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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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五百八十九話 逸品居

 逸品居に到着。

 客は眷属以外にも多数いる。


 デルハウトを呼びに出たハンカイの姿はない。

 眷属と仲間たちは店の一角を占領する形だ。

 机の中心に置いた鳳凰亭珍酒の樽を囲いつつの宴会中。


 逸品居を利用する他の客たちとも、誼を通じ合うように会話中。


 まぁ、陽気で快活な、どんちゃん騒ぎだ。


「ジョディちゃん、このお酒、美味しい~」


 レベッカの言葉を聞いたウェイトレス風のジョディ。

 細い足を自慢するように、すらりと伸ばして、


「――ふふ、果樹園の野菜と魔酒が入った特別スープですから~」


 と、発言すると、身を反らす。

 そのまま両手の台を一切動かさず、見事な後転を披露し、ポーズを決めての着地。


 台に載った瓶の酒は溢れそうで溢れていない。

 見事だ。

 一瞬、峠を攻めるハチロクを運転する天才ドライバーを思い出す。


 足先のドリルから出る血の軌跡が、また綺麗。

 フムクリは怪しく光るが、太股の間から、純白の紐パンティを覗かせていた。

 足の肌は、すべすべしていそう。

 むちむち感もある太股は魅惑的でエロい。

 が、そのエロさを超越しているのが、紐パンだ。


 芸術性の高い純粋に美しい紐パンティだった。


 しかも、その紐パンと聖ギルド連盟の衣裳の切れ端の紐が魔力の線で繋がっている。

 血色が混ざる白色に輝く小さい蛾も周囲を舞っていた。


 ピコーンではないが……自然と某国民的RPGのレベルアップ音を思い出す。


 パンティ見学委員会の質が上がった気がした。


 周囲から拍手が起きている。

 美しく可憐なジョディの仕草を見れば当然か。

 ウェイトレスの<光魔ノ蝶徒>が運ぶ野菜と魔酒入りのスープを、皆が飲んでいる。


 その綺麗なジョディと目が合うと……。

 パッとした明るい表情を見せてくれた。


「あなた様! お帰りなさいませ!」


 隣に居るシェイルも元気そうだ。


「あぁうぁぁぁ――」


 そのジョディとシェイルが駆け寄ってくる。

 抱きついてきた。

 二人の背中を撫でながら……。


 アキレス師匠とレファにラグレンにも会いたいが、やはり、シェイルの治療にも挑戦したい。

 ……魔宝石探しの旅に。

 それに、アキレス師匠なら、わしのことより、仲間のことを大切にしろ。

 と、注意するはずだ。


 しかし、今は近場の用事からだ。

 ジョディはお気に入りの聖ギルド連盟の衣裳を着ていた。


「ジョディ、蝶族の魔宝石探しには、まだ少し掛かると思う」

「……あなた様。気を使わずに、急がなくても大丈夫ですよ」

「分かってるさ。けど、シェイルを見ると、早く治療してあげたくなる」

「はい。しかし、治療の元となる魔宝石をフサイガの森で、順調に見つけたとしても、そのシェイルへの治療が成功するかは、まだ、不透明。なにより、フォロニウム火山は遠いですからね。ですから、シュウヤ様の用事がすべて済み次第で構わないです」

「そっか、分かったよ。相棒のジョディがそこまで言うんだ。納得した」

「あぅぁ~?」


 シェイルは俺の匂いを嗅ぐように胸元に顔を寄せている。

 そのシェイルを労るように背中を撫でているジョディは、


「ふふ、見た目は弱っているシェイルですが……」


 と、ジョディは舌を出して、その舌をドリル状に変化させた。

 ルシヴァルとしての美しさを保っているが、元死蝶人としての顔つきだ。


「死蝶人ですからね。人族では考えられないほどのタフさを持ちます」

「おうよ。その、ストローみたいな刃は仕舞ってくれ」

「はい」


 ジョディは、ビアの舌のように、しゅるるっと音はしないが、即座に普通の舌に戻す。


「だが、その遠いフォロニウム火山に向かうことは、確実だと思っていてくれ」


 俺の言葉を聞いたジョディは、胸元に手を当てた。


「承知致しました」


 涙目のジョディ。

 二人を落ち着かせてから、宴会中の皆に交ざる。

 レベッカは、エヴァの持つ細いゴブレットに、自らのゴブレットを当てていた。


 中身の酒が揺れて溢れる。


「おかえり~」


 と、ほろ酔いのレベッカだ。

 そして、エヴァが、


「ん、ミグスをダウメザランに送ったことを伝えた」

「うん」

「あと、イセスとスゥンさんとトーリさんから、ダークエルフと地下社会について教えてもらった」

「エヴァたちの話も面白かったけど、ダークエルフたちって、ほんと、内輪揉めが激しいわね」


 レベッカの言葉に周囲の皆が頷く。

 ユイも、ヴィーネとバーレンティンを見ながら、


「うん。ヴィーネとバーレンティンは、精鋭中の精鋭だから生き残れたって印象」

「ユイ、ありがとう」

「ユイ様、ありがとうございます」


 ヴィーネとバーレンティンはユイに頭を下げていた。

 レベッカが、片方の眉を下げて、細く長い指を左右に動かし、


「でもさ、ミグスと敵対している魔導貴族の派閥は魔神帝国のキュイズナーたちと通じているんでしょ?」

「そうらしいな」

「それってダークエルフとして、どうなの?」


 と、皆に聞いていた。

 ヴィーネがすぐに、


「レベッカ、その言い方は〝キュイズナーを雇っては、魔導貴族のプライドが地に落ちる!〟その物言いをする魔導貴族も存在するのでは? と言いたいのだな?」

「そう。とくに男の傭兵とか、あまり雇わなさそう」

「うむ。雄は避ける傾向にある。そして、レベッカの言う通り、そのようなプライドの高いダークエルフもごまんといる。しかし、そのプライドのせいで、自らの魔導貴族が戦争に負けでもしたら……意味がない。だから、なりふり構わずキュイズナーだろうとマグルだろうとはぐれドワーフだろうと、ダークエルフとしてのプライドを捨てて、使える者ならなんでも使う。使い捨てとなる場合が多々だが、そこは魔毒の女神ミセア様が好む展開となるだろう」

「そっか、人族の大貴族とか大商人と近いかも」

「そうだ」


 そう発言したヴィーネを見て、バーレンティンにも視線を向けつつ、


「キュイズナーの一部も自らが傭兵のような活動をしているのか?」


 そう語ると、ヴィーネは頷き、


「はい。外部傭兵として優秀なキュイズナーもまた、個性がありますから」


 個性か……。

 意外に話のできる友好的なキュイズナー(蛸頭)もいるってことか。

 今まで遭遇したキュイズナーたちの様子から判断しても、敵としての印象は、拭えないが……認識を改めるか。

 俺の<従者長>となったソロボ&クエマのような貴重なオークたちもいるし……。


 と、俺の手を握っていたエヴァが、俺の考えを読んだのか、


「ん、キュイズナーの中に、善いキュイズナーも居るってこと?」


 と、ヴィーネ&バーレンティンに聞いていた。


「知りませんが、何処かにはいるでしょう。わたしは会ったことも見たこともないですが」

「わたしも実際に見たことはないですが、聞いたことはあります」

「はい、バーレンティンと同じく」

「ないわ」

「ゴレアの酒場で聞いたことがあるぐらいか」

「俺はないな」


 地下に詳しい元墓掘り人たちが、そう語る。


「元墓掘り人たちは、噂だけか。その善いキュイズナーは、いるにはいるにしても、相当レアな存在か」

「興味深い。洗脳が得意なキュイズナー……」

「想像し難いけど、あのフェーンの都市の中に、その善い奴も存在した?」

「……だとしたら、今回のフェーンの戦いは魔神帝国側にしてみたら……わたしたちは侵略者だった?」

「極端に言えばそうなる。けど、敵は敵」

「そうよ。ロルガの勢力は、地下から果樹園に攻めてきたし」

「はい、サイデイルは近くでした。果樹園が落とされていたら、サイデイルが戦場となったはず」

「エヴァはシュウヤのように難しく考えちゃだめ。ただでさえ繊細なんだから……」

「ん、ユイは強い」


 ユイはエヴァの言葉を聞いて瞳を揺らした。

 肩に預けた神鬼・霊風の鍔から、ユイの心臓を奏でるような微かな金属音が鳴る。


 ユイは、微かに首を左右に振るいつつ「ううん、わたしはそんなに強くない」と呟く。


 珍しい動揺だな。

 俺を見て、やや遅れて皆を見る。


 エヴァとレベッカにヴィーネとキサラとジョディは、そんなユイを見て微笑む。

 サザーとフーも笑顔。

 長い舌を伸ばすビアと虎獣人(ラゼール)のママニも同じく笑顔と思われる顔つきで、腕を元気よく上げている。


 そして、安心したような表情を浮かべたユイ。

 小さい桃色の唇が動く。


「……強く見えるのは、シュウヤと、家族が居るからよ」


 と、発言して、ニコッと笑みを浮かべる。

 エヴァは俺の手を離し、優し気な横顔を見せながら、ユイの手を握る。

 そのユイの耳元で何かを告げていた。


 大和撫子の雰囲気があるユイ。

 穏やかな表情を浮かべて「うん、ありがと」と頷く。


 ユイは元暗殺者だからな……。

 ユイなりに悩みがあるんだろう。


 そこに、


「わたしはネームス!」


 野太い声のネームス。

 逸品居の店が用意した酒を樽ごと豪快に飲む。

 肩の〝楓〟という漢字から、ネームスの精神は女性だと思うが……。


 声はネームスだ。

 そして、胴体からヘルメのような水飛沫が発生して、周囲に虹を作ると、その胸元付近から、真っ赤な花が咲いた。


「ネームスの胴体から、また花が咲いたぞ」

「わぁ」

「匂いは、あれ、臭くない?」

「芳醇?」

「本当です!」


 逸品居の一角を占領する皆が、ネームスを囲う。

 肩に居た相棒も、そんなネームスの肩に移って、


「ンン、にゃ~」


 顎のあたりに生えた枝に触手アタックをくり返していた。


「わ、たし、は――ネームスゥ!」


 と、ガッツポーズをするネームス。

 天井は高いから大丈夫だったが、机と周囲の床が揺れる。


 モガ、フー、ビアが笑いつつ酒をがぶ飲み。

「我の主! 蛇人族(ラミア)の姥蛇ジィルの秘宝は使わないのか?」


 一瞬、そのアイテムの形を思い出したヴィーネたちが動揺。

 ユイとジョディは俺の股間をチラッと見て、視線を泳がせる。


 俺も少し動揺した。

 腰は振らない。


「……使わないから、酒を楽しんでおけ」

「うむむ……ならばホルテルマの蛇騎士長の封窯なら大丈夫だろう!」

「あれかぁ……リザードマンの首を滝壺に漬ける条件があるようだが、その蛇騎士長を使役できるとか」

「そうだ! だから、我らが西のサイデイルの砦で敵を蹂躙したのち、東の秘境に向かうのだ。スポーローポクロンの故郷に……」


 興奮したビアは、片腕をあげる。

 蛇のような長い舌が、口から微妙に伸びていた。


「そして、グルドン戦役を起こした六腕のカイを倒そうぞ!! ママニも、我らの隊長も強く望むはずだ!」


 ママニを見ると、厳しい顔つきだ。

 その虎獣人(ラゼール)としての顔のママニは、


「……ビア。気持ちは分かる。しかし、我らは光魔ルシヴァルの<従者長>なのだぞ。サイデイルにはルシヴァルの紋章樹という、我らの名が刻まれた偉大な紋章樹がある。光魔ルシヴァルの種族が強まる偉大な樹木……だから、故郷は、もう、東方ではない。サイデイルと認識すべきだ」


 ママニ……。

 血獣隊隊長が板についたな。


「ママニ。ルシヴァルの紋章樹は、大切だ。確かにその通りだが、今度、フォロニウム火山に向かう予定がある。だから、その際は、血獣隊もついてくればいい。その東に出たところで、蛇人族(ラミア)の秘境も見てみよう。カイと遭遇したら戦うかもしれない」

「はい!」

「おお」


 ママニとビアは喜ぶ。

 フーとサザーは、互いのゴブレットをぶつけて笑っていた。


 アラハとオフィーリアにポロン。

 ツラヌキ団たちも美酒を楽しむ。


 俺は美人さんたちを見る。

 少し遅れて合流した元姫様のセリスとジュカさんも酒を飲んでいた。


 大柄のロゼバトフが、元姫様のセリスに巨大な杯を渡そうとしている。

 ジュカさんは微笑みながらその様子を見て、キサラに手を振った。


「ジュカ! ロターゼの気配もあります」


 警邏から戻ったようだ。


「上かな」

「はい、シュウヤ様、お帰りなさい~」


 と、ジュカさんの言葉に笑顔を向ける。


 一方、ロゼバトフに、巨大な杯を勧められて、遠慮気味の元姫様。

 苦笑顔のセリスは逃げるようにキースとオフィーリアの背後に移動。


 サザーとアラハが笑いつつ互いにゴブレットを突き合わせ、遅れてママニとトーリにサルジンが混ざる。


 バーレンティンとスゥンさんは渋い表情のまま、端っこで、酒を片手に立っていた。


 エヴァ、レベッカ、ユイが楽しそうに話を繰り広げている。


 ヴィーネとキサラは俺の横。

 少し背後にクナが居る。


 ロターゼが戻ってきたように、外も騒がしい。


 ハンカイとデルハウトは、まだのようだ。

 エブエも見かけない。


 蜘蛛娘アキは居た。

 子供たち数人に囲まれている。

 金色の髪に綺麗な女性の人族だし、メイド衣裳だから、人気が出るのも頷ける。


 異獣ドミネーターも居た。

 傍には、サナさん&ヒナさんも一緒だ。


 ムーとアッリ&タークの子供たちに、オークのソロボ&クエマも居る。


 その子供たちは、さっきまでサイデイルの城郭の内部に居たはずだが……。


 隘路を伝って、この城下街に降りてきた?

 ぷゆゆと、バンジージャンプの遊びをしていたルッシーも一緒。

 子供を運んだのは、ルッシーの仕業かな。


 今も足下から、血の滴る樹の枝を無数に作り出している。

 その枝の力で、子供たちを運んだのかもしれない。

 ルッシーは、地味に神々しい。

 紋章樹の幻影をバックに浮かばせていた。


 レベッカ風の、片手を腰に当てつつ偉そうな態度で、もう片方の腕を伸ばして、子供たちへと指示を出す。

 指示を受けた子供たちは、えいえいおーっと叫んでいた。


 達磨さんが転んだ?

 と、石ころを蹴る遊びが合体したような……。


 子供が好きそうな遊びを始めていく。

 イモリザの第三の腕がピクピクと反応。


 イモリザも混ざりたいようだが……。

 ここの戦力は十分。

 暫くは、俺の第三の腕として活動してもらおうか。


 遊ぶ側にゴルっちの姿もあった。

 傍にぷゆゆも居る。

 ぷゆゆは、枝葉が全身に刺さって傷だらけだ。

 頭部と尻の毛に、血がこびりついていた。


 バンジージャンプを、派手に失敗したのかな?

 墜落でもしたのか。


 あ、単なるルッシーの血かも。

 血のシャワー的な悪戯を、浴びたのかもしれない。

 ぷゆゆも天然の悪戯マシーンだからな……。


 そのぷゆゆと、ゴルっちは、見つめ合う。

 ぷゆゆは杖を掲げた。


 杖の先端は、前と変わらず、謎の小さい恐竜が付いている。

 キサラの胸元の衣服を裂いた恐竜だ。


 巨乳さんをポロリさせた、優秀な小さい恐竜。


 俺の視線に気付いたキサラ。

 恥ずかしい思い出が蘇ったのか……。


「……もう」


 と、呟きながら、絹のような細い白眉を寄せる。

 そして、ノースリーブ衣裳の胸元を片手で押さえた。

 指の間から溢れる巨乳さん。

 そして、掌が巨乳さんの形をより顕わにする。


 素晴らしい。そのキサラに向けて、


「キサラ、ぷゆゆにお仕置きするか?」

「いえ、ぷゆゆちゃんの好きなようにさせてあげてください」


 と、俺の冗談にふふっと微笑みを浮かべながら言葉を返してくる。

 その女性らしいモナリザ的な微笑みと、仕草に、俺は強く惹かれた。


 が、ぷゆゆを注目。

 その小さい恐竜から、蝶々の群れを出す。


「ぷゆ? ぷゆゆっゆ~ん!」


 と、ぷゆゆ語で、蝶々の群れをゴルっちに自慢。


 あのニカッとした表情が小憎たらしい。

 真っ白い歯並びの異常にいい歯も、可愛いが、なんかムカつく。


 ゴルっちは、元亜神としてのプライドが刺激されたようだ。

 翅を、ばたつかせてぷゆゆの蝶々に抵抗。


 奇妙な構図だが……。

 バンジージャンプとはまた違う遊びが始まっていく。


 ネームスの肩に居た相棒が、一瞬、その外の遊びに気を取られていた。


「相棒、遊ぶか?」

「ンン」


 喉声のみ。

 我慢するようだ。


 黒猫(ロロ)は、俺の頬と耳朶に尻尾を当ててくる。

 逸品居に視線を戻した。


 しかし、血文字が宙を行き交う様子は、ルシヴァルならではだな……。

 他の客がいようが、構わない皆だ。


 メルとベネットとヴェロニカとミスティに、カルードの血文字も、あちらこちらに浮かび消える光景。


 紅虎の嵐たちの血文字もある。

 ルシェルとベリーズの血文字は美しい。

 メルっぽいかな。

 サラは普通。

 ブッチは乱雑だ。


 紅虎の嵐の血文字報告は、旧神ゴ・ラード勢力に関することだった。

 地図を作っていると、蜻蛉モンスターと戦っていた古代狼族の小隊と遭遇。

 その古代狼族の小隊の助太刀に入って戦いに勝利といった内容。


 メルとベネットは闇ギルドの血生臭い内容。


 ミスティは、この間の続きだった。

 魔法学院ロンベルジュの校長と面談。

 今さっき、愚痴のように話をしていた、校長に休んでいた期間の説明を無事に終えたようだ。


『マスター、これから魔導人形(ウォーガノフ)の補強用パーツのために、銀船のエンジンとパーツの模倣に挑戦するから』

『おう』

『それと、ゾルの家の魔命を司るメリアディの魔法陣についても気になるんだけど』

『暫くは放置かな、今は、目の前のことに集中しろ』

『そうねぇ~』


 次は、レイ・ジャックが率いていた銀船のクルーと仲良くなったことや、工房での実験話に移る。

 とくに銀船のエンジン担当のリサとは性格も合うようだ。

 新しい素材作りに生かすための、基礎魔力実験もするとか。

 クナの回復薬作りに効果のあった黄金酒を用いることを考えているようだ。


 ララーブインで仕入れた新しい素材と、新魔導人形(ウォーガノフ)のゼクスの心臓部のコアが反応を示す実験も行うとか。

 白皇鋼(ホワイトタングーン)を試して、アキちゃんの蜘蛛糸の反応も試す。 

 伸縮自在の素材だから、云々……と長い血文字に発展。

 続いて、斥力のない魔力と斥力のある魔力の衝突実験についての詳細なデータ資料を見ているのか、血文字が浮かんできやがった。


 『ニュートンのゆりかご』的な魔実験と……。

 反発係数に、質点と魔質量に速度の運動エネルギーを測る魔実験。


 ミスティは、レイの銀船エンジンから一種の可逆機関的なことを思考しているようだ。

 ゼクスに応用が可能だと息巻いて、一瞬、鼻血が出たらしい。


 『ルシヴァルの血だから、血を操作しただけだけどね』


 とか、落ちがついた。


 だが……。

 エネルギー保存の法則が微妙に異なる世界だと思うし、俺には難しすぎる。

 ついさっき難解な血文字の交換をしたばかりだってのに……。


 これまた長々とした血文字だ。


 エヴァがミスティの難しいことを理解しようと、一生懸命に質問しながら血文字を送っている。

 レベッカは、


『意味がわかんない~』

『バルちゃんのおしっこで変化した金属は~』

『七不思議の禁忌の秘密部屋と、闇に関する調査と、上級顧問のサケルナートのことが、気になる』


 と聞いていた。

 魔法学院ロンベルジュにある、秘密の部屋か。

 ま、今後のミスティ博士とレベッカ探偵ちゃんの活躍に期待しようか。


 ヴェロニカは、不思議な女性のドワーフについて聞いてきた。

 ペルネーテの武術街でよく見かけていたぐらいだが、ヴェロニカに話しかけてきたようだ。


『シュウヤに用があると、会いたいと』

『へぇ、さっきは言わなかったが』

『うん、忘れていた。というか、今さっき、シュウヤの屋敷に戻った時にも正門の前にいたからさ』

『それで思い出したのか』

『うん』


 ペルネーテに戻ったカルードからの血文字もあった。


 メルと会談を終えると、武術街の屋敷に戻って、暇そうにしていたアジュールと合流。

 ゾスファルトとアジュールの模擬戦の様子を、堅苦しい武器解説の血文字で始めていく。


 <啄木鳥>の妙から間を保つ歩法。

 <流卒>を加えることが可能となる剣術技法だったが……。

 腕の『曲池』に魔力の溜まりを作り魔筋肉を〝少し〟だけ活性化させる。

 赫機を生かし、敵の『神封』と『幽門』の位置を機敏に狙う云々は……剣術として参考になった。


 ただ、その少しが難しい。


 そんな血文字が空中を行き交うカオスだ。


 だが、血文字を止めたレベッカの、美しい蒼炎に癒やされた。

 少し酔ったような面のレベッカ。


 しかし、彼女が描く……蒼炎絵画は素晴らしい。


 移り変わる自然絵画。

 アニメーションとなった。

 蒼炎の馬たちが躍動して宙を走る。

 そこに、ロロディーヌをモデルにしたような蒼炎の馬が登場して、周囲の馬たちを率いていく映像だった。


「にゃおぉぉぉぉ-ん」


 肩のロロディーヌも興奮している。

 首から触手を出して、蒼炎の馬たちを追い掛けていた。

 両前足で拍手でもするように、後脚立ちを行う。


 相棒が興奮するのも分かる。

 その蒼炎のアニメが、逸品居の一階を明るく輝かせていった。

 これは他の客たちも唸り声を上げる。


『素晴らしい~』

『妾もあの中に入って、馬たちを追い掛けたい』

『追わないでいい』


「すげぇ」

「お~燃えないのに燃えている~」

「奇術師?」

「魔法使いの新しいスキルだろう」

「それにしても綺麗だなぁ」

「王国主催の晩餐会とか、あんな芸人たちが集まるんだろう?」

「ちょっと~? わたしは芸人じゃないからね」

「蒼い炎を操る力かぁ~」


 皆、レベッカを讃えた。


「おら、こんな能力者は久しぶりに見る」

「おれは初めてだ……動く絵なんて生まれてから一度もない」

「そういえば、俺もだ、この美しい蒼い炎が模る世界は、絵なのか?」

「吟遊詩人どころの話じゃねぇ!」


 そこでキサラがダモアヌンの魔槍からフィラメントを出す。

 ギターと化したダモアヌンの魔槍。

 キサラの歌が始まった。


 歌詞は、ルシヴァル一行の冒険譚。

 地下世界に向かい、黄金道で辿り、ロルガ討伐を成し遂げる。


 俺も正義のリュートで参加したくなったが、魔煙草を口に咥えて、聴き入った。


 そして、アドゥムブラリを出して火を付けようとした時……。

 ヴィーネが専用の魔道具で、俺が口に咥える魔煙草に火を付けてくれた。


 気が利くヴィーネ。

 頬にキスしてあげたら、俺の肩に寄り添ってくれた。

 エヴァとレベッカにユイが、叩きにきたが、俺は逃げるように柱に移動。

 暫く、そこで魔煙草を吹かせながら……。


 その皆が楽しく過ごす様子を眺めていった。

 すると、バーレンティンとサルジンから酒を勧められる。


「悪いが、酒はいい。そもそも、絵に閉じ込められていた女性と会いにきただけだ」


 と、断った。


「ん、助かった女性は起きているはず」

「エヴァたちは、挨拶したのかな」

「少しだけ、フルーツを持っていってあげた」

「俺も挨拶しよう、治療できるかもしれない」

「ん、一緒に行く」


 俺とエヴァとヴィーネとクナとユイとレベッカは、逸品居の二階に向かう。

 キサラも喧騒から外れて共に螺旋状の階段を上がる。


 そのキサラとレベッカとエヴァとヴィーネとユイは、ダークエルフの文化の話をしながら、俺のあとから続く。


 二階は健やかな風を感じて涼しい。

 天井のクリスタルの粒で構成したであろう札が明るい。

 あのクリスタルの札は、バング婆が作った?


 蔓が絡む太い樹を中心に細い樹がメッシュ状に広がって独特の壁を構成している。

 ところどころが、半透明という不思議さ。


 その半透明な壁の外を蜘蛛娘アキが登っていた。

 この壁の素材は亜神夫婦が提供したのだろう。

 太い樹木は、ロターゼ&ロロディーヌ&ネームスが用意、加工したものだろうな。


 絹系のカーテンが風を孕む。

 優し気にふわりと持ち上がるさまは、一種の癒やし効果がありそうだ。


 魔力を発する植木もいい感じだ。

 小さい葉の葉脈は輝いている。


『千年ちゃんはちゃんと育っているでしょうか』

『ペルネーテの屋敷はメイド長のイザベルに使用人のミミもいる。アジュールが魔力の種を食ってなきゃ、ちゃんと育っているだろう。ま、うるさそうだが』

『ふふ、はい』


 ヘルメと念話しながら、部屋の端を確認。

 本棚と隣接した大きな寝台が並ぶ。


 その寝台の背もたれに寄りかかる女性がいた。

 女性は俺たちに気付く。


 彼女が、絵の中に閉じ込められていた女性か。


「クナさんに、皆様……あ、」


明日もアップ予定です。

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漫画版最新刊「槍使いと、黒猫。2」2020年6月27日に発売。

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