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三百二十八話 情報共有

2022/04/05 0:31 カリィたちの会話を修正

 


 ◇◆◇◆



 ここはハイム川を巡る黄金ルートを辿る定期船内。【影翼旅団】のメンバーだった者たちがストールの椅子に座りカードゲームに興じていた。


「鉱山都市タンダールの状況は決したのかナ?」

「……」

「ん? ボク、何か悪いこと言った? 賭けるお金は元々ナイけど……?」

「いや、今の今まで気にしていないような表情だったので……」

「アレ、ボクの気持ちは読めていなイ?」

「遊びに<千里眼>は用いません」

「ふーん♪ で、タンダールのことを聞いたんだけど?」

「……主要な縄張りは【大鳥の鼻】が占拠。【魔神の拳】と壮絶な争いのようです。第三戦力もちらほらと……」

「そっかァ、タンダールは争いが激しくなりそうだ。ペルネーテは【月の残骸】を含めた【血星海月連盟】で長らく安定期に入りそうだねぇ」

「団長が死んだというのに、傍観者の視点ですね……」

「そりゃそうサ。ノーランだって行方知れず。もう【影翼旅団】は潰れたんだからね。君の意見(能力)は参考にするけど、ボクの主観にいちいち口を出して欲しくないなァ」

「……団長の仇は目指さないと?」


 カードを見せて、勝ちをアピールするアルフォード。

 そのアルフォードは自身の眼球の奥から白銀色の炎を発生させる。

 同時に左手首から銀色の炎が発生している鎖を生み出した。その鎖は蛇のように左の前腕に絡みついていく。その銀炎の鎖の先端には魔力を帯びた水晶球が付いていて、水晶球は浮いていた。その浮いている水晶球を冷ややかに殺気を帯びた瞳で睨むカリィは悪態笑顔(カーススマイル)と呼ぶべき嗤い顔を披露し、


「……ちぇ、無いが意見の総じまい」

 

 と、わざとらしく発言。

 水晶球は生き物のように蠢くと、質問をはぐらかすカリィを睨む。

 カリィは、


「カードは負けたけど、目指さないよ。ボクはボクの楽しいことをやるまでサ」

「しかし……」


 カリィの冷たい言葉を受けて、顰めっ面を浮かべたアルフォード。


「……そんな<白無意>を出して脅しても無駄サ」

「脅しているわけではないです」

「そう? でも、槍使いとは個別に会いたいナァ」

「……会いたい?」

「うん。あ、戦うつもりはないから。ボク死にたくないし」

「団長を殺した相手と会いたいとは……」


 アルフォードの呟きに、カリィは再び悪態笑顔(カーススマイル)を浮かべた。


「ボクたちはそんな間柄ではないはず。団長は強くて、ボクの力、技、殺し屋としての技を認めてくれた。凄く嬉しかったけど、それはソレ。そして、あの団長が、セヴィスケルを倒した、あの強い槍使いを倒して、俺の仇を討ってくれと、そんなことを話す漢かナァ?」

「……」


 アルフォードは肯定の意思を込めた沈黙をする。


「……だろう? 話すわけがない。槍使いは、あのセヴィスケルを倒す強者。その点、血長耳のレザライサ個人になら絶対に倒せと言うと思うけどね」

「レザライサなら、セナアプアに帰還しました」

「あ、さっき覗いたんだ」

「当然です。わたしたちも東に向かっているのですから」

「でも、ボクたちの目的は、セナアプアではなくてヘカトレイル経由のサーマリア地方でしょ?」

「サーマリア関係は現時点で金払いが良さそうな依頼なだけです。中立都市の場所はここから近いですからね」


 カリィは眉を微妙に動かしてから、


「オセベリアの女侯爵が色々と動いているらしいからねぇ。サーマリアもハイム川があるとはいえ、あっさりと領土が奪われたりして」

「どっちでも構いませんよ。水晶球だと、現在どちらにも勝つ可能性があるとわかります。ですから、今は金払いがいい方につく予定です。わたしたちが陣営に加わることで、水晶球から見える光景も変わるでしょう。負けるとわかれば……」

「撤収用のプランも考えてイルんだね?」

「そうです」

「ま、ボクは満足する戦いの機会が得られればいいや」

「相変わらずですね。資金があるからこそ、この移動だというのに」

「ボクはスッカラカン……」

「……分かっています。わたしのお金です。この船の代金も……カードのお金も……」

「……うぅ、まァ、いいじゃナイかァ」


 カリィは独特の言い回しでおちゃらけていた。


「ですから、今回は稼ぎますよ? 今後の新しい闇ギルド創設に向けての一歩でもあるわけですから」

「ハイハイ。金が必要なら、近くのセナアプアで活動するのも一興なんじゃ?」

「評議員にも伝はあるので、良い案です。が、セナアプアは後々ですね。今は豹文都市ムサカとレフハーゲンの古びた宿へ向かいます」


 アルフォードは魔力文字が刻まれた専門のスクロールを取り出して暗号文を表示させる。


「……サーマリア式、ムサカの宿で会う約束って、レンショウという男だったけ?」

「そうです。わたしは、レフハーゲンの古びた宿に向かうので、このスクロール通りに、レンショウという男との交渉は任せますよ」

「了解、ボクが個人の判断で決めていいんだね?」

「はい」




 ◇◆◇◆




 ミスティはまだゾルの研究室に手を付けていない。

 書物、箪笥、棚、床の魔法陣、机の器具を調べるのに時間が掛かるらしい。


 だから先に俺とユイが寝泊まりした納屋から調べることになった。

 ここにも魔法陣があるが、その前に奥か。

 ガラクタのような荷物の山が大量だ……。


 俺たちはミスティに使える物と使えない物の断捨離の指示をしてもらい、納屋の奥から荷物を運び出す作業を続けていった。


 徳利と象が繋がった置物に、え?

 三角木馬が……これはゾルの趣味か?


 思わず空気が凍る。

 目が点となっているミスティとヴィーネ。


 野郎な俺とハンカイは『見なかった』と互いの意思を確認するように頷く。

 ハンカイは違う椅子を、俺は三角木馬を腹に抱えて持ち、外に運んでいった。


 アイテムボックスに保管はしない。

 しかし、庭にこれをおいても……変に目立つ。

 ――<鎖>を用いて破壊してやった。

 木屑が中空に舞う。


「にゃぁ~」

「ニャ」

「ニャオ~」


 その木屑たちに黒猫(ロロ)率いる猫軍団(アーレイ&ヒュレミ)が反応。

 各自、猫足を木屑に伸ばしての――猫パンチ祭りを開催。

 そのまま猫同士で追いかけっこをしては、段差のあるアーチウッドデッキ風の樹木を盤遊しながら上っていく。

 すると、猫たちと踊るようにデボンチッチたちが登場した。


 猫たちは、そのデボンチッチの不思議な機動に驚く。

 猫パンチを当てようと前足を振るが、デボンチッチたちは、その猫パンチを笑うように踊り飛んで、猫たちのパンチを避けると、透き通るように姿を消した。


「デボンチッチが宿る樹木か……」


 懐かしいが、ユイがいた頃にはいなかったような……。

 この短い間に自然と住み着いた?


 イモリザが放出した金粉を浴びた黒猫(ロロ)の効果だったりして。


「……珍しいが、元気な猫たちだ」


 ハンカイが見上げながら語る。

 猫軍団は、消えたデボンチッチたちに興味は失せたようだ。

 家の屋根上に移ると、反対側へ駆けた。

 向こう側から「ニャ~」と声が響いてくる。


 そうこうして、まったりとした時間を過ごしたハンカイと一緒に納屋に戻る。

 荷物の整理を手伝った。


 幾つも重い金属やら器具を運んでいると、


「俺でさえ重い器具を、シュウヤ、お前さんの筋肉はいったい」


 確かに普通の筋肉ではないからな、異常に見えるだろう。

 ハンカイがあまりにも驚いているので、少しふざけるか。


「……筋肉か。古より宇宙から無限大の螺旋パワーエナジーを浴び続けている血肉。グレートな血を超えたスーパーナチュラルな一族が持つ筋肉の秘境。おっぱい神による恵みもあるかもしれない。超人の宿命が筋肉に宿り――」

「――ちょっと、マスター。ふざけてないで、その実験器具を外に出して」


 これ実験器具なのか。ミスティがツッコミを入れてきた。


「ぬぬ、宿命とは……」

「ハンカイさんも真に受けちゃだめ。レベッカなら正拳突きよ?」

「すまん。んじゃ、ハンカイ、これを運んじゃおう」

「了解した。後で宿命を教えるのだぞ、宇宙の螺旋もな」

「……わ、わかった」


 適当なことなので説明できるか自信がないがいいだろう。



 ◇◇◇◇



 片付けが終えると納屋の床にあった魔法陣が露わになった。


「端の文字が切れているから付け足せば……いや、一度使ったらダメになるタイプか」

「紋章魔法、供物が事前に必要な召喚系でしょうか」

「血の跡があるからね。それか、供物に力を集積させる系か」

「この魔法印字からして、その可能性が高いですね」

「メと、ドレデ、母音……まだあるけど削れている」

「つなぎ合わせると、メリアディ?」

「うん、マスターが読んだ手記にもそれらしいことが書いてあったと聞いていたし、たぶんそうでしょう。それじゃ、この魔法陣の研究は今度ってことで、次は、居間の奥にある部屋ね」

「あそこか、興味のある本が多かった。未知の器具ばかり……」

「素のヴィーネが出たわね、色々と調べたいんでしょう?」

「そうだ。ダークエルフの種に関する考察文献を見つけたからな。いったいどこのだれが、あんな書物を……」


 本と本の間の隙間がないように本が詰まった本棚もあった。


「それはわたしも興味がある。夢繋がりで地下都市の話をしたけど、ダークエルフの社会、男をモンスターに合成する秘術、女性の司祭が権力を握る制度は興味がある」

「故郷、闇毒の都【地下都市ダウメラザン】のことなら、なんでも教えよう。姉と妹たち、闇虎(ドーレ)……」

「……地下世界、俺も興味がある」


 ハンカイもヴィーネの言葉に頷いてから話していた。


「食事の支度が終わりしだい、ダークエルフのヴィーネよ。地下に暮らすドワーフたちのことを聞かせてくれまいか?」

「いいですよ。ですが、ミスティの研究の邪魔をしない範囲で、ということで」

「わかっとる」


 ミスティとヴィーネは頷く。ミスティは、


「いつか、マスターの鏡で地下世界へ連れていってくれる?」

「故郷なら案内します」


 ミスティとヴィーネに対して笑みを浮かべて頷いて、


「ノーム側の地下都市か、ダークエルフの地下都市のどちらかだな」

「さすがに聞いた範囲では、ダークエルフの都市に直接入り込むのは危なすぎる。肌の色を変化させてくれたら、なんとかなるかもしれないけど」

「なら、ノームたちの【独立地下火山都市デビルズマウンテン】かな」

「ノームたち……」

「ヴィーネは肌を白くして、耳を隠せば人族だから大丈夫だろ。耳が露見しても人族、新しいマグルと言い張ればいい」

「はい」

「シュウヤ! 俺もだ。ラングールの名が気になる。ヘカトレイルにまったく居なかったブダンド族の生き残りが、その地下に居る可能性が高い」


 地下ドワーフか。

 ロアなら知っているかもしれないな。


「魔界、旅、まだまだ、遠い先の話だと思うが……それでもいいか?」

「おうよ。ドワーフも寿命は永い。まして、俺は普通のドワーフじゃないからな?」


 と手の甲にある魔宝石を見せてくる。


「そか、なら決まりだな」

「おう、その間はミスティの護衛隊長になろうではないか」

「ふふ、いいわよ。昔の貴族気分を味わおうかしら」


 ハンカイとミスティか。

 妙な感じだが、ま、仲良くなるのはいいことだ。


「ならば、わたしは副隊長をしましょう。ハンカイさん、宜しいですか?」

「……エルフ嫌いのことか。シュウヤの一族なのだ。俺に遠慮することはない」

「了解しました」

「マスターはヘカトレイルに?」

「そうなるかな」

「わたしはここで兄の残した遺産、部屋の内部にある様々な器具と書物の研究をしたいから……ヴィーネとハンカイさんもいいかな」

「ん? それはここの家を暫くの間、拠点にするということか?」

「そう、白命炉厰(キリアノハース)とは違う小型でかなり優れた魔高炉があったし、少し長引くかも」

「いいぞ、料理と斧は俺に任せろ」

「もとよりそのつもりです。この人が居ない魔霧の渦森には、まだまだ謎がありそうですからね」


 ヴィーネはミスティの研究を手伝いながら、自身の研鑽に励む気だな。

 銀の光彩の中に、野望が見え隠れしている。


 そして、彼女のいうように魔霧の渦森には、ブルゥンドズゥ様が居る。

 寂れた土偶は他にもあった。

 谷の奥まった場所には……未発見の古代遺跡とか、あるかもしれない。


「……了解。ならロロを連れて、俺は俺の旅を続けるとしよう」

「はい」

「シュウヤ、ほどほどにな」

「マスターにそれは通用しないわよ」


 その後は、居間に戻る。

 昔、ゾルとシータといろりを囲んだ場所だ。

 タロイモと菜っ葉系の煮込み料理を食べた覚えがある。


 ミスティが、ゾルの座っていた位置に横座りで腰掛けた時は……。

 少し驚いた。が、指摘はしない。

 皆でいろりを囲む。


 そこで魔煙草を吹かして酒を飲みつつハンカイたちと一緒に料理を作りだす。


 その途中、キッチンに立つ槍使いを披露したった。

 ユイにも作ってあげたことを思い出す。

 彼女の旅はどんな感じなんだろう。離れると寂しさを妙に感じる。


 すると、黒猫(ロロ)も猫軍団を引き連れて戻ってきた。

 ちょうどよく、肉の切り身があったから餌をプレゼント。

 食事のあとは猫じゃらしで遊びながらの運動――。

 運動量が激しかったせいもあり黄色猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)は疲れたのか、床で寝転がった。


 一方、黒猫(ロロ)は元気いっぱいだ。


 俺から奪い取った猫じゃらしを腹に抱えていた。

 後ろ脚の激しい連続猫キックを猫じゃらしに喰らわせていくと、猫じゃらしは爪により切られて幾重にも細い繊維がボウボウに伸びてしまう。


「壊れたか。新しい猫じゃらしを作ってやるからな」


 そんなことを話しながら……。

 黄色猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)の頭を撫でつつ陶器人形に戻す。その陶器人形を懐のポケットに保管した。



 ◇◇◇◇



 次の日。

 早速、ゾルの実験室に向かうミスティ。


「それじゃ、俺は庭に出て支度をする。シュウヤは、もうヘカトレイルへ向かうのか?」

「庭でツアンたちにも、話をしてからかな」

「その不思議な指か」

「出すか?」

「いや、いい。んでは、灰受けの掃除も必要だが、まずは薪集めをしてくる。またな」

「おう、また」


 ハンカイは笑うと、金剛樹の斧を肩に置いて外へ向かう。

 俺は黒猫ロロを連れて外に出た。


「ご主人様、まだ少し一緒にいます」


 ハンカイが奥の樹木が茂っている場所に向かう中、ヴィーネが寄り添ってきた。


「おう、今ツアンを出す」

「はい」


 第六の指を意識。

 黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)から、ツアンの姿に変身を完了させると、


「旦那、さっきから頭の中で、イモリザとピュリンが……」


 ツアンは渋い表情で語る。

 前歯が出ているがイケメンの部類だろう。

 しかし、寄り目だ。


「ふたりはなんだって?」

「……少し待ってくれ。昨日からだから整理する」

「おう」


 ツアンは眉間に皺を寄せて独特の面を作る。

 そのツアンを、半ば強引に生み出す原因となった戦いは連戦だった。


 連戦の前では悪夢の女神ヴァーミナと遭遇。

 魔法陣を崩し、火花を浴びて視界が急反転した。

 あれには、動揺した覚えがある。突然の淡い火影のような月明かり。

 幻術めいた、卯の花弁に蛍の星影たち。

 仄かな霧が周囲を暈かしながら映す白湖の銀世界。

 宙には後光を帯びた紫と金の大樹も存在していた。

 紫と金の大樹は白い茎が絡み付いており、反った滑り台のような巨大な茎から大きな滝から流れていくように白銀色の水が流れ落ちてゆく光景だった。

 今思えば、あの瞬間だからこそ、見られた光景だったのかもしれない。

 黒兎も浮いていたが、美しい悪夢の女神ヴァーミナに見合う環境だ。

 悪夢の女神が魔界セブドラに持つ領土、神域、縄張りのような場所だろう。

 そこで、ヴァーミナ様は、豊穣祈願の水垢離を行っていたんだよな。

 そして、その魔界の女神の一柱から<夢闇祝>を授かってしまった。だから、気付いていない間に……実は魅了を受けているのか? ステータスの説明に、※神意なる巨大な魔素を持つモノの真なる姿を映し出す可能性が向上し、眠った際、悪夢の女神ヴァーミナの波長が届くこともある※ とあったがたまに寝る時があったが、その睡眠中に波長を浴びていたりして……悪夢の女神ヴァーミナは、妙に嬋娟たる姿でカリスマ性を感じた。

 ヴァーミナは、ヴィーネと同じ白銀色の髪。

 透き通った水面を感じさせる声音。あの背中が見えるドレス、羽織っていた単袴のような美しい衣は神話(ミソロジー)級アイテムに間違いない。

 が、あの双丘も、まさに神話(ミソロジー)級の代物だった。

 乳房の先にきゅっと尖る櫨豆のような乳首は美しい、鈍器のような美巨乳とは異なる。 芸術を帯びた洗練さを持つ、美乳だ。

 悪夢のイメージとはかけ離れた美を持つ姿。

 その悪夢ヴァーミナの使徒ナロミヴァスとの闇対決。

 魔界から召喚された巨漢黒兎シャイサードとの体術を交えた激闘から……。


 フェデラオスの猟犬を魔法の額縁から出現させた魔眼を持ったバーナビー・ゼ・クロイツと邪神ニクルスの第三使徒リリザとの、濃密な三つ巴の戦い。


 クロイツは眷属になりかけの魔眼持ち。

 そして、様々なアイテムを使いこなす強者。

 人から魔になりかけの存在だが、あれは影翼のメンバーとも余裕で戦えただろうな。

 地底神を操るガルロと、魔闘術系だと推測する銀の魔力を体に纏いつつ鮫のような魔剣を扱うレザライサはさすがにキツイかもしれないが。

 いや、あの魔眼だ。個人同士の戦いならクロイツが勝つかもしれない。

 第三使徒のリリザも仕留める勢いがあったから納得できる。

 悪夢教団ベラホズマ・ヴァーミナ、別名【悪夢の使徒ベラホズマ・ヴァーミナ】の教組と幹部たちは強者たちだった。レムロナの話に登場したが他の闇ギルドの幹部も潜入していたが、悪夢教団ベラホズマ・ヴァーミナ、別名【悪夢の使徒ベラホズマ・ヴァーミナ】はペルネーテの闇ギルドor闇の宗教組織では最大勢力だったのかもしれない。

 【月の残骸】も最大勢力ではないからな。官僚組織でもないし巨大な都市な面もある。

 綻びが出るのは仕方がない。メルにがんばってもらおう、すらりとした足を持つ副長の姿を陰ながら応援だ。

 そんなメルから、リリザとの最後の戦いを思い出す。

 再生途中の肉が蠢くリリザを掴み<霊呪網鎖>のスキルを使った。

 すると、リリザは壊れ形を変えながら闇属性リリザと光属性リリザに分裂。

 あの時、たまたまゲノム編集をするように光属性系の<霊呪網鎖>でリリザが取り込んだ魂の一部(ツアンたち)だけを分離させることができたんだ。


 俺の光属性に呼応した黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)とツアンとピュリンの魂たち。

 一度闇に落ちたツアンは光属性を有した元教会騎士だったことも影響もあるだろう。

 ピュリンはセレレ族という光に関係する部族だったことが影響があるはず、本人たちの光属性の魂が、俺の<光の授印>の光属性に同調したから助かったんだろうと推測できた。

 ピュリンとイモリザの意識と心はツアンと同居している。三人それぞれ特徴ある性格だが、二人の女性と一人の男だ。ツアンもモヤモヤが大変だろうと思う。ツアンよ、がんばれ。


 と、心の中でメルと共にツアンを励ますと……。

 そのツアンが念話を終えて、


「……まずはイモリザから、『第一使徒ケルビムが操るモンスターと、あの象と蠍の合体したモンスターが似ているんです。わたしが直に潰して使者様を助けないと!』……次にピュリンが『狙撃を狙う場所から移動しちゃだめです。さっきの枝上の高台に戻りましょう。わたしが皆様のフォローを行います。ツアンさん、聞いていますか?』……といった感じで、さっきまでさんざん言い争っていましてね。とくに、空中戦の場面で、激しく……反応が遅れたところで、蝙蝠型に不意を突かれたんですよ。旦那に助けてもらいましたが」


 なるほど、頬から顎髭を掻く仕草をしながら語るツアン氏。

 思わず魔煙草を彼に差し出し、一緒に一服したい気分になった。


 その表情から気苦労を感じさせるがツアンは自分の凄さを理解しているのだろうか。

 頭の中でイモリザとピュリンの精神体が同居しているのは大変だ。

 だがしかしリアルタイムに脳内会話を三人同時に行う。

 これがどんなに凄い能力か。三人集まれば文殊の知恵ではないが三人の脳と思考を併せ持ったスーパー能力なんだからな。今はそのポテンシャルを十分に活かしきれていないようだが三人が成長を遂げていけば俺の<脳魔脊髄革命>のエクストラスキルの効力を優に超えてくるかもしれない。


 エクストラスキルはあくまでも人、人族の範疇なのだから。

 師匠からの過小評価しすぎだ。という、厳しい言葉が脳裏を掠めるが、そうではないと思う。


 頷いてツアンの能力を評価していると、そのツアンが片眉をピクピクと反応させる。

 三人の意見がまとまったのか、軽く咳をしてから、


「……それより、旦那、先日の戦い、巨大蟷螂を屠った光槍? 教会騎士長クラスが扱う《光槍の罰(シャイニングランサー)》に似たような魔法を連続で、しかも、無詠唱で繰り出していましたよね。前にイモリザが熱心に話をしていた魔法でしょう?」


 あれか。


「ツアンは宗教国家の出身だから気になるのだろうけど、俺は聖王でも聖者でもない。そして、光神と同衾(どうきん)したわけでもない。ただのおっぱい好きな槍使いだ」


 俺の言葉を聞いたツアンは笑い、まばたきを繰り返してから、


「……おっぱいと光神をかけた、旦那らしい言葉だ。だが、妙に勘ぐりたくなる」

「たまたまだ。それにあの光槍、実は魔法じゃない。スキルだ」

「……それはそれで、一桁(エリート)が持つような特異能力じゃないですか。そういえば、旦那の立派な裸、その胸に……」


 ツアン、頬を赤くしながら話すなよ。視線も股間を凝視?

 そんな視線は無視。


 一桁(エリート)の名なら聞いた覚えがある。

 前に、八課の魔族殲滅機関(ディスオルテ)たちのことを聞いた。


『……一桁(エリート)たちか。リンカーセン、ダコテソーム、フォビーヌの三人の姿なら教皇庁へ出入りした際に見かけたことがある。『リンダバームの郊外にあるアンデッド村を滅ぼした』と、彼らは狂気じみた表情を浮かべて自慢気に話していた……大柄男と細い美男に小柄な美女の組み合わせだったが、正直、その狂気染みた表情は……不気味だった。とくに大柄男の耳に魔力が籠ったピアスが大量に刺さっている様子は……教会関係者とは思えなくて、異質で怖かったよ』


 と、ツアンは教えてくれた。

 そこで、赤く染めた頬についてツッコミを入れておく。


「おい、俺にその気はないからな……」

「……旦那、違いますから、俺はノーマルです。それに旦那こそ、屋敷内で、『スッパマン』とかわけのわからない言葉をしゃべりながら服を脱いでいたでしょうに」


 よかった。たまたま、股間にズームインしていただけか。


「……そうだった」

「ふふ」


 俺とツアンの会話を聞いていたヴィーネの笑い声だ。

 ヴィーネもペルネーテの屋敷内の些細なできごとを覚えていてくれた。


 ……右肩の竜頭金属甲のハルホンクの防護服は便利だからな。

 竜の口が、体に着ている暗緑色の防護服を素材状に分解しながら一気に吸い取る。

 右腕の戦闘型デバイスのアイテムボックスと連動しているガトランスフォームを纏う瞬間も、自室から廊下に出て、歩きながらやることが多かった。


 ついでにガトランスフォームを解除して、裸の状態で、廊下を歩いたこともあったことを思い出していく。使用人たちからの、かわいい声が面白かったが、俺も俺か。裸族行動は反省すべきか?


 さて、鈴を鳴らすように笑ったダークエルフさんのヴィーネでも見ようっと……。

 そのヴィーネは、またまた胸元で黒猫(ロロ)を抱きしめていた。

 少し離ればなれになるからな、黒猫(ロロ)もヴィーネのバニラの匂いが好きだから寂しいようだ。

 おっぱいに挟まれて幸せそうに目を瞑っている。

 先ほどのココナッツチョコレートではない、ココッブルゥンドズゥ様の接触後にも、思っていたが、あれは絵になるなぁ……巨乳と巨乳に黒猫が挟まれている図。


「……旦那、そんなこと(おっぱい)より、光十字ですよ。胸に十字を刻む旦那の神印。神聖書アザヤ十六の節に登場する聖者その物ですぜ?」

「前にも聞いたな、神聖書。聖王国で出会った重騎士長とその配下たちも話をしていた」


 俺を追いかけてきた教会騎士たちが居た。

 彼らは今頃、どうしているのだろう。


「それは前に聞きましたとも、捕まった話ですよね!」

「ツアン、興奮しているな」

「旦那は使者様なんですから、当たり前ですぜ! う、イモリザも吠えて……」


 あぁ、またツアンタイムだ。あれはあれで、決めポーズに使えそう。

 と考えていると、


『閣下、わたしのお尻ポーズを考えていましたか?』

『……鋭い』

『あのツアンの表情を見たら、ふと思いつきました。彼にお尻ポーズの伝授を……』

『今はいい、今度な』

『……はい』


 声を落とすヘルメ。そのタイミングでツアンはイモリザとの脳内会話を終えたように片膝の頭で地面を突き勢いよく面を上げると視線を鋼のように鋭くさせた。


「……アーカムネリス聖王国での一件、旦那は聖王、いわば、勇者のような存在だ。それを探知機かなんかで、魔族と決めつけて、誤解し牢獄に押し込めた野郎…………あの聖王国の王が、沈黙していたのも……いくら教皇直属の重騎士長とはいえ、いいなりになるのは許せない……元教会騎士として恥ずべき思いが強く……旦那、すまねぇ」


 ツアンから教会騎士の誇りを感じ取る。


「お前が謝ってどうする」

「いや、使者様故、自分の光属性がそうさせるのですよ!」


 ツアンは微笑すると、立ち上がる。


「……【アーカムネリス聖王国】は魔境の大森林に隣接した国。魔界セブドラに繋がる傷場から常に魔族の軍勢が出現し続けている凶悪な場所だ。隣の宗教国家からの支援は絶対に必要だから仕方がないんだろうよ。聖戦だっけ? 互いにウィンウィンの協力関係は長らく続いているのだろう?」

「はい、魔族たちが押し寄せてくるのは宗教国家も同じ」


 そのタイミングで、ヴィーネから離れ地面に降りた黒猫ロロが歩き出す。


「フォルトナの街の周りは、確かにモンスターの数が多かった」

「西方のフォルトナですか。水神様繋がりだとか」

「そうだ。比較的、宗教の縛りを感じない地域だった」

「田舎な面もありやすが、水神様の効果があるので教会も小うるさくしないのでしょう」

「ポーション作りだったか?」

「はい、【水教団キュレレ】も関係があるようですね」


 神官長とは関係があるのだろうか。


「その組織名は聞いたことがある」

「水神アクレシス様からのご加護と関係が?」

「厳密に言えば関係があるかもしれないが分からないな」

「そうですかい。外魔都市では【水教団キュレレ】の名で、水神様に関する清水とポーションが売っているところを見た覚えがありやす」

「ほぅ。で、フォルトナ以外の地域はどんな感じなんだ」

「光神ルロディス様、光精霊フォルトナ様に関係する場所が多いですね。ただ、死が近いアンデッド村も多数存在しますから、教会騎士の仕事は多かったですぜ」


 ツアンは、足下をトコトコと歩いている黒猫(ロロ)の姿を見ながらも、過去を思い出しているのか、どこか惚けたような表情になっていた。


「仕事か、仕事といえば、冒険者たちが多数、魔境の大森林の切り取りに参加しているようだけど、外魔都市には冒険者の数は少ないのか? フォルトナの街では、盗賊のような冒険者たちが居たが」

「外魔都市も迷宮都市ぐらいは、居ましたぜ。冒険者崩れも多かった覚えがあります。今はわかりませんが」

「なるほど、崩れた者はどこにでも存在するか。フォルトナも湖が近くにあって森があって綺麗な場所だったんだけどなぁ」


 街の屋根をパルクールしながら走っていたことを思い出す。


「フォルトナ……あそこは確か蛇竜、曰くつきのゴッデスの森、色々とモンスターの徘徊が多い……しかし、旦那に絡んだ相手がいたんですね……どうなったかは聞きません」


 さすがに、俺に絡んできた相手がどうなったかは、想像がつくか。


「んじゃ、情報共有もここまでだ。イモリザから聞いていると思うが、俺はヘカトレイルに向かう」

「はい、旦那! 指に戻ります」

「おう」


 嬉し気なツアンは形を崩して、黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)に変身。

 イモリザこと黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)はうねり、手の内に跳ねてくると第六の指となった。


「ロロ、行こう。目標はヘカトレイル。ひさしぶりの城塞都市だ。ヴィーネも皆を頼む」

「はい、お任せを」

「にゃ~」


 ヴィーネは寂し気だが、成長してやるといった力強い顔付きだ。

 暫しの別れだ、仮面を外して銀の蝶々を晒すヴィーネを横目に神獣ロロディーヌに颯爽と乗り込む。後頭部に乗って、目の前にきた触手手綱を片手で掴んだところでヴィーネを見た、ヴィーネはエクストラスキルを使用していた、俺の門出を祈るつもりらしい。

 <銀蝶の踊武>の<銀蝶揚羽>かな。俺と相棒の周りを綺麗な銀色の蝶々が舞うように飛翔していく。ヴィーネの親しみのある視線を見ながら頷いた。


『ご主人様、再見(ザイ・ジエン)』と力強い言葉が聞こえた気がした。


 神獣(ロロ)は駆け出した。神獣らしい膂力を皆に示すように力強い躍動で上昇し霧に再突入、少し冷たいが、相棒から放たれている魔力のお陰で周囲の温度は気にならなくなった。と、そんな霧の中で神獣ロロディーヌは黒翼を体から生やした。巨大な漆黒ドラゴン風の相棒に似合う両翼だ。

 そんな両翼を活かすように近寄るモンスターを吹き飛ばしながら霧を突破――。


 ――朝日が眩しい。


 よし、このまま城塞都市ヘカトレイルへ向かう。


 滑空しながら雲間を進む。

 浮かんでいる雲の形が、キッシュとチェリの顔に見えた。

槍使いと、黒猫。17巻発売中。


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