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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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五百四十八話 クナの治療と秘密基地

 常闇の水精霊ヘルメが反応した。ホルカーの欠片も揺れる。


「これは……閣下の<白炎仙手(しろひげあたっく)>の出番ですね。では、水で囲います」


 そう語ると全身から水を放出する。水は放物線を描くと薄い膜を形成しながらカーテンの内側に展開し、狭い範囲だが俺たちを囲う。

 俺もキサラも裸のクナもヘルメの水の膜の中に入った状態となった。

 同時に、その水の膜がせり上がる。その盛り上がったモノはヴェニューたち。

 上半身だけで腹筋をやるようにヴェニューたちが生まれ出てくる。

 『おきたー』と声は聞こえないが元気な妖精ヴェニューたち。

 姿は違うが映画の『スマーフ』かってぐらいに可愛い。

 小人や水の妖精のようなヴェニューたちは指先から水を出す。

 水は瞬く間に水溶性のハンガーとなった。

 続いて、ヴェニューたちはクナが脱いだ紫色を基調とした魔術師ローブを掴むと、その水溶性ハンガーにかけて、クナの他の衣服も装着していく。

 しかし、魔点穴を突けか……膿んだ傷の中心にある穴は魔点穴。

 その穴という穴から傷という傷から禍々しい魔力と一緒に膿が排出された。


「膿んでいる酷い傷だ。これでも錬金の薬は効いているのか?」

「はい、よく効いています。しかし……分身体とゾルがわたしを弄んだ結果ですからね」


 そんな状況下でよく耐えられたな。

 助けた時も俺を試すような口振りだったし、相当、精神的にタフだ。


「……どうしたらこんな傷になるのかが不思議なぐらい酷い傷だ。しかし、不思議と生命力がある……」

「視力がある程度回復しているように、わたしは優れた回復系のスキルを持ちます。しかし、その一番の要因はシュウヤ様との魔印心臓との契約が成功したことが大きいかと」

「あの時か……」


 シュヘリアやデルハウトとは、また違った……。

 魔族クシャナーンだからこその契約だった。

 クナの巨乳に魅了されるように乳首さんと胸の魔印に指を当てようとした時……。

 その胸の皮と肉が撓んだ。ぱっくりと開いたんだ。

 あれは驚いた。その裂けた胸元から……。

 クナは、腐食しながらも辛うじて動いていた心臓を露出させた。

 その心臓に俺は魔力を送り、光魔ルシヴァルの魔印を刻んだんだ。


「シュウヤよ。先も話をしたが、皆の前でオフィーリアの白色の紋章魔法を外せるか試す時も、シュウヤと契約した時も、クナは自らの命を賭していた。毎度、毎度、助けたシュウヤに命を捧げようと、死ぬつもりだったようだ。本当にふざけた奴だ!」

 ハンカイの怒った声が響く。

「ハンカイ。ふざけた奴でごめんなさいね、いつかまた騙してあげるから♪ ゴホッ」

「……おい! まだ死ぬな。俺が殺すまで生きていろ」

「大丈夫よ。シュウヤ様と精霊様とキサラちゃんに助けてもらう♪」

「……そうか」


 ハンカイとクナか。

 互いに反目し言葉もいがみ合っているように感じるが、ある種、通じ合う仲か。


 憎しみを超えた縁……じんわりとした愛を感じる。血を吐いたクナは……。

 肩を縦に揺らし笑っていると分かる。

 カーテン越しだから見えないがハンカイは心配そうな面でも浮かべているんだろうな。


 と、考えてから、そのクナの背中の生々しい傷と魔点穴を見て、


「ゾルはやはりシータのための素材として利用していたことは分かるが、問題は分身体のクナか」

「その通り。二人は〝陰魔吸霊具〟と〝吸霊の蠱祖〟等、無数のアイテムも使っていました」

「兄さん……」


 カーテンの向こう側からミスティが呟く。

 その声が聞こえたのか、クナが、


「正確に言うと吸霊の蟲祖はゾルの作り上げた人造オートマタ(シータ)に使ったタイプではないわ~。壊れやすいから、その中身の一部だけかな」


 ミスティや皆に聞こえるように声を発していた。


「中身か、吸霊の蟲祖の素材を分離させたと?」

「はい。その分離させた〝蟲祖〟と、わたしが前にホルカーバムの地下街(アンダーシティ)の闇市で手に入れた〝脾臓魔蟲〟と血印臓樹(ガドセル)の一部を流用しつつスキル<陰絶綿魔印>を内臓に用いた実験でした」

「……」

「骨が腐って折れて痛かった♪ そして、今も、排出が続いている、その膿こそ、特別な錬金の薬が効いている証拠なのです」


 マゾになるのも頷ける。これでも効いているのか。

 しかし、魔蟲とはいやなワードだ。

 カレウドスコープのスキャンでは分からなかったが……まさかな。

 助けた当初、クナは……。


『超えていた。わたしも魯鈍(ろどん)だったせいもある。気付いたら分身体に邪神ヒュリオクスの眷属がとりついていたようだし、その干渉によって、わたしを裏切ったんだと思う。邪神の指示もあったと思うけど……秘蔵のアイテムを使いゾルと協力して、わたしを閉じ込めて、いたぶり(・・・・)続けてきたわ』


 ……と過去に語っていた。


「……蟲祖と脾臓魔蟲と血印臓樹(ガドセル)の三つのアイテムは、頭とか首に取り憑くタイプの蟲とかではないよな? 邪神の蟲系のように意識に介入するとか……」


 と、邪神ヒュリオクスのことを指摘。


「ご安心を。邪神ヒュリオクスに負けた分身体とエルフの<従者長>ではないのです。闇尾の魔術師は柔ではない♪」

「わ、わたしのことですね。ご主人様……そんな奴を……」


 フーは不満そうだ。が、それは俺もだ。


「クナ、カーテン越しにいちいち挑発するな。昔は昔今は今。フーは俺の大事な眷属であり家族だ。前にも注意したが、今後、舐めた態度を見た場合……二度はないと思え、お前の心臓契約を握り潰す」

「は、はい、わたしの心臓を潰してくださる!」

「ふざけたノリに付き合う気はない。カルードにも矛を向けて無駄に争うな。理解したか?」


 魔力を発しながらクナに語った瞬間、クナは背筋を伸ばし体を震わせる。恐怖したか、喜んだのか、吐血した。


「ァァ……はい!」

「ならいい、その蟲祖と脾臓魔蟲と血印臓樹(ガドセル)を用いた実験はどんな目的だったんだ?」

「最初は、わたしの魔素と内臓を喰らい魔力細胞の変化を促すことを前提とした実験です」

「それで?」

「一つは蟲祖で魔力内包量の増加と人族の女性がどのように作用するか相性実験、職の神レフォトに干渉するための粘液を作り出すと語っていました」

「二つは血中の魔力濃度と魔力因子の結合具合と内臓素材の流用実験」

「三つは血印臓樹(ガドセル)を体内に移植。そして、禍々しい無数の神々と精霊に干渉する魔法力の〝式識〟の息吹に対する魔族クシャナーンとしての耐性がどの程度あるかの実験」

「四つは脾臓魔蟲の移植」

「まだまだ、ありますが……」

「ゾルも魔法ギルドに所属していた優秀な魔術師だったからな……次も頼む」


 この際だ、聞いておく。


「分かりました。分身体が自身の魔法限界能力を引き上げようと狙ったのでしょう。分身体とわたしは微妙に身体の構造が異なります。だから念のため自分の体内に取り込む前にまずは……と、似ているわたしの身体で実験を繰り返し、使える素材&内臓に進化したならば、その臓器ごと進化した素材を取り出し自身の体内に移植、或いは糧として利用していたようです。使えない場合は、わたしを弄ぶようにわざと毒として体内に残しました」

「酷いな……」


 だから、この傷か。


「……更に、わたしの頭部にも、邪神ヒュリオクスの蟲を侵入させようと分身体は試みましたが、ゾルがそのことに気付き、シータの素材としての流用に問題を起こすとまずいと考えたのか、自然と邪神の蟲を阻止するようにベルバキュのコアという貴重な魔導素材の一部と光系ポーションを混ぜて、偽装した魔導薬を、わたしの頭部から頸椎にかけ注入してくれました。そのお陰で、邪神の侵入を防げた」


 ゾルか。まさにシータのための行動。

 元はといえば、死んだ奥さんを再現しようとしたことから始まったからな。

 ユイを助けて、ゾルとシータさんと戦った時の裏ではそんなことがあったのか。

 しかし、クナの話の理解は難しい。

 魔法と錬金術のミスティタイプと理解しておこう。


「そうか、分かっているが、直に聞くと安心する。で、<白炎仙手>で突く前にアイテムボックスに保管してある〝聖花の透水珠〟をかけてみるか?」

「神界系のお薬なら遠慮しておきます」

「これは神界系だ。ホルカーの大樹と司祭の力で作られた薬、メリッサの欠損を完璧に癒やした薬でもあるからクナにも効くかと思ったが」

「少しは効きます。わたしは人族の血も入っているので回復は望めます。しかし、大本は魔族の〝クシャナーン〟です……相性もありますから」

「魔族と相性か。今のクナの見た目は人族。分身体は変身していたが、あれが本当の姿なのか?」


 俺を魔迷宮の牢屋に入れた分身体の偽クナは、もろに変身していた。


「本当の姿はそれぞれですよ。どれもがクシャナーン。ヤーグ・ヴァイ人のような力はありませんが人族の姿もクシャナーン。魔族の姿もクシャナーンです。そして、分身とゾルに取られた臓器以外にも実験台とされた穢れた魔印と脾臓がわたしの体内にあります。そんな現状の身体だからこそ……強烈な神界の秘宝薬では危ういのです。たぶん、飲んだらサクッと死にます」

「薬も色々あるのか。秘宝級だからこそな面もあるのかな」

「はい、モンスター用のラデランの応力錐(おうりょくすい)を注射したらと先ほど話がありましたが、そのような血管の破裂で済めば、まだましです♪ うふ♪ となる死に方になることは確実です♪ どうせ死ぬならシュウヤ様の役に立って死にたいので、その薬はかけないでください♪」

 血管の破裂で済めばまだましって……。

 だからこその錬金素材の組み合わせが重要だったのか。

 ミスティとレベッカとクナの合同作業。

「単体で、欠損を癒やすほどの秘宝クラスの薬だからこそ、逆に危ないのか」

 副作用は怖いな。

「はい、人族でなおかつホルカーの側で育った者なら絶大な回復効果が望めるでしょう」

 それも相性ってことか。メリッサはホルカーバム出身かあそこで育ったからこそ。

「死ぬかもしれないという理由の一つには、やはり魔族のクシャナーンだからってのもあるのか?」

「いえ、魔族という一括りだけで判断はしないほうがいいです。光に耐える吸血鬼が居るように魔も多種多様。人族でも光属性に触れて死ぬ病気〝死天使〟〝光河咎〟〝光瞑巣〟と、無数にありますからね。そして、メファーラ様が嫉妬し、王樹キュルハのお香と光神ルロディスを好むという酔狂な黒魔女教団を作った髑髏武人ダモアヌンの魔族たちもいるように……」

 クナがそう喋ると、隣に居るキサラが、

「……遙場ありテ遠きかな、中道をゆく燻り狂えル砂漠烏、炯々に燃えゆク槍武人ダモアヌン、暁の魔道技術の担い手<光と闇の運び手>を探し、神ノ恵みを顧みない魔人と神人を貫きテ……法力の怪物に敗れしも、尚もセラをも貫くさんとすル」

 カーテンの向こう側から見ているだろうジュカさんも口ずさむ。

 微かな歌声を重ねていた。

「美しい声。何回聞いてもいい声♪ そして、本来は魔と光は相知れぬモノでもありますが、だからこそキサラ様とジュカちゃんが、シュウヤ様を救世主と呼び信奉する理由ですね」

「褒めてくれて嬉しく思います。しかし、光を得た魔人ダモアヌン。酔狂で黒魔女教団を作ったわけではないはずですが?」

「ふふ、あくまで魔族クシャナーンとしての意見ですよ」


 キサラは少し視線を強めてから俺に視線を寄越す。


「シュウヤ様はホルカーバムの大樹を再生させたのですね! 素晴らしいことです」

「にゃお」

「ニャア」

「ニャオ」

 とリサナに相棒と黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)の声がカーテンの向こうから聞こえてきた。水の膜越しだから、少し音程がオカシイ。

「ロロたち、こちらにくるなよ」

 と、カーテンに向けて爪研ぎをする前に注意した。

「ん、ロロちゃん! 押さえたから大丈夫」

「押さえたというより、エヴァの太股を占領?」

「ん、そう! 大好きロロちゃん!」

「にゃ~」

「か、かわいい」

「……わぁ」

「なでなでしていい?」

「だめ~! わたしがなでなでするー」

「次はわたしの膝上にきてほしい」

「ボクもなでたい! ロロ様ァァ!」

「僕もさ! ところで、君もボクなんだね。サザー君」

「ラファエルさん、サザーは女の子です」

「え?」

 ラファエルとサザーの姿は見えないが、面白そうな雰囲気だ。

「ふふ、ロロ様! こっちです!」

「ンン」

「黄色い猫ちゃんを捕まえた!」

「黒と白のヒュレミちゃんが、窓の外に出て逃げちゃったァ」

「あぁ、トニが無理に触ろうとするからよ! アラハお姉ちゃん、しかって!」

「あ、アキちゃんが追い掛けていった!」

「クナ、ドコ! 血ノ臭い!」

「あ、ガラサス――動くな」

 向こうは向こうで騒がしくなる。クナの背中を見て、

「で、治療の一環で、俺が<白炎仙手>を用いて、この魔点穴を突くといっても……どこをどう突けと?」

「まずはキサラ様の<透纏>が必要です」


 <透纏>?


「そうですね」


 キサラは知っているようだ。魔察眼でクナの魔点穴を凝視していた。

 キサラは自身の丹田に魔力を集めている。

 <魔手太陰肺経>を発動しているようだ。


「俺はその<透纏>は覚えていない。キサラから習い途中の魔手太陰肺経を少し囓った程度だ……拳なら<ザイムの闇炎>と蓬茨魔拳流の<蓬茨・一式>というスキルが使えるが、その二つのスキルを使う拳をクナの背中に打ちこんだら……」

「うふ、シュウヤ様に突かれて死ヌ……ブァ――」


 興奮したクナは血を鼻や口から盛大に吐いた。

 ヘルメの水の膜に触れたクナの血は蒸発したような音を立て、清らかな綺麗な血になっていく。その間にも薬の効果によって魔点穴から膿のようなモノが排出されていた。


「おい、クナ!」

「は、はは、大丈夫です」

 血を吐いても、笑っているクナ。

 すると、ヘルメが水膜に掛かった血を自身の身体に吸い寄せていく。

「一応、血をストックします」

「穢れた血ですが、さすが精霊様の水です、一瞬で浄化するとは……そして、シュウヤ様……拳でなく! 優しく(・・・)してくださいませ……きゃっ」

 クナは厭らしい口調で語った。

 その瞬間、ヘルメから水鉄砲を顔にあびるクナ。

「まったく呆れますね。今、血を吐いたのですよ。大人しくしなさい」

「精霊様、すみません。シュウヤ様のことを考えたら、つい、気を付けます。では、キサラ様<白照拳>系の秘奥技術集<白魔伝秘孔指>をシュウヤ様に、最後は精霊様のお力を期待しています」

 クナは水膜の動きを見つつ語る。

「はい、お掃除は後ですね」

 そう語るヘルメは水膜を操作したのか、小さいヴェニューたちを表面に出していた。

 打ち出の小槌と宝珠と巻物が括り付いた杖に桃と団扇を持つヴェニューたちが多い。

 しかし、クナの語った<白魔伝秘孔指>は初耳だ。

 <白照拳>は模擬戦の時に何回も喰らった、<透纏>も格闘戦で使っていたな。

 キサラは俺の視線を受けて、

「魔手太陰肺経と天魔女功について話はしましたが……」

 クナに視線を向ける。

「ダモアヌンといい、天魔女功を知っていたのですか? 実は掌法格闘ができるとか?」

「少しだけ聞きかじっただけです」

「……砂漠地方の武術家の方ならいざ知らず、魔術師のクナさんが、治療に用いることが可能な知秘孔のことを知っていることが驚きです」


 キサラの言葉を聞いて「ふふ」と笑うクナ。


「わたしの魔迷宮の部屋にまだあるはずの月霊の鏡で、特別な(・・・)杖を使って色々と見ることもできますから」


 特別な杖? アイテムボックスにある杖のことか。


「理由があるにしても……博識ですねクナさんは」

「ありがとう。シュウヤ様はヘカトレイルのお店を見ていらっしゃるのでお分かりかと思いますが、わたしは様々な物を集めることが好きなんです♪」

「クナを助けた時に一度聞いたように、魔迷宮の隠し部屋へと転移が可能な、転移魔法陣は、まだ使っていない。店の内部なら、ある程度物色した」

「手紙も恥ずかしい書物と本もあったかと……」


 他の闇ギルド宛てとか、他にもあったが散らかっていた。


「確かに、色々あったな」

「ふふ、それ故、魔女のお話は色々と知っています♪」

「キサラの話とか?」

「はい、他にも〝魔杖ビラールと使い魔グウの物語〟〝古い魔女と新しい魔女たちと戦う魔術師たちの物語〟〝旭ノ魔拳抄〟〝徒然の魔女リアウルゴンの物語〟などなど、たくさんのお話を読んだことがありますから」

 ヴィーネから聞いた本の名だ。

 ペルネーテで言語系書物を探し買った中に〝古い魔女と新しい魔女たちと戦う魔術師たちの物語〟の本があった。ペルネーテの自宅で読んでいたっけ。

 というか本に載るほどの存在がキサラということになる。魔術総武会も色々だ。

 とキサラを見ると、微笑んでくれた。


「ただ、地下道で通じた施設に居た魔物たちは派手に逃げたぞ」


 マバオンもその時に解放した。


「うふ。プレセンテ魔獣商会ですね。貴重なハイセルコーン種族はシュウヤ様に献上したかった」

「あれなら逃がしたぞ。ゴールドグリフォンはグリフォン隊のセシリーが褒美として得ていたな」

「……取り返してシュウヤ様に捧げます」

「いや、いい。あの時点で領主が動くほど大騒動となっているんだ。だから、クナの店は王国兵に押さえられていることは確実だろう。魔迷宮に向かう転移魔法陣も押さえられている可能性が大」

「罠があるので使えば普通は死ぬと思いますが、ヘカトレイルへの転移陣は別にありますから、後ほど皆様をサイデイルに送って、アルゼの街に貴重なアイテムを返還後、転移陣からヘカトレイルに向かいますか?」

「やはりあるのか」


 んじゃ、ゴウールの鏡はここではなく、その転移陣のある場所に設置かな。

 後で鏡は回収しよう。


「はい、王国を潰しにいきましょう」

「冗談に聞こえねぇ。俺は冒険者の立場を忘れていない。オセべリア王国と表向き(・・・)に事を構える気は現在はない……そして、俺に内緒で()勝手(・・)に動くな」


 ヴィーネとユイとカルードに目配せしてから、今回のことを暗に告げる。


「ふふ、はい」

「よし、アルゼの用を済ませた後に頼むとしよう」


 さて、治療を開始するとして……。


「んじゃ治療を開始しようか。キサラ、指示を頼む」

「ハッ、最初は〝命門〟です。腰の下辺りにある魔点穴。次は両脇の極泉穴(きょくせんけつ)。青霊に続いて、最後に仙骨裂孔を突きます」

 キサラは魔力を宿した指先でクナの背中と両腕の魔点穴を指していく。

 クナはキサラの言葉と合わせて、両腕をスッと上げた。

 悩ましい腋を見せてくる。金色の毛が薄らと生えていた。

 その腋の中央の窪んだ位置の魔点穴が極泉穴(きょくせんけつ)

 次が、腕の肘のちょい上辺りが青霊か。

 最後の仙骨裂孔は嘗て尻尾があった位置。


「最後はお尻ちゃんの上あたりですね」


 相変わらずのヘルメだ。クナの尻を輝かせたいようだな。

 少し笑いつつ、格闘系の師匠キサラに向け、

「全部、順番通りに指で突くんだよな」

 と聞いた。

「はい、両脇の部分は同時です。最後の腰の仙骨裂孔は慎重に強く突いてください。そして、周囲の仙骨を丸く押し込む」


 白絹のような髪の毛と眉毛と真剣な表情を浮かべているキサラに対して頷く。

 そして、クナに向けて、


「モルヒネとか痛みを軽減できるのは」

「いりません。さきほどの錬金薬を合わせて作った特製薬に痛みを中和する快楽作用がありますが、元が傷だらけの状態ですからね」

「そっか」


 とりあえず生活魔法の水を出す。

 <仙魔術・水黄綬の心得>を意識。霧の蜃気楼(フォグミラージュ)は使わない。

 戦闘時と同じ、周りだけに霧を生む<白炎仙手>を発動させて、白炎のような白霧の鎧を纏うように、さい範囲に霧を発生させた。外からは、ヘルメの水膜が蒸気をため込んだように見えるかもしれないな。カーテンがあるから見えないが。白霧から白炎を纏う貫手をゆっくりと出していく。指先に纏っている白炎を強めた。

「この指で、順番通り突けばいいんだな」

「はい、わたしが<透纏>から<白照拳>を用いてタイミングを横で指示します」

「おう。やろうか。クナもヘルメもいいな?」

「どうぞ、シュウヤ様、お突いて!」

「はい」

 キサラの貫手の指先が、クナの腰の〝命門〟の位置に向かう。

 キサラの貫手を模倣するように<白炎仙手>の貫手の指先で、クナの魔点穴を突いた。

「アァン」

 クナの感じる声が悩ましいが、すぐに指先を引き抜く。

 クナの魔点穴からじゅあっと音が響く。キサラはクナの両の腋の下を指す。

 俺も両手に纏った<白炎仙手>で素早く、その腋の下の魔点穴を突いた。


「アゥ!」


 ビクッと体を震わせたクナ。

 最初に突いた魔点穴から蒸気のようなモノが噴き上がる。

 魔点穴の周囲の傷が修復されて、穴からヘドロのような黒色の膿が排出。

 次に肘の青霊を突く。クナの腕から魔線が迸る。

 最後はクナの尻尾があった仙骨裂孔の部位を<白炎仙手>を纏う指で強めに突く――。

 その瞬間、クナは「アゥ!?」となんとも言えない感じた声を発して、口からへどろのような黒色の塊を吐く。

 一瞬、内臓のような形の残像が背中に浮かんで見えた気がした。

 クナの体内の魔力が激しく蠢く。

 同時に内臓たち血肉が収着していくことが不思議と理解できた。

 ヘドロのような黒塊はヘルメの水に触れて蒸発している。

 ヘルメの操作した周囲の水がクナを包んでいった。

 浄化かな。そのクナの体の掃除は瞬間的に終わった。


 ヘルメはヴェニューたちの水ハンガーに装着していた衣服をクナに渡す。

 水ハンガーは臭い吸着機能とかありそうで便利そうだ。


「……シュウヤ様と精霊様とキサラ様、ありがとうございました。あとはわたしの力で回復に努めます……カーテンの外でお待ちしていてください」


 と、その場に座禅するクナ。

 両手で円を描きつつ、ヘルメが瞑想を行うようなポーズをとった。

 金色の髪が輝きを帯びながら浮かび上がる。

 明鏡止水といった瞑想術。

 体内から外へと溢れでていく魔力を身体の内へ内へ慎重に抑えるように体内に戻していく。


 キサラとヘルメとアイコンタクト。

 頷いた俺たちは、そっとした動作でカーテンを捲り外に出た。


 皆は見守ってくれていた。

 捕虜を見張るビアと外に出た白黒猫(ヒュレミ)とアキ以外のメンバーたちだ。


 足下にきた黒猫(ロロ)黄黒猫(アーレイ)を撫でてから、そんな皆と小話。

 チーズ系のお菓子は平らげたとレベッカとエヴァから話を聞きながら、クナの回復を待つ。


 ゴウールの鏡を回収。

 暫くして……カーテンが開く。


「……お待たせしました」

「体は大丈夫なんだな?」

「はい。まだくらくらしていますが、歩けます。では、こちらにいらしてください――」


 微笑むクナが歩いた先は、先にヴィーネが視線で怪しいと訴えていた場所。

 そして、壁のオブジェに、クナは指先から魔力波を放つ。

 そのオブジェは髑髏に槍が刺さっているオブジェ。


 壁から外れたオブジェは自然とブローチの形に縮小し、クナの紫色を基調とした魔術師ローブの襟に付く。


 クナは、その仕掛けを隠そうとせず、「ヴィーネさんはすぐに見つけていましたね」と指摘しながら、細い指先の腹で壁の小さい窪みを押す。


 すると、クナのその腕周りの壁が変化した。

 指を押した箇所が中心となって掌のマークに変形を遂げる。

 その掌にクナは自身の手を当て、掌で古い黒電話のダイヤルを回すように右に回した刹那――。


 掌マークが更に一段階壁の奥に機械音を立て、窪む。

 直後、壁に押し込まれたように壁という壁が内側にめり込んでいく。


 邪神の像の下に鍵を差し込んだ時と同じような壁の機動を思い出す。 

 そこのめり込んだ先に……。


 奥行きと横幅の広い階段が出現した。


「下は、特別な入り江に直結した地下会議室があります」

「まさに、秘密基地ってことか」

「はい……では、いきましょうか」


 捕虜を見ているビアを残し階段を下りていく。

 アキと白黒猫(ヒュレミ)も家の外だが、まぁ、大丈夫だろう。


 階段の下のほうに今の今まで感知できなかった魔素が複数あるな。


「ンン、にゃ」

「ニャア」


 足を止めて、振り返る。

 黒猫(ロロ)黄黒猫(アーレイ)が鳴いていた。

 エヴァに頭部を向けているから、話しかけている。

 餌を求めているというよりは、甘えていた。


 エヴァの太股の上に乗っている黒猫(ロロ)黄黒猫(アーレイ)

 エヴァの豊かな双丘さんに前足たちが当たっている。


 エヴァは、甘えている二匹に対して微笑むと、


「ふふ、ロロちゃんとアーレイちゃん! 下の世界に冒険?」


 と、語りながら二匹の片足の肉球を、にぎにぎと、揉み揉みする。

 そんな微笑ましいエヴァと猫たちの様子を階段途中から見上げていると、


「ちょっとぉ? そこからだとエヴァのパンティが見えているでしょう」


 と、指摘してくるレベッカのツッコミだ。


「見えるか見えないかのスカートの黄金比率も大事だが、魅惑のデルタも大事だ。なぁ、ヘルメ」

「いまいち、分かりませんが、はい!」


 ヘルメは俺の肩に頬を寄せてくる。

 レベッカは深追いツッコミはせず、エヴァのパンティを見て、「パンティ委員会会長の言葉ね。でも、あの染めた色合いは初めてかも。新商品をいつの間に……」とか話をしていた。


「ペルネーテのファッションに五月蠅いレベッカ、危うし?」


 とユイが笑いながら発言。

 一歩先に階段を下りる。

 ヴィーネも微笑むが、階段の壁の不思議な模様を観察している。


「……もしや【断罪の雷王】のような住み処に繋がっている?」


 そのヴィーネの背後のバーレンティンがそう疑問の声を発した。

 地下都市も闇ギルドはあるんだよな。


 墓掘り人たちとリサナとキサラ&ジュカさんが続く。

 すると、ダブルフェイスが、


「闇のリストか、癖のある連中のようだが、お前の知り合いでもあるんだろう?」


 ラファエルに聞いていた。


「知っている人物は居るかもだけど、君も知るようにゼレナードの施設の中で過ごしていたからね。メンバーは変化することが多いから。たぶん、僕が知る闇のリストは少数だと思う」

「それもそうか」

「なら、敵対的な者たちも居ることも、想定していたほうがよさそうね」


 エマサッドがそう発言。

 エルザはヤハヌーガの大刃の柄に手を当てていた。

 追っ手が紛れ込んでいるかもと予想しているんだろうな。

 気持ちは分かる。それは考えすぎ……いや、何事も可能性はあるか。

 皆、感想を話しながら下りてくる。

 魂王の額縁に映る摩訶不思議な玩具世界に興味がありそうなナナだったが、それを抑えるようにレベッカとミスティに手を繋がれていた。


 そのミスティの上に飛んでいたヴィーネの金属鳥をアリスが、


「鳥さんも一緒!」


 と、触ろうとした手を伸ばすアリスは階段から転けそうになる。

 腕を伸ばすが、隣のエルザのほうが速かった。ガラサスの左腕が蠢く。

 左腕が伸びた、いや、眼球の触手がアリスを支えてあげていた。

 チンモク君。ナイス。


「――アリスちゃん、大人しくね」


 <従者長>のサザーの声だ。

 ボクッ娘のサザー。

 ガラサスに支えられながら走って下りようとするアリスを注意していた。


 小柄獣人(ノイルランナー)のアラハと仲良く下りてくる。

 オフィーリアと助けた小柄獣人(ノイルランナー)の方々も一緒だ。

 ゼレナードが閉じ込めていた部屋では子供も大人も小柄獣人(ノイルランナー)たちは暢気にカードゲームをしていたが……ツラヌキ団たちと笑い談笑する彼女たちを助けることができて本当によかったと思える場面だ。

 サイデイルで商売を始めるかな、やれることはたくさんある。

 戦闘となったら守るのは当然だが、このメンバーだから心配はいらないか。

 ツラヌキ団のメンバーと談笑するママニとフー。ビア以外の血獣隊が続く。

 その小隊長の虎獣人(ラゼール)のママニが、


「……<血嗅覚烈>で分かるが、数人、下に居る」

「闇のリストですね、クナさんと同じような方だったら嫌ですね」


 フーとクナはそのうちマジで喧嘩を始めそうだ。

 隊長のママニとサザーよ、頼むぞと、視線を送るが、ママニはオフィーリアと会話をしていた。


「捕虜たちが追っていた銀船を操る商会の船長ってどんな方か気になります」

「それはそうと、ママニさんはエスパーダ傭兵団の黄髭の隊長さんですよね」


 ツラヌキ団のポロンがママニに聞いていた。

 そこから狼月都市ハーレイアの通りで俺も見かけたライカンスロープ傭兵部隊たちに話が飛ぶと、自然とライカン王ビダルの話となっていた。

 〝ビダルの烙印〟から死者の百迷宮やら……。

 ママニはエスパーダ傭兵団を率いていた頃の戦場で活躍したライカンスロープたちのビダルやらトマーパの名を出していった。


「黄髭隊長!」


 そう連呼するツラヌキ団たち。


「僕たちも、ママニのことをそう呼んだほうがいいかな?」


 サザーがフーに質問していたが、フーは「ママニはママニ、零八小隊の隊長よ」


 と告げる。その会話に参加せず視線が合ったカルードと頷き合った。

 鴉さんも一緒だ。鴉さんは微笑んでくれた。フェイスベールが似合う。

 エルザの顔の下半分を隠すアウトローマスク系とは少し違うフェイスベールにはセンスを感じた、カルードが惚れるわけだ。

 鴉さんは、元サーマリア王国公爵筋の盗賊ギルドの出だったかな。鴉さんは寡黙だが闇のリストに詳しいかもしれない。

 と、考えながら肩に戻ってきた相棒の頭を撫でていく。

 片耳を指で挟む。少しざらざらした薄い耳を引っ張るようにモミモミしてまた引っ張った。

 相棒の耳を引っ張るたびに、目元が少し伸びて、眼球の瞬膜が白目のように剥けているから可愛い。目頭の白い膜ちゃんだ――。

 さて、耳と頭皮のマッサージを終える。

 と、黒猫(ロロ)さんは『えぇ~おわりにゃお~?』とした目付きを寄越すが、その鼻先に指を当てて『今度な』と言うように、アラレちゃんがうんちを棒で突くようなツンツクツンを行ってから、歩いた。背後の皆の感想合戦に参加しない。

 

 隣のヘルメの腰に手を回して、相棒の可愛い体重を肩に感じながら……クナの黄金の絹を思わせる長い髪を見つめながら階段を下りていく。


明日も短い予定ですが、更新予定です。

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[気になる点] 唐突に思いついたので恐縮ですが、ルシヴァルや吸血鬼系は出産で子孫を残せるのですか? 夜の生活が激しい主人公ならいつしか当たりが出てでもおかしくないのかなと思い気になってしまいました。 …
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