六百七話 懐かしいコンビとクリドスス
◇◆◇◆
ここは城塞都市ヘカトレイル。
貴族街に隣接する高級料理店サ・レポン・マレデルの一室にて……。
とある貴族が部下から報告を受けていた。
「樹海に突如として、新しい安全な地か。この報告は本当なのか?」
「はい、閣下。ヘカトレイル領主シャルドネ・フォン・アナハイムどころか、王都の中央貴族審議会、武の公爵アロサンジュ、王の手ゲィンバッハ、王太子レルサン、宮廷魔術師サーエンマグラムも知りませんでした。ところが、第二王子ファルス殿下に続いて、アルゼの街の領主代行トニライン家のご息女フレデリカから、樹海の地に、ギルドを通していない民間のオセベリア王国が関与していない新しい街が誕生したと、王都の中央貴族審議会に報告が入りました。この情報を王の手ゲィンバッハから聞いたルーク国王は大変驚いた。と、聞き及んでおります」
「……あのヒエジの小娘がな。トニライン家は第二王子派に鞍替えか。樹海の最新情報をファルス殿下に渡してからの連携とは、手早い。しかし、俄に信じられないのも事実。大規模な討伐依頼もなしに、樹海の未探索地域の一部が開拓されたとは」
「……はい」
「ヒノ村から、その新しい樹海の地に向けての商隊のルートは安全なのか?」
「比較的に、ですが安全かと」
「もう少し詳しく話せ」
「はっ、不思議と古代狼族も姿を消し、ベンラック村の周辺では、依然と樹怪王の軍勢が暴れているようですが……どういうわけか、ヒノ村から新しい地のルートには、樹海王の軍勢が少なくオークの兵や旧神勢力のモンスターの襲来も少ないとのことです。突発的な襲来があるだけとのこと。護衛の兵士か冒険者は優秀な者たちに限られますが、十分対処可能なレベルとの報告もあります。フェニムル村の街道と同程度の難易度でしょう」
「そうか……明日の会合の案件は、サーマリアの戦争と、この件なのだな」
「はい」
「よし、アツメルダ。欲深なフレドリクやシャルドネが、その樹海の権利を主張する前に、我らがもらおうか。準備はできているのだな?」
「はいっ、ゼントラーディ伯爵様」
◇◆◇◆
クリドススの髪色は前と変わらない。
緑色と銀色のメッシュな髪だ。だが、衣装は前と違う。
血長耳の支部長らしい衣装を身に付けている。
クリドススは俺を見て、
「槍使い様? と、呼んだほうがいいのかな?」
「普通に呼びたいように呼べばいい」
「なら、気軽にシュウヤさんと。そして、ユイさんも久しぶり。眷属の方々も。あ、新しい魔術師の女性かな? 浮いている魔術書も、こんにちは」
と、皆にお辞儀をしてきた。
ユイを筆頭に皆、頭を下げたままだ。
「それで、レドンドが連れてきたということは……」
すると、手前のドワーフと虎獣人が振り向く。
ドワーフは、イグだ!
ドレッドヘアに、鳶色の瞳と武者のような面頬!
そして、虎獣人のアルベルト!
懐かしのコンビだ!
二人は鎧と足の装備が前と違う。かっこ良くなった。
「おうおう! シュウヤとロロじゃねぇか!」
「にゃ~」
黒猫も嬉しそうな声だ。
「ンン――」
喉音を鳴らしつつ肩から跳躍、床に降り立つ。
黒猫はイグに駆け寄り、そのイグの足に頬を寄せた。
親しみが込められた匂い付けの作業だ。頬に生える白髭が数本取れてしまう勢いで、頭部を鳩のように上下させる相棒は、イグの脹ら脛側にも、背中の黒毛を当てていた。
「――黒猫! よしよ~し。名はロロだったな。本当に、やっこい頬と体だ――」
ドワーフのイグの小さい掌が、相棒の背中を撫でていく。
「にゃ~」
「がははは」
黒猫も嬉しそうな声を上げて、喜んだ勢いのままイグの大根のような足にガブッと甘噛みを行う。
「ぬおあ? 俺の足は根野菜じゃねぇ! 食うなぁ、くすぐったいぞ」
「にゃ、にゃ~」
黒猫は『悪かったにゃ』ふうに鳴いて、イグの足を舐める。
そして、背中と尻尾をイグの足に当てた。
その背中と尻尾の黒毛をマフラーのようにイグの足に巻きつけつつイグの足下を一周し、またすぐにイグの足に鼻先を突けると、ぺろぺろと、ピンク色の舌で舐め始める。
ハンカイにも同じことをしていたような気がする。
その間にアルベルトは手を口に当てながら、クリドススに小声で「シュウヤとは知り合いだ」と告げていた。
すると、イグが、
「ふはは、覚えていたようで嬉しいぞ、んだが、足がふやけちまう! シュウヤ、笑ってねぇで、ロロを退かせろ」
「すまん、ロロ。戻ってこい」
俺の声に反応した相棒。
耳をピクピクと動かしてから、振り向いてきた。
黒猫の紅色と黒色が織りなす虹彩、そのまん丸な黒色の瞳を揺らす。
頭部を傾けて、周囲に疑問符を浮かべるように『にゃに~?』といった顔つきを浮かべていた。
しかも、小さいピンク色の舌をしまい忘れている。
ははは、ちょび舌か。
可愛いんだよ、こんちきしょう。
あの小さい舌を引っ張る悪戯をしたい。
その黒猫の相棒は「ンン」と、喉音を響かせつつ走ってきた。
体勢を屈めて待っていた俺の掌に頭部を納めてくる。
黒猫は鼻先で、俺の左手の掌の臭いをふがふがと嗅ぐ。
そして、その左手の運命線的な<サラテンの秘術>のマークと、その周囲を飾るように刻まれている<シュレゴス・ロードの魔印>をも舐めていく。
『うはは、にゃん公、そこは敏感なとこだ、舐めるでないぃ~』
『我……』
サラテンの沙と違い、シュレゴス・ロードも神獣ロロディーヌに舐められていることは分かるのか、何か呪文めいた言葉をブツブツと念話で寄越すが、聞き取りにくい。
すると、
虎獣人のアルベルトが、
「黒猫の走る姿と、シュウヤに懐く姿は、変わらんな。ペル・ヘカ・ラインを冒険した頃を思い出すぜ」
と発言。
ドワーフらしい身長の低いイグも『うんうん』と同意するように頷く。
イグはドレッドヘアと揉みあげが繋がる金具を触る。
じゃりじゃりと金具の音を立てながら、
「……あぁ、黒豹にも変身が可能な特別な猫。強かった」
そう発言。
アルベルトも頷く。
そのアルベルトは、俺、ユイ、ヴィーネ、キサラ、クナ、ルマルディを順に見ながら……。
虎の鼻をヒクヒクと動かし、
「ほぅ、美人さんばかりだな」
と、語ると、右の人差し指と親指で、○の形を作る。
○の形? と疑問に思ったら、左手の人差し指で、その○の真ん中を突く。
卑猥な指の動きだ。
なにやってんだ、まったく。
えっちな意味を、指で表現するアルベルト。
「――で、シュウヤ。その、ぞろぞろと引き連れた美人連中は、全員、お前の――コレか?」
「卑猥な指でパコパコを再現するなっての。皆、パーティメンバーだ」
俺の半笑いの言葉を聞いたイグとアルベルトは呵々大笑。
「はは、すまんすまん」
「アルベルトはエロすぎなんだ。すまんな、シュウヤよ」
俺も笑うと、皆も笑っていた。
少し安心。
が、アルルカンの把神書はボソッと不満気な声を出す。
ルマルディさんの声は聞こえないが、たぶん、アルベルトの印象は悪いだろう。
俺はそのことは告げずに、
「いいさ、当たっている部分もあるし、むしろ、エロくないアルベルトのほうがしっくりこない。ペル・ヘカ・ライン大回廊では、そんなアルベルトのエロ武勇伝をたっくさん聞いたからな」
「ふはは――」
イグの豪快な笑いだ。
そのイグは、
「そうだった。ゼリウムボーンの狩りに成功した帰りも、オークを狩りながら色々なことで話をしたな。懐かしい」
「あぁ」
俺はそう声を出す。イグの腰にぶら下がる片手斧は変わらない。
盾の形は変わっている。
「その懐かしいシュウヤたちと組んだペル・ヘカ・ライン大回廊に関する依頼だが、シュウヤよ」
と、イグが聞いてきた。
「なんだ?」
「俺たちは、他の冒険者パーティと様々な依頼で何回も組んだが、やはり、あの時が、一番しっくりときたんだ」
「おう。あの時、シュウヤとは酒も飲まずにあっさりと別れたが、その自然な別れも印象深い」
「だよなぁ。あっさりと後腐れもなく……人族の平たい顔のイケメン野郎に興味はないんだが、なんなんだろうか」
「うむ。俺も女はドワーフが好きだ。しかし、シュウヤとロロの場合は、どうしてか、他の冒険者と違って、忘れることはなかった」
イグとアルベルトは、互いに視線を合わせて頷く。
「シュウヤは、俺たちと初めて組んだってのに、長年、俺たちと一緒に組んでいたかのような戦いっぷりだった。正直、仕事が楽しく感じたのは、あれ以来、ない。そして、あの時の失敗と成功の経験のすべてが、今の俺らの成長にも繋がっている不思議な縁を感じる依頼でもあったんだ。なぁ? アルベルトよ」
と、イグはアルベルトに話を振る。
アルベルトも腕を前に出して、拳を作り、
「そうだとも! 俺とイグが敵に仕掛けるタイミングと、攻撃が終わった直後のタイミングでも、要領良く葉風を感じさせる動きからハルバードの攻撃を上手く何度も合わせてきた。シュウヤが指示を出すと、後衛のスコラたちの動きもよくなったし、今思うと、的確な言葉だった。不思議とオークの臭さも忘れるほど戦いに集中できていたしよ。シュウヤは自然と俺たちを守ろうとしていてくれたことが分かる。そして、シュウヤは人族系だってのに、俺の種族特性の五感を超えた研ぎ澄まされた槍の穂先のような感覚を持つ……」
アルベルトの言葉に、イグが笑う。
「ふ、槍の穂先か。シュウヤが槍使いだけに、か?」
「――ちげぇ、たまたまだ。俺を救うように、シュウヤが意気天を衝く気合いで、注意がシュウヤに向かった、そのオーク二匹の胴体を腕ごと<刺突>で貫いたこともあったろう。あの銀色のハルバードが血に染まった光景は鮮烈だった。覚えているか?」
「あれか! 覚えているとも。自身の武器をよく知るからこその機転が利いた動き……まさに槍使いの申し子がシュウヤだ」
銀色のハルバードか。
魔槍杖バルドークが出来上がる前だったからな。
しかし、熟練の冒険者であるイグとアルベルトからベタ褒めとか。
照れる。
「自然と動いた結果だ。それに、熟練したイグとアルベルトの洗練された戦い方に影響を受けたことも大きいと思う」
と、告げた。
「かぁ~、まったく前と変わらんな。シュウヤめ! 嬉しいことをさらっと語るんだからよ!」
「まったくだ、女が放っておかないのも分かるな……」
ドワーフのイグがそう語る。
彼は鋭い目つきで、ユイとヴィーネにキサラの表情を見ていく。
そして、冒険者らしく、皆の武器装備をも確認するように見ていた。
ニヒヒと笑うアルベルトは、
「しかし、ヘカトレイルで一時期、槍使いだらけになったことがあった」
「あったあった。今も続いているようだぞ? 〝魔竜王殺しの英傑たち〟の紙芝居も至る所で見かける。そして、増えた槍使いを見るたびに、シュウヤとロロを思い出す」
俺は正直、何度も思い出すことはなかったが。
狼月都市ハーレイアでも虎獣人とドワーフのコンビを見て、イグとアルベルトの姿を思い出したことはあった。
俺は照れを隠すように、
「で、イグとアルベルトも成長を続けているようだな? その新調した脇腹の装備は魔力を帯びている。特別な装備なんだろ?」
と、アルベルトの右脇腹に備わる鋼の機構を指摘した。
その脇腹以外の鎧は、革と鋼の鋲つき革鎧系と分かる。
だが、脇腹の防具は他と違う。
強化外骨格と似た物。
金属の孔が幾つかあり、その孔には螺旋状の溝がある。
「ふはは、分かるか。その通りで、特製ハーネスだ。ま、これはマハハイム山脈の地下探索用にレドンドからもらった装備なんだがな」
「おう! 俺もドワーフ用を急遽拵えてもらって、さっきもらった。で、装備は、他も新調しているが、ま、こうして生きて会話していること自体が、何よりの成長の証しだしな?」
その瞬間、イグとアルベルトはポーズを決める。
凹凸コンビ独特のポージングか。
モガ&ネームスのような凹凸ではないが、イグ&アルベルトもいいコンビだ。
左の視界に現れた小さいヘルメも、サッと左腕を斜め前に伸ばし、
『いいポージングです!』
と、真・ヘルメ立ちで、宣言を行う。
「そっか。俺も新しい装備品を手に入れたんだ。槍武術の修業も続けている」
「腰元に怪しい書物とならぶ武器類だな? 剣もある。槍以外にも色々と学んでいるようだ」
イグは、俺の装備を見て指摘。
そのまま侍の武者がかぶるような面頬を外して、ドレッドヘアの上部にずらし、皆を見る。
「――で、その美人さんたちも、シュウヤの強さに見合うパーティメンバーのようだな」
「魔力操作と、その立ち方も……優秀だと分かるぜ。前衛に後衛も兼ねられる人材たちだな」
イグとアルベルトは熟練者らしく、ヴィーネたちの実力を見抜く。
「持っている武器も優れている。皆、名のある強者なんだろう」
「ありがとうございます、わたしの名はヴィーネ」
と、ヴィーネから、皆、お辞儀をして挨拶していく。
◇◇◇◇
そうしてから、イグが、
「で、パーティ名はあるのか?」
「あるぜ、イノセントアームズってのがパーティ名だ」
「響きがいい。感覚のよさを感じる」
「そうか? 虎獣人の感覚で褒められると嬉しいな。受付前で、皆の案を聞きつつ、色々と迷っていたが……相棒のロロを見て思いついたんだ」
「にゃ~」
「そうか。にしても……美人揃いのパーティメンバーだ。もうシュウヤと皆はやったのか?」
その瞬間、背後から小声で「またですか、下品な虎獣人ですね」とルマルディが発言。
傍に居るだろうアルルカンの把神書との会話も聞こえてくる。
アルベルトが視線を鋭くさせてから、虎の獣人らしく白髭を動かし、
「聞こえているぜ? 下品で悪かったな? これまた美人な、魔法使いの金髪ねぇちゃんよ」
「いえ、聞こえるように喋りましたので」
「けっ、無理にフォローしなくていい。俺らは俺らだ、なぁイグよ!」
「おう! 地下を這いずり回って、泥水啜って冒険者やってんだ。下品で結構。ま、アルベルトのほうが下品だが」
「……うは、あっさりと掌返しかよ」
「ふはは、お前は下品というか同胞の女に手を出し過ぎなのだ」
「う……ズバッと本人の前で言いすぎだ! しかし、仕方ないだろう。男の性って奴だ。で、そこの喋っている珍しい魔法書は? 魔造書とかいうモノか?」
「虎よ。俺の名はアルルカンの把神書だ」
「ほぅ、けったいな名前だな……」
アルベルトは軽快なリズムでルマルディさんに近づく。
アルルカンの把神書はルマルディさんを守るように、前に出ると、
「――玉が強く、強い種の力を感じる虎よ、それ以上、ルマルディに近づくな」
「ひゅ~。俺の特性を見抜く魔眼持ちか」
アルベルトは男としてナニが強いようだ。
そういえば、酌婦を妊娠させたとか前に聞いた。
それを聞くと不安になる。
「……アルベルト。パーティメンバーは、仲間であり眷属でもある。だから近寄るのは禁止な」
「かっ、お前まで言うなや。つうか、シュウヤの女に手を出すわけがねぇ。俺は虎獣人の女が好きなんだ。自慢じゃねぇが、人族やら魔族やらの女は抱いたことがねぇ」
虎獣人限定か。
少し安心したが、あの強いママニを見たら、アルベルトは興奮しちゃいそうだな。
そのアルベルトが、
「しかし、眷属とは、シュウヤの親族でもあるってことか? 部族長の伝説的な種族特性か? 王虎スキルのような」
へぇ。虎獣人としての部族名はしらないが、そんなスキルもあるのか。
ママニの部族名はラーマニだったかな。
そのことは告げず、
「王虎スキル?」
「そうだ。部族長の能力を意味する。有名なゴーモック商会の代表、グランドファーザー。あのおっさんが持つ特異体としての<大王白虎・銀胤>は強力らしい。他にも、伝説のドドライマルの<黒王双虎・眷属因>など。それでいて、各部族長の血筋なら、他の虎獣人に儀式を行うことができる」
「儀式? 儀式を行うと何かあるのか? 虎獣人の文化は少し聞いているが、その儀式については知らない。できれば教えてほしい、口外できない部族の秘密になるのなら、喋らなくてもいいが、興味はある」
「秘密を持つ虎獣人の部族もあるだろう」
「分かった。アルベルトの喋れる範囲でいいよ」
「了解した。その儀式とは、部族に帰依することだ」
修行的に信仰することか?
俺の<翻訳即是>も完璧じゃないからな……。
「……帰依?」
「要は部族に入るってことだ。儀式を行い部族に入れば、部族に纏わる力を得ることができる。逆に枷になることもある……」
「へぇ」
「まぁ、今ではグルドン戦役のせいで、失われた部族も多いし、各部族もバラバラだ。だから部族に入ることもままならないし、色々と条件があったりなかったりするから、今では虎獣人の種族特性自体が伝説と呼ばれるようになっている」
「……なるほど。虎獣人と豹獣人には、特異体と変異体という変身が可能な能力があることは知っていたが、そういった伝説は他にも?」
「その特異体と変異体もまた、特別な能力なんだが……」
「それより、伝説の話を頼む、皆も聞きたいよな?」
「はい」
「興味はあります」
「そうですね、レリック地方はあまり聞いたことがないです」
「わたしもです。過去のゴルディクス大砂漠のことしか知らないので」
「俺も興味あるな」
「わたしも、少しだけ」
ルマルディさんがそう告げると、アルベルトは頷く。
「……白熊を連れたみすぼらしい兎人族と唐傘を持った大柄の虎獣人の旅商人から聞いた話だ。正直、グルドン帝国さえも侵攻してない北東の地域だと思うし、ドドライマルと違い、信憑性はないと思うが、それでも聞くか?」
兎人族か。アゾーラとレネ&ソプラの種族だ。
白熊は聖獣パウと同じかな。
俺は、アルベルトに向けて、
「頼む」
と、話を促した。
「……分かった。蛇人族種族たちが暮らす地域とフォルニウムとフォロニウムの兄弟山やらの森を越えた先に、神獣や聖獣に神虎の力を宿すとされる一族が棲むという伝説だ」
「へぇ、聖獣なら聞いたことがあるが、神虎は初耳。神狼ハーレイア様のような話だろうか」
「さぁな」
ママニからそういったことは聞いていなかったな。
戦場に関することばかりだった。
すると、ドワーフのイグが、
「シュウヤ。話を変えるが、前に、黒猫のロロに〝その相棒との大事な約束が俺にはある〟と、目的があるとか前に、言っていたが……どうなったんだ?」
「おう。ロロディーヌとの約束は果たした」
その瞬間、俺の言葉を聞いていた相棒は、黒豹に変身。
ロロディーヌは黒豹の形を維持したまま、更に姿を大きくした。
「にゃおぉ~」
と、鳴く。
「ガルルゥ」
珍しい獣声も響かせる。
「おお」
「うはぁ」
「神獣……」
「……槍使いの相棒の力……ですネ。天凜堂の戦いではお世話になりました。ロロディーヌ様」
クリドススは怯えながら丁寧にお辞儀をする。
「……圧巻だな。影翼のリーダーが扱っていた魔獣を屠った姿とは違うが、やはり迫力がある」
レドンドさんがそう感想を漏らす。
俺は驚いているイグとアルベルトに、
「レドンドさんが語るように、ロロはもっと姿を大きくすることもできる。神獣としての姿を取り戻した。黒猫が一番小さい姿で大きさは自在だ」
と、告げる。
「びっくりだ。しかし、そのさり気なく神獣の姿を取り戻したと語る、そのロロとの約束は、一筋縄ではいかなかったはず」
「確かに、宗教国家と聖王国に魔境の大森林を駆け抜けた」
「……なんつう大冒険だよ」
「……シュウヤは、ゴルディクス大砂漠を越えて、北マハハイムの国々を渡ったのか……」
「二人が想像しているような長旅ではないんだ。俺には色々と便利な物もある」
二十四面体。
その三面の溝を指でなぞってゲートを起動させればルビアが暮らしていたベルトザムの村に行ける。
パレデスの鏡が動かされていたら、その場所にワープしてしまうが……。
教会の地下部屋だ。動かすとしたら、掃除ぐらいだろう。
俺がそう語った瞬間、ロロは姿を黒猫の姿に戻す。
そのままイグに近寄って、鼻をふがふがと動かし、
「にゃ」
と鳴いて、イグのドレッドヘアを結ぶ金具辺りに鼻先を向けた。
くんか、くんか、とまた匂いを嗅ぐ。
「クシュッ」
と、クシャミをした黒猫。
「ふはは、また、鼻を膨らませたな! 神獣様のロロよ。俺のこの髪の臭さは変わらんだろう!」
イグは快活に語る。
だが、臭いのを自慢するのはどうだろうか。
「ンン」
フレーメン反応を浮かべている黒猫は、俺たちにも、そんな顔を向けてくる。
髭の膨らんだ根元を披露。
白髭がタワシの毛のように立っている。
この靴下『くちゃ~い』といった顔だ。
面白い顔。
「ふふ」
「可愛い……試験管に詰め込みたくなります」
「もう、たまんない可愛さ!」
「髭の根元の膨らみの色が、少し違うのですね」
「ん、そこが、妙に可愛い」
皆がそう指摘する。
クナの言葉はヤヴァイが指摘はしない。
その、鼻を膨らませている黒猫が、
「にゃ~」
と、鳴いて、俺の足下に戻ってきた。
すると、レドンドさんが、
「では、改めて――わたしも話をさせてもらいます。もう分かっていますが、依頼を受けてくれた熟練のイグさんとアルベルトさんのコンビと、シュウヤさんは、知り合いのようですね」
「おう」
「そういうこった」
「こちらも好都合です。ということで、支部長――」
少し雰囲気を変えて、クリドススに話を振るレドンドさん。
「なに?」
そう喋るクリドススは視線をレドンドさんに向ける。
「前にも少し、話をしたが、今回、血長耳傘下のダミー商会が出した冒険者依頼に参加が決まったシュウヤさんだ」
当たり前だが、レドンドさんのクリドススに対する口調は、戦友という感じだ。
そのクリドススは、俺をチラッと見て、笑みを浮かべる。
そして、小さい唇を動かした。
「……うん。ワタシたちの大切な【血月布武】のお相手さんでもある」
「同盟相手の【天凜の月】の盟主様でもあるが故に、シュウヤさんは多忙だ。マハハイム山脈の地下に向かうのは当分先となる」
「だろうね。セナアプアにもまだ行ってないようだし。でもさ、レドンドと口約束をしていたとはいえ、槍使いも物好きだなぁ」
俺にウィンクを飛ばすクリドスス。
「支部長! 聞き捨てならない言葉だ。この探索は盟主の願いでもあるんだぞ」
「あぅ、はは、ごめんごめん、レドンド。総長には内緒にして……」
レドンドさんは責めるように半笑いのクリドススを見て、
「支部長は故郷を見たくないと?」
と発言。その言葉を聞いたクリドススは、俄に真顔となった。
そして、レドンドさんの言葉を全身で受けたような厳しい面を作ると、レドンドさんを凝視。
あんな表情を浮かべることもあるのか。
「……見たい気もする……旧神街道の彫像とかネ? でも皇都キシリアは崩壊し、エルフはいない。廃墟があるだけのはず。いや、廃墟どころか、もう魔族の土地で、魔境の大森林だ……」
クリドススの諦観の言葉を聞いたレドンドさんは表情を暗くした。
「……」
「ごめんネ。故郷の想いが強いレドンドに対する言葉ではないヨネ」
「いや、そう語る支部長も、永年堪えているがゆえの言葉だ」
レドンドの言葉を聞いたクリドススも、一瞬、辛そうな表情を浮かべた。
クリドススも親戚か友か、恋人を失ったのかな。
悲しい思い出を封印するように、表情をすぐに隠したクリドススは、
「……ふふ、ただ、土地に拘りがないだけとも……今のワタシの故郷は、レドンドや総長に血長耳の仲間たちなんだからネ」
と、和やかに優しげに語るクリドスス。
「支部長……」
レドンドは胸を打たれたのか、片方の瞳を揺らす。
しかし、クリドススも美形だから、余計に渋く見えた。
緑と銀のメッシュ髪のクリドスス。
フザケタ面と態度が多かったクリドスス。
小柄な少女的な雰囲気だったクリドスス。
ポルセンとアンジェを翻弄していた、俺が知るクリドススとは違って見える。
軍人然とした支部長らしい衣装のせいも多少はあるとは思うが、この表情も、またクリドススの一つの顔ということか。
やはり、レザライサと共に長く生きたエルフの一人で、血長耳の幹部。
そのクリドススは斜め上のほうに視線を向けて、
「……周囲の国々も、大っ嫌いなアーカムネリス聖王国と宗教国家ヘスリファートだし」
その国の名を聞いたレドンドは、頬の筋肉を噛むように、怒りを露わにする。
アーカムネリス聖王国と宗教国家ヘスリファートは、エルフにとって天敵以上の存在か。
「……人族至上主義の糞ども。我らベファリッツの国だった土地を不当に占拠しては、その魔境の大森林を巡って聖戦という名の戦争を起こしている」
そのレドンドさんの言葉に、ドワーフのイグが、
「ドワーフでさえ異常に少ない国だ。その気持ちは分かるが魔界セブドラと通じる裂け目から無数の魔族が出現し続けていると聞く。周辺の国々が必死になるのは当然だと思うが」
と、発言。
数回頷いたレドンドさん。
「魔族に対抗する理由は分かる……だが、それは旧ベファリッツの土地を奪い、自分たちの領地にするという野心があるからだろう。更に、宗教国家ヘスリファートの中心は、あの教皇庁であり、神聖教会だ……」
「教皇庁八課の魔族殲滅機関のメンバーは、秘密裏に、南マハハイムにも来る場合があるようだネ」
その一桁のメンバーが追うエルザとアリスの身が心配だが。
まぁ、大丈夫か。
現在のサイデイルは、女王キッシュとレベッカ。
軍師&料理人のトン爺。
<光魔ノ蝶徒>のジョディ。
精霊樹ルッシー。
二人の将軍のシュヘリアとデルハウト。
空には潜水母艦風の巨大な闇鯨ロターゼ。
血獣隊、紅虎の嵐、墓掘り人、エブエ、ラファエル、エマサッド、ハンカイ、亜神キゼレグ、ダブルフェイス、蜘蛛娘アキ、レネ&ソプラ、本人のエルザも強いし。
「……民間でさえ【追奴】がある」
ルビアを追っていた奴らか…。
「〝追認奴隷狩り〟だな」
俺はそう発言。
「そうだ。南マハハイムに流通している奴隷制度とは違う。そのような奴隷を追う資格を持つ大商会は、独自の傭兵を雇い、不当にエルフを追いたて、罪のないエルフを捕まえては、一方的に奴隷としている。しかも南の砂漠の国、アーメフ教主国にまで侵入することがあると聞いた」
「わたしも発言をよろしいでしょうか」
ヴィーネの言葉だ。
血長耳の二人も、ヴィーネを注視。
天凜堂の戦いでヴィーネの姿を間近で見ているし、俺の側近だとは認識しているだろう。
「いいよ、ヴィーネ、頼む」
俺の言葉に微笑むヴィーネ。
「エルフ側からは野蛮極まりない国ですが、人族が異常に多く環境が整った国でもあります。そんな宗教国家ヘスリファートの領域で捕まったエルフ奴隷は……仰るように、奴隷商が扱うよりも悲惨なことになる可能性が高い。そんな宗教国家を移動中、たびたび、エルフの扱いを見る機会がありましたが、本当にエルフの命はゴミ同然だった……貴族の御曹子たちの催しでは、エルフ同士を闘鶏のように戦わせては逃げるエルフを競争するように狩りをして、狩りの成果を競う大会もありました。更に、捕まえた魔族に、エルフを喰わせる屑人族の司祭……その司祭は教皇庁の魔族殲滅機関のメンバーに斬られたようでしたが……とにかく、エルフは悲惨でした」
「よく無事に突破できたな、宗都近辺での移動だろう?」
「はい、魔族系と目されるアンデッド系モンスター軍団との争いもあるようでしたから、その隙を利用するように、力のある奴隷商を利用して無事に宗教国家の領地から出ることができました」
ヴィーネは真顔で語る。
アンデッド村か。ツアンも前に語っていたな。
「……何が魔族に対抗で、聖戦だろうか。光神ルロディス様も、あの国の信仰なぞ受けたくはないだろう」
「魔界の神々を信奉する魔族に対抗するための戦力として、宗教国家の連中も必要とか?」
「神々がどう考えているかなんてもんは、不毛だ。神智学を究めた司祭やシャーマンとて、とうてい理解は及ばぬだろうて」
ドワーフのイグが語る。
「……しかし、北と南の人族の国々で、こうも思想に違いがでることが……不思議だ」
と、レドンドさんが発言。
すぐにクリドススが、
「この南マハハイムは愛の女神アリアの信徒が多い。光神ルロディスとかぶる部分も多いし、戦神ヴァイスも有名。西では神界セウロスの神々か不明だけど、【象神都市レジーピック】もあるからネ。一方で、皆も話をしているように、北マハハイムの一部は、光神ルロディスの信仰がとても強い。とくに教皇庁を中心とした宗教国家ヘスリファートは、光神ルロディスの信仰を利用したエスタブリッシュメントが絶対的だ。その人族至上主義の教えが、下々にまで浸透している文化。エルフを魔族と称して奴隷どころか狩りを行うことは日常茶飯事のようだし……ほんと、どうしようもない連中だヨ。肌の色や、角ありに、魔力の有無や貧富差とか、耳が長いってだけで差別をする糞共! 虫唾が走る」
クリドススの表情が怖い。
レザライサとは違う怖さだ。
「……北から南に、転戦を繰り返してきた」
と、レドンドさんが顔にある傷を触りながら語る。
「南マハハイムに来た頃は激戦だった」
「あぁ、ラド峠から出る時は凄かった」
「ファスお姉様の能力を生かした突破口だネ」
クリドススがそう発言。
「それは数百年前の戦いか」
と、聞いた。
「うん、八百年前から五百年前ぐらいの間だよ。押したり押し戻されたり、ゲリラ戦になって転戦しまくり」
「ノウンを前面に押し出しつつの撤退戦もあった」
「うん。ハームの町やルルザックに身を寄せた時もあったネ」
「……エルフの古貴族の軍閥が血で血を洗い、人族&ドワーフの蜂起に、無数の種族たちが争う戦国の世」
「今と大して変わらない」
「レドンドが語ると、時の変遷を感じちゃうネ。でもさ、シュウヤさんと皆さんに言うけど、ワタシとレドンドは、宗教国家を批判してぞんざいに語っているけど、宗教国家の屑たちと同じ面もあるから、勘違いしないでネ。闇ギルドで汚れ仕事もあるし、戦争屋だ」
「……当時は軍規もあった」
「うん、言い訳にはできないよ。ワタシたちは、元ベファリッツ大帝国陸軍特殊部隊白鯨。ベファリッツ大帝国は多種多様の民族を粛清し、抑圧し、弾圧してきた歴史があるからネ。今の状況は自業自得。蜂起も差別も仕方がないという思いもある」
「あぁ。だが、素直に受け入れることはしない。血長耳として仕事をする」
「当然だヨ。傷ついた同胞を懐に抱きつつ、その同胞が死ぬのを間近で見てきたからネ……」
「……戦場で生きた俺たちだ。当然だが、すべてがやるせない」
「レザライサはそんな宗教国家ヘスリファートに喧嘩は売らないのか?」
と、聞いた。
「総長なら……うーん、ない、かな? 対魔族の防波堤となって滅びてくれ。という感じだと思う。それに遠い。帝国ならいざしらず、マハハイム山脈とゴルディクス大砂漠を越えた国だし、今回の地下回廊の依頼が成功したら、また話が違ってくるかもだけど、出たところも魔境の大森林だしね。そして、魔界の傷場と近いアーカムネリス聖王国なら宗教国家ヘスリファートよりは、話ができそうな気もする。んだけど、まだまだ聖王国の情報にも疎い。魔族に囲まれた状況と聞いているだけで、よく分からない」
さて、このままだと宗教論議&民族浄化の辛い話が濃厚になりそうだから、切り替えるか。
俺はクリドススに、
「で、クリドススとレドンドさん。冒険者を三人雇ったと聞いたが、イグとアルベルト以外のメンバーはだれなんだ?」
と、聞いた。
「あぁ、シュウヤさんも一度会っているはず」
「魔竜王討伐の晩餐会の時かな」
クリドススとレドンドさんがそう語る。
「晩餐会か、結果を残した冒険者たちの一人か。紅虎の嵐ではないから……」
「その女性魔術師の名は、テルコ・アマテラス。テルコって呼んで♪ とか言ってました。他の冒険者依頼を受けて忙しいはず」
アマテラスか。
天照大御神と関係があったりして。
「テルコさんですか。どんな女性魔術師なんでしょう」
「魔術総武会に所属していた過去があるとか、本人は語ってたな」
「茶色のローブを羽織って、ヴァライダス蠱宮の下層で手に入れたという〝アジャベリの足〟という多脚を出現させるマジックアイテムを使うとか。前は戦闘奴隷を多数引き連れていたようですが、狩りを連続で行ううちに減って、最近、使えないから売ったと語ってました」
「へぇ……」
ノーラとの会話を思い出した。
ノーラともパーティを組んでいたようだな。
「分かりました。では、そろそろ外に。皆、色々と話せてよかった。次回、またここに来る時は、すぐにでもマハハイム山脈の地下に行ける状態で来る予定だ。その時、またよろしく頼む!」
俺は頭を下げた。
「「――よろしくお願いします」」
と、皆もお辞儀をした。
「はい、こちらこそ、シュウヤさん!」
「おうよ、楽しみに待ってるぜ」
「ふむ、俺らも他の依頼を探すとしよう」
微笑みつつ、手を数回叩くクリドスス。
「ふふ、まったく、所作だけで女性をときめかせるシュウヤさんだ! 総長にしっかりと、伝えておきますからネ」
そう語るクリドスス。
前と少し違って見える。
ユイが腕を出して、クリドススを見ちゃだめと指示を出してきた。
エヴァも反対側の腕を引っ張る。
ヴィーネはルマルディさんとキサラと小声で話をしていた。
俺は、ユイの腕を退かして、
「了解、レザライサによろしく」
と、挨拶。ユイとエヴァの手を握りつつ、ターン。
俺たちは血長耳の事務所を出る。
すると、建物の前に止まっていた大魔獣デスパニと迷宮戦車の操縦席の横から小さい手が伸びた。
そして、そのエルフの二人組が、
「ばいばーい♪」
「またね~♪」
と、可愛らしい声で挨拶。
「ん、ソーニャとパパル、ばいばい」
エヴァが返事をしていた。
「さて~どこ行こうか。路地裏散歩道で下町は色々と知っている」
「へぇ、ヘカトレイルで見せたい場所ってある?」
「ん、シュウヤが気に入ってる場所とか」
「酒場の拳闘とかあるが、娼婦もいるからなぁ」
「却下」
「ん、大却下」
エヴァは俺の手をぎゅっと力を込めて握る。
紫色の双眸をパチパチさせていた。
その可愛い視線から『ん、わたしはここに居る』と強い意思を感じとる。
と、そのエヴァと、皆とも、話をしながら通りを歩いた。
店が並ぶところで鷹匠のパフォーマンスを見たり、露店で、ナッツをまぶした綿飴風お菓子を食べたりと……皆との楽しいデートを堪能――こんな風にまったりと歩くのもいいもんだ。
あとを付けてくる不審な存在は感知できない。
クナ効果か。或いは、優秀な<隠身>を持つ存在か。
<無影歩>のようなスキル持ちが居るのかもしれない。
ステータスの説明にもあった伝説のアサシンクリード一家の長マクスオブフェルトが開発したらしいからな。
そのようなマクスオブフェルトさんが居るということだろう。
まぁ、クナと敵対するような存在は【闇の八巨星】あたりの存在だろうしな。
ルマルディさんやハイグリアとも繋がるサーマリアの公爵が絡んだセナアプアの評議員もかなり、きな臭いが……。
すると、
「ンン――」
足下でアルルカンの把神書にちょっかいを出されていた相棒が走って、路地の角を曲がった。
「ちょっと、アルルカン、ロロちゃんの尻尾をいじりすぎ!」
と、ルマルディさんに注意を受けるアルルカンの把神書。
表紙の肉球マークがウルトラマンのカラータイマーのように点滅していた。
「ちげぇ、金具を外そうとしてきたんだ!」
と、叫ぶアルルカンの把神書も角を曲がっていく。
通りを行き交う人々から、注目を浴びるが、アルルカンの把神書は気にしてないようだ。
「俺たちもロロを追いかける――」
相棒は切り株がある空き地に居た。
アルルカンの把神書はその足下で転がっている。
「む、無念……」
とか喋っているアルルカンの把神書から煙のような魔力が上がっていた。
細かいが、面白い。
ここは、前に仙人のようなお爺ちゃん猫と黒猫が挨拶をしていた場所と似ている。
「ロロ、野良猫たちは居ないようだ。少し自由に遊ぶか? 夜になれば集まってくるかも」
「にゃ~」
と、鳴いた黒猫は肩に戻ってくる。
「ロロちゃんはシュウヤと居たいって」
「ん、微笑ましい!」
俄に元気を取り戻したアルルカンの把神書が俺の頭上にくると、
「ふん、まったくだ」
羨ましそうに、そう発言。
ルマルディさんは微笑む。
「んじゃ、また、適当にぶらつくか~」
そうして、ヘカトレイルの散策デートの日々はメルと合流する日まで続いた。
明日も更新予定です。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1から9巻まで発売中。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻発売中。




