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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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四百三十二話 ロロとのヒップホップ系握手と眷属の名

「閣下、新しき眷属の誕生、おめでとうございます」

「喜ばしきこと!」

「桃色の髪の眷属!」

「魔界極魔殿の泉に棲むと言われる地母神ソベージュのようだ」


 ロロディーヌの側に来た沸騎士たちに頷き、


「そうだな」


 と答えながら……。

 名前を決める前に俺の名前を教えておくか。


「俺の名はシュウヤ。この黒豹は大切な相棒だ」

「にゃ」


 と、俺の足元からロロディーヌも挨拶。

 すると、ロロディーヌは新しい眷属の桃色と銀色の髪に注目した。

 桃色の髪を縁取る銀色は綺麗だ。

 風はないが、魔力の力で揺れているから?


 と、思ったが違った。

 ロロディーヌは、新しい眷属の長髪が靡く付近で飛翔する小型の蛞蝓(ナメクジ)とカタツムリたちの様子が気になったようだ。


 鼻をクンクンと動かした相棒。

 ふがふがと匂いを嗅ぐ相棒ちゃんだ。

 

 その相棒が注視しているように、小型の蛞蝓は、毛虫のように柔らかい軟体の機動で奇妙な動きで宙を泳いでいる。


 頭部に一対の触角を持つカタツムリの動きは一定。

 等角螺旋の殻の入り口の『エピフラム』の膜から外に出た軟体は淡い色彩の皮膚を持つ。

 皮膚は半透明に変化した。


 続いて、赤い光沢がある鱗染みた質感へと変化が続く。


 蛞蝓とカタツムリを使役する新しい眷属か。

 ピンクとシルバーが映える長髪の付近に漂うから、ある種の髪飾りにも見える。


 そんな小型の蛞蝓とカタツムリたちの動きを見たロロディーヌは興奮した。

 紅色の光彩を黒一色へと染めるように瞳孔を散大させる。


 頭部を傾けて、体勢を低くした。

 すると、宙に浮かぶ小型の蛞蝓たちが動く。


 その途端、黒豹のロロディーヌは身体をビクッと動かし、頭部を上げて、カタツムリたちを見た。


 すると、尻尾が弓なりにしなる動きで背中の上に移動。


 ロロディーヌ的には、『あれは何だ、にゃ!』といったような、好奇心溢れるびっくりしたような感じだろうか。

 しかし、長い尻尾を元に戻すと、左右に激しく揺らし始めた。


「ロロ、噛み付いちゃだめだからな?」

「にゃぁ~」


『わかってるにゃ~』


 というように鳴いたロロディーヌは片方の前足を上げた。

 足の裏に五つの可愛い肉球団子ちゃんがある。


 これは、ハイタッチ的な流れか?


「肉球タッチか?」


 と、俺はロロディーヌに語り掛けながら、両膝を曲げて姿勢を低くした。

 黒豹ロロディーヌと視線を合わせる。

 少しだけ瞳孔が散大しているロロ。

 可愛いつぶらな瞳だ。


 ――片足を上げているロロの肉球に俺は自分の掌を当てた。


 よーし、このまま、肉球のもみもみタイムといきますか!

 柔らかい肉球を親指で、押しに押す。

 もにゅもにゅとした柔らかい肉球の感触は、タマラナイ。


 ロロディーヌは肉球マッサージを受けて気持ちよさそうな表情を浮かべた。

 しかし、揉みしだかれていた片方の足を引いて戻すと、今度は、反対の左前足を伸ばして、俺の手の甲の部分に肉球を押し当ててくる。


 その肉球の圧力からして、若干力が入っていることは分かる。

 そして、何故か、ドヤ顔気味だ。

 その押し当ててきた片足を握ろうとしたが、すぐに引っ込めた。


 可愛い天邪鬼め!

 ロロは楽しいらしい。

 芸をしている気分となったのかもしれない。


 俺もロロディーヌの気分に合わせるように反対の手を前に出す。


「にゃ!」


 と強く鳴いたロロディーヌ。

 『相棒!』と呼ばれた気がした。


 すぐに、ロロディーヌは俺の腕に片足の先を当ててくる。


 そのまま俺とロロディーヌは互いの手と片足を突き合わせていった。


 一緒に遊ぶように――「にゃ」ポンポンと音を立てるように「にゃっ」楽しく「にゃ~ん」面白く「にゃんお~」はは、面白いな!「にゃ~」とヒップホップ系の握手的なノリを楽しんだ。


「くっ、羨ましい……わたしも遊びたいが、混ざれない」


 ハイグリアの悔しそうな声が聞こえた。

 俺とロロの遊びに混ざりたいらしい。


 ロロディーヌはちゃんと聞いていた。

 そんなハイグリアに向けて触手を伸ばしていた。


 ハイグリアの脇腹をくすぐっていく。


「ひぃあぁ」


 くすぐられたハイグリアは何とも言えない声を上げた。

 喜んではいるようだ。前歯の白さが綺麗に目立っている。


 すると、ロロディーヌは、


「にゃ、にゃ~ん、にゃ!」


 宙を引っ掻く機動の黒豹パンチを繰り出してきた。

 俺の手を弾く勢いのある連続フック。


 パンチの軌道は上に向かう。

 もう目的は、俺との遊びじゃないようだ。


「ふふ」


 ロロディーヌの行動を微笑んで見ていた新しい眷属。

 またまた、新しい眷属の髪の近くで浮遊する蛞蝓とカタツムリたちが気になるようだ。


 ロロディーヌはパンチを放ち続ける。

 勿論、そのフック気味の可愛い黒豹パンチは、微笑む眷属には届かず空を切り続けていた。


 ロロディーヌは、宙に浮かぶ小型の蛞蝓とカタツムリたちをつついてアイスホッケー的な遊びをしたいんだろうな。


 一瞬、その可愛いパンチを繰り出す姿勢から……。

 白猫マギットの存在を思い出した。

 カンガルーボクサー。

 黒猫(ロロ)の良い遊び相手だった。


 俺は笑いながら、微笑んで見ていた桃色と銀色の髪を持つ眷属に向けて、


「……今、黒豹パンチを出している、この相棒の名はロロディーヌ。愛称はロロだ。興奮しているが、仲良くしてやってくれ」


 と、説明した。


「ふふ、はい。仲良くしたいです」


 笑みが美しい新しい眷属。

 俺の話を聞きながらロロディーヌの変わったボクサースタイルを見て、笑っていた。


 彼女は、黒豹パンチを繰り出すロロディーヌに向け、律儀に頭を下げる。

 

「……可愛らしい神獣ロロ様。わたしはシュウヤ様の眷属精霊として生まれました。よろしくお願いします」


 遊びモードだったロロディーヌだが、動きを止めた。

 新しい眷属の言葉をちゃんと聞いていたようだ。


 散大していた瞳孔を元のネコ科らしい瞳に戻す。

 偉そうなドヤ顔を作り、


「ン、にゃ、にゃぁん、にゃぁ~」


 と、挨拶に応じては意味があるような鳴き声を出す。


 『あたらしい家来にゃ、よろしくにゃ~』といった感じだろう。


「この黒豹ロロディーヌを一目見て、神獣と理解したようだが……」

「はい」

「鑑定スキルとかがあるのかな」


 俺がそう聞くと、新しい精霊は胸元のキャミの上に手を当てながら、


「鑑定ではないですが、<波音の調べ>というスキルがあります」


 と、答えていた。


「それは偵察用の魔力探査系?」

「そうです。元々波群瓢箪に備わっている能力の一つ。魔力察知スキルとなります」


 ということは、掌握察系の技術と同じ。

 波群瓢箪に備わっているとは知らなかった。

 しかし、よく時獏も、眷属を生み出せる凄いアイテムを俺にくれたな……。


 ま、象の鼻を持った時獏も【グラースの時箱】に永いこと閉じ込められていた。

 恩に感じてくれていたらしい。

 混沌とした夜の戦いでも、様々な魔族系の種族たちとの争いに加わってくれた。


 彼が乗った白虎のような亀は大丈夫だろうか。

 攻撃を受けて傷を負っていたようにも見えたが……。


 その時獏は、今どこにいるんだろう。

 まだ、この南マハハイム地方で活動を続けているのだろうか。

 まさか、この樹海を棲息地に?

 ここは餌が豊富だからな……ありえる。

 

 と、思考したところで、新しい眷属にロロのことを聞く。


「……そのスキルで、ロロを視て魔力の感覚を得た? その応えが神獣だったんだな」

「はっきりと魔力を測れたわけではないのです」

「そういうことか」


 俺はやはり掌握察系の技術だと納得し、頷く。

 風の魔法かもしれないが。


「はい。シュウヤ様と極めて近い感覚といえばいいのでしょうか……生まれたての眷属の立場として口にするのは、大変恐縮ですが……」

「いいよ。遠慮するな」

「分かりました。眷属としてロロ様に特別無比な気高いモノを感じたのです」


 納得だ。

 続けて、ハイグリアたちを紹介。

 ハイグリアとリョクラインが丁寧な所作を取りながら挨拶していく。

 一方で<光魔の蝶徒>のジョディと、ダオンさん率いる古代狼族の一隊は警戒を強めていた。

 ヘルメが守る聖ギルド連盟の方々も同様だ。

 こっちには近付いてこない。

 やはり、一番の理由は空だろう。


 サラテンとイターシャが剣精霊&幻想動物たちと戦っているからな。


 サラテンは小判鮫のようにイターシャを連れながら縦横無尽に空を駆け抜けている。

 剣精霊と幻想動物たちを夢中になって狩っていく。


 三つの剣身の上で踊る羽衣が似合う少女たちは楽し気だ。

 可愛い(イタチ)姿の眷属を得たことが、よっぽど嬉しかったらしい。

 小さい魔盾を持ちながら、はしゃいでいる。

 サーフィンの機動も速い。

 板じゃないが、剣身から蒼色と金色が混ざった質の高い魔力を放っていた。


 神々しい神剣サラテンは動きを止める。

 ツキノワグマ級の大柄で幻想的な熊と相対した。


 熊の背中には半透明な羽のようなモノが付いている。

 剣の切っ先が、分厚い胸元から飛び出ていた。


 そんな熊の姿を纏った剣精霊に狙いを定めるサラテン。

 極彩色の光を発したイターシャも、そのツキノワグマ級の熊を標的にしたようだ。


『妾の動きをよく見ておけ!』


 神剣サラテンはイターシャへ向けて指示を飛ばす。

 蒼色の軌跡を宙に残しながら、時々、宙に弧を描く機動を取っては、反転した。

 部下のイターシャを誘導している。


 そして、タイミングを合わせるように、剣突技を繰り出した。


 大柄の熊の体を、四つの剣身が上下左右から貫く技だった。

 蒼色と銀色の軌跡が重なる剣閃は美しい――。


 一瞬で穴だらけとなった巨大な熊。

 骨も残らず血肉のミンチと化した。


 血肉ミンチ姿のそれは、万力で圧縮を受けたようにも見える。

 そんな平たくなった血肉を貪り食う神剣サラテン。

 イターシャも胸元から可愛らしい剣を目一杯伸ばす。


 サラテンが零す血肉の一部に、その伸ばした剣の先端を当てて、血肉を吸収していく。

 肉を食べきったサラテンの三つの剣とイターシャの体が輝く。

 その輝きは一瞬で消えた。

 しかし、スキルでも獲得したような不可思議な輝きに見えた。


 すると、その輝きを見た敵側の剣精霊たちが今までと違う行動を取る。

 数が多い剣精霊の中から……。

 重低音を響かせながら斬馬刀のような厳つい剣精霊がぬっと出現した。


 その斬馬刀は輝きを発していたサラテンたちに向けて、


「ゾルハグル! ボフォガルッ、ラマジャッズ、アァ!(危険だ! 我がっ、倒す!)」


 斬馬刀に口はない。

 だが、野太い声だ。

 

 巨大なスピーカーが響かせるような……。

 独特の風を孕んだような……大音量の魔声。

 地上から見ている俺たちにも轟く声だ。

 その声を発した斬馬刀は、今さっき倒したばかりの巨大な熊のように幻想動物を纏っていない。


 斬馬刀と例えたように……。

 前世の古代中国にもあったような武器と少しだけ似ている。

 四角い柄は、怪しく闇色に輝いていた。 

 

 柄の下の巻の部分からは……。

 怪しい濃厚な魔力を持った影が出ており、揺らいでいる。

 

 非常に怪しい影だ。

 影は巨大なヘラジカ角を頭部に持ち、額からユニコーンのような螺旋状の角を生やしていた。


 頭部のみだ。幻影みたいな感じか?


 しかし、幅のある闇色の大剣だ。

 大剣を見ただけで、魔界セブドラを連想した。


 魔界セブドラと関係があるかはまだ分からないが……。


 すると、剣身の表面から黒い閃光を生み出す。

 剣の表面に波紋ではなく、みるみる青筋のようなモノが拡がった。


 同時に、剣身が異常に膨れ上がる。

 剣の厚さが増していた。


 アドゥムブラリのような膨らみじゃない。

 見た目は、大太刀か、段平の大剣か?


 または、ドラゴン殺しを彷彿とするような……魔の大剣精霊と化した。


 巨人が磨き上げたような大剣の剣身はマヒ毒が塗ってあるような色合い。


 大剣の剣身からモンスターのように目と口が現れそうな……。

 そういう雰囲気もあったが現れなかった。

 

 が、魔の大剣精霊が斬った相手は本当に痺れるとかの効果を持つ毒があるかも知れない。


 シュミハザーが振るっていた巨大な剣を思い出す。

 アドゥムブラリも成長したら、あんな巨大な剣に変身できるのだろうか。


 強そうだ。使役したいかも。

 だがしかし、俺には……。

 闇神リヴォグラフへと捧げられた魔剣ビートゥがある。


 その闇神リヴォグラフは魔界セブドラの神絵巻に載るほどの力を持つ特別な闇神のうちの一柱だ。

 そして、俺の腰には鋼の柄巻(ムラサメブレード)もある。

 近未来の侍が扱うような光刀。


 だから浮気はしない。

 そんな思いを胸に抱きながら……。

 魔の大剣精霊を凝視していると、


『サラテュンさまぁぁ』


 んお!? 完全に想像外の声だ。


 赤ちゃんが発したような変な念話が脳を衝く。

 微かに頭を振った俺は、もしかして鼬のイターシャの声か? 


 と、イターシャを見た。

 どういう基準で俺に念話が来たのか分からない。


 そのイターシャこと鼬は、サラテンを超えて前に突出。

 Bluetoothのように、魔力の思念にも反射のようなモノがあるのか?


『イターシャ! 前に出るナ!』


 サラテンが珍しく警戒を促すように念話を飛ばす。

 三つに分裂しているサラテンの剣身に乗った少女たちも、そんな慌てたような念話と同調するように、剣先の先端へせかせかとした足音を立てるように移動しながら、イターシャを追い越した。


『あの剣は他とは違う! 妾が倒すぞ!』


 キャラが違う。

 神剣だけに真剣なサラテンさんだ。

 と、俺が一人脳内でボケたところで、凄まじい加速を見せたサラテン。


 宙に蒼い軌跡を生む。

 凄まじい加速で、宙を切り裂くように突進した。


 真剣、もとい神剣サラテンだ。


『貰ったァァァ』


「神剣サラテン、かっこいいです!」


 聖ギルドメンバーを守っているヘルメの声が響く。


 確かに、宙を一閃するが如く直進するサラテンの姿はカッコいい。

 ……堕ちた神剣とは思えない。

 だが、魔の大剣精霊は呼応するように、柄から暗黒めいた閃光を発して反応した。


 段平を生かすように、刃先の角度を変える。

 迎撃行動を取ろうとした。

 サラテンがイターシャに対して警告を発したように、空を舞う剣精霊たちの中でも、特別な強いタイプの剣精霊なのかもしれない。


 だが、サラテンの加速した剣技は(すこぶ)る速い。

 角度を変えようとした魔の大剣精霊は、角度を変更はできず。

 剣腹でサラテンの切っ先と衝突した。


 衝突した瞬間――。

 

 神剣サラテンここにあり――。

 といった意志を示すような、神々しい煌めきをサラテンは発した。


「――ギャァァ」


 悲鳴は神々しい光の中へと収束。

 魔の大剣精霊は、真っ二つにへし折れると大爆発。

 魔の大剣精霊だった物の破片が、四方八方へと飛散した――。

 他の剣精霊と幻想動物たちを巻き込む。


 魔力を纏った破片群が古代狼族たちにも降りかかっていく。


「気をつけろ! ただし、不可思議な破片だ。各自回収!」


 ダオンさんが皆に向けて指示を出す。


「わたしも協力します」


 ジョディも蜂のような機動で器用に避けながら、地面に突き刺さった破片を拾っていく。


「はい! 月環組、出ます!」


 ロロのお気に入りのルルンだ。

 月環組に続いて、小隊長らしき人物が返事の声を上げていく。

 リョクラインの妹さんを含めた古代狼族の小隊たちは素早い。

 空から降ってくる破片を避けながら地面に刺さった魔の大剣精霊だった異質な破片を回収していった。


 あの破片は、触っても大丈夫なのか?

 古代狼族たちは平気らしい。


 俺たちにも降りかかってくる。

 避けながら《氷弾(フリーズブレット)》で打ち上げるかな?


 トン爺の指弾のような石礫のように……。

 と考えた直後――。


「わたしにお任せください!」


 新しい眷属が魔力を身に纏いながら、細い両腕を振るう。


 俺は彼女に任せてみようと頷いた。


 すると、新しい眷属の近くで浮遊していた小型の蛞蝓とカタツムリたちの一部が、眷属から離れて降りかかってくる破片に向かう。


 新しい眷属の遠隔操作能力か。

 カタツムリも混ざっているが、蛞蝓の精霊だった名残りといえる。


 飛翔した小型の蛞蝓とカタツムリたちの挙動は、それぞれ違う。

 新しい眷属がラジコンを操作するように彼らを動かしているわけじゃないらしい。


 小型の蛞蝓とカタツムリたちはコンピューターで例えると……。

 スタンドアローンシステムか。


 または、サーバーが新しい眷属の本体で、クラウドのように目に見えない魔力網でカタツムリたちと繋がって操作しているのかもしれない。


 そんな小型の蛞蝓とカタツムリたちは、口と殻から粘液を吐き出す。


 粘液は膜状に宙に拡がる。

 膜は、カタツムリの美しい殻の表面を生かすような防御膜となった。


 新しい殻? 雨樋にも見えた。

 あの綺麗な殻の表面を顕微鏡で見たら、微細な溝とかがありそう。

 汚れが簡単に落ちるとか?

 前世でもカタツムリの殻を参考にした住宅用の材料があったようだしな。


 そんな防御膜へと降り掛かってくる破片群――。

 元々が巨剣なだけに欠片の量も凄まじい。

 防御膜へと破片の群れが衝突するさまは激しい。


 だが、不思議と衝突音はあまり聞こえない。

 防御膜とぶつかった破片は、それぞれ弾力を持ったものに当たったような機動で跳ね返っていく。


 しかし、一部の防御膜は破れてしまった。


 その防御膜を突き破った破片は闇色の魔力を纏っている。

 気になった。右手に魔槍杖を召喚。


 俺を守るというよりハイグリアたちを守ってくれた新しい眷属精霊に、


「ありがとう」


 と礼を述べてから、ブーツの底で地を突いて跳躍――。

 <導想魔手>を足場にして、宙を翔けた。

 防御膜を打ち破ってきた闇色の魔力が強い破片へと向かう。


 破片は四角い。

 その破片を左手で掴んだ。


 魔力を感じた。

 怪しいと感じ、破片を凝視する。


 ひょっとして、大剣の柄だった?


 全体の形は古めかしい四角形。

 四角形の中心が丸く窪んでいる。

 その窪んだ円の底には、闇色の魔力を放出している小さい点のような孔があった。


 底の孔を起点とした溝も放射状に伸びている。

 この窪んだところに、丸い石か何かを嵌め込む機構か?

 さらに、淡い色彩の魔力の光が、放射状の溝の中を点滅しながら走っていた。


 この四角いのは、大剣から分離しただけで、生きている?

 そんな疑問を持ちながら着地した瞬間――。


 俺の腰元にある魔軍夜行ノ槍業が反応した。


 悪魔模様の珠玉を争う魔族の騎士たちの絵が煌めく。

 すると、立体的な珠玉が、四角い柄から放出が続いている闇色の魔力を吸い取っていた。


 紅玉の湾曲した硝子面に渦を巻く黒い魔力が増大。


 同時に、騎士たちの握っているそれぞれ特徴のある魔槍たちが点滅し、少しだけ湾曲するように盛り上がる。


 さらに、不細工な騎士の一つの腕の切断面から血が迸っていた。

 その血飛沫が流れ落ちる光景は、実際の世界には反映されていないが、立体的で妙にリアルだ。


 すると、魔軍夜行ノ槍業から「ドクンッ」と心臓が高鳴るような音が響く。

 合計八本ある魔槍たちが閃光を発した。


 刹那、複数の鏃の形をした魔法文字が視界に浮かび、俺の中に沈んでくる。

 鏃の魔法文字が侵食してきた。

 目の前が、一瞬暗くなる。

 風景が、ぐにゃりと音を立てるように歪んだ。 

 軽い眩暈と似た感覚を受けた。

 脳が微かに揺れる、シテアトップから精神攻撃を受けた時と似た感覚だ。


 視界に……。

 魔槍を持つ魔界の神か、魔人か、その幻影が浮かぶ。

 靄に包まれるような感覚。

 壁を通じて聴こえてくるようなくぐもった声たちが、次第にハッキリと聴こえ出す。


『閻魔の奇岩だ!』

『グンダイルの兄弟である我に捧げよ』

『俺に寄越せ、そして、八峰大墳墓を壊せ!』

『俺だろ、燃やすぞコラ!』

『いや、妾こそ……』

『生意気な魔槍ども』

『お前もだろうが! 馬鹿グルド。そして、雷炎槍の担い手と呼ばれたわたしこそ、閻魔の奇岩を持つに相応しい!』

『幻魔に敗れる弱い(シュリ)なぞ、この魔軍夜行ノ槍業の新しき(・・・)使い手は、興味がないじゃろうて……』

『何だと! 爺ぃ、神魔石でも喰らって死んどけ』


 その瞬間、鐘の音が鳴り響く。

 視界が元通りとなった。

 同時に、右手の魔槍杖バルドークが唸る。


 どうやら……。

 魔軍夜行ノ槍業の中身は普通じゃないらしい。


 だが、今はサラテンたちが、空で剣精霊たちと戦っている最中だ。

 そして、新しい眷属の名前も決めないと。

 だから、今は仕舞っとこう。

 厳つい魔の大剣精霊の一部だった四角い柄を、そそくさとアイテムボックスに仕舞う。

 四角い柄は〝閻魔の奇岩〟という名前らしいが……。


 閻魔の奇岩を仕舞うと、魔軍夜行ノ槍業の煌めきは消失。

 盛り上がっていた八本の魔槍たちも平面に戻る。

 紅玉の湾曲したガラス面には何もない。


 今度、魔軍夜行ノ槍業と閻魔の奇岩を試すとしようか。


 そして、新しい眷属を見た。


「ふふ、早速、貢献できて良かった」


 新しい眷属は微笑む。桃色髪が美しいし、良い子だ。

 魔軍夜行ノ槍業のできごとには、皆、気付いていない。


 俺にしか分からないようだ。

 左目にヘルメがいたら、違っていたかもしれないが。


 一方、サラテンとイターシャは、宙で残骸となった破片を喰らう。


 地上で回収作業をしていたジョディは、その喰っている光景を見て、


「凄まじいですね、剣たちの共食い……」

 

 と呟く。

 一方、ダオンさんは破片の回収をしつつ新しい眷属に注意を向けていた。


 額の十字傷が目立つ顔で作る表情は厳しい。

 俺の眷属と分かってはいると思うが、まだ安心はしていないようだ。


 一方、聖ギルド連盟の方々は、隊長格のアソルたちの下に集結していた。

 彼らを守っていたヘルメが人好きのしそうな笑顔を振りまき、辺りに水を撒きながら何か説教している。


 まさか、ヘルメ教を布教?

 秩序の神オリミールに目をつけられるぞ……。


 そんなことより、新しい眷属の名前を決めないと。

 頭上のサラテン&イターシャと剣精霊&幻想動物たちの争いはまだまだ続きそうだしな。


 ここは、フィーリングで素早く決めるとしよう。


「名前だが、リサナという名はどうだろう」

「リサナ……」


 と新しい眷属は呟く。

 薄青い瞳の色が、若干濃くなるように変化した。

 光彩を縁取る白色も強くなり、光彩の内側から桃色も混ざり、不思議な光彩となった。


 どういった感情が渦巻いているのかは、分からない。

 数十の呼吸の間、沈黙が続く。


 内心、身構えるというわけじゃないが……。

 ゼメタスやアドモスと同じように、閃きから生まれた名前だったが……。


 気に入らなかったのかな。

 俺は、そんな疑問を表情に出すように、ハイグリアとリョクラインに視線を巡らせる。


 ハイグリアは『わたしに聞くな』とアピール。

 リョクラインも『わたしも遠慮しておきます』という感じだ。


 ロロディーヌはリサナ(仮)の周りに漂うカタツムリたちへと一対の触手を向かわせようとする。

 さっきと同じように我慢しているようだ。

 そして、自分たちを守ってくれた新しい眷属にお礼をするように波群瓢箪へと頭部を衝突させていく。

 甘えるのではなく、匂いつけの作業かもしれない。


 できたてほやほやの精霊感を漂わせる植物系の眷属の未知の臭いを消すためとか?

 または、リサナ(仮)に自分の臭いをつけて、『これで、リサナ(仮)はわたしのモノにゃ~』と思っているのかもしれない。


 黒豹(ロロ)の姿を見ていると、ふと、童謡のかたつむりを思い出す。

 でんでんむしむし、から、あたまだせ、槍出せというフレーズがあった。


 そんなことを思い出していると、リサナ(仮)が口を動かす。

 その表情は笑顔だ。桃色髪にあるカタツムリの髪飾りが綺麗だ。

明日も更新予定です。

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