四百五十話 ブルームーンの宿に潜入
宙を烈日の如く駆け抜ける神獣ロロディーヌ。
大鷹を超える黒翼を持った神獣としての黒豹の機動は圧巻だ。
皆で巨大バイクに跨がるように神獣ロロディーヌに乗っていた。
子供のアリスも一緒だからヴィーネが失神するような速度は出ていない。
更に、優しい大きな黒豹は、エルザがアリスの背中を支えていたのを感覚で理解しているらしい。触手でエルザの手助けをするようにアリスの下半身と背中を数本の触手で優しく支えていた。優しい相棒が空を飛ぶたびに毎回思うが……心地いい風を感じる代わりにGをあまり感じないことが不思議だ。気持ちがいいって大事だよな。気にせずに楽しむ――。
ツラヌキ団のメンバーのアラハとツブツブたちは、飛翔している影響もあると思うが、体を拘束している黒豹の触手が揺れて、体に喰い込んでしまったのかな、顔色が悪い、無理もないか。
神獣ロロディーヌから〝くすぐりの刑〟を受けて色々と情報を吐いた。
『〝正門前の宿屋ブルームーン〟が、ツラヌキ団の集結場所』と。
二人は仲間の情報を漏らしたことに責任を感じているような表情を浮かべている。だがしかし南マハハイムの各都市を荒らしている窃盗団だ。事情も理由も知らないが同情はしない、このまま宿屋まで直行だ。触手の手綱を握る手に力を入れる。この触手手綱は、エルザの両肩を越えつつ、俺の目の前にある。先程まで抱きしめていたヘルメは真横を飛翔中。ヘルメも、胸に抱えていたアリスを黒豹の背中に預けていた。
ヘルメを抱きしめた時、魔力を両の掌からダイレクトにヘルメのおっぱいに注いだらヘルメは精霊らしい水飛沫を発生させて大興奮してしまった。
今も余韻が残っているのか、恍惚とした表情を浮かべていた。
「ふふ、精霊ちゃんたちも天翔る――」
優形の全身から水飛沫を発しながらスパイラル軌道を取る。
美しい水の軌跡が宙に生まれていた。飛翔を楽しむヘルメも美しいから芸術的だ。そんなヘルメからエルザに視線を戻す。
両手剣の幅を持つヤハヌーガの大牙は目立つ。
エルザの見えそうで見えない首付近の宙を漂う吾亦紅の魔布の切れ端が両肩と外套を覆う。地下で彼女を抱き寄せた時の感覚と匂いは、しっかりと覚えている。再度、アウトローマスクの横と後部のエルザのマスクと切れている紐を凝視、デザイン製の高いイヤーカバーが洒落ている。
後部は、ポニーの髪型ではないがイヤーカバーと一体化したような……調整機能付きの黒バンドかな。そのバンドが無造作に茶色が混じる黒髪たちを結んでいる。シャンプーの匂いも漂う。顔は見たことないが……。
エルザはエルザで魅力的な女性だと思う。
だが、この項を隠そうとする、首元を漂う魔布の切れ端が少し邪魔だ。この魔布はアリスを守るカーテンにもなったからな。
キサラのダモアヌンの魔槍の柄の孔から出現可能なフィラメントと似た優秀な防護膜となるから仕方がないと考えながら――目の前の触手手綱を意識。
この操縦桿の触手手綱は毎回握るたび微妙な変化が起きていた。
操縦桿の触手は俺の掌に合うようにPERFECTFITすることは当たり前だが、俺が乳首のような、いや、ミサイルボタンが欲しいと思ったら、柔らかい釦のような肉球を作ってくれる。俺の気持ちと連動して周囲の状況や仲間の影響を受けたりする触手手綱で、とても可愛いのだ。
ロロディーヌが、ヘルメの輝く紐が気になった時の場合は……触手の裏側の肉球周りには、<珠瑠の花>のような動きをする小さい触手たちを作っていた、その場合は大抵……俺の手首と耳朶と首に小さい触手たちを使って悪戯をしてくる。
今は飛行中だから、俺の首に張り付いている触手の先端で悪戯はしてこないが――。
しかし、肉球は柔らかく温かい。
俺の首に張り付いたままの平たい触手は小さいせんべいにも見える。
そして、触手の裏側には、偉大な肉球ちゃんがある。
触手の裏にある肉球の柔らかさは抜群だ、もみもみと押し込み甲斐がある。
非常に気持ちのいい……例えようがない至福を齎す!
と偉そうに感想を持った俺の気持ちを共有している神獣ロロディーヌ。
どや顔を決めているように鼻息を荒らす。
「あ、神獣様の鼻が動いた!」
「窃盗団たちの臭いを得たようだな神獣様! しかし、まだ、ブルームーンは壁の向こうだぞ!」
アリスが黒豹の鼻を指摘。
俺からは見えないが、やはり黒豹はドヤ顔を決めているようだ。
ハイグリアも下方向へ腕を差す。
黒豹は、ツラヌキ団たちの強い臭いを得たらしく、鼻をひくひくと動かしているようだ。
その神獣ロロディーヌは黒翼を畳む。
F-14トムキャットが持つ可変翼を連想させるように大きな翼の次列風切と初列風切の部位を一体化させる――そのまま一気に下降――。
植物の壁の内側にある狼要塞の建物群と広場に人々の群れが見えた――。
しかし、それらの景色は、一瞬で遠のく。上向いた姿勢を維持した湾曲する飛行機動――。
気持ちいい爽快な機動で、要塞の壁を越えた――速度の余韻を残さず急停止。
三階建てはありそうな宿屋、ブルームーンの真上に到着したらしい。
さすが神獣ロロディーヌ。凄い機動だ。
アリスもこの機動に耐えられないと思ったが……。
「神獣様……アリスを黒毛と触手で包むとは」
エルザがそう感想を漏らしていた。優しい黒豹だ。
何もせず子供のアリスを放っておくわけがないか。
体を包んであげていたらしい。安心した。
俯瞰する位置から宿の全景を確認。宿は全体的に四十坪は超えているか?
中堅どころの宿かな。屋根は青色と黒色の瓦。
雰囲気はある。他の地形を調べるとして、周辺を見渡す――。
黒豹は旋回をしていないから、首をきょろきょろと回して見て回る。と、神獣ロロディーヌは翼を変化させた。よりコンパクトに近未来の飛行機風の黒翼となる。
その翼から霧状の魔力を四方に放ちながら浮遊を続けていた。
霧状の魔力は風が備わっている。
宙に舞う銀の枯れ葉たちが、俺たちの視界を埋めるように舞い上がった。
魔力の霧はヘリコプターが降り立つ状況のように風を生み出している?
しかし、遠くまで見ようとしたが――。
視界にチラつく銀の枯れ葉網が邪魔だ。
俺は跨がっていた黒豹から鞍馬の体操競技を行うように片足を俄に上げる。
くるりと胴体に横捻りを加えながら足場として起動した<導想魔手>を左足の底で捕らえて蹴り、跳び上がった――宙で体を捻り、横回転を続けながら片手を眼前に出す――。
視界に群がる銀の枯れ葉群を、その片手をスコープに見立て、次々とロックオン。
初級:水属性の《氷弾》を連続で放った――。
青白い《氷弾》が、標的に向けて、曳航しては、銀の枯れ葉群を次々と貫く。
その消えゆく枯れ葉たちの消え方が……血が空間に滲むように消える光景にも見えた。
ある種の恐怖を抱かせる。
この枯れ葉たちに双月神たちの恩恵が宿っていたとしても――構わない――。
黒豹は俺の魔法を避ける機動を繰り返す。その黒豹に騎乗しているエルザとアリスが、
「……氷の連撃魔法か!」
「えいしょうなし! ばんばんしている! あのしつこい、女のひとみたい!」
「……外法狩りの第二班のリンヌか。たしかに似ている氷魔法の連撃だ……」
氷の連撃魔法を繰り出す俺の姿を見て、リンヌという人物を思い出したようだ。エルザの敵か。
「閣下の水飛沫!」
ヘルメの美しい声も耳朶を叩く。
しかし、皆と同じく、その声には応えず、周囲の確認だ――。
『――器の水の魔法系統は美しい』
サラテンも珍しく褒めてきた。
何かこそばゆいが、その思念にも答えず。
魔法で周囲の視界を確保したし……周囲の確認を続けていく。
通りに面した街路樹に七竈のような樹木が並ぶ。
他にも宿屋があった。八百屋と武器防具屋、輪投げ屋、射的の店か。
少し遠くに、迷宮の出入り口がありそうな場所に群がる人々を確認。
狼要塞を守る植物の壁、その壁から遠い位置に、巨大レース会場も見えた。
再び、近くの宿屋群を見ていくが、それぞれ屋根の形が微妙に異なる。
このあたりはペルネーテと似た作り。
――さて、こんなもんでいいだろう。
今の状況を皆に説明しようか。
「ここは見ての通り、宿の下は通り沿いで行き交う人々も多い。だから、宿屋に集結していると思われるツラヌキ団のメンバーたちを取り逃がすと……厄介だ」
皆に向けて、そう発言。
「ンン」
飛行する黒豹が小さい喉音を響かせて、俺の言葉に反応した。
同時に長い両耳をピクピクと動かす、耳の内側の産毛だから地肌の桃色の肌が少し見えていた。とても可愛い。
その可愛い耳を持つ黒豹は、宿屋の屋根上に前足から着地。
薄青色の衣が似合うヘルメも魅せる。
優形の綺麗な腋を見せるように細長い腕を伸ばす。
腕から虹霓のような水飛沫がしゅっしゅっしゅっしゅっと湧き出した。
鳩胸の巨乳が揺れながら、体から水がころんころんと湧く。
腕と体の間から足先のふちまで――芸術性の高い天かける天来のような虹飛沫を四方へ生み出しながら両足を揃えた。
華麗さを持つバレリーナのような動きを中空で示しながら屋根の上に優しく着水。もとい着地――。
「精霊様か……」
感嘆した表情を浮かべながら呟くエルザ。
地下の階段を上がる時とは異なる精霊らしい洗練した動きを見て感動したようだ。エルザも黒豹の背中から飛び降りた。
アリスは、常闇の水精霊ヘルメの幻想的な着水を見て、子供らしく目を輝かせる。
黒豹の黒毛を掴んでいたが、両手をはなして、勢い良く手を左右に振りながら、
「――わぁ、水のお星様たちみたい! ころころころころ、いっぱいなお星様! ざぶんざぶんしゅっしゅっしゅーって、あはははー!」
アリスは子供らしく大笑い。
先に屋根の上に降りていたエルザが、
「降りるぞ、アリス」
と、その笑っているアリスに優しく語りかけると、アリスは大人しくなって
「うん」
と、小さく声を発して頷いてから、エルザに抱きついていた。
そのままアリスを抱え下に降ろすエルザ。
その様子を微笑ましく見ていたハイグリアも飛び降りる。
同時に右手の銀爪がキラリと光る。
キラキラと光る短剣のような短い剣身となっている。
尻尾も揺れていた。ヘルメと黒豹が、その揺れる尻尾の動きを見つめていく。魅了されそうになったハイグリアの尻尾から視線をそらし、宿屋のけらば瓦の表面から、突き出ている看板を裏から支える屋根上の木材群を視認。
月狼環ノ槍の月の形をした石突きで屋根を傷つけないように着地した。
主棟の幅は狭い。
黒豹はアラハとツブツブも屋根の上に運ぶ。
屋根の斜面から転がらないように触手で、彼女たちをしっかりと押さえていた。
黒豹は、アラハとツブツブを俺の横に移動させてくる。
そして、自身の長い尻尾で彼女たちの体を撫でつつ悪戯していた。
「――ロロ、ノイルランナーたちの臭いは〝この宿屋の中にだけ〟ということだな」
黒豹は屋根の四方に触手を伸ばし自身の体を支えていた。
一部の触手たちは、臭いの位置を指す。
「にゃお」
鳴き声も『そうだにゃ』といった感じだ。
さて、軒先の下にあるベランダから直接、宿屋の中に乗り込むとして……。
<魔闘術>を足に纏い<血魔力>を意識。
そして、相棒と視線を交わす。
「ロロの嗅覚は確実だろう――」
黒豹の頭部が縦に動く。
俺も相棒に向けて返事の頷きをしながら……皆に向けて宣言をするように、
「だが、念には念を入れる。ヘルメはツラヌキ団の逃げ道として可能性がありそうな地下道が存在するか、の、確認だ。左の宿屋の出入り口はハイグリア。建物の後部に出入り口はなさそうに見えたが、そこはエルザとアリスに担当してもらう。そこからの行動は、各自の判断に任せるとしよう。しかし、時を見て宿屋の中に突入しろ」
「はい、液体状態で探ります」
「任せろ! 興奮する! 大捕物だ」
「了解した」
「うん! 尻尾が凄い!」
挙手するように、小さい手を上げたアリス。
ハイグリアの興奮した尻尾の動きに釣られている。
ヘルメがアリスの言葉に同意するように水飛沫が強まった。
皆を魅了するハイグリアの尻尾……。
そんな皆のやる気に満ちた表情を確認してから、
「本来ならば、ヘルメの闇と水の能力で眠らせることの方が確実だ。しかし、時間が惜しい。そして、ヒヨリミ様から許可を得ている以上強気に出る。小柄獣人を見かけたらツラヌキ団以外だったとしても捕らえていい。勿論、傷を負わせないように頼むぞ。戦いとなったら仕方がないが……じゃ、ロロ、行こうか――」
そう話してから、皆よりも先に動いた。
屋根を駆け下り――軒から飛び降りながら<隠身>を発動。
同時に ――血魔力<血道第三・開門>。
<血液加速>を発動。
「にゃ――」
黒豹よりも一足先に<導想魔手>を地面に敷くイメージで下に置いて着地。
<導想魔手>の下の床は黄丹色の板が敷き詰められている。
その板へと慎重に降りた。ここは三階のベランダだ。
テラスのようにベランダの空間は広い。外は行き交う人々の声で騒がしい。
喧噪が良い効果音に感じる。そこに黒豹が降りてきた。
俺は相棒とアイコンタクト――標的を殺すイメージではなく武器として月狼環ノ槍の大刀のような穂先を一瞬見てから目の前の扉を凝視。
扉は風を通すためか? 少しだけ扉が開いている。掌握察――。
奥から――感じ取れる数は、八人。
目の前、この扉の先の近くに一名。合計、九名か。
どうやら俺が当たりを引いたか。1階からも魔素の数をそれなりに感じる。
だが、ここの数と魔素の大きさから判断して……。
この三階で休んでいる者たちは小柄獣人と推測できる。
少しだけ開いている扉の先から紅樺色の絹カーテンが舞っていた。天井付近の縁には、風鈴のような物は設置されていない。
床はベランダの板と違い、金茶色の高級感を持った板が敷き詰められているようだ……先に、この先だけでも探索を済ませるか。
洒落た赤色の扉に手を当て、そっと、扉を押し開く……。
目の前の個人用のソファでくつろいでいた小柄獣人と、目が合った――。
即座に金茶の床板を踏みしめる――体が自然と動いていた。
そして、彼女との間合いを、零とした瞬間、月狼環ノ槍を浮かせる――。
「――え?」
大刀の穂先の槍で、彼女を貫かない。
黒装束を着ている小柄獣人の鳩尾を、俺の普通の拳が捕らえていた。
<ザイムの闇炎>も発動しない。
だが、<導想魔手>は発動だ。
――浮かせた月狼環ノ槍を魔力の手で掴む。
一方、忍者のような黒装束を着ている小柄獣人は気を失っていた。
ゲロを吐くように、項垂れて、腹を突いた俺の腕に覆い被さってくる。
このツラヌキ団のメンバーが、気を失う瞬間の視界には……。
俺の姿より、月狼環ノ槍の大刀が、突然目の前に現れて見えていたかもしれない。
そんなツラヌキ団のメンバーは意外におっぱいが大きい。
腕に当たっている胸の感触は、柔らかく、ぽにょぽにょとしたボリューム感があった。
すぐに、上級の《水癒》を発動。
透き通る水球が中空に生まれ出ると同時に、弾け散る。
黒装束の小柄獣人に水魔法の粒が降り注ぐ。
窃盗団とはいえ、偉大な胸を持つ女性には変わりない。
このまま優しく椅子に眠らせることもできた。
だが、悲しいことに窃盗団なんだよな、ということで黒豹が来るのを待つ。
すると、その黒豹が背中を触手で突いてきた。
先に出すぎたか。これは仕方がない。今の俺の速度は並ではないからな。
<血液加速>中だ――。
『悪かった』
と気持ちを表情に出したつもりで……。
アーゼンのブーツを血色に包む<血魔力>を抑えながら振り向く――。
その黒豹を見た瞬間、一瞬、驚いた。黒豹さん…… やる気十分っすね。
黒豹はニカッと笑うように上下の顎から立派な牙を見せていた。
紫雲のような黒触の群れを宙に展開させている。
触手で体が雁字搦めとなっているアラハとツブツブの表情は悪い。恐怖だろう。気持ちは分かる……特に、アラハは、俺の闇を実際に視て体感しているからな。そう感想を持った直後――黒豹は「ンン、にゃ――」と鳴きながら触手を伸ばす。
びびるアラハとツブツブに自慢の触手を説明しているつもりなのか、狩りの仕方でも教えるつもりなのか。
「にゃ、にゃ~お」
と、鳴きながら、お豆の形をした触手の先端から骨剣の出し入れを、何度も繰り返す。
最後は、どや顔を決めていた。
「ロロ。この女性も触手で押さえておいてくれ」
「にゃ」
黒豹は気を失っている小柄獣人の体に触手を絡ませた。
さて……俺は<導想魔手>を消去――。
月狼環ノ槍が、慣性で金茶色を帯びた床に落ちる前に、その月狼環ノ槍の柄を右手で握り取りながら――、
「――アラハとツブツブ。今、君たちの側にきた女性は、ツラヌキ団のメンバーだよな?」
「はい、名はセロ」
「気配察知が得意だったセロだ」
捕まえた小柄獣人はセロという名か。
「へぇ、俺の魔力、魔素を絶つ能力も満更ではないってことかな」
「そうだろう。しかも手加減をしたのか?」
「当たり前だ。殺しにきたわけではない」
「そうなのか……」
「……気を失っているが、今寝ているように、セロという偉大な子は大丈夫だ。さらにいえば、すぐに無詠唱の水魔法で、愛のある治療も施したからな」
神の摂理のことは語らなかった。
「……セロの何が偉大なのか理解に苦しむが……無詠唱の水系統の回復魔法まで使えるとは……セロを労ってくれたのか?」
「そうだよ。俺には俺の正義があるからな」
「……己の正義か。神獣、精霊、眷属も従えて、女に優しい、闇だけでなく愛を持つ槍使い……お前はいったい何者なのだ」
声音を震わせながら語るツブツブさん。
勇気を出して、俺の情報を得ようとがんばっているんだろう。
だが、のんきに説明をしている時間はない。
「お前が語るようにエゴを持つ槍使いだ、エロの場合が多いが――」
笑うように一言加えて、語り、周囲の確認。
机、花瓶、椅子、天井……。
魔道具、壁、風の具合、等、掌握察を用いながら調べていく。
「ツブツブ、この方なら……」
「アラハ・デイル。いったいどうしたのだ。あの飛流剣の強者だった妹たちのことを思い出せ……つまらん幻想を抱くと、あとで辛くなるぞ」
ツブツブは淡々と語る。
「……サザー」
おぃおぃ、サザーだと?
思わず、アラハを見る。
双眸は虚ろだ。まさかな……。
「思い出したようだな。あまり指摘はしたくなかったが、同胞からの裏切りがあったとはいえ、あれほどの才能のあった飛剣流の使い手がどうなったかを……」
アラハ・デイル……。
確か、サザーはデイルと名乗っていた。
しかも、飛剣流の使い手だ。
「……はい」
「済まない。辛い思い出なのは分かる。だが、この紋様を刻まれた以上……わたしたちは辛い窃盗を繰り返さなければならない……仲間のために」
ツブツブは触手で縛られているが、体を捻って紋様とかいうモノを見せるそぶりをしていた。
紋様を刻まれたか、裏にそんな奴が居るということか。
「お前たちの仕事、窃盗団の理由か」
そう二人に尋ねた。
「そうだ。アラハが期待する優しい槍使い!」
ツブツブは見た目といい口調といい、ハイグリアと少し似ている。
だが、アラハと対照的な喋り方なだけで、このツブツブも内実は……。
『もしかすると……』と、俺に期待を寄せているのかもしれない。
「この仕事に、同胞たちの命が掛かっていたんだ。だから……」
「でも、わたしたちは失敗した……しかも、わたしが原因、うぅぅ……」
「……アラハ、泣くな……」
「でも、でも、家族を……仲間を、同胞を、もうこれ以上、失いたくないのに!!」
アラハは号泣。
周囲に彼女の声が聞こえてしまったと思うが……。
「……そう……だな。だが、こうして捕まってしまった」
「だから……」
アラハは、そう呟きながら、期待するように神獣ロロディーヌと俺を見る。
助けて欲しいと、いうことか?
「……いくら、この槍使いがお人好しの強者であっても、相手は、ノイルの秘境に住まわれるソサリー戦士団でさえ蹴散らす人族たち。白い技術魔法を使う不可思議な人族を率いるフェウたちは強い」
「うん、でも、槍使い様には、神獣様が居るんだよ?」
「ンン、にゃおん」
黒豹は褒められて嬉しかったようだ。
さて、とりあえず……
「アラハ、その同胞に裏切られたという妹は、ペルネーテの?」
「!? 槍使い様は、サザーをご存じなのですか!」
知っているも何も……これは偶然ではないだろう。
アラハは、俺の<従者長>となったサザーの家族だったのかよ!
だとしたら、サザーは家族のことを死んだと思っていたのか?
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