五百四十九話 闇のリストたち
2024年3月10日 1時52分 修正
クナが足を止めた。
縦に五メートル強はある大きな扉が自動的に開く。
風が吹き抜けていく。
「楽器?」
「音楽ですね」
黒魔女教団のアイドルボーカルのキサラとジュカさんが反応。
確かにピアノの音楽だ。
ジャズ系のような印象だったが、俺が扉の先に足を踏み入れた途端に曲のテンポが変わった。
音楽もいいが、景色がまた凄い……。
太陽の白光がアーチ状の崖と崖の隙間を射す――。
白燐めいた光が、俺たちごと、この入り江のテラス風の施設を照らしてくれた。
大聖堂を彷彿とさせる滑らかな天井を這う十字架のような明かりが天井の素材を照らす。
それでいて、俺たちの扉付近は荘厳な洞窟ドーム風ときたもんだ。
左から木霊する波の音。
水面はブルーサファイアのような輝きを放つ。
銀色の綺麗なボートも碇泊しテラスの下に白い砂浜もある。
砂浜には腰掛けられる流木チェアもあった。
「わぁ」
「すごい!」
「ナナちゃん、こっち!」
「うん」
「お風呂も凄かったけど、ここも凄い!」
「うんうん」
「見て、あそこに銀色の船がある!」
「わぁぁぁぁぁ」
「なにあれー」
「初めて見る!」
「このような施設を持つクナさんか……」
皆も感嘆。
白を基調としたテラスの床を歩く。
左の小さい港に下りる階段の前には手すりが並ぶ。
銀船から反射した水面は綺麗なエメラルドグリーンに変化をしていた。
銀色の小型ボートか。
帆はあるがやはり普通の船ではないな。
白色の砂浜に下りられる小さい階段も左奥にあるようだ。
「驚きだ」
「はい……綺麗です」
「ここに通じていたのですね。わたしはもっと地下深くの水源を調べていました」
ヴィーネとヘルメがそう発言しつつ周囲を見ていく。
歩く床は滑りやすそうな天然の岩棚と合体していた。
「アリス、足下は滑りやすいから走るな」
「うん」
左を歩くエルザは手すりを掴もうとしていたアリスの手を掴んで、近くに引き寄せた。
積み重なった樽と机と椅子も点在。
ポーション類が納まる棚。
八支流の地図とサスベリ川を中心とした周辺地図が貼られてある木製のボード。
太陽光の反射しつつ魔力を蓄える機能を有していそうな鏡の光源。
ウォーターサーバーのような魔力を内包した機械もある。
ピアノもあった。
リズミカルな曲調に変化していたピアノの演奏は続く。
その一角の円卓がある。
人が集まっているようだ。
闇のリストたちか。
ピアノの音楽が俺たちの行動に合わせて曲調が変わっていくのが凄い。
キサラとジュカさんも、音程に合わせて小声で歌を口ずさむ。
「あそこの角です。オカオさん、火を熾ししトセリアなど、わたしが呼んだ闇のリストたちが居るはず」
そう発言したクナが先に行く。
俺たちも続いた。
「皆さん、お待たせしました」
と円卓の方々にクナが挨拶した。
円卓に並ぶ者たちの何人か立ち上がり俺たちを凝視してくる。
座っている人物は……。
え?
「カリィかよ」
「目を疑うとはこのことだよネ、ウン。まさか槍使いと繋がるとは驚いた……あ、元気そうだネ」
と、額に汗を出すカリィだが、驚いた。
オセべリアとサーマリアとの戦争に参加しているかと思ったが。
だからこそか。
樹海の南端に位置する八支流もオセべリア領内の範疇。
「……メルに毒霧を喰らわせた奴よね」
ユイが右手に持った神鬼・霊風の角度を変えた。
左手ですぐに引き抜ける位置だ。
それとも口に咥えて三刀流に移行できる位置かな。
眷属と仲間たちの気持ちを表すように闇リストの一人が弾くフォルテピアノが荒々しく戦闘音楽となった。
魔線が凄まじい勢いで動く。
ピアニストの手と双眸から出ている金色の魔線群はピアノの鍵盤と繋がっていた。
「ん、敵?」
「ご主人様をお守りする!」
「うん!」
エヴァとママニとサザーも戦闘態勢。
各自、構えながら、子供たちと小柄獣人たちを守ろうと動く。
「「――シュウヤ様!」」
キサラとジュカさんも跳躍。二人は円卓を超えて、銀船近くの手すりの天辺に着地した。
キサラは黒を基調としたノースリーブ衣裳。
ジュカさんのパンク系のファッショナブル衣裳も変わっていない。
キサラのダモアヌンの魔槍とジュカさんの金属棒の穂先が、二人の前方でクロスする。
二人の扱う長柄武器の穂先同士が擦れた箇所から金属音が鳴った。
――今、荒々しいピアノの音と合わせたのか。
さすがはハスキーヴォイスの四天魔女のキサラ。
手合わせはまだだが、ジュカさんもフルメタルな警棒を扱う技術は高い。
魔槍とフルメタル警棒を重ねたポーズが似合う二人。
二人とも双丘さんが揺れて華麗だ。
そのジュカさんはキサラの音調に合わせて器用に音程を変えられる。
黒魔女教団十七高手だ。
きっと、過去の訓練の時や戦いで同じことが何度も起きたんだろう。
ショートカットの髪も魅力的。
その前髪から覗かせる十字架のサークレットも似合う。
左頬にメファーラの髑髏の刺青がある。
その魅惑的な槍使いから、視線をそらし、皆の動きを見ていく。
オフィーリアもラファエルとダブルフェイスの目配せしつつ、位置を合わせている。
「話に聞いていたけど、あいつがカリィね」
ミスティはゼクスを入り江の天井付近に展開させた。
魔導人形の全身から小さい煌びやかな魔力噴射が起きている。
推進力が向上していた。
「ミスティ、あの男は変態らしいので気をつけて」
ヴィーネがそう告げると、金属鳥を使いつつ円卓を囲う人物たちを把握するように歩く。
カリィ以外にも警戒すべき人物を探る動きだ。
背中に手を当て翡翠の蛇弓を出す準備をしている。
俺は武器を出さず、座って余裕の態度のカリィに、
「……お前も闇のリストだったのか」
「ううん。詳しくいえば違うんだ。流れだヨ」
カリィは隣の立ち上がっていた人物に視線を向ける。
その人物は帽子をかぶる槍使いの鱗人。
カリィを睨みつつ、
「カリィ、お前、俺を騙していたのか」
と、口先を尖らせるように喋る。
何か示し合わせていたのか? 怪しいが、単眼の魔眼の帽子といい、魔力操作からして、かなりの強者と予想できる。
魔槍も特別そうだ。
「だから、流れだって、槍使いが居るとは思わなかったんだ。ごめんネ……」
「どうした……お前らしくないな。俺と同じ槍使いにこうもびびるもんか?」
鱗人の問いにカリィは両手をあげた。
俺に微笑むような奇妙な顔つきを浮かべてから、戦闘する意思はないことを示しつつ、魔察眼で周囲を探るように視線を巡らせていく。
カリィは導魔術の使い手。
アキレス師匠が扱う〝枝〟のような技術を習得していた場合……。
かなり手強いはずだ。
戦闘となった場合を想定し、複数ある逃げ道の確認かな。
それよりも暗殺の任務があるのか?
まさか、エルザたちの追っ手か?
そのカリィは鱗人に視線を戻し、にたぁと、頬を弛緩させて、
「……はは、気にしなイ、気にしなイ。君も大人しくした方がいいヨ。あ、ボクって優しイナァ」
相変わらずの変な声で、悪態笑顔を作る。
俺はエルザに視線を向けて、下がるように顎でサインを送った。
エルザはすぐにアリスを連れて下がる。
武器はまだ手にとってないが、ママニとバーレンティンがフォローに動いた。
ロゼバトフとイセスにキースは武器に手をかけている。
ラファエルは頼りがいのありそうなロゼバトフに近寄っていた。
リサナはアーレイを抱えて小柄獣人たちの背後に移動。
皆、エヴァとナナにエルザとアリスの背後を守る動きだ。
ヘルメは俺の頭上で両手を組んで見守っている。
闇のリストたちの背後をとろうとする赤髪のサルジンは興奮したのか、血爪の武器を手元から出している。
墓掘り人の副長スゥンさんは、サルジンに注意してからヴィーネの反対側から円卓を囲う動きに合わせた。
「チッ」と舌打ちをしたサルジンも続く。
両手から氷製の剣を出しているトーリもサルジンの後に続いた。
カルードは俺の横で動かない。
フォルテピアノを華麗に弾く闇のリストは、俺たちの行動を把握しながらも気にせずピアノを弾いている。
横顔だが、ピアニストは黒髪女性の美人さんと分かる。
気になったが……槍使いの鱗人も気になる。
しかし、この鱗人の槍使いとカリィは知り合いらしい。
カリィと鱗人と……。
皆の動きを見ていると……。
闇のリストの面々たちが、クナに向けて、
「クナ、遅かったな。この方々はだれだ?」
「……クナ説明してもらおうか。この囲う動きからして、敵対行動と思うんだが……」
「しかし、ブローチの反応は俺たちをおびき寄せるだれかの罠かと思ったぜ」
「確かにね。今が、その罠の可能性もあるわよ」
そう、クナに語りかける闇のリストたち。
「お待たせしたことはお詫びします。罠ではないです。そして、呼びかけに応じてくれてありがとう」
そう喋ったクナは間をあけて、
「……闇リストでは、ない方も居ますが……集まってくれたのは、たったこれだけですか?」
「見ての通りだ」
「闇のリストも色々と稼業があるってことを忘れてなくて?」
「だが、稼業で利益になるからこそのクナだろう? ここに来ないということは、単に死んだか、鞍替えか」
「死んだとしたら、わたしが知らない間に闇リストの実力も落ちた。ということかしら」
クナの言葉の後、小気味よい音楽を続けていたピアノが止まった。
ピアニストさんが、クナを睨んだ。
髪はショートカット。片耳に魔力を宿したピアスもある。
黒色の瞳と白色の瞳か。
エヴァのように色白で、真っ赤なルージュが頗る魅力的だ。
「……」
「俺たちを挑発するのか?」
「ふ、クナらしいけど」
「そんなことはどうでもいい。クナ、要件は何だ? 俺は忙しいんだよ」
ダンディな帽子をかぶるおっさんは忙しいらしい。
「銀船のジャックも何か語れよ」
槍使いの鱗人がそう語る。
「……」
黙っている男がレイ・ジャック。
銀髪だ。
銀色のボートのような小型船も近くに碇泊している。
クナとアイコンタクトをすると、クナは微笑む。
そして、俺に腕を向け、
「この方はわたしの主。名はシュウヤ様です」
「様だ?」
「えぇぇ!?」
円卓を囲う椅子に座っている闇のリストの一部が驚く。
そのクナが、
「シュウヤ様。わたしが呼び出せる……闇のリストです」
と、片膝で床を突く。
わざと皆に対して、部下になったとアピールしているようなそぶりだ。
「……驚き、あのクナが頭を下げた!」
「クナ? 本当にクナちゃんなの!!?」
「膝で蟲を潰しているわけではないよな?」
「なわけがない。たんに、体調が悪いだけだろ?」
「おいいいい、頭部に邪神の蟲でもついているんじゃねぇだろうな!」
「魔神の呪い系に精神がやられてたんじゃない? 本当に暗黒世界に逝ってしまったのよ」
「スロザの親父のように、呪神の品に手を出してしまったか……」
闇のリストの方々が好き勝手に語る。
随分な言い草だ。
卓を囲っていた眷属たちと仲間たちは緊張がほぐれたのか、笑いが起きていた。
そのざわめきが過ぎてから、一歩、二歩と前に出る。
闇のリストたちとはいえ、お客さんだ。
クナに目配りしながら闇のリストたちを見据えて、一礼。
そして、頭部を上げて、
「こんにちは、皆様方。クナが呼び出したようですね。俺の名はシュウヤ。【天凜の月】の槍使いといえば話が早いでしょうか。よろしくお願いします」
「にゃ」
と丁寧に挨拶をした。
黒猫も俺の首に触手を引っ掛けながら、片足を上げて肉球を見せて挨拶していた。
頭上のヘルメは皆を見据えて浮いていた。
その途端、闇のリストの全員が俺を注視してくる。
一見は普通に俺を見ているだけだが……。
魔眼系を発動している者がちらほらと。
魔察眼はほぼ全員か。
有りと有らゆるスキルを駆使して、俺と相棒を含めた眷属と仲間たちの情報を得ようとする闇のリストたち。
「……【血月布武】の盟主とは驚きだ」
「頭上に浮いているのは……それよりも【血星海月連盟】のボスの一人……」
「クナはその槍使いに下ったのか」
「わたしたちに間接的に被害を齎してくれた、あの〝槍使いと、黒猫〟に下るなんて……でも、猫ちゃんの肉球ちゃんが素敵だし、気持ちは分かるわ」
「ヒョアン、猫好きだったのか」
「あら、動物を嫌う理由はないことよ」
「……」
「……で、大柄の男の裏に隠れているのはラファエルだろう。魂王の額縁が目立つ」
ラファエルのことを告げた闇のリストは、カウボーイハットと似た帽子を被る渋いおっさんだ。髭がダンディ、造形的に少しポルセンと似ている。顎髭は少し長く揉み上げから顎にかけて無精髭が目立つ。
ラファエルと知り合いか。腰の武器は銃。
後部に撃鉄を備え、筒の銃身が太く、やや細まりながら銃口に向かう。
バレッタようでバレッタではない銃か。
見たことのない杭と似た長方形の金属弾が複数個納まった弾丸ベルトを腰から太股に垂らしている。
そんな銃を両越しにぶら下げている闇のリスト。
ラファエルは隠れていたロゼバトフから出ると
「【七戒】のベニー・ストレインか。君がここに居るということは例の殺し屋チームも一緒なのかい?」
と、帽子をかぶる人物の名を出す。
彼はベニーという名なのか。
ラファエルなりに気を利かせて、ベニーの情報を教えてくれた。
そのベニーは眉を潜ませて、ラファエルから俺を睨む。
名と組織と殺し屋チームをあっさりとバラしたことを気にしたかな。
そのベニー・ストレインが、俺の足先から頭部まで舐めるように眺めてから、
「いや、この場は俺だけだ。副長のトオと仲間は宿に居る」
と、発言。
「そっか。セブンフォリア王家の仕事が多い君もクナと仲がよかったんだね」
「この世界じゃ信用が物を言うことはお前もよく知るだろう。しかも、仕事に対しては確実に何があろうとも金を払うのが、暗黒のクナだ」
「ふふ」
立ち上がっていたクナは満足げの表情を浮かべていた。
「で、クナ。彼らと俺を引き合わせて何がしたい?」
と、俺はクナに質問した。
「勿論、【天凜の月】の拡充と眷属候補の推薦&仲間としての紹介をしようかと思いまして」
「クナなりに貢献しようと動いてくれたわけか。ありがとう」
「は、はい!」
クナは体を震わせてめまいを起こしたように倒れそうになると、卓に手を当て、体を押さえた。膨よかな胸元に手を当てて深呼吸を始めていく。その光景を見た闇のリストたちは不可解な顔色を浮かべていくが……無表情のまま俺のことを見つめてくる人物が二人いる。
片方はピアノを演奏していた女性。
卓の横にある背もたれつきの椅子に座ったままの男。
その二人ではなく闇のリストの女性が、
「ありがたいわ。【血月布武】とは仲良くしたいし」
「……【天凜の月】の下で動けと?」
魔槍を持つ鱗人の槍使いがそう発言。
カリィは沈黙。
ピアノを演奏していた女性は、また弾き始めていく。
「金次第だが、眷属だと? 魔族の一員になるつもりはないぞ」
とベニー・ストレインが否定する。
「まぁ魔族のクナちゃんだから、クシャナーンだっけ? 種族とか一族の誇りみたいなモノはなかったからオカシイな。とは思ってたけど、天凜の月の支配下に? そして、その盟主が人族ではなかったことは、完全に予想外ね」
仲良くしたいと発言した女性の名はヒョアン。
彼女の卓の元には魔力が内包したカードと小型のiPad風の岩盤が並んでいる。
マジシャン系の能力者か。贋札屋としての力かな。
あのカードは鑑定したばかりの〝魔導札・雷神ラ・ドオラ〟と似ている。
「どちらにせよ。仲良しごっごはごめんだ。と格好付けたいが……実利は取る」
槍使いの鱗人はそう発言。
「そうだな。【大海賊私掠船免許状】を持たずして黄金ルートを支配している【血星海月連盟】の名は有名だ。群島諸国ハーミット団も避けると聞いた。利益は利益ってやつで、金払いがいいほうに付くのは当然だ。しかし、俺たちに、いきなりの眷属化云々の話は、ねぇだろうよ。クナさんよ。どうしちまったんだ?」
銃使いのベニーがそう発言しつつ、クナのことを訝しむ。
カリィは沈黙。
「眷属化の件はスルーして結構です。今回は顔見せのつもりでしたし、ただ……」
クナはゆっくりとした所作でベニーから視線を逸らす。
無表情で俺を見つめ続けていた人物の一人に視線を向けた。
彼は銀髪で揉み上げが少し長い。
その人物が、口を開く。
「……クナ、俺の船を利用したい品があるのか?」
「わたしはとくにありませんが、天凜の月の副長メルさんはあるでしょう。そして、重要なこともあります」
「重要? 今日ここに呼んだ理由か?」
「……そうと言いたいですが、これは偶然です。レイを追う存在を、シュウヤ様の眷属が捕虜にしたのよ」
「え? 俺を追った者を捕虜に?」
途端に、焦り出すレイ。
ピアノの曲調が、レイの表情に合う曲調に変わる。
凄い技術だが……何者だ。
「そう、アズラ海賊団元六番隊隊長のレイ・ジャックの追跡者たち。その追跡者たちは、勘違いをして、カルードさんたちを襲撃した。銀船を追うライバル組織か、または、銀船の関係者だと思ったようね」
「……ドンか! レフトの手の者が俺を追跡してきたか?」
レイ・ジャックがそう語ると、カルードが前に出た。
「いえ、レフト・ドン・ガーシュではないです。尋問によると、大海賊マジマーン本人とその一味。その一味が雇っていた片腕の虎獣人の冒険者の名はゾスファルト」
ハンカイと互角に戦ったという片腕の凄腕の名はゾスファルトか。
ママニと豹獣人のカズンさんのように、変異体とか特異体の方と予想。
「十二大海賊団ではないにしても、マジマーンを捕まえたとは驚きだ。と……天凜の月に迷惑をかけていたようだな。済まない」
レイ・ジャックが謝ってくる。
俺はカルードに視線を送ると「マイロード」と呟いて頭を下げてきた。
再び銀髪のレイ・ジャックに視線を向けて、
「降り掛かった火の粉をカルードたちが払いのけた結果だ。レイたちは、聖ギルド連盟にも追われているようだが」
「はい、商売柄権力機構と揉めることは仕方がない。金をもらい依頼を受けて荷物を預かった以上、依頼主の指定場所に送ることが【銀の不死鳥】の仕事。そして、〝何でも屋〟の仕事ですからね」
ギルドでもめ事を起こした者たちを仕事で逃がしたか。
ま、色々あるだろう。
「なるほど。で、マジマーンたちの身柄で、クナはこのレイたちと取り引きをしたいんだな?」
「そうです」
「……できれば、背後に十二大海賊団と繋がっている可能性もありますから、俺たちの追跡してきたマジマーンを殺して頂ければありがたいですが」
レイがそう発言。
銀船とレイ・ジャックの運び屋の仕事は興味がある。
だがなぁ……【天凜の月】の盟主の俺にお膳立てをしたクナに悪いが……。
捕虜を殺し、レイ・ジャックを利用したとしても一時の関係だけだろう。
利用できれば、メルは黒猫号を扱う商会を持つから有益だが、それだけで無抵抗な者を殺してもな……。
「殺す? その選択肢はないな。戦いたいなら別だが。クナが紹介してくれた優秀な人材だろうと闇のリストだろうと優遇する気はない。【天凜の月】に加わるなら歓迎しよう。立ち去るのも自由だ。強制はしない。で、これは捕虜たちも同じこと、後で捕虜から俺たちかサイデイルの仲間になるか、メルの配下に入るか、眷属化も聞こうか。で、断ったとしても、俺たちに危害を加えないと約束するなら開放する予定だ」
「……」
俺の言葉を聞いたレイ・ジャックは責めるようにクナを見つめる。
闇のリストたちも戸惑うようにクナを見て俺たちを見ていった。
卓を囲っていた眷属と仲間たちは、そうじて笑顔だ。
「ん、シュウヤらしい」
「シュウヤね」
「実に主らしい」
「うん」
「戦いが好きで、女好きで、お人好し」
「うん、けど、戦いたいって素直に言うところが、わたしは大好き」
「ははは、確かに」
「わかる! 僕のゼットンを虐めていた許せないデラースに対しても、そのデラースの扱う武術には、ある種の尊敬の念を向けていたことは分かっていたし……ほんとに、その辺りは真っ直ぐな漢だよ。陰の英雄というか本当の英雄なくせにさ、頑として認めないし。〝俺は違う〟とか、〝ひねくれている〟とか言ってさ……あ、それがひねくれているのか、うん」
なんか、ラファエルの言葉を聞いていると面白いが、イラッとする。
「ガハハ、ラファエルとやらはシュウヤをよく見ているな。相当に惚れ込んだようだ」
ハンカイが豪快に笑った。
近くにいたナナがハンカイの顔を凝視して「鼻毛ボーボー?」とか、ミスティとレベッカに視線を向けて聞いていた。
ミスティとレベッカは頬を掻きながら「ち、違うから」「あれは鼻くそという」とかなんとか呟いている。
「そうさ!」
「……そうなの?」
エマサッドが剣先を床に落としながら聞いている。
鼻毛のことではないだろう。
「……そ、そうさ」
と、ラファエルは少しエマサッドの視線を受けて動揺していた。
「まぁ理解はできる。白色の貴婦人たちとの戦いは凄まじかったようだからな……救われた者たちも居たが、犠牲者もたくさん出たようだ」
「うん、できる範囲のことはしてくれたよ」
「はい……本当に」
「そうですね」
ハンカイの言葉にラファエルを含めた、皆が頷く。
すると、白色の貴婦人のグループ、死の旅人たちと戦った虎獣人のママニが、
「はい! ですが、ご主人様も怖いところがあります。解放して、逆に襲い掛かってきた場合……」
「えぇ、そうね。よほどの理由がない限り容赦はしない。一度警告を発した以上、その相手は死を待つのみ」
ユイがそう視線を強めながら発言すると、ママニも息を呑む。
その瞬間、クナが身震いをして、
「……はぃ」
と、また、頬を赤く染めてから小声を漏らしていた。
そのクナを見てから、ユイが、
「クナ。理解したと思うけど、シュウヤは【天凜の月】のボスでもあるけど、武人で自由を好む。だからシガラミをできるだけ避けようとするの、オセべリア領内の闇社会の件はメルに話を通した方がスムーズにすすむことが多いわよ」
「分かりました」
「だがしかし、マイロードならそう言うと思いまして、勧誘の話は既にメルさんとも血文字で連絡を取りつつ薦めていました」
「父さんさすが! ビアの能力に怯えているだけかと思ったけど、やけに海賊たちは静かだし、あの片腕のゾスファルトも妙に大人しかった理由ね」
ハンカイが手を叩く。
「だからか! 我が我がと舌を伸ばす元蛇人族のビアが自慢していたが、カルード殿の尋問後、急に……」
現在もミスティとレベッカが血文字でキッシュたち連絡していく。
そこで、俺はレイ・ジャックに黙ったまま視線を向けた。
レイは頷く。
なんか、紺碧の瞳が輝く?
魚人の血を引いているのか耳の形と首にエラがある。
が、端正な顔立ちだ。
「すみません、そこのカルードさんとシュウヤさんにお尋ねしますが……」
「いいぞ」
「はい」
レイにそう短く返事をしながら、カルードは目配せを俺にする。
「それは俺を追跡してきた、あの大海賊マジマーンが【天凜の月】かシュウヤさんの眷属たちに加わるということですか?」
「そういうことになるのかな?」
「はい、まだ正式ではないですが、わたしの闇ギルド勧誘の話に全員が乗ってきました」
「おぉ、よかったじゃないか」
「はい! サザーデルリで鍛錬しつつ優秀な人材を得ようかと思ってましたが、こういう形での人材蒐集もあるのかと、マイロードを直に見て勉強していましたので」
ラファエル、エマサッド、ダブルフェイス、オフィーリアたち、リサナにキサラとジュカさんに、警戒を解かないエルザとアリスを見るカルード。
確かにな……。
元はまったく違う組織であり個人たちだったが……。
俺と知り合うことで自然と仲間となった。
「レイ、そうなったようだ。カルードは闇ギルド創設を目指しているから人材募集中らしいぞ」
「そうですか……はぁ……面倒なことになった」
と、溜め息を吐くレイ。
俺たちから視線を外して、闇リストの面子を見ては、銀船を見る。
そして、入り江に刺さる太陽から反射する光を眩しげに見てから、俺に視線を戻したレイ。
「……こうなった以上、俺たちも従ったほうが仕事はスムーズに済むか――ということで、〝虚仮の一心〟で活動していた俺たちですが……シュウヤさん――」
「おお、まさか……」
「えぇ?」
「レイ・ジャックが……片膝を」
レイは頭を下げた。そして、頭を上げて見上げてくると、
「……俺を、いや、俺たち【銀の不死鳥】使ってくれませんか? 荷物も込みでの話となりますが」
マジか。
断るつもりが……。
そして、荷物のところで闇のリストの全員が反応を示す。
カリィは闇のリストではないと思うが、悪態笑顔を浮かべていた。
こりゃ、あの荷物、銀船の中に何かあることは確実だな。
カルードとユイもすぐに気付く。
バーレンティンとスゥンにキースも気付いたようだ。
少し距離を取りつつ銀船と闇のリストたちの様子を窺う。
レベッカとエヴァは理解していない。
こればかりは、クナもハンカイもママニもラファエルも気付いていないから仕方がない。
そのことは知らない振りをして、
「俺たちの誘いは駆け引きじゃない。レイ、お前の仕事を阻害するつもりはないぞ、よく考えてからのほうが」
「そういってくれるのはありがたい。安心もできますが、これは俺の都合でもあるんですよ。勿論。自分らの仕事に運び屋として自信はあります。そして、自由に仕事ができれば一番ですが、さすがに【八頭輝】名を持つ【梟の牙】と【ノクターの誓い】を潰し【影翼旅団】を一日で壊滅させて、【血星海月連盟】を作り上げた槍使いを敵に回したくはない……」
「いや、だから、敵に回るつもりはないと話をしたつもりだったんだが……」
「そうはいっても、下で動く者たちにとっては違うことは多々あるのがこの商売。オセべリアならまだしも、ラドフォード帝国から海光都市ガゼルジャンにまで影響を及ぼす【天凜の月】の部下たちさんたちに睨まれたら、仕事がし難くなるどころか……こっちが干上がってしまう。なんせ銀船。足が速い魔導船ですが、補給は必要ですからね。だからお願い致します……あ、ただ、俺には仲間が居ますが……」
「そっか、仲間も入りたいなら受け入れるさ。ただ、レイ・ジャック……俺の【天凜の月】の配下ということか? それとも眷属化を望むのか? サイデイルの住人となる?」
「その眷属化は俺でも平気なんですか? 魚人の血が流れてますよ? サイデイルとは……わかりませんが、まぁ、シュウヤさんのグループに身を寄せるってことで」
「種族で差別はしねぇよ。ただ、話をしておいて、眷属はすぐには無理だ。眷属化を控えている連中も多いからな。因みに、光魔ルシヴァルという種族の眷属となる話だ」
カリィは興味深そうに俺の言葉を聞いていた。
まぁ、薄々は気づいているだろうから情報を与える。
シャルドネと通じていても、構わない。
「そうですかい。どっちでも構いません」
「なら、歓迎しよう」
「ありがとう! 後ほど仲間を紹介します」
「しかし、いいのか? そんなあっさりと」
「はい、都合といったように、それはこっちの言葉でもありますから……マジマーンのこともありますが、追っ手に関してのリスクが大きくなりすぎた。巨大な傘に入ったほうが色々と得。そして、船荷に関しても……」
十二大海賊団と揉めごとがあるよ?
ということだろう。
それでも受け入れてくれるんですかい?
という意味だな。
「構わないさ」
やはり、重要な船荷か。補給の面のことを差しているのかもしれないが……。
もし重要な船荷なら時空属性のクナの呼びかけに応じたこともその辺りにあるのかな。転位陣目当てとか。
そして、カリィがこの場にいるもっともな理由か。
だとするとラファエルを知っている銃使いのおっさんも怪しいな。
俺の掌握察の範囲外、ヴィーネの金属鳥とゼクスが入り江付近を探索しているから、不意打ちはないと思うが……。
そう思考していると、
「クナもよろしく頼む……こうなったら一蓮托生だ。だが、カフーとスタムにリサがなんて言うか」
レイは髑髏に刺さった槍のブローチを触りながらそう発言。
すぐ横に立つカルードは素早くメルに血文字で報告していた。
俺も血文字で『メルに色々と報告した』
メルから『銀船を扱える商会そのものを懐に取り込むとは、さすが総長!』とすぐに血文字の返事がくる。
そこからヴェロニカの血文字がきて、長くなりそうだったから、無理に血文字を終わらせた。
メルの血文字を見てから……。
カリィと帽子を被る槍使いとピアニストと、【七戒】のベニー・ストレイン以外の、闇のリストをクナから紹介をしてもらった。
鑑定人のオカオさん。
ヘカトレイルで行方不明になっていた火を熾ししトセリアさん。
この二人はほとんど喋らず。
トセリアさんはベールに包まれているから表情も分からない。
贋作屋〝ヒョアン〟のほうはシャルドネ風だ。
札を操るようだから、カザネを思い出す。
彼女の贋作作品に関する冒険者依頼があると情報では聞いていた。
皆、ヘカトレイルの住人でもあると告げられた。
「で、カリィはともかく、ピアノを弾いていた方は……」
「彼女は……」
クナが名を告げる前に、ピアノで高い音程の曲を披露する。
そして、注目をわざと受けた黒髪の女性が振り向いた。
双眸は黒と白というオッドアイだった。
白い方は赤い亀裂のようなモノが入って、ピアノの鍵盤と魔線が繋がっている。
そのピアノを弾く指の動きが止まった。
「わたしの名は……ヒストアン」
続きは来週です。
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