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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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三百六十四話 無垢な白烏

2022/05/05 0:33 修正

 まだ幽霊エルフさんが残る。

 すると、キサラが一歩、二歩と前に歩き出した時――。


「――ぷゆゆ?」


 突然、玄関口から逆さまのぷゆゆが出現した。

 

「ぬおっ、小熊太郎。今までどこにいたんだ」

「ぷゆゆゆう!」

「あっ! あの時の!」


 キサラは慌てて叫びながら素早く後退。

 乱れた白絹の髪を肩に流しながらの、胸元を片手で押さえている。


 双丘を隠す修道服と魔法の衣が手の形に凹んでいた。

 

 素晴らしい……。

 指と指に手から溢れる巨乳さんの肉がくっきりと。


 見事なグラビア写真のポーズを取っているようにしか見えない。


 ぷゆゆは「ぷゆゆぅ」と語りながら小さい手に握った杖を動かした。


「小熊ちゃんは、わたしの胸が目的なの?」


 キサラは動揺しながら話す。

 前、ぷゆゆの攻撃を受けたからなぁ。


 過去、ぷゆゆのミニチュアのクリスマスツリーのような杖の先端から出た不思議な攻撃をキサラは浴びて、修道服が裂かれて、片方の乳房を晒してしまった。


 そう、見事なおっぱいを見せてくれた。

 ぷるるんと揺れたおっぱいは忘れない。


 ぷゆゆは、もう一度キサラの乳房を揺らしたいようだ。

 

 しかし、ぷゆゆは杖をキサラに向けず――女幽霊エルフさんに向けた。

 女幽霊さんは消えていなかった。双子幽霊さんたちは、


『え? わたしたちなの?』


 と、ぷゆゆに攻撃するような表情を浮かべている。

 幽霊さんにツッコミを入れたくなったが、ぷゆゆの杖が大きく反れて、先端は村の外側で止まった。


「……最初の戦いを邪魔したように、シュウヤ様と大事な用がある時に限って!」


 キサラはダモアヌンの魔槍の切っ先をぷゆゆへ向ける。

 柄の孔から出たフィラメント状の紐を、己の腕に絡めていた。


「キサラ~俺が対処するか~」

「いや、お前は空にいろ」


 と、俺は注意。さすがに闇鯨は大きすぎる。

 家が潰れてしまうかもしれない。


「はい。ロターゼはシュウヤ様の指示通りに、空で待機していて」

「むむ、そいつはキサラの大事な……」


 闇鯨ロターゼ。

 巨大な盾を彷彿とする、大きい額の中心に丸い炎を持つロターゼ。

 そのロターゼは、額を盛り上がらせている。


「――もう、怒りん坊なロターゼ!」


 キサラはかぶりを振ってから跳躍し、飛翔していく。


「そんなことではこれから先、大変よ?」


 そう発言しては、怒る闇鯨ロターゼに近付いた。


 血管の筋が浮き上がっていた潜水艦のような巨大な額へ手を当ててロターゼのことを宥めていた。


 すると、


「ぷゆゆ? ぷゆぅ~」


 ぷゆゆは、杖の先端を動かして外を見ろ?


 とアピールしてくる。

 

 誘導されて素直に見たが、村の外、樹海の一部の光景があるのみ。


 あ、もしかして……。


「外に飛ばされた? といいたいのか?」

「ぷゆ!」


 ぷゆゆは杖の後端を地面に置いて何回も頷いている。

 『そうだ!』という意味だろう。


 あ~あの時か。


 神獣ロロディーヌが皆を触手に包みながら丁寧に地面へと降ろして解放していた時か。


 ロロが、やけに何回も鳴いていた理由か。


 もしかして小さいぷゆゆを触手で捕まえようと苦戦していたとか?


 最終的にぷゆゆを捕まえたロロが、そのまま遠くへ投げたんだな。

 たぶんそうだろう。


 それか、ただ単に、身体を震わせた時に吹き飛ばしていただけかもしれないが……。


「……んで、ぷゆゆよ。遠くに飛ばされたお前はどうやってここまで来た」

「ぷゆ??」


 ない首を傾ける小熊太郎。

 くっ、可愛い……。


「どうやって、ここまで、きたんだ?」


 ジェスチャーをしながら間をおいて聞いていく。


「――ぷゆ、ぷゆ、ぷゆ……」


 俺の言葉とジェスチャーが通じたのか?

 ぷゆゆは、ぶつぶつと呟きながらトコトコと歩く。


 最終的に小熊太郎こと、ぷゆゆは、村の端っこで止まる。

 危ないと思うが……。

 ぷゆゆはそんな俺の気持ちを気にしない。

 クリスマスツリーのような杖を振り下ろす。

 何回も杖の後端で崖の出っ張った岩を削るように小突きを繰り出す。

 俺の槍技を意識しているのか、途中でポーズまで決めてきやがった。


 生意気なテディベアだ。


「――ぷゆ! ぷゅぅ~ん」


 と『わたしの技を見たか、ぷゆ!』とでもいうように自慢気な声を上げてから戻ってくる。


 面白いが、笑わない。声にはださず、


「崖を登ってきたのか。で、ぷゆゆは何がしたい。目的はなんだ?」

「ぷゆゆぅ~」


 ぷゆゆは、そう発言すると、ムーと同じ俺の家へと入っていった。

 おーい、俺の家に住む気かよ!


 そこに、飛翔しながら戻ってきたキサラ。


「わたしの魔道服を裂いた小熊ちゃんが、シュウヤ様の家の中に……」


 不満そうな声を漏らしながら厚底の靴を地面に突けて着地している。

 同時に小型ヘルメも視界に現れた。


『閣下、再会した直後、ロロ様の近くで聞こえた声の主は、あの小型生物の声だったのですね』


 家の中に入ったぷゆゆは、ムーに向けて杖を構えていた。

 ぷゆゆと連呼している。


 ヘルメはそんな小熊太郎へ小さい指を差していた。


『そうだ。ハイグリアが樹海のボルチッドと呼んでいた、ぷゆゆと喋り、見た目通り小熊の人形だが、獣人らしい。妙に動きが素早い』


『ぷゆゆという意味不明な言葉が、なんとなく意味が通じてしまうのも……魔法の可能性がありますね。不可解な小型生物です。あの杖も見たことがない、風の精霊ちゃんのようなモノが宿っているように見えました』


 小型ヘルメちゃんは、小さい顎に指を沿えたポーズだ。

 考えながら話している。


『……精霊に部類するモノか。蝶々とか虫とかも操れるようだし、あの先端の恐竜、怪物も不思議だ』

『名もない精霊のようです。先端の小さい怪物の魔道具は分かりません』

『謎の小型恐竜を操る、その、ぷゆゆだが……俺はキサラと用があるのに邪魔されてしまった』


 俺がそう念じながら気持ちを伝えると……。

 ヘルメは指先から水鉄砲のような水弾の幻影を射出していく。


『閣下、ムーにもぴゅっぴゅをしてあげたいですし、そのぷゆゆにもちゃんと挨拶しなければいけません。キサラのこともありますし、ここはわたしにお任せを――』


 お尻を光らせた小型ヘルメ。

 そのまま気を利かせるつもりなのか、左目からにゅるりと出ていく。


 精霊珠想ではないが、液体が移動する速度が異常に速くなっている。


「――あ、精霊様、速すぎて水の陽炎が……」


 キサラが水の煌めき(ヘルメの軌跡)へ指を伸ばす。

 勿論、軌跡は一瞬なので、捉えることはできない。


 瞬時に目の前で液体から人型に変身を完了したヘルメは水飛沫を下半身から発生させながら家の中に入った。

 

 ムーとぷゆゆを連れて外に出てくる。

 速く出てきたその理由は、見た瞬間、納得できた。


 ヘルメの両指から小さい花が咲き、そこから不思議な紐が伸びていたからだ。


 指から小花が咲いているのにも、驚くが、不思議な紐かよ。

 

 その紐でムーとぷゆゆの体を雁字搦めにしていた。


 ムーは女の子らしい。

 見事な亀甲縛りの技により、ムーの小さい胸が顕わになっていた。

 ぷゆゆは毛がふさふさで雄か雌の区別はつかない。

 ま、どちらでもいいか。


 そして、縛られている二人は共通してある部分が少し光っていた。


 二人ともヘルメの洗礼を受けてしまったようだな。

 あえて、指摘はしないが……。

 南無……と、片手でお祈りをしておこう。


 すると、近くで様子を窺っていた女のエルフ幽霊さんたちが怯えてしまう。

 ひょっとして、俺の胸元が? とハルホンクを意識。

 暗緑色は変わらず七分袖系のシャツを意識した作りに変更。

 そのまま緑色の布を捲って胸を確認した。


 やはり、俺の胸の十字の<光の授印>が少しだけ光っていた。

 この<光の授印>はエクストラスキル。

 本格的に祈ったら幽霊さんたちが、成仏してしまうか?


 と今は幽霊さんより、ヘルメの紐だ。


 ヘルメの指先から伸びている不思議な紐……。

 今まで見たことがない。

 指先の根元が精霊珠想のような色合いに変化。

 凝視すると、爪先も変わっていた。


 指先に球根が存在。しかも、球根の先端には小さい花が咲いている。


 全部の指の球根は心臓が脈打つように動いていた。

 左指の小型球根は透き通るような蒼天を思わせる色合いで綺麗だった。

 

 そんな球根花から雌しべのように伸びた紐も蒼色。


 一方、右手の指先はどす黒い球根花。

 伸びている紐は黒色だ。


 二つの手から伸びゆく蒼と黒の紐は螺旋し、絡み合う。

 絡み合った蒼と黒の螺旋の中に精霊珠想のような神秘さがある。

 飴細工でも施したような特殊な色合いへと変化を繰り返していた。


 そんな不思議な色合いの紐がムーとぷゆゆの体へと伸びて、二人の体を悩ましく縛る不思議紐と化していた。


「……ヘルメ、その紐は」


 そう聞くと、モデル歩きをしながら俺に近付くヘルメ。

 そのまま俺に対して敬慕の意志を示すように『ラ・ケラーダ』のマークを胸元に作り、キサラの真似をするように抱拳を行う。

 拳の礼を行ったから、指先の綺麗な紐が纏まって、たわむ。

 

 すると、指先の球根花から良い芳香が漂ってきた。


「……はい、新しいスキルです。これも閣下のお陰」

「いつの間にどんな効果? 名前とかは」

「ご報告が遅れてすみません。スキルは<珠瑠の花>。先日の半透明オークから何かを吸い取ったようです。効果はこのように、水闇と合成した属性紐の生成。それと、わたしの好きな匂いも周囲に満たせるようです」


 ぷゆゆは紐により口が塞がれて、ムーは沈黙を続けている。

 ぷゆゆは見た目が、小熊で人形っぽいが、ムーのほうが人形に見えた。


「……ほぉ、だからいい匂いが……精霊らしいスキル効果だ」

「ありがとうございます。閣下の鎖の技術も影響を受けているのかもしれません。それでは、空上でこの二人とお話をしてきます――」


 ヘルメは紐で雁字搦めに絡めた二人を運びながら屋根に跳躍。

 その屋根を利用するように二段ジャンプ――宙を旋回しつつキサラと交代するように闇鯨ロターゼの上に飛び乗っていた。

 そのまま二人を乗せながら闇鯨を伴って村の上空を旋回していく。


 双子の幽霊エルフさんも見上げている。


 見上げていたキサラは「闇鯨をあっさり従えるなんて……」と驚きの表情を浮かべながら呟いてから、俺のことを見つめ直してきた。


 蒼い双眸は揺れている。

 だが、その視線は強い……俺を見据えてくる。

 『今日は逃がさない』とでもいうように……。


 獰猛な猛禽類に睨まれている気分だ。


「シュウヤ様、精霊様に感謝を。そして、今日こそはお預けさせていた想いを……」


 お預けか。

 そう……確かに彼女を抱く機会はキッシュと寝ている間に何回もあった。

 だがまだ抱いていない。


 忙しかった、キッシュへの愛がそうさせていると、様々に理由がある。

 が、正直、どれも違う。


 キサラの強さ、精神性を高く買っているからこそだ。

 <筆頭従者長>として迎え入れるに十分な強さ……。


 だが、それは彼女の歴史を知り、大砂漠に進んでからでも遅くはない。


 とか、なんとか、いいわけをしているが。

 久しぶりの美人さんだから少しびびっているんだ。


 そんなことを考えていた時……。


 切なそうな表情のキサラが大事な魔女槍を落とした。

 魔女槍が床に倒れ転がった。

 その転がる魔女槍の柄近くにある彼女が見せつけてきた家紋を意味するような格子縞の窪みが見える。


 同時に鎖骨から肩を覆っていた魔法衣を消失させる。

 さらに、修道服の十字架模様が光を帯びてから腰にぶら下がる魔導書が煌めく。


 あの魔導書、凄まじい魔力を内包しているな……。


 その途端、修道服の一部が形を変える。

 両肩を露出したノースリーブ系の衣装に変化を遂げていた。


 下腹部は変化がない。

 だが、黒の修道服を生かした魅力的な魔女衣装だった。


 その瞬間、その魔女らしい身体能力で俺と間合いを詰めた彼女。


 胸に飛び込むように抱きついてきた。


「シュウヤ様の匂い……素敵な匂い、ん、血の匂いがあればもっと……」


 そういえば戦っていた時、俺の血を舐めて頬に塗っていたな。


 まさか、カルード系のスキルを持つのか?


 ま、それを聞くのは後々だ。


 防護服越しに大きい乳房の感触が得られた。柔らかくて気持ちが良い。


 それに、


「キサラもいい匂いだ」

「……嬉しい。あの戦いの後から心と体が疼いて……」


 キサラの白絹の眉は黒マスクに覆われているので見えないが……。

 涙ぐむように、とろんとした蒼い双眸から欲情があふれ出ているのが分かった。


 たまらない。


 ヘルメに気を使ってもらったうえで……。

 美人にここまでされて、何もしないのでは男がすたる――。


「……ぁ」


 そのまま、キサラの彼女の小さい唇を奪っていた。


 黒紫色の口紅には魔力が宿っていて少し熱がある。


 キサラの熱情は愛しい。


 優しいキスから、キサラの熱情に応えて、その唇を吸うように、空気が漏れる音を立てながら唇を引いて強いキスを終わらせた。


「――ァン、光と闇(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)のシュウヤ様と……わたしは……」


 キスを終えた直後――。


 キサラは悩ましい声を発しながら、キスをした自らの唇を細い指でなぞる。


 そのまま興奮したキサラは目元を覆う黒マスクの形を変化させていく。


 それは戦闘スタイルと同じ。


 鼻先が隠れてコンドルのような嘴を持つ兜だ。


 カッコイイが、これではキスができない。


「兜になっているが……」


 そう話をしながら少しキサラから離れた。


「す、すみません。烏の型。謳も唱えず勝手に姫魔鬼武装が……ダモアヌン(光と闇)のマスクが勝手に反応を……」


 光と闇の運び手、ダモアヌン。

 

 キサラの超自然的な歌声には、強い切なさがある。

 あ、歌声というより魔声か。

 その詩の中に槍武人ダモアヌンの名があった。

 

 中道をゆく燻り狂えル砂漠烏とも、中道とは闇と光を意味する?

 或いは……聖と邪か。

 

 神ノ恵みを顧みない魔人と神人を貫きテ。


 これは神界だろうが魔界だろうが、敵は敵という意味だろうか。

 暁の魔道技術の担い手とかもあったな……。

 これは予想がつく……。

 キサラは大砂漠が出身。

 そして、俺のアイテムボックスの中に眠っている古代の石。

 

 それらしい言葉が“暁の古文石”に刻まれてあった。


 ま、後々……聞くか。

 

「姫魔鬼武装か。魔界の一神のメファーラ様が、勝手は許さないってか?」

「いえ、わたし……男の人とキスは初めてなんです。だから、鼓動と魔力の不自然な高まりを感じたマスクが……メファーラ様の加護が自動的に……」


 動揺したキサラ。

 初めてのキスが俺とは……。

 妖艶な雰囲気を醸し出しているから経験はあるかと思ったが。


 無垢な白烏とはな……。

 なるべく優しくしてあげるか。


「……そっか、ま、恋は焦るものじゃないというし、今日はキスだけにしておくか? ロターゼも心配していると思うが」


 俺はそう語りながら、横で微笑む双子の幽霊エルフを見て、落ちていた魔女槍を拾う。


「ふふ、ロターゼは寧ろ応援してますから」


 彼女の言葉に頷きながらも……。

 魔女槍から不思議な引き込まれるような感覚を得た。

 

 魔槍杖バルドークに近い?

 

「……でも、お優しい。精霊様といい、何回も何回も抱かれていたキッシュ殿にそれを知りながらも我慢しているハイグリアちゃんが、シュウヤ様をお慕いするわけです……」


 キサラは空から把握していたか。

 

 が、右手に握るダモアヌンの魔槍が……。

 内部に魂が引き込まれるというか……。

 孔から出ているフィラメントが訴えかけているような。

 俺の血を求められるような感覚もある。


 ……神魔石に初めて触った時と似ているかもしれない。

 オークションの場では急ぎ取繕ったがな。


 そのまま首を傾げながらキサラに近付いていく。

 この魔女槍は後で、刀架にかけておこう。

 

 これはキサラの槍だ。


「……それで、これは取れるのか?」


 キサラの兜を指で小突く。


「はい、元に、いえ、大事な装備ですが、脱ぎます……」


 キサラは白絹の髪を横に揺らしながら頭を傾けて、コンドルのような兜を脱ぐ。

 黒女王を生み出していた兜を脱ぐ仕草もさまになるな。


 その際、キサラの一対の小さい角が気になったが……。

 それよりも髪のいい匂いだ。

 ゴルディクス大砂漠で有名な香水らしいが……。


 ……いいねぇ、俺の欲望を刺激してくる。


 そのまま彼女の腰に手を回し引き寄せる。


「――あ、し、シュウヤ様……」


 彼女は俺の温もりを感じたのか、体を身震いさせた。

 

 同時に、むあんと漂う匂い――。

 香水とは違う。


 女の愛しい匂いだ。


 キサラは、兜を床に落として切なそうな表情を浮かべてから目を瞑る。


 小さい唇を震わせていた。

 キスを期待しているんだろう。


 白絹のような細い眉も綺麗だ……。


 そう思いながらキサラの小さい唇を奪っていた。



 ◇◇◇◇



 キサラの悩ましい声が数時間サイデイル村の奥の山に谺した。

 ロロディーヌが聞いていたら呆れるだろう。


「……アァ、シュウヤ様。もう……立てません」


 キサラは抑揚のある声だったが、その途中で嗄れていた。

 寝台の上で細い両足を雛鳥のように震わせながら女を晒した姿になっている。


「……そうか? 先ほどは、わたしも槍武人ダモアヌンに連なる存在! がんばります! とかいっていたが――」


 キサラの震えた両足の間が震える。その熱く濡れていそうな艶のある白烏の翼を重点に体重を乗せるように激しく攻めた。


「アアァァ――」


 無垢の雛だった白烏は、もういない。

 大人びた雌の鳴き声が蠱宮の麓から飛び立つように響き渡る。



 ◇◇◇◇


 

 真新しい寝台が汗まみれになった数時間後。

 互いに笑みを浮かべた他愛もない会話を続け……。


 休憩というイチャをしながら彼女に色々と重要なことを告げた。


「……という種族なんだ」


 俺の長々とした説明を聞いたキサラは深く瞑想するように頷く。

 俺を見つめる蒼い双眸には、まだ強い欲望の火が残っていると分かるが、同時に強い決意を超えたものも感じさせた。


「<筆頭従者長>に<従者長>。そして、光魔ルシヴァルという種族……やはり、光と闇(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)様。黒魔女教団(わたしたち)の救世主……」


 キサラは語尾のタイミングで魔導書を見つめていた。


「救世主とか勘弁してくれ。で、キサラは天魔女槍師と戦闘職業を名乗っていたが?」


 と横たわるキサラに尋ねていた。


「はい、ご存じのようにホフマンに敗れる前、あん――」

「――ゆるせんな」


 キサラを傷つけたホフマンに怒りが……。

 つい巨乳さんを弄ってしまった。


「……ふふ、シュウヤ様、胸が好きなんですね……」

「あぁ」


 間抜けな声で返事をしてから、


「すまん、続きを」


 笑みを浮かべながらそう話をして、キサラの巨乳を弄った手を罰しようと手を引っ込めると同時に、よしずを敷いたような板へ足をつけて立ち上がる。


 寝台から離れた。

 

 その際キサラが腰から外して台に置いていた金箔で縁どられた魔導書の表紙を注目。

 表紙に施された模様はキサラの黒マスクの装飾と同じ。

 壮大な古代の戦いが描かれた模様と似ている。


 マスクよりも、詳細な絵柄だ。その一部の絵、槍を持つ角が生えた人型から薄い魔線群が、花が開くように宙へ放射している。


 その魔線の演出が気になったが……。

 

 目を細めるだけに留めた。

 魔煙草を手に取り、口に咥える。

 そのまま咥えた魔煙草に火を付け、屋根上に設置した窓から外を見た。


 熱を帯びた体に冷たい夜風が気持ちいい……。

 外は月明かりで満ちている。<夜目>は必要ない。


 これは光魔ルシヴァルだからか。


 広場の黄色にくすんだ葉から冬を感じた。

 あそこを盛り土して備えた方がいいのかな。

 

 農地を耕すつもりは、今のところはないが……。

 ドワーフのドナガンから、こまごまとした仕事を任された際、色々と農地に関することを聞いたからな……。

 

『シュウヤの木材から頗る有益な木酢液が作れるかもしれん』

『木枠を土の中に埋めてくれ』


 俺がどうして土の中に埋めるんだ? と聞いたら、


『薄荷は基本だぞ? 油は貴重な資源になる』


 と、もう色々だ。

 

 キッシュもその場に来て農地に関することを一緒に勉強していた。

 その時にヒノ村に連絡してからチェリを呼び寄せて封緘用の蝋の素材が少なくなったから通商でも頼むかと話をしていた時でもあった。


『今回のオークから得た装備品があれば優秀な冒険者も雇える、農地も発展すれば……』

 

 透明感ある笑顔だったから、また、グッときちゃったんだよな。


 すぐにドナガンから『シュウヤ、仕事を手伝ってくれるんじゃなかったのか?』


 と嫌味を言われたから、ドナガンの家周りの仕事を頑張ったけど。

 その際にレデク株を植えつける話に影響を受けたらしい。

 農地はハッキリいって興味なかったが、中々、面白そうと思ってしまったんだ……。


 彼が持っていた大事な種に関することは聞けなかったが……。


 あの種は秘密があるようだ。

 

 いつか聞いてみよう。

 さて、もっと景色でもと広場から遠くへ視線を移そうとした時――。

 

 え? え? と、思わず目を擦る。


 庭、というか訓練場を予定している広場に俺が遭遇してきたエルフの幽霊さんたちが、ぞろぞろとゆらーりと幽霊らしい動きで集合していた。

 

 端くれな貧相な服を着たエルフ。

 上等な服を着たエルフ。

 片腕がないエルフ。

 外套を着こむ冒険者風のエルフ。

 いかにも骸と分かるエルフ。

 

 皆、見上げて俺を見つめている。


 この間と同じく敵愾心はないと分かるけど。

 なんで、幽霊さんたちが集合しているんだよ。

 

 もしかして、ハッスルしすぎたか……。

 土地を震動させるほどの腰使いではないはずだ。

 

 これはあれか、演説をしろ?


 ……「立てよ、国民!」みたいな。

 

 ま、冗談はほどほどにして。


 キサラから過去を聞きながらもう一回戦と思ったが……。

 あの双子幽霊エルフさんも居るし……。


 集まっている幽霊たちとコミュニケーションが取れるか分からないが……。

 挑戦してみるか。

 

 キサラの過去話を含めて……。

 あの魔導書のことも、あとでゆっくりと聞けばいいしな。

 そこにヘルメの魔素を感じ取る。

 そういえば……彼女にムーとぷゆゆを任せっきりだった。

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