五百九十話 励ましの言葉と聖花の透水珠
休んでいた女性は俺たちを見て、
「あっ」
と驚きの声をあげる。
その寝台に向かった。
女性の髪色は赤茶色。
瞳は白っぽい。
鼻と唇は小ぶり。
片方の耳にイヤーカフがある。
ダブルフェイスのような形の耳飾りではないが、お洒落だ。
「レベッカさん、これ、してみました」
「うん、似合う!」
レベッカがプレゼントしたようだな。
足は毛布とタオルケットで隠れている。
その女性は体勢を直そうとしたが、上手く身体が動かないようだ。
すぐに彼女の傍に近付いた。
「初めまして、俺の名はシュウヤと言います。肩の黒猫は、相棒のロロディーヌ」
「ンン、にゃ」
「初めまして、ヴィーネです」
「ん、さっきぶり」
「シュウヤを連れてきた」
「……」
クナは会釈のみ。
「あ、はい、わたしの名はナーマです。ゼレナードを倒していただいた英雄様と神獣様に、珍しいダークエルフの眷属様ですね……このような位置から失礼ですが、助けていただいて感謝しております。ユイ様から直に活躍した話は聞いています」
そう喋ったナーマさん。
無理に体勢を整えようとする。
ロロディーヌが、すぐに触手を伸ばして彼女を支えてあげていた。
「ナーマさん。そのままで、一応ポーションをここにおきます」
「愛くるしい猫ちゃん、シュウヤさんもご親切にどうもありがとう……」
ナーマさんの礼を聞きながら、サイドテーブルに置かれた器に載った野菜類を見る。
彩りのいい野菜類とフルーツ類だ。
亜神夫婦の果樹園とドワーフの農業担当のドナガンがサイデイルの畑で育てている野菜&果実。
「ポーションの回復効果は、あくまでも即効性だと思いますから、ここの食べ物のほうが、ナーマさんの体には、いいはずです」
葡萄とリンゴはとくに美味そう。
リンゴパイは美味いから当然か。
ペルネーテでも人気がある。
ここで育ったフルーツと野菜は内臓に効きそうなイメージもある。
「これといった確証はまだないですが……」
クナは逸品居の二階を療養所と言っていた。
下で料理を切り盛りする亜神キゼレグ。
彼は全盛期の力がなくとも回復を促す能力ぐらいはあるかもしれない。
それにまだ〝亜神〟と名乗れる力は有している。
そして、元亜神のゴルゴンチュラ。
彼女は女王キッシュの前で翅を羽ばたかせて、
その翅から、鱗粉か、妖精の粉のようなものを、野菜と果実に振り撒いていた。
すると、ナーマさんは、
「効果はあると思います。最初は口が動かずに、上手く喋ることができませんでしたが、もう、このように喋ることができますから」
「そうでしたか、よかった」
「でも、シュウヤ様……」
ナーマさんは俯く。
「どうしたんです?」
頭部を重そうに上げるナーマさん。
細い首だ。
ナーマさんの、紫色の唇が動く。
「わたしは、足がない。病弱で、これといった知識も魔道具関係しかない。それなのに衣食住までご用意していただいて……お礼のしようがありません……」
「いいんですよ、こうして話ができているだけで十分です。回復魔法も唱えておきましょうか」
「あ、え、は、はい」
目をパチパチとする仕草は魅力的だ。
ナーマさん、可愛い!
「ん」
「ふふ」
「うん、元気が一番」
皆の笑顔もいい。
この場を癒やしの空間にする。
さて、聖花の透水珠を使ってもいいが――。
まずは《水癒》を念じよう!
「いきます」
と、《水癒》を発動。
赤茶色の髪の頭上で水の塊は弾けた。
透き通る色合いの水飛沫。
それらが、悩ましくナーマさんへと降り注ぐ。
『閣下の水~』
俺の水魔法を見て喜びに溢れる左目に棲むヘルメ。
小さい姿のヘルメ。
キューティクルを保った長い睫毛も変わらない。
グラマーなボディを強調するような競泳水着風のコスチュームも似合う。
そして、羽織る水精霊らしい半透明な衣も、また素晴らしい出来映えだ。
ヘルメのグラマーなボディだからこその衣裳だな。
その衣裳で、くるくると舞い踊る。
黝色と群青色に蒼色のコントラストが映えた。
そのヘルメが、クロールで泳ぐ。
プールの端に到達したように、肩の黒猫の位置で一回転してターン。
更に小さいヴェニューたちも水飛沫と共に発生している。
黒猫は気付いてないが、小鼻にヘルメの細い足が触れそうになると、その小鼻がピクピクと動く。
俺と相棒は<神獣止水・翔>で感覚を共有しているからかな。
相棒の神獣としての鋭い感覚もあるだろう。
俺の視界内の左目に棲むヘルメの位置を微妙に感じているのだろう。
そのヘルメは泳ぎを平泳ぎに変えた。
両足がカエルのように広がり閉じる。
仕草はとても可愛く美しい。
衣裳といい競泳選手のように魅力的だ。
すると、ナーマさんが、
「……癒やし水……体の内側がぽかぽかしてきました……ありがとう、シュウヤさん!」
ナーマさんも笑顔が素敵だ。
さて、その笑顔に暗翳を投げかけるようで、少し躊躇するが……。
絵に閉じ込められた原因を聞くか。
「……ナーマさんは、グロムハイムの海沿いの村出身と聞きましたが、どういった経緯で絵の中に?」
「……オセべリアが建国された祝賀ムードの年。父と経営していた魔導具店ナーマ・ブロンズに、ゼレナードが来たことから始まります……」
うへ、まじか。
「客として、あのゼレナードが……」
「はい。肩に不思議な子供を乗せていました」
肩の子供といえば、アドホック……。
オセべリア王国の建国というと……。
「……五百年~六百年ぐらい昔か」
エヴァたちの顔を見ながら語る。
「ん、ゼレナードがわざわざ乗り込んできた理由は、ナーマさんが閉じ込められていた絵?」
「その絵は、燃えてしまいました」
そうクナが発言。
「ナーマさんを助けた時に?」
「はい」
クナは頷く。
ナーマさんは、
「魔法書の能力もですが、それを使いこなせるクナさんの多彩な魔法能力は傑出しています。魔族クシャナーンだと聞いていても、その技量は傑出している」
「うふ♪」
「ん、クナは魔女で優秀!」
「にゃ~」
相棒も褒めて触手を伸ばす。
クナはその触手をひっぱり、相棒を抱き寄せた。
「ありがとう、黒猫様~♪」
と、喜んだクナ。
「にゃご」
黒猫はすぐに身を捻り、後脚で、クナのぽよよん会を蹴って揺らす。
黒猫はムササビが飛ぶような機動で、俺の肩に戻ってくる。
唇の端に指を置いて、妖艶さを出したクナ。
「うふ、少し痛かったですが、いけず、ですね! エヴァちゃんにも、チュッとしてあげます!」
胸に相棒の蹴りを受けたことが嬉しかったようで、興奮したクナは、魔導車椅子に座るエヴァに身を寄せた。
「ん――」
エヴァも応える。
クナの巨乳さんを、食べるようにクナの双丘の間に頭部を潜り込ませていく。
クナも細い両腕をエヴァの後頭部に回した。
エヴァの項と後ろ髪を、指で撫でる仕草を取っていた。
エヴァもクナの腰元に手を回す。
エヴァの頭部は、もごもごと動いているが、クナのおっぱいに包まれている状況。
息は大丈夫か?
けしからんと言うべきか。
しかし、あれはあれで、絵になる、のか?
エヴァとクナの巨乳さんの張り合いとも言える状況だろうか。
二人とも天性の麗質さを持ったおっぱいを持つ。
自然と、ご両人のおっぱいが見事に窪んでいる部分に視線が向かう。
……そこにレベッカじゃないが、相棒の猫パンチのツッコミが、俺の頬に来た。
別段にパンチは痛くない。
が、そこで凝視は止めておいた。
「ンン」
肩の相棒も、俺の変態紳士的な行動に納得したのか、喉声を鳴らす。
俺はナーマさんに視線を戻し、
「ゼレナードは、その燃えた絵が目的だったと?」
「その通り。目的は、その先祖から伝わる魔法の杖と絵です。しかも売り物ではなかったのに、どういうわけか、ゼレナードは、わたしたちが持っていると知っていた。少なくとも数世代前から箱に仕舞ってあった物なのに……鑑定にも出していない門外不出のアイテムを……」
レベッカではないがお宝センサーってか?
ま、ゼレナードは、ケマチェンやら、ツラヌキ団にお宝を奪うように指示を出していた。
そういった隠れたお宝を探す能力を得ていたのだろう。
「それで、売るのを拒んだ結果、絵に閉じ込められた……と」
「はい。家宝ですから売るのを拒みました。それで、ゼレナードは……」
間があく。辛そうだ。
「無理に喋らなくても」
「いえ……ゼレナードの言葉と……痛みは、忘れることができない。それに先のことにも繋がりますが、無償でわたしを救ってくださった皆様だからこそ、お話をしたい。喋らせてください」
ナーマさんは強い口調だ。
お礼の気持ちなんだろう。
「分かった」
ナーマさんは頷く。
「ゼレナードは、〝わたしの言葉を拒否できるほどの精神力を持った人族の末裔か……興味が出た。ま、無知からくる愚考なら、【真理の目覚め】に入会し、献金して、その杖と絵を、わたしに売ってくれたら……今回断ったことは特別に許してあげる〟と……言ってきたのです。そして、『そんな真理の目覚めという宗教には、絶対に入りません、帰ってください! 弱者のお金を巻き上げる宗教なんて糞食らえ!』と、断ったら……気付いたら絵の中でした………そのあとは、記憶があまりありません。内臓をえぐり出された記憶と、その痛みがたびたび襲ってきたぐらい。そして、絵の外に手が出せる場合があったぐらいで……』
ゼレナードに喧嘩を売るナーマさん。
俺は暫し、尊敬の眼差しで彼女を見た。
しかし、内臓をえぐり出される感覚とか、どんだけだよ。
痛すぎるレベルを超えている。
あまりに痛いとショック死すると聞くが……。
だとしたら、お父さんは……、
「……お父さんは」
俺がそう聞いた直後、体が震えたナーマさん。
おろおろ涙……。
すぐに、頭を激しく振るうナーマさん。
「あぁぁ」
嗚咽してしまった。
「……お、お、お父さん、は、目の前で、頭が破裂……おぇぇぇ……わたしが悪い……」
ナーマさんは胃の中にあったフルーツの欠片を吐いて失神。
即座に《水癒》を念じる。
『閣下、わたしが……』
『大丈夫』
キサラとヴィーネに、クナとエヴァも、床を拭こうとしたが――。
俺は先に動いていた。
膝をつけて、生活魔法の水を出しつつ、傍にあった革の布で、ナーマさんが吐いたモノを拭き取った。
体勢を低くしながら床の掃除をしていると、肩から降りる相棒。
「ンン」
相棒は俺の真似をやり出した。
肉球と触手で床を擦っていく。
可愛い。爪は立てていないから大丈夫と分かるが、爪研ぎをしているように見える。
俺はその可愛い相棒の頭部をツンツクしてから、ナーマさんに視線を向け、
「……すまない、辛い過去を思い出させてしまった」
謝りながら、もう一度――。
《水癒》。
「シュウヤ様……水は綺麗ですが、顔が」
「ご主人様……お怒りなのですね」
「……あぁ、顔に出ていたか。滅したゼレナードに怒っても仕方がないんだが……」
自身を責めているナーマさんのことを思うとな。
「ん、アドホックはともかく、ゼレナードを倒せて本当によかった」
紫魔力を纏うエヴァの、その言葉に同意するようにキサラが、
「そうですね。そう思うと、あの時のシュウヤ様は、迅速で的確でした。あのまま白色の貴婦人を放置していたら南マハハイム地方は壊滅的打撃を受けていた」
ヴィーネも「はい」と発言。
あのモンスター軍団を自由に遠隔操作できるとしたら、相当な戦力だっただろう。
いかに屈強な軍が人族側にあろうとも、不意打ちでは対処は厳しかったはずだ。
「ん、アルゼの街に暮らす人々の魂が取られていたら……」
「次は、他の八支流の村と町、そして、サイデイル。ベンラック村とフェニムル村、ヘカトレイルとタンダール、ノイルの森、ペルネーテ、ララーブイン、王都グロムハイム、王都ハルフォニア……次々と侵略を受けていたことでしょう。無数の魂たちが、ゼレナード&アドホックに吸われていたはず。各国の軍隊と白の九大騎士が対処できたとしても、商会の輸送路は致命的な打撃を受けていたはず」
ヴィーネがそう発言。
「物資が滞り、野盗やモンスターが跳梁跋扈する。シュウヤ様なら、その野盗とモンスターを駆逐しつつ、肥大化し強まったゼレナードを逆に粉砕して、不安定な戦乱状況を利用しつつ乱世の英雄になりえたかもしれない」
乱世の英雄か。
それはないな。
遅かれ早かれ、ゼレナードと喧嘩はしただろうが、それだけだ。
『……大神聖ルシヴァル帝国の礎のチャンスでしたか』
『ないない』
「……クナらしい予測。でも、魔神勢力と呪神フグといった無数の地下勢力たちも、シュウヤが居て好都合と考えているかも」
ユイがクナを睨みつつ発言。
レベッカも頷き、
「樹海の樹怪王軍団とオーク帝国に旧神ゴ・ラードの勢力もね」
と、人差し指に蒼炎を灯す。
その蒼炎を見ているユイは、
「ヴィーネの話に通じるけど、人族のオセべリア王国もサーマリア王国もレフテン王国もゼレナードの被害に遭わずに済んだ」
と、発言。
ゼレナードが造り上げた地下の恐竜兵士たちは軍隊のような動きだったからな。
ギュスターブ族のなれの果てだが……。
地下も地下で、無数の勢力が入り乱れているからこその軍隊だと分かるが……。
その地下の軍勢と施設で雇っていた人員、白色の貴婦人勢力が、樹海と樹海の外に進出していたら……。
「ん、皆、恩恵を得ている」
「でも、権力者側から見たら与し易しと安直に考えるかもね?」
「シュウヤは権力とか権威を嫌う」
「武術と強者から学ぶ姿勢が強すぎる?」
「謙譲心が強い」
「そうね、自慢もあまりしない、そこが心配でもある。自分より弱い者がいれば、イジメて、喜ぶ者がいるから」
「……うん」
レベッカはユイの言葉に同意するように、頷いていた。
冒険者として初めて組んだ時を思い出す。
エヴァと共に散々な言われようだった。
「俺は黙っていない」
「でも、黙ろうと我慢するでしょう」
「シュウヤが噂を気にせずとも、これ幸いと、そこを狙うように、責めて我慢させる奴らがいる」
「まぁ、多少はあるかもな」
レベッカとヴィーネは俺を見ながら、
「うん、その行為をしめしめと利用する屑ね……」
「……イジメて、弱者として価値を下げ、相対的に自分の価値が上がったように感じる醜い心」
そう語るレベッカはエヴァと頷き合う。
ナーマさんに向けての言葉でもあると思うが、二人もまた、色々と経験しているからな。
俺は、
「だが、そういった他人と差を作り、満足する心は、大概の人が持つ。その下らない差で、自己愛を満足させている小っこい心根を持つ者は無数に居るぞ」
そう語る。
「弱者を貶めて、自分が偉くなったように錯覚する……」
「居ますね」
「ん、わたしたちはわたしたち。シュウヤと皆のがんばりの成果を、わたしたちで誇ればいいの」
エヴァは菖蒲色の瞳を輝かせながら、自信ある態度で語る。
エヴァらしい天使のような言葉だ。
雰囲気が一変した。
ユイもヴィーネもクナもキサラも頷いて、レベッカも「いい言葉ね」と発言。
微笑むユイは、
「うん、心に響くいい言葉。エヴァのほうが、わたしよりよっぽど強いわよ」
「ん、ありがとう」
「ふふ、魅力的な眷属たち♪ シュウヤ様はあまり気にしていないですが、人知れず人族と戦っている魔族たちも救ったことになります。わたしを救い契約してくださった英雄様♪」
「クナさんの言葉を聞くと、ますます光と闇の運び手としての名が、シュウヤ様だと分かります」
「四天魔女キサラちゃんの望む救世主であるように、わたしの身も心も救ってくれた、唯一無二の救世主ですから」
地下で磔にされて幽閉されていたクナが嬉々として語る。
あの時のやりとりを思い出すと、また、クナの言葉にも納得がいく。
嬉しむクナは、ナーマさんを見て、
「そして、わたしも拷問を受け拷問も行いましたが、人から惨い話を聞くと、違った意味で、心にきますね……」
「……よくないけど、必要な時もある」
「優しいエヴァが真実を語ると、辛い現実が身に染みる」
「ん、わたしなら拷問せずに理解する時もある。けど、生きる者は、計り知れない」
まさに梵我一如、皆の言葉に同意しながらアイテムボックスを操作。
「皆様はお優しい。わたしに希望をもって生きろ。との励ましと教訓の言葉は、実に心に沁みます、沸々とした想いを得ることができました」
ナーマさんは涙を流していた。
その言葉に頷く。
同時に、聖花の透水珠を取り出す。
宇宙人っぽい姿のマリン・ペラダス司祭が作ってくれた貴重な薬。
ホルカーバムの枯れた大樹を再生させた結果、手に入れることができた。
「……これを使う。神咎ではないから、失った内臓も足も元に戻るだろうし、ナーマさんは普通の人族だろう?」
「元に? 人族のはず、魔人の血が先祖の誰かにあるかもしれませんが」
なら、大丈夫だ。
「……ご主人様、貴重な薬ですが」
「……いいんだ」
ゼレナードから受けた心の傷は難しいかもしれない。
が、普通の人なら、普通に癒やしてあげたい。
ナーマさんはなんのことか分からないようだ。
足がなくても元気に暮らすことを考えていた矢先だからな。
ヴィーネは頷く。
「はい」
「……」
と、クナは双眸を散大させて、全身が震えている。
驚きつつも、黙っているようだ。
エヴァはそんなクナの背中を撫でていた。
「んじゃ、ナーマさん。驚くと思いますが、この薬を飲んでください」
「え?」
「いいから、騙されたと思ってゴクッと」
俺の笑みと言葉の勢いに押されたのか、コクコクと頷くナーマさん。
薬を飲んだ瞬間――。
ナーマさんが黄金色に光り輝く。
更に、体が振動したナーマさんは蹲り
ナーマさんの体からドクンッと心臓の音がリアルに響く。
体が波打つと横に倒れた。
皆は驚いて駆け寄る。
「ちょっと!」
「ナーマさん!」
「――ん、黄金色に輝いた」
「大丈夫です……え? う、嘘みたい、足に感覚が……い、いまの、薬は……」
落ち着かない様子のナーマさん。
おろおろとして、皆と俺に視線を寄越す。
俺は、黙って『大丈夫』と……。
安心させるように頷いた。
ナーマさんは、恐る恐るタオルケットを退かして、自身の両足を見る。
彼女の足は普通だ。
ということは、再生を果たしたということだろう。
「……あぁぁぁぁぁあ――」
ナーマさんは発狂したように声を発した。
喜び、熱のこもった涙も流す。
鼻水も垂らしたナーマさんは、俺を凝視して、
「あ、あ、足が!!! 足があります……」
絶望からの歓喜だ。
「ん、よかった。これで歩ける」
「感覚はありそうですね、なら、内臓の怪我も治っているはずです」
と、指摘。
ナーマさんは服を脱ごうとした。
が、頬を赤く染めて、俺を恥ずかしそうに見る。
綺麗な鎖骨とおっぱいさんの一部が見えたが……。
何も見なかったフリ。変態紳士を貫いた。
ユイとエヴァは短い血文字でキッシュにナーマさんのことを報告。
ヴィーネも皆に血文字で連絡した。
「神級のような価値の高い貴重なお薬ですよね」
「貴重ってレベルじゃない薬よ」
「……はい。それをあっさりとくださるシュウヤ様。本当にありがとう……」
喜ぶナーマさんだが、どこか気まずそうでもある。
「わたしをこき使ってください」
「使いません。ここでしばらく安静に。そして、笑顔と元気が一番です。では、ナーマさん、また」
「ぁ……ぇ、はぃ」
ナーマさんの短い返事。
そこには気持ちが込められていると分かる。
頬も真っ赤だし。
ナーマさんはもっと話がしたいし感謝をしたいのだろう。
その気持ちは痛いほど分かる。
が、俺も忙しい。
「クナ、外に行こうか、皆もいいな?」
「当然だけど、女殺しにもほどがあるのよね」
「ん、しかたない、わたしもドキッとした」
「はい、わたしもです。皆も胸がときめいているのでしょう?」
『ふふ』
『妾もときめいた』
「当然」
ユイの力強い言葉を受けて、俺は振り向こうとしたが、黙って階段を下りた。
逸品居の一階に戻る。
宴会を続ける皆に向けて、
「皆、そのままでいいから聞いてくれ。俺はヘカトレイルに向かう」
明日も更新予定です。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。9」発売中。




