状況を踏まえますと、大戦果と呼ぶべき結果です。総じて、西と東で結果を残す形となった第二王子ファルス。そのファルス殿下を、新しい王太子に! と押す声が王宮に渦を巻いています」


 正直、西と東の戦争は、どう転ぶか分からないとは思うが、まぁ、権力争いも似たようなもんか。


「……そっか、内戦にならんように気をつけてほしいもんだ。で、問題は女王キッシュのサイデイル。シャルドネとの交渉の件だが、その動きは、もう出ているのだろう?」


 サイデイルにちょっかいを出したら、どこだろうと潰す。


「はい、七戒の情報のすべては渡していません。事前に、血文字で言われた総長の手筈通り、ファルス殿下の指示という形で、根回しは済んで準備は整っています。その結果……総長の予想通りですが、餌を求めて動き出した……欲深い大貴族が……この二重の赤丸です」

「海軍派でもあるアロサンジュ公爵とゼントラーディ伯爵か。意外だが、ラングリード侯爵はなしか」

「はい。わたしとしては、ラングリードに、やり返したいところではありますが……第二王子派の手前、〝曲がらねば世が渡られぬ〟の精神で手は出していません」

「……速攻で鞍替えしたラングリード侯爵だ。やはり、かなりの切れ者だな」

「そうですね。ラングリード侯爵は【ベイカラの手】のアコニットから、直に、総長の話を聞いているはずですから、死にたくないでしょう」


 と、メルは怖い面を浮かべたまま、自らの首をトントンと手刀で叩く。


「そして、頭が切れる爺だからこそ、【天凜の月】いや、新たな四頭輝と呼ぶべき【血星海月連盟】の裏の力は、オセベリア王国の力となるとも、考えたのでしょうね。腐ってもオセベリア王国の侯爵ですから」


 だろうな。ペルネーテにちょっかいを出した時も、【ベイカラの手】ではなく【黒の手袋】とかいう名の捨て駒だったし。

 

「更に言えば、治めている【海流都市セスドーゼン】も巨大都市。西のラドフォード帝国と南のセブンフォリア王国とは陸と海で繋がりますし、ハイム海とローデリア海に面しています。【海光都市ガゼルジャン】のすぐ目の前。ですから、総長と接触し、互いが得をする政策を実行したいと考えるはず。更に、アコニット経由で死神ベイカラの力を宿すユイさんとの繋がりを得たいとも、考えているかもですね」

「……その予想はたぶん、正解だろう。問題は、公爵と伯爵。その公爵は時期的に西のラドフォード帝国との戦争中で忙しい。だから、このゼントラーディ伯爵か」

「はい、現に抱えている商会が動いたことは把握済み。戦争中で傭兵は値段が上がっているようですが、ちょうど、暇になっていた【七戒】の幹部が動いたことも把握済みです」

「メルさん、その情報は俺たちには伝えてなかったが」


 と、ベニーが告げる。


「今、伝えました」

「チッ……信用してほしいもんだぜ。総長、その元仲間だろうが、俺は【天凜の月】に下ったんだ、きっちりと仕事はするぜ?」

「分かっている。だが、お前も俺と戦って分かっているように、俺も武闘派だ。出番はないと思え」

「……わ、分かった」

「ん、シュウヤ、目つきが変わった」

「すまん、怖がらせるつもりはなかった」

「……総長、そのゼントラーディはシャルドネとの会合に出席。まだ、このヘカトレイルに滞在中です」

「そうか。何を話したのやら……ま、シャルドネに挨拶をしてから、そのゼントラーディ伯爵様とやらの面を見に行くか」

「はい」



 ◇◇◇◇



 すぐにシャルドネの屋敷に向かった。

 出入り口で、召し使いの方に侯爵家の紋章入りの魔竜王討伐記念の指輪を見せる。


 即座にエクルベージュの模様が綺麗な廊下から客間に通された。

 眷属たちとルマルディ、マジマーン、レイ、ベニーも一緒だ。

 その客間に来たキーキとサメさんと挨拶し二人に奥の間に通された。


 サメさんは鋭い視線を皆というか、メルとマジマーンとベニーに向けていた。

 が、俺が早くしろ的な視線を、そのサメさんに向けると、ニコッとした、怖い笑顔を見せてから、奥の間に通される。


 奥の間は書斎風。

 シャルドネは部屋の中央で立って待っていた。

 シャルドネ以外にも魔素は複数ある。


 背後の戸棚と本棚の間か、裏か。

 皆、練度の高い魔力操作。

 こちらを警戒するように、魔力をあからさまに発していた。

 サメ&キーキが離れても大丈夫なように、強力な護衛でも雇っているんだろう。


 戦争中だからな。

 その魔力のことは伝えず、まずはシャルドネを見て、一礼――。


「まぁ! 本当にシュウヤさん! ついにサーマリア切り取りに参加を決意してくれたのですね!」

「いえ、違いますから、閣下」

「貴方とわたしの仲。堅苦しい挨拶は不要ですことよ。そして、ここは私室であり、公の仕事をする場所ではないのですからね。お分かりのように、用心棒はたくさんいますが、理解してくださると嬉しいですわ」


 それじゃ、早速周囲の人材がだれかを聞くか。

 かなりの手練れだ。シャルドネの暗殺を請け負った悪態笑顔(カーススマイル)を思い出すが、あいつは、複数でつるむタイプではなかったはず。

 だとすれば、地下オークションで雇った者たち&プラスアルファかな。


続きは来週。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻から9巻発売中。

コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻が発売中。

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[気になる点] 筆頭従者は筆頭従者長全員が無条件でつくれるのですか?
2024/06/21 08:23 退会済み
管理
[気になる点] 登場人物一覧のカザネの部分にては 血星海月連盟だったのが 今回の記述では 血月星海連盟に変わった意図が読み取れないです [一言] 単純な凡ミスなのかな? ヘルメが魔石収集チームの事…
[気になる点] 会話と設定の洪水で目が滑るゥ!(×∀×;) [一言] 餌に群がる羽虫の対策はバッチリなシュウヤ ファンタジーな不思議体験には警戒もそこそこに突撃するイメージなシュウヤだけど、意外と謀略…
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