四百五十一話 ツラヌキ団
俺の知るボクっ娘サザーなら知っている……。
ロロのお気に入り……もこもこの毛のサザー。
水双子剣を華麗に扱う剣士。
「……知っていると思う。サザー・デイル。飛剣流の使い手。タイレル・オルダーソンの剣術道場に通いながらも奴隷落ちした元冒険者だったサザーだろう?」
「あぁぁ……やっぱりサザーです! 生きているのですね」
「サザーは同胞に裏切られたと、その時に家族は死んだと聞いていたが……」
「たくさんの家族たちが居ましたから、たぶん、わたし以外は皆……」
そうだったか。
あとで、サザーとヴィーネに血文字でメッセージを送るとしよう。
今はツラヌキ団のメンバーが先だ。
「サザーとは、とある理由で知り合いだ。詳しくは後で説明するから、今は俺たちに付き合って貰うぞ」
「はい」
「……偶然とはいえ、神がかった行為の由縁なのか……」
ツブツブがそう声を漏らす。無視。
そして、今、アラハの泣き声で騒ぎとなると思ったが……。
そうでもない。
外の通り沿いからは、喧嘩をしている声が聞こえる。
下の階からも子供たちが遊んでいる声もあった。
赤ちゃんの泣き声も響いてくる。
そして、ツラヌキ団のメンバーたちの魔素は動いていない。
このメンバーたちを一網打尽にするチャンスだ。
……カーテンの間切りも多い。
視界が途切れ途切れなことも好都合!
……すると、その奥――。
ツラヌキ団たちの魔力の気配がするカーテン仕切りの奥の空間から……。
「……今、アラハと似た泣いているような声が……外から聞こえたような」
「さっき大通りで黒き獣に捕まったのよ? それはありえない」
「脱出できたとか? でも、ここの通りの外は騒がしいし、違うでしょ?」
女性たちの話し声が聞こえてきた。
ツラヌキ団のメンバーだろう。
「さすがね、あの未知の魔獣は利口そうだったし……」
「ここの下の階は子供も多いから。遊んでいるんでしょ」
「そうね。古代狼族の兵士に施しを受けていた浮浪者たちの騒ぎを見たでしょう? 喧嘩早い獣人も多いし」
「それもそうね……」
そのタイミングで静かになった。
同時に、そよそよとした風も吹く。
――仕切りの紅樺色のカーテンが、その風で揺れた。
風で動く煙も見える。
粘り気のありそうな煙だ。
その煙が、天井を這うように……。
俺たちの頭上を通り抜けていった。
天井からゆっくりと慣性の力で俺たちに降り注ぐ煙。
別の生き物やドライアイスのような煙にも見えた。
魔力も感じるが、いやな感じはしない。
毒の煙でもない。
……良い香り。良い匂いが漂う健康に良い煙だ。
魔煙草の一種だろう。
そして、エロな俺は光魔ルシヴァル。
ヴァンパイア系だ……。
煙とほぼ同時に、女性たちの匂いを嗅ぎ取った。
<分泌吸の匂手>を用いずとも、分かる。
このフェロモンからして八名とも女性だ。
ツラヌキ団の小柄獣人は女性ばかりらしい。
人口統計的にいえば……。
通り沿いに男性の小柄獣人も見かけた。
だから女性が多いってわけじゃないと思うが……。
サザーといい、小柄獣人は女性ばかり出会う。
やはり、ココ様の効果も加わっているのかもしれない。
ということで、このまま良い香りの煙の元に向かうとするか。
奇襲を仕掛けるか?
いや、最初、皆に向けて話をしたように……。
ヘルメを待つのも一つの手だ。
液体状態のヘルメなら、魔法戦の不意打ちを実行すれば、小柄獣人たちは、俺たちに気づかずに沈むだろう。
眠らせるように無力化させることはできるはず。
しかし、そのヘルメは一階か地下を調べている。
「……」
そう思考しながら口に指を当てた。
アラハとツブツブに『口を閉じて、音を出すな』と暗にメッセージを送る。
二人は黙って、俺の指を見て頷いていた。
このジェスチャーの意味は無難に通じたようだ。
――良し。
黒豹とアイコンタクト。
ツブツブとアラハを連れた黒豹と一緒に前進を開始した。
だが、黒豹はさっきのお返しのつもりらしい。
俺の顔を撫でるように長い尻尾と触手で悪戯をしてきた。
そして、俺を置いて駆け出していく。
神獣としての膂力を見せつけるように、触手から突出した骨剣を上下左右に展開しながら、仕切りのカーテンを派手に引き裂く。
そのままの機動でツラヌキ団のメンバーが集まっている先の空間へと突入した。
勿論、神獣らしい速度を出しているから……。
触手に捕まっているアラハとツブツブは悲鳴を上げる。
黒豹は制圧に自信があるんだろう。
この際だ。音も立つが、相棒の行動に乗っかるとしよう――。
モガのように鼻を左手で軽く擦りながら――かまわねぇ!
――と、心の中で叫びながら<隠身>を解除。
俺も急ぐように――前傾姿勢で天風をイメージしながら黒豹の後を追った。
視界にチラつく紅樺色のカーテンの切れ端を――。
短く持った月狼環ノ槍の大刀で裂くように貫く――。
月狼環ノ槍の穂先から咆哮を上げた狼の幻影に包まれるように俺たちが突入した空間は……。
煙が流れていたから分かっていたが……。
やはり、香炉を中心とした居間のようなリラクゼーションができる場所だった。
床に脱ぎ捨てられた毛皮製のサンダルがたくさん転がっている。
もしかして、これがツラヌキ団の名前の由来か?
浅沓には、魔力を内包した物もある。
そして、畳模様の丸い座布団椅子に座りくつろいでいた小柄獣人たちが視界に入る。
瞬く間に黒触手が展開し、彼女たちの体に巻きついていく。
彼女たちを一瞬で宙づりにしていった。
その無力化された、彼女たちへ向けて、
「――よう、ツラヌキ団!」
と、宣言するように、俺は話しかけた。
体の拘束を受けて宙ぶらりんのツラヌキ団のメンバーたち。
頭部に触手が絡まっていない小柄獣人たちは、そう宣言した俺と神獣ロロディーヌを凝視してくる。
あまりの展開におしっこを漏らしているメンバーも居た。
気を失って食べていたお菓子を零しているツラヌキ団のメンバーも居る。
この捕まえた中にツラヌキ団のリーダーは居るのだろうか。
「皆、ごめんなさい……」
「アラハ! 黒き獣に捕まってしまったと思ったら、ツブツブまで……」
「この黒い触手、取れない……」
「……あれ、私たち、捕まった?」
各自、身動きが取れない宙づりになったツラヌキ団のメンバーたちが喋る。
さて、この宙ぶらりんの中に……。
ツラヌキ団を率いていた者が居たはずだが……。
皆、同じ衣装、アラハたちと同じく黒装束を身につけている。
「なぁ、アラハとツブツブ。この中でリーダーはだれだ?」
「居ません」
え、居ないだと?
アラハが速攻で答えた。ツブツブにも答えてもらおうと、視線を向ける。
彼女はハイグリアと同じように口の端の片側に一つの牙が少し出ていた。
「……本当だ。ここに居ない」
すると、宙づりの一人が口を開く。
「オフィーリア隊長ならロウガダイル競争に参加中だ」
「宝を奪うことが仕事の窃盗団のリーダーがレースだと? しかも窃盗する理由が、仲間たち同胞の命が関わっているそうじゃないか。そんな状況でのんきにレースだと?」
と、強い口調で、捕らえているメンバーたちに尋ねる。
「……その通りだが」
「……隊長も『穴開けが得意なツブツブとアラハなら大丈夫だろうって』……」
左の頭上で触手にぶら下がる小柄獣人の二人がリーダーの言葉を述べていく。
「うん。『このレースは表向きの商会同士の仲買としての付き合いもある。そして、仲間の命が懸かっていることは、重々に……分かっているわ。とはいえ……嫌な仕事を連続で行うのは、精神に支障をきたすからね……』と呟いていた」
なるほど、そういう理由なら分かる。
「そうそう。オフィーリア隊長は仕事を実行するたびに、つらそうだった」
「うん『だから、付き合いとはいえ、今日は楽しむの!』って張り切ってました」
なんとなく、リーダーとしての姿を想像できる。
「……『それに、この狐追いレースで優勝すれば賞金がたんまりと入るわ。その賞金があれば、あなたたちに美味しい物を沢山買ってあげられる! あの、仲間たち、同胞たちを人質に取って、わたしたちに変な紋様を刻んだ……いけ好かない人族共に仕返しをする算段を得るための資金とするの!』と、喋って、わたしたちの制止を振り切って、レース会場に向かったわ」
人質……仕返しか。
「だが、アラハが捕まったことは知っているだろう?」
「……隊長が離れたのは、アラハがそこの黒き獣に捕まる前の話だ。捕まった時に知らせようと思ったけど……ツブツブの仕事の進捗状況が見えない時だったし……」
「ツブツブからの定時連絡も遅いから、もう少ししたらセロがレース会場に向かう予定だった」
定時連絡?
ツブツブはその瞬間、腰元の袋を見た。
その視線が意味する行動は、その袋の中に定時連絡用のアイテムがある?
あの地下深くから地表の仲間と何らかの連絡が取れるアイテムを持つということか?
まぁ、その件についてはおいおいだな。
「……商会としての付き合いもある。大事なレースだと思うけど、仲間たちのための宝の窃盗が第一の目的だからね」
捕まっているツラヌキ団のメンバーたちがそう説明してくれた。
「……皆、本当に、ごめんなさい……」
アラハが、また謝る。
彼女は責任を感じているらしい。
泣き虫なのか、また双眸に涙を溜めていた。
「ふふ、ばかねぇアラハ。今の状況からして全員の責任よ」
「そうそう、黒き獣に貴女が捕まった時点で逃げるべきでした。フェウとケマチェンが許さないと思いますが」
「うん。あの人族共……ツブツブも地下に潜っている状況だったから、それも無理でしょう」
「どっちにしろ失敗する確率は高かったということね。それに、ここは古代狼族の狼月都市ハーレイア……人族を除外しているとはいえ、狼将たちは強い。兵士たちは、そうでもないけど、闘兵士級となると嗅覚も伊達じゃないわ。この間、わたしを追ってきた隊長クラスの古代狼族はしつこかったし」
そう語るツラヌキ団のメンバーは髪の毛が長い小柄獣人だ。
モコモコの毛ではない小柄獣人も居るとは……。
「それより、ツブツブ……愛用していた魔道具はどうした?」
「わたしが捕まった地下に置いたままだ」
ツブツブは不満げに発言。
「その魔道具も気になるが、まずはオフィーリア隊長の件だ。そのレース会場はどこにある」
「この宿屋がある通りを進んだ先。狼要塞の正門の先にある大きい会場だ」
あそこか。さっき俯瞰した時に見えていた。
「隊長の背格好はどんな感じだ?」
「勿論、わたしたちと同じノイルランナーよ。見た目は黒装束。金色の裏地が目立つマントを着ている」
「マントか……他は?」
「胸元に特別なバッジがある。そして、レース中なら、よほどのことがないかぎり、オフィーリア隊長が騎乗しているロウガダイルの後部に狐の人形が刺さっているはず」
「刺さってる?」
「そう、狐の人形を奪い合いながらのレースだからね」
「だから、オフィーリア隊長なら、トップを走っていることは確実ってこと!」
ツラヌキ団のメンバーたちは『うんうん』といったように、頷き合う。
オフィーリア隊長とは、騎乗が得意なのか。
身体能力が高い? 単純に、体重が軽いから有利って奴かな。
ロウガダイルといえば……。
この狼月都市ハーレイアに来る時に見たイグアナのような魔獣かな。
食べたら美味しいとか。
食事処にも、ロウガダイルの焼肉があったはず。
だとしたら食用以外にも使われているのか。
そんなことを考えていると、ヘルメの魔素が下から近づいてくるのを察知した。
「――閣下、地下に穴はありませんでした」
状況的にそうだろうとは思っていた。
ヘルメの背後にハイグリアの姿も映る。
「――一階、二階に、ツラヌキ団らしいノイルランナーは居なかった! だが……一階と二階で子供たちがわたしと遊ぼうと、赤ちゃんに乳を上げていたお母さんも寄ってきて、騒いでしまった……済まない」
ハイグリアも申し訳ないといったように謝ってきた。
「いや、大丈夫。むしろハイグリア、ありがとうだ」
「え、そうなのか? うん。そうなのだな!」
すぐに元気になるハイグリア。
元気良く銀色の尻尾が左右に揺れている。
一階と二階で、子供たちとその家族に捕まったようだ。
下の騒ぎの原因はハイグリアだったということだ。
アラハが泣いていた時に、ナイスタイミングだ。
まぁ子供たちが騒ぐのは分かる。
彼女は古代狼族の神姫という立場だ。
皆に慕われている姫さんのようだし、ここではセレブ扱いとなるのは当然だ。
子供たちが放っておくわけがない。
ヘルメとロロが好きな尻尾もあるし。
エルザとアリスの姿も見える。
「お、精霊様と神姫様も上がっていたか。わたしたちの通りには、怪しい小柄獣人の姿はなかった。虎獣人の荒くれ者が居たが」
「うん、喧嘩していた獣人たちが、エルザに絡もうとしたけど、エルザがね、お目――」
「アリス――」
エルザはそれ以上は喋るな――と右腕を振るう。
魔眼の能力か。アリスは反省したように、ネコ耳を凹ませる。
「あ、うん。ごめん」
「いや……それよりシュウヤ。ツラヌキ団を全員捕まえたようだな。さすがは神獣様といったところか」
「おう。全員ではないが、これからリーダーを捕まえに行く」
皆に向けて、そう話をした。
「八人の中にリーダーはなしか……」
エルザはそう呟くと、ヤハヌーガの大牙の柄を見せるようにしゃがみ込む。
床に転がっている毛皮製のサンダルを掴んで調べていた。
アリスも小さい手で掴んでは、サンダルの臭いを嗅いでいる。
「くっさ!」
「クサイモノ・ニ・フタ・ヲ」
エルザの左腕に棲むガラサスが発言。
得体の知れない声に、ツラヌキ団のメンバーたちがエルザを凝視した。
いちいち説明はしない。
注目を受けたエルザは、一歩、左足を引いて、半身の体勢となった。
あの辺りの挙動は大剣使いとしての武術が、体に染みついた自然な動きだ。
正直な話、戦ってみたい。
俺の風槍流の一槍が、どこまで人外な彼女と戦えるか……。
挑戦してみたいと思わせる。
一方黒豹はアリスの臭いを嗅ぐ行動を真似したいのか、鼻をピクピクと動かしている。しかし、俺の指示をじっと待っていてくれた。
相棒は可愛い。
そこでハイグリアに視線を向けて、
「ハイグリア、この相棒とエルザとアリスを連れて、この捕まえたツラヌキ団たちをヒヨリミ様のもとに運んでくれ」
「ん、承知した。シュウヤは精霊様とすぐに、このツラヌキ団たちのリーダーを捕まえに向かうのか?」
「そうだ」
ハイグリアの問いに、そう答えてから頷く。
そして、ヘルメを見て、
「ヘルメは左目にくるか? それとも、外に出た状態で一緒にリーダーのオフィーリアを追うか?」
「ロロ様が居ない状況ですし、このまま一緒に向かいます」
「了解した。状況によって沸騎士&リサナも呼ぶとしよう」
沸騎士の場合は、見た目が骸骨だから無理かな。
リサナは波群瓢箪だ。
鐘のような瓢箪から上半身が生えたバージョンだと怪物として攻撃を受ける可能性が高い。
波群瓢箪から離脱できるから、すぐに離れればなんともないと思うが。
すると、掌の傷が疼く。
『――妾もな』
『状況による。血を求めず、指示通り動くなら考えてもいい』
『……』
サラテン・チンモク。
と、心の中でガラサスの真似をしながら、
「んじゃ、ロロ、皆を頼む。あとでな」
「ンン、にゃ~」
黒豹は触手を俺の首筋に当ててくる。
『あとで』『だいすき』『あそぶ』『たのしい』『あそぼう』『にくたべたい』『もこもこ』
「ロロ、ツラヌキ団は食べ物じゃないぞ」
「にゃ~」
長い尻尾で俺の頭部を撫でてくる。
撫でるというより、殴る感じだが。
相棒の『わかってるにゃ~』といった感じのツッコミだろう。
「ふふ」
「神獣様! わたしにもそれを!」
笑っているヘルメと長い尻尾に撫でられたい、もとい、殴られたいハイグリア。
「エルザとアリスも、相棒とハイグリアと一緒に、バーレンティンとジョディたちのところに戻ってくれ」
「分かった」
「うん!」
俺はアリスに向けて笑みを意識。
そして、皆に向けて頷いてから、
「ヘルメ、行こうか」
「はい――」
すぐに、踵を返した。
足に纏う魔力と<血魔力>を強めて、金茶の板の間を駆けていく。
潜入した場所、ブルームーンの三階のベランダから飛び降りる。
通りの真ん中に着地――。
俺を指してくる古代狼族の子供たち。
色々な獣人たちから声が上がった。
目立ったが、構わず、レース会場の方角に足を向けて走っていく。
ヘルメも付いてくる。
――マントを着た小柄獣人か。
裏地が金色のマントを着ているとか……。
似合うなら美人かな?
オフィーリア隊長って響きがいい。
走るヘルメと視線を合わせてから「速度を出す――」と、発言。
「はい!」
ヘルメは元気よく声を発すると、足先から発している水飛沫を強めた。
そして、彼女の足先が地面にタイミング良く触れる度に、その地面が凍っていく。
ヘルメはバレリーナのような細い足を左右交互に伸ばし走る―。
凍った地面の上を華麗にスムーズに進む。
スケートリンクを滑る機動だ。
常闇の水精霊ヘルメとしての実力を遺憾なく発揮といったところか。
俺よりも速い――。
負けるか! と、<血液加速>を強く意識。
通りを縫うように駆け抜ける。
ここは通り沿い、人々も多いし、赤ちゃんを連れた女性獣人も居る。
だから、あまり速度は出せない。
そんな俺を見越したヘルメが、「ふふ、閣下、お先に――」と発言しながら俺を追い抜いた。
競争心が煽られた気がした。
レースと聞いて「マリオカート」じゃないが、赤甲羅をヘルメに投げたくなった。
だが、我慢。そして、甲羅じゃないが!
坂が遠くに見えた、チャンスだ。と、途中で左腕を前方に向ける――。
狙いは、その坂の斜面だ。
その斜面に向けてトゲこうら、もとい、<鎖>を射出した――。
左手から弾丸めいた速度で伸びていく<鎖>。
そして、斜面の頂上にその<鎖>の先端を突き刺し、固定を確認。
「――あっ、閣下、ずるい!」
ははは、と、笑みを意識しながら――。
前方に伸びている<鎖>を、瞬時に左手の<鎖の因子>のマークへと引き戻す!
続けて、<導想魔手>に月狼環ノ槍を持たせた。
フリーハンドと化した両手を、胸元で偉そうに組む。
そして、先を行くヘルメの横を通り抜ける瞬間――。
したり顔を意識。
左手に収斂していく<鎖>を、一時、弱めて速度を落とし、
「――ヘルメ君。これも実力の内なのだよ! ふはは――」
と、調子に乗って語り、大笑い。
そのまま吸血鬼らしくお洒落な一礼をヘルメに向けて繰り出す。
お辞儀してから――。
一気にヘルメを追い抜いた。
「閣下の実力! 負けません!」
そう喋りながら、水鉄砲を俺に飛ばして悪戯をするヘルメの表情が面白い。
俺は前方に体を向け直す――。
尻にヘルメの繰り出す水鉄砲を浴びて、変な気持ちになったが……気にせず――。
地に刺さっている<鎖>の地面の下へと、一気に、体を運んだ。
そのまま、木にぶつかり頭上から巨大な盥が落ちてきたりはしない。
……そうして、大盛り上がり中だったレース会場に到着した。
続きは来週です。
「槍使いと、黒猫。」1巻~9巻発売中!
2020年1月25日に10巻が発売します。
「槍使いと、黒猫。」1巻の漫画も発売中です。




