三百六十五話 幽霊たちの歌
南向きの木窓から差し込む夜風が冷たい。
部屋に火鉢でも置くか。
そんな寒い夜空だが……。
ヘルメの飛行速度が上がっていると、掌握察で魔素の動きが察知できた。
彼女も広間に集結している魔素の気配を察知したらしい。
樹海とはいえ幽霊だからな。
再び、広間に集結している幽霊エルフたちを見た。
……下の幽霊たちの声はここまで届かない。
だが、ざわざわとした雰囲気だ。
幽霊エルフの集会場。
そんなエルフたちの表情は様々だ。
教祖や神でも見るように崇める者。
墓から蘇った鬼気迫る者。
悲しみにくれる者。
無表情だが、俺を見つめるだけの者。
傷ついた者たちは魔竜王により滅ぼされた者たちだろうか。
だとすると、この幽霊たちはキッシュの家族を含めての、先祖たちエルフ氏族に連なる者たちかな。
そう思考しながら、肩の竜頭金属甲《ハルホンク》を意識。
右肩の竜の口部位から暗緑色の布が展開。
一瞬で暗緑色コートへ着替えを終了させた。
暗緑力の半袖防護服。
白銀色の枝模様が随所に施されて、襟や胸元に腰回りには金具とベルトもある。
胸元は少し開いている。
ワイルドさを意識した。
背中からもキサラの視線を感じるが、別段にポーズは取らない。
「……シュウヤ様、過去のお話の続きは……でも凄い竜頭を模った肩防具ですね。槍武術を訓練しながら冒険者活動がメインと仰せになられていましたがその肩と一体化した竜頭防具は迷宮産のアイテムボックスなのですか?」
後にある寝台から聞こえるキサラの声だ。
右肩のハルホンクが気になるらしい。
幽霊より現実の美女――という理由じゃないが、
「これか」
と、いいながら振り向く。
キサラは小さい床几とヘッドボードに寄り掛かった体勢だった。
巨乳さんを床几に傾けた反対の手で隠しながら、俺のことを見つめている。
「はい」
と、頷くキサラ……うん、美しい。
悩ましい腰元を隠し切れていない長布が、彼女のスタイルの良さをアピールした。
洗練されたボディラインは女武術家として洗練されている。
「寒くないか?」
と、毛布でも掛けてあげようと尋ねた瞬間、
「――んっ、大丈夫です。まだ火照ってますから……っ」
色っぽい声を上げたキサラ。
白眉と腰を同時に震わせて上半身を揺らし、下半身をモジモジさせる。
まだ激しく攻めた余韻が残っているらしい。
そのまま美しい絵画でも見ている気分で、
「……さっきも話をしたが、この肩のハルホンクは」
「呪品ですね」
「あぁ、ペルネーテで頭が禿げた最高級のアイテム鑑定人曰く『呪いの品、極めて第一種に近い、第二種危険指定アイテム類に分類されます』と鑑定を受けていたからな」
俺の言葉を受けてキサラは微笑みながら、
「その呪いの品を、食べちゃうシュウヤ様もどうかと思いますよ?」
頭を傾げながら聞いてくる。
彼女は、ビスケット状に変化していたハルホンクを俺が食べた時の話を思い出したらしい。
「……流れという奴だ」
「ぷぷ、オカシナ方……」
キサラは最初に見せていたような妖艶な表情で笑う。
「だが、食べた結果、魔皇シーフォと出会えた」
「暴食ハルホンクの精神世界。その関連の話を聞いた時は胸が高まりました。魔境の大森林から大砂漠を旅している魔族たち一党のお伽話があり、実際にそれらしき古い集団を見たことがあります。謎集団として砂漠各都市には、それに関する話があるようですね」
そんな話があるんだ。
ゴルディクス大砂漠か。
ゴルディーバの家族たちが歌っていた歌詞が脳裏に過る。
ラグレン、ラビ、アキレス師匠たちの歌声。
さらにハルホンクの……。
『ングゥゥィィ……アタラシキ者ノゥ、魔力ゥ、ウマイィ、ゾォイ』
の声も思い出した。
「……暴喰いハルホンクの鳴き声は懐かしい」
「シュウヤ様の発音の真似をすると……ングゥ? ふふ、わたしも聞きたかったです」
「俺と一緒にいれば、いつか、また聞けるかもな」
「……それは結婚の申し出ですか?」
「さぁ、どうだろうか。何事も本人次第か?」
「……もうその心を揺さぶる曖昧な言葉っ! でも、その魅惑的な黒瞳で強く言われたら、また胸が体が……」
キサラは蒼い双眸を揺らし体を震わせる。
「はは、外の幽霊たちが気になるが、もう一回戦か?」
「……お願いしたいですが、甘えてばかりは……」
「それもそうだな」
俺はアイテムボックスの水晶体をタッチ。
キサラに見せるようにインターフェースを起動した。
ヘルメが来るまで魔煙草でも吸うかな。
「手首にあるアイテム。肩のハルホンクは吸い込まないのですか?」
と、聞かれたので、インターフェースを消して、
「そうだよ。この手首のアイテムボックスは本来、ガトランスフォームを収納する場所だ。肩のハルホンクもガトランスフォームを吸い込み吐き出して装着できるから、この手首の太陽の腕輪はハルホンクと少し似ている。というかハルホンクと連動している。ハルホンクも簡易アイテムボックスの役割がある」
「連動?」
「そうだ。腰ベルトのムラサメもハルホンクは吸い取る場合がある。吸い取らず落ちる場合もあるが。ハルホンクが吸い取った場合、自動的に手首のアイテムボックスの中に戻っている時もあるし、ハルホンクの中に収納され続けている場合もある」
「それは不思議ですね」
そこで右肩の竜金属の頭の造形を見た。
ハルホンク君。また目覚めてくれるかな? と。
目覚めたら本格的に食べちゃうからだめか。
そして、手首に嵌っている腕輪型アイテムボックスを見つめる。
「うん。不思議だがマジックアイテムとは元来そういう物だ。因みに、今、俺が着ているのはハルホンク系の防具だからな?」
「はい、神話級の」
キサラは頷く。
もう一度、右肩のハルホンクの竜の口へと暗緑色の服を吸わせた。
裸になると共にハルホンクをも肩から消失させる。
「あ……」
キサラは何度も見ていた、俺の素っ裸を見て、顔を紅く染める。
蒼い視線は股間を凝視していた。
そんな視線は構わず、手首のアイテムボックスから、ガトランスフォームを展開。
「一瞬で漆黒色の戦闘服に……腰に鋼の柄巻きがあります」
「これがガトランスフォームであり、ムラサメだ。剣術はまだ序の口だが、ある程度は扱える」
鋼の柄巻きを触り、また右肩ハルホンクを意識。
漆黒服のガトランスフォームを突き破って、右肩の表面に竜頭を象った金属甲が浮かぶ。
その瞬間、右肩の竜の口部位とアイテムボックスがガトランスフォームを吸い込む。
続いて、右肩の竜の口部位から暗緑色の布が吐き出され展開された。
俺は再び変身した――。
暗緑色の防護服バージョンに着替えを完了。
「この暗緑色の防護服系、魔竜王タイプと自由度の高い防具群は、この手首のアイテムボックスは吸い込まない。暗緑色の防具服と魔竜王の防具や外套を扱えるのは、この右肩の竜頭金属甲のみ」
「……変身可能な魔道具が二種類もあるということですね」
キサラの言葉に頷き、
「そうだな。二種類――」
二本指を揺らしながら、
「さっき言ったように、ハルホンクは簡易なアイテムボックスの役割もあるということだ。俺が意識せずとも、アイテムが竜頭金属甲の中に入ってる場合がある。その場合は暗緑色服コートを展開した時にだいたい分かる。大概は、数多く備えたポケットの中に自動的に納まっているからな。ま、こっちが本当のアイテムボックスだが――」
と、語りながらガトランスフォームを扱える小型の環を見せる。
環の中心に水晶体があり環を縁取る周りは太陽を模った模様。
空間インターフェースが出現するウェアラブル端末といえる。
ナ・パーム統合軍惑星同盟とかいう文明機構の代物。
近未来バイクの小型オービタルと同じ文明の物。
惑星同盟という言葉から、この惑星外、宇宙文明の一つである可能性が高い。
この異世界の宇宙に関するフェルミのパラドックスの回答はここにある。
そして、カレウドスコープもそうだ。
俺の右眼の内部に十字金属のアタッチメント素子が埋め込んである。
右眼と一体化した高性能インテリジェントグラスの機能のような一面も持つカレウドスコープ。
このアイテムボックスと小型オービタルと連動している特殊装置。
「……わたしのダモアヌンの魔印と同じように、その腕輪型アイテムボックスから、さほど強力な魔力を感じませんが、特殊アイテムなのですね」
キサラはそう話しながら細い腕をナイトテーブルに置かれてあった魔導書へ伸ばしていた。
その際、彼女の細い手首を注目。
小さい髑髏たちでブレスレットの環を作るような模様があった。
あの髑髏模様だけなら、ただのファッションで片付けられたが……。
それは違った。
俺の<鎖の因子>?
新しく宿した<サラテンの秘術>と同じようなものなのか?
分からないが……。
テーブル上の魔導書から伸びている薄い魔線群の一部と、そのキサラの手首に刻まれている小さい髑髏環が繋がり出していく。
角と同様にキサラの手首のことが気になった直後。
彼女の手にしていた魔導書から魔力が吹き出る。
さらに凄まじい速度で魔導書の頁が自動的に捲られていった。
すぐに頁は止まった。
止まった魔導書の頁に、何が書かれて描かれているのかは、ここからじゃ見えない。
金色に縁取られた魔導書の煌めきが増す。
そして、魔導書の頁から渦を巻くように無数の黒烏たちが出現していた。
烏たちはキサラの体を覆うと、一瞬で短丈のシフトドレスのような魔導服へと変化させた。
模様に変化はないが、シュッとした細い腰をより活かすフォルム。
ワンピースでミニスカ風。
これも姫魔鬼武装の一種なのか?
魔界セブドラに住まう一神メファーラ様の加護が掛かった特殊防具か。
闇遊の姫魔鬼メファーラ。
神絵巻だと、勇敢そうな凜々しい女性戦士な姿だった。
キサラの血を吸ったダモアヌンの魔槍が変化した時の穂先にもメファーラの顔らしきモノが出現していた。
靴も履いているが、いつもの厚底戦闘靴だ。
あの靴からキサラとの激闘を思い出す。
イグルード戦の視界を失う戦いといい、凄まじい濃密な戦い。
美しい両足に見た目の重さとはかけ離れた、重力が増しているような強烈な蹴り技だった。
<邪重足霊蹴>の感触は忘れないだろう。
そのキサラに、
「……一瞬で裸になった時も驚いたが、やはり、その魔導書が源か。姫魔鬼武装が納まっている魔導書とはな……ん、そろそろか」
魔導書について名でも聞こうと思った時。
ヘルメだ。空から降りてくる。
俺はキサラと一緒に振り向く。
木窓からは冷たい風が吹いてきたところに、ヘルメが登場。
魔導書に関することはまた今度だな。
「――閣下にキサラ。お尻愛をお疲れさま。といいたいですが、広間に不自然な魔素が集結してます」
「おう、やはり感づいたか」
紐で悩ましく縛っていたムーとぷゆゆの姿が見えないが、
「……ムーとぷゆゆは?」
「モガ&ネームスの屋敷で休んでいます」
「家か、その表情からすると、何かあったか?」
「そうなんです。ムーちゃんがどういうわけか『モガの家にいく!』と、語りはしませんでしたが、片足で器用にジャンプをして暴れ出して、乗っていたロターゼから飛び降りてしまったんです」
……ムー。
バンジージャンプがしたかったのか?
「ムーは意外に器用だからな……」
「そのようで、ムーちゃんの足には<珠瑠の花>の紐を絡ませていたので助かりましたが、ぶらさがるムーちゃんをロターゼが間違って口の中に入れてしまい……大変でした。その場はなんとかロターゼちゃんの頭を叩き、貫き、孔を一つ空けて、ことなきを得ましたが……」
……ロターゼ君。南無。
ツッコミを入れやすい額の持ち主だし、仕方がないか。
キサラも『これからが大変よ?』と語っていたし……。
ハハ……あれは違うか。
「閣下、笑ってますが、ロターゼちゃんの額、いや、お尻に巨大な槍孔をあけたいのですか?」
さり気なく危険なことをいうSな精霊だ。
「気にするな。ただ思い出しただけだ。それでムーは?」
「はい、その助けたムーちゃんに、ぴゅーぴゅーと水を掛けたら睨まれてしまいましたが、モガの家に入りたいと、手を引っ張るので、お望み通りにモガの家に連れていくと……大人しくなりました」
常闇の水精霊を手懐けるムー、やるな。
「そのモガの家にムーちゃんと一緒に入り……モガから『てやんでぇ! 俺の家は他と違うんだ! お宝用にシュウヤに頼んで作ってもらった特製の木棚があるのさ! ま、見てくれよ――ここに俺の絵とネームスの文字があるんだ!』と色々と説明を受けてから……吸血鬼の秘宝を自慢気にアイテムボックスから閣下が作られたお手製の棚へと移してはお宝を飾っていく作業を……ムーちゃんは、ジッと観察してました」
この間もムーはモガのアイテムを注視していた。
ムーは欲しいものでもあるのか?
「ぷゆゆは?」
「うるさいので紐で縛ったまま、ネームスの肩に乗せました」
なるほど。
「そか、お疲れさん。モガ&ネームスの家なら大丈夫かな。それより今だ。お前が異変を感じ取ったように広場には幽体、幽霊のエルフが集結しているんだ」
「この、渦を巻くような魔素の高まりの理由は、幽体、幽霊なのですね。とくに広間から邪悪さは感じませんが、ここは挾間の薄い樹海です。何があるか分かりません。閣下の精神防御を優先した戦いに備え、お目めに入ります!」
「おう」
俺がカモーンと、ジェスチャーする前に――。
瞬時に液体と化したヘルメ。
スポッと音を立てるように俺の左目の中へと入り込んでいた。
速かった。形が小さいダーツのようだった。
ヘルメがダーツをやったらパーフェクト・ゲームを連発するに違いない。
そんなことを考えながら、俺は、背後のキサラへ向け、
「……キサラ、先に降りるぞ」
「はい」
「一応、警戒しろといっても無用か。黒魔女教団十七高手と犀湖十侠魔人たちとの犀湖の覇権をかけた八星白陰剣法を巡る永きに渡る戦いに、血骨仙女たちと砂漠仙曼槍を巡った戦い……」
「干戈した戦いの話を覚えてくれていたのですね」
「勿論だ。裸木のラクセン、扇飛剣流の使い手ヒリュー、といった名のある武人たちとの闘いとか、砂漠闘技大会があったり、他では古魔術の輪廻秘賢書を巡って魔術総部会の連中が絡んだり、そんな幾つも大戦を経験しているキサラの話は面白いといったら失礼に値するほど貴重な話だった。砂漠の民についての情報もな」
他にも気になっていることはあるんだがな。
どうして古の星白石を装備していたとか。
「ありがたき幸せ……でも、全てを覚えているなんて」
「……エッチが激しかったとはいえ、昨日今日の会話だろう。当たり前だ」
「ふふ、嬉しい。わたしも<筆頭従者長>ヴィーネ殿と<従者長>のカルード殿やママニ殿のような働きを! いずれ血脈の一員に加わった時、その……<従者開発>を体に強く刻んでほしい……そして、影の形に随うが如し、影烏の精神で付いていきます!」
キサラが断固たる決意を兼ねた礼をしながらも、その頬を真っ赤に染めているのは……。
振り向かなくても分かる。
俺は夜風を感じながら、そんな槍武人キサラに向け微かに首を傾けた。
そんな可愛らしいキサラはダークエルフとしてのヴィーネと武人カルードにフジク連邦ラーマニ部族出身の虎獣人のママニの特異体の姿に興味を持ったようだ。
ママニの顎髭。
あれが生き物のように別個に意識があるように動いていた。
虎拳流とか扱っていたし、ハイグリアも興味も持つかもな。
しかし、ユイ、レベッカ、エヴァ、ミスティ、ヴェロニカがこのことを聞いたら……。
『<従者開発>の紋様はわたしたちが先でしょうが!』
とか、レベッカの怒れる声が脳内に響く。
ぶるっと身震いした。
ヤヴァイな……オークション時の会話を思い出す。
ヴェロニカは自分の家族があるから大丈夫と思うが……。
背筋が凍る思いをしながら、さっと、屋根上の窓から飛び降りた。
地に立った直後――。
幽霊たちの中から、肩幅のある豪華な衣服を着込むエルフと痩躯な修道士の格好をしたエルフの二人が前に一歩出る。
そのまま、そーっとした幽霊らしい飄然とした動きで近付いてきた。
厳かな雰囲気を持つ二人が、カッと目を剥いて、口を動かす。
「讃えよう、光の聖歌で英雄を」
「讃えよう、光の聖歌で聖者を」
「古竜バルドークの心臓を喰らった英雄を」
「我らの一部の者たちの仇を討った英雄だ! 救世主!」
「我らの村を再建しようと働き者、聖光の芽吹きを宿す者を、讃えよう」
古語めいた語り口だ。
「昼夜問わず、救世主は動く」
「我らを断たれた地底へ誘う救世主」
「我らを断たれた聖域へ誘う救世主」
「――讃えよう、光の聖歌で讃えよう――」
ふたりは段々と歌のようにリズムよく発音していった。
その直後、
「まさに聖者! ここに英雄が来たれり!」
幽霊の修道士が夜天へ向けて叫ぶ。
「――聖者キストリンの再来だ!!」
「――聖者キストリンの再来だ!!」
続いて、背後に立つ幽体たちも混じり続いて、歌声を上げ始めた。
「シュウヤ様! ヘスリファート人たちの荒くれ者が好んでいた凱歌に似ています――」
屋根上の窓から飛び降りていたキサラだ。
俺の傍らに立つキサラは片手持ち魔女槍をくるっと回してから髑髏矛先を歌声へ向けていく。
さらに、脇に抱えた魔女槍の柄元の孔からフィラメント群を俺に向けて展開。
勿論、そのフィラメントは攻撃じゃない。
俺を守るように虹のカーテンをフィラメントで作ってくれていた。
まだ頬を紅く染めているキサラ。
俺の唇と双眸を交互に見つめてくる。
またキスをせがむような切ない表情を浮かべてから、微笑んでいる。
……可愛い。
と、思いながら、
「……エルフの幽霊たちが歌っているんだ」
「……エルフの? ならばヘスリファート人よりもっと昔、ベファリッツ大帝国のエルフたちでしょうか」
キッシュの親戚の時代にベファリッツ大帝国時代のエルフも混ざっているだろう。
古い神聖教会か光神、光の精霊に纏わる歌に似たようなものがあるのかもしれない。
「古い時代も最近の時代も混じっているようだ」
「幽霊たちといえば、大砂漠犀湖十侠が一人魔人ザマが扱う<幽墨>の能力を思い出します……魔素といい警戒が必要ですね。ロターゼ」
「――おう、上から見ているぜ。といっても変な歌声しか聞こえないが……」
月光に反射して漂う潜水艦母艦こと、ロターゼが喋る。
ヘルメと共に移動していたらしい。
そのヘルメがロターゼの額に空けた真新しい孔の傷は塞がっていなかった。
魔印の炎が宿る部分は無事だが。
前に闇鯨ロターゼも自ら語っていたように“前途多難”だ。
「讃えよう、聖域への道が獄界ゴドローンに連なる古代地底神ロルガにより断たれた我らだが……ここに希望を得た!――」
地底世界と繋がる獄界ゴドローンか。
なぜか、最後にギリシャ語のような発音として聞こえてきたが。
ナロミヴァスの言葉を思い出す。
公爵の息子の彼は……。
「はい、地底、魔神帝国という名ですが、あそこは悪夢が信奉する魔界の神々ではなく、【黒き環】から来訪したと言われている他次元世界【獄界ゴドローン】と通じている地底神を信奉している都市が魔神帝国には多いのです」
こんなことを語っていた。
そして、予想していたように、蜂繋がり。
本当に蜂が繋がっているのかの判断は時期尚早だが……。
地底神ロルガがハーデルレンデ一族と関係していたか。
しかし、影翼旅団ガルロと、どういった理由で地底神と繋がったんだろう。
「素晴らしい希望を得た! 讃えよう、この光の聖歌を――」
「人族に力を貸した我らへのキストリン三度の自由の奇跡は正しかった――」
「聖者の過去の言葉正しかった。光の聖歌を讃えよう――」
「讃えよう、英雄を聖者の再来を――」
「聖者の存在は、我らの魂をハーデルレンデの聖域へ誘う――」
「英雄の存在は、我らの魂をハーデルレンデの神殿へ誘う――」
荘厳な地鳴りのような歌声だ……。
その合間合間に透き通るように双子エルフちゃんの歌声が一番美しい。
ソプラノ系だろうか……。
これはあれか。
キリスト教のように胸で十字を切る雰囲気だ。
両手を組んで神様にお祈りを……。
『綺麗な声と分かります。シャナちゃんを思い出しました』
人魚のシャナ。
歌手と冒険者を頑張り金を稼いでいるのかな。
しかし、彼女が居るお陰で、ペルネーテは平和なのかもしれない。
蟲に操られた邪神ヒュリオクスの眷属たちを、彼女はその歌声で次々と屠っているのだからな……。
密かに物凄く強くなっていたりするのだろうか。
その時、金色に纏われた藍色の大気が、霧のように幽霊たちの足下から浮かび上がる。
霧は歌と連動? 幽体たちの力か?
さらに、霧の中から燭台が現れた。
灯している炎は、白から金へと移り変っている。
藍色の霧の中で、燭台たちは神殿でも形作るように並び出す。
やがて、その燭台を含めた金色に縁どられた藍色の霧が揺れるように振動。
振動した金と藍の霧群は、意思があるように蠢き移動を開始した。
霧は地面に黄金の道を作るように、俺の家を越えて山の麓へ向かう。
金と藍の霧の道は蠱宮の穴に沈むように流れ込んでいく。
その直後、金と藍の霧の一部が俺の胸元にも迫った。
ぬおっ――。
それは不意打ちを超えた避けられない速度だ。
『閣下――』
金色と藍色の霧が俺の胸と衝突――が、痛みはない。
その瞬間、胸元からビームのような閃光が宙へ放たれた――。
『すみません、間に合いませんでした』
『いや、構わない。これは攻撃と違うからな、どうしても鈍くなる』
ヘルメと念話をしている間に、夜空を星々まで届きそうな閃光は続く。
神々しい光を帯びた鎖が絡んだ十字架の閃光。
『閣下の胸から綺麗な温かい光が……』
胸に刻まれた絵柄と同じか……。
エクストラスキル<光の授印>の形だ。
スキルを得られたとかはないが……。
そして、閃光は金と藍の霧をも切り裂くと、胸の光は消失。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。17」発売中!




