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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千二百十三話 無音を裂く百鬼道ノ新頁と、裏切りの戦神の降臨

 甲高い音が脳髄にまで響くと体が急激に軽くなる。背後で


『百鬼道ノ零なりや、ひゅれいや、白銀鴉、闇遊鴉――』


 声では、ない。

 無音神域の中で、彼女の咽喉から、声になる前の振動だけが、漏れ出ていた。


『ひゅうれいや、震哭ノ白銀鴉、冷酷ノ闇遊鴉。ひゅれいや、百鬼道ノ零なりや――ひゅうれいあ、ひゅうれいあぁぁぁ——』


 メファーラ様の武闘血の漆黒と、解放された戦乙女の白銀。彼女の信仰経路の中で、二つの理が、初めて、混じり合っていた。


 〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟に、これまで、刻まれていなかった、新しい頁。


 キサラの<魔謳>が振動として響くと押し出されていた無音神域の重圧的なプレッシャーが消えた。


 神域の理を支えていただろう『戦神キヴェレイの権能の片鱗』――。

 その鎧装甲の戦死者の魂を多数失ったことで、内から弱まり始めているのは確かだ!


 声はまだ出ないが肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識、<隻眼修羅>と<闇透纏視>を維持し――<魔闘術の仙極>を発動。


 <仙血真髄>を意識、発動。

 <握吸>と<勁力槍>を発動させて握りを強めるまま恒久スキル<月影血融>と<月影血脈>を意識し発動、<月光の纏>を発動。


 <血魔力>の血と<生活魔法>の水を足下から放出させ、<血道第四・開門>、<霊血装・ルシヴァル>の面頬を装着し――<血道第五・開門>、<血霊兵装隊杖>――を展開。一瞬でルシヴァル宗主専用吸血鬼武装・甲冑を闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備と胸甲と鈴懸(すずかけ)と不動袈裟風の衣装防具を融合させていくまま、前へと滑るように――キル・ドッポとの間合いを詰めた。

 狙いは胴、左足の踏み込みから神槍ガンジスで<血穿>――。


 キル・ドッポは、大斧を上げ、分厚い大斧の下側の刃で、双月刃の<血穿>を下から斬るように防いだ。


「ぬぅ!」


 と氣合い声を発したキル・ドッポの胴へと左腕ごと無名無礼の魔槍をぶち当てるように<魔皇・無閃>――ドッポの四つの視線は――。

 左からの双月刃の薙ぎを視ても揺るがず、右上腕の手が持つ魔剣を斜め前に差し出しながら<魔皇・無閃>を防ぎつつ左横へ移動し――。


「――良い踏み込みからの攻撃だ――」


 と言いながら左上腕と下腕が持つ大斧から複数の魔刃を炸裂させる――その飛来した魔刃を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を目の前に召喚し、防ぐと同時に、斜め右へ跳ぶように<暗行ノ歩法>を用いて移動してドッポを追う。


 ドッポの大斧から連続的に繰り出されていく魔刃攻撃を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぎながらドッポの横か背後を突こうと右へと回り続けた。

 ドッポは四眼の内三眼を鋭くさせながら大斧からの魔刃を止めつつ、エヴァとヴィーネの白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃と光線の矢を魔剣を放って、遠目の位置で二人の攻撃を的確に防ぎながら、右上腕の魔剣をわずかに動かし、切っ先から縦長の魔刃を寄越す。

 地面を裂くような魔刃を<風柳・異踏>で横に移動して避け、<雷炎縮地>――ドッポに近付き<龍豪閃>――を繰り出したが大斧で防ぎ、突きの魔剣を繰り出してくる。それを無名無礼の魔槍の穂先で上に弾き、下段回し斬りのように横へ回転しながら<雷払雲>と無名無礼の魔槍で<風柳・劫蛇崩打>――。

 ドッポは四つの龍眼を煌めかせ、魔剣と大斧を下に置くように、下段の連続攻撃を隙なく確実に防ぎ続け、合間に、魔剣を突き出す――

 頭部を横に傾け魔剣を避けた。その魔剣を強引に引き戻したドッポは、左下腕で大斧の柄を握り直し、半円の軌道で横薙ぎを寄越してきた――。

 <血液加速>を強め、俺の頭部を狙った大斧の豪快な一閃をしゃがんで潜り抜け、《水流操作ウォーターコントロール》のまま無名無礼の魔槍の<牙衝>――魔剣に払われたが、次の神槍ガンジスの<血刃翔刹穿>――。

 

 ドッポは大斧をその場に置き、即座に床を蹴って後退。

 大斧から黒紫の魔力が吹き荒れ、双月刃の穂先から無数に迸っていく<血刃翔刹穿>の血刃を防いでいた。


 後退したドッポにエヴァたちの遠距離攻撃が向かうが、ドッポは


「この程度で、我を崩せはせぬ――」


 と<超能力精神(サイキックマインド)>のような衝撃波で、白皇鋼(ホワイトタングーン)虹柔鋼(レインボースチール)の金属の刃の遠距離攻撃と光線の矢を吹き飛ばすようにドッポに「にゃごぁ」と黒虎(ロロ)が紅蓮の神炎を吹いた。

 その紅蓮の炎をドッポは口や鼻に吸い寄せて、体の紋様に新たな力を宿すように防いでいた。そのドッポとの間合いを宙空から詰め、<刃翔刹穿・刹>――を狙うが、ドッポの両腕や体に生まれていた光の紋様が弾けるように閃光を浴びた――複数の<魔闘術>系統を維持し、<無方剛柔>のおかげでダメージはないが衝撃は殺せない。宙空で体を捻って、近付いてきたドッポの突きを無名無礼の魔槍の柄で防ぐ。柄から墨状の炎が噴き出てドッポの視界を防ぐが、「カッ!」と氣合い一閃で消し飛ぶ、ドッポは連続的に魔斧を突き出し、魔剣で腹を斬るように振るってくる――神槍ガンジスを<風柳・中段受け>で、その攻撃を防ぎ、右手の無名無礼の魔槍を短く持ちながら<刺突>の反撃をドッポの太い首筋へと繰り出した。再び、ナナシの墨炎が穂先から噴出する。


 ドッポは残る右下腕の魔剣をかち上げるようにして、無名無礼の魔槍の刃を強引に弾いた――キィンッ!

 凄まじい金属音が脳髄を揺さぶる。

 弾かれると同時に<導想魔手>をドッポの視界を遮るようにその顔面へと突き出した。ドッポの四つの竜眼がわずかに揺らぐ。

 その隙を見逃さず、<雷払雲>の神槍ガンジス――。

 ドッポは大斧の柄でその下段払いを防ぐ、それを視ながら、無名無礼の魔槍を下から上に振るう<闇雷・飛閃>――。

 ドッポは四つの竜眼から怪光線を放ちつつ魔剣を盾に、<闇雷・飛閃>を防いだ。怪光線を喰らったが、胸甲と鈴懸(すずかけ)と不動袈裟風の衣装防具を装備が完璧に防ぐ、宙空で体勢を入れ替えながら、左手の神槍ガンジスを掌の中で滑らせジャンピング<刃翔刹穿・刹>――。

 ドッポ「ぬぉ」と大斧を盾に防ぐ、体勢を揺るがした。

 着地と同時に、左足の踏み込みから、<血穿>――。

 大斧と魔剣の間を突き抜け、ドッポの胸元に突き刺さる。


「――ぬぉがぁ」と大斧と魔剣を振るい抜く!?


 にわかに神槍ガンジスを下に、無名無礼の魔槍を盾に、――ガガギィィィンッ――卍を描く軌道の連続攻撃を防いでいく。

 

 タイミングを計り――。

 無名無礼の魔槍で反撃の<妙神・飛閃>。

 防がれるまま右手の神槍ガンジスを魔槍杖バルドークに変化させ、ドッポの大斧と魔剣の左から右へと迫り来る連続斬撃を<山岳斧槍・滔天槍術>を活かすように防ぎ続けた。

 ドッポは、右に体重が傾く癖があるが、試す価値はある――。

 無名無礼の魔槍でカウンターの<風柳・喧騒崩し>を放つ。

 螻蛄首が右上腕の魔剣の下に衝突、右下腕の魔剣も下から叩く。

 上腕と下腕が持ち上がったドッポは体勢を崩した。

 そこへ<血龍仙閃>を狙う――ドッポは体勢を縮めるように大斧で防ぐ。

 すかさず<風柳・右風崩し>から<風柳・風蛇左腕>へと繋ぎ、風槍流の柔らかな技でドッポの足の理を崩す「ぬぉ」と地面へと転がしたが、尻尾で地面を叩くと体勢を直しながら袈裟掛けを繰り出してきた。本当にキル・ドッポは龍人系――。

 横へ<風柳・異踏>で軸をズラし、袈裟斬りを避けるまま無名無礼の魔槍を横に置く<杖楽昇堕閃>を繰り出す――。

 大斧で初撃の大笹穂槍の一撃を往なされたが、二撃目の石突の打撃が、左上腕の上部に入り、鈍い音が響く。体勢を揺るがした。

 だが、さすがは魔戦神の大眷属、キヴェレイの理を引く実力者――。

 ドッポは姿勢を直しながら大斧を振るってくる。それを後退して避けたが、<ブリンク・ステップ>のような転移するような加速から大斧を突き出す。

 後退しながら神槍ガンジスで<魔雷ノ風穿>――。

 大斧に弾かれ防がれるが、無名無礼の魔槍で<血穿>――。

 ドッポは視線を強めて前のめりの体勢で、右上腕の魔剣を滑り込ませ、死線上で<血穿>の穂先を受け流しやがった。すかさず、無名無礼の魔槍を下に押し出すように<豪閃>大斧の柄で防がれる。無名無礼の魔槍の柄を押し当てるように中段の<刺突>――ドッポは反応、左の下腕で大斧の柄を握り直し、半円の軌道で横に薙いで防ぐ――鉄が爆ぜるような火花が散る。


 そこにエヴァたちの遠距離攻撃の白皇鋼の刃と光線の矢が再び向かうが、ドッポは<超能力精神>のような衝撃波でそれらを吹き飛ばす。

 同時に黒虎(ロロ)が、細い紅蓮の神炎を吐く。防がれることを念頭にしていたように左前足の爪をドッポの右脚に叩き込んだ。


 ――バリィッ! ドッポの太い脚の龍鱗が砕け、血飛沫が舞う。

 だが、ドッポの四つの龍眼が怪しく煌めいた。


「この程度で、我を崩せはせぬ――戦神の血氣、龍神の骨髄、すべて我が武の理となれッ!」


 ドッポの叫びと共に、黒虎(ロロ)に裂かれて宙に舞ったキル・ドッポ自身の血飛沫と、砕け散った龍骨の破片が空間でピタリと止まる。

 それらはドッポの胸元や腕の紋様へと吸い込まれるように収斂。傷口が瞬時に塞がるどころか、吹き荒れる黒紫の魔力と神界系統の権能が混じり合い、大斧と魔剣、四本すべての刃の色合いが銀を帯び呼吸するように伸縮を繰り返していた。刃から魔力が滴り落ち、地面が陥没、孔を形成し、その孔から漆黒の火柱が発生していた。己の破損すらも血肉の糧とする、古き神界の戦術武術の片鱗――ドッポは四腕の獲物を同時に振り下ろしてきた。

 間合いを狂わされた。再生と同時に膨れ上がった質量を以て、空間ごと俺をすり潰さんとする、大斧と魔剣の絶死の面攻撃。


 ――<無方剛柔>と<霊血装・ルシヴァル>を限界まで意識。

 避けない。正面から魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍で<風柳・中段受け>の型で構え、その全質量をガチィィィンと受け止める。


 衣服防具の完璧な防御のおかげでダメージはないが、神界系統の凄まじい衝撃に床の石畳がさいの目状に粉砕され体ごと後方へと強引に押し込まれた。


 完全に互角の力比べ。押し込まれながらも、右手の無名無礼の魔槍を逆手に翻し、ドッポの胴体へ向けて下から上に振るう<闇雷・飛閃>――。

 ドッポは巨大化した魔剣を下に置くようにして<闇雷・飛閃>の軌道を隙なく確実に防ぎつつ、四つの龍眼から同時に強烈な怪光線を放ってきた――。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾に怪光線を防ぎながら前進―怪光線が衝突し続けて<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から膨大な魔力を得た。そのままドッポを押す――。


「邪魔だ!」


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に大斧や魔剣の攻撃が何重と響いたように衝突しまくる。

 そこに「ぐぇ、ダークエルフ崩れが!」とヴィーネの一撃が、入ったか。

 俄に、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>への衝撃を薄くなった刹那――。

 黒虎(ロロ)が<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を飛び越えるのが見えた刹那――。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消す。

 <魔仙神功>を発動。

 加速しながら相棒の一撃とエヴァとヴィーネの攻撃を防いでいる隙間に魔槍杖バルドークで<闇雷・一穿>――。

 ズシュッと音が響いたようにドッポの胸を魔槍杖バルドークの紅矛と紅斧刃が装甲ごと胸を貫いた。ヴィーネの返すガトリセスの刃の斬撃と相棒の細い紅蓮の炎がドッポの右側頭部を貫通、エヴァの白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃が、片足を貫いた。すかさず俺は<風柳・連礼穿槍>――。


 槍術の基本「(らん)()()」で払い弾き、引っ掛ける――更に、穿つ、息つく暇もない流麗な連撃を叩き込んでいく。

「グァァァ」


 キル・ドッポが吹き飛ぶ。

 頭部の一部が溶け、背骨がへしゃげ折れて左下腕が切断されていた。


 同時に、上空でガラスが砕けるようなわずかな響きがあった。

 神域の理を支えていた最後の鎖が戦死者の魂解放と、皆の攻撃にキサラの<魔謳>のおかげで砕けたか。


 突然、雷鳴――。


 キル・ドッポの背骨がぐにゃりと歪な音を立てて軋み、へしゃげた体が不氣味に膨張する。

 その背後に、無数の戦場の記憶を編み上げたような、巨大な武人の幻影が屹立した。


 ドッポの体が、その幻影から放たれる赤黒い神意力を吸い上げて一瞬で再生していく。

 竜頭の四つの眼が明滅し、それぞれの瞳孔が別個の意思を持つように蠢いた。ドッポの眼の奥から背後の巨大な幻影――魔戦神キヴェレイ本人の視線が、俺を真っ直ぐに射すくめてくる。


『――眷属の鎧を失った時こそ、真の武の顕現ぞ。我が眷属よ、心残りなく、この場で塵となって散れ』


 ドッポの喉から響いたのは、重なり合う二重の冷酷な声。「散れ」だと? 主君が、自らのために幾星霜と戦い続けた大眷属に対し、死を以て盾となれと平然と命じている。

 元は神界セウロスの戦神でありながら、魔界の理を取り込んで堕ちた裏切りの戦神キヴェレイ。こいつは、忠義を尽くす大眷属すら、己の覇道のための使い捨ての駒としか思っていない。


 氣の喰わない神。

 胸の奥で、ルシヴァルとしての血の誇りが、静かに、そして激しく沸き立つのを感じた。

 ――大斧と魔剣が飛来した。

 

「皆、警戒――」


 声は出る。


「ん!」

「はい!」

「にゃごぉ」


「グォォォォ」


 キル・ドッポは加速――。


 四腕が武器と化している!?

 <魔仙神功>を超える速度で迫った。

<血穿>から<龍豪閃>で拳から伸びた槍状の武器ですべて往なされていく。


 ヴィーネの光線の矢、エヴァの白皇鋼の飛槍、すべてがキル・ドッポに当たらずに逸れた。


「なぜ!」

「ん、神格攻撃、防御!?」


『――主、あれは、戦神の<因果律改変>系統だろう。神界連中が好む手法だ』


 無名無礼の魔槍のナナシが思念を寄越す。

 <闇雷・一穿>から<妙神・飛閃>――。

 <血龍仙閃>――。

 すべてが当たらず素通り――。


『……主、これは……ヤベェ――』


 ナナシの悲鳴と同期するように、無名無礼の魔槍の梵字『バイ・ベイ』の輝きが急速に陰り、大笹穂を覆っていた水墨画の如き墨色の炎が、まるで冷水を浴びせられたように掻き消えた。

 右手の魔槍杖バルドークの刃からも、滾っていた<血魔力>の赤黒い光が、因果の網に掠め取られるようにして消滅していく。

 

 その無名無礼の魔槍と魔槍杖バルドークを消して、<魔手太陰肺経>を意識するまま<血仙拳>――。

 ドッポの因果律改変の網が、魔力を持たない俺の純粋な質量と勁力を感知できずに素通りさせる。

 ズドッと、カウンター気味に右拳がキル・ドッポの竜頭の側面にめり込んだ。


「ぐえぁぁ――」


 頑強な龍鱗が砕け散る鈍い感触が拳に伝わり、ドッポの巨体が真横へと吹き飛んだ。


 ――だが、ドッポを中心に周囲の空間がセピア色に歪み、背後から無数の赤黒い魔線が蜘蛛の糸のように噴き出して大氣を強引に固定する。

 魔線は魔戦神キヴェレイの形に変化し、吊り下げられるようにして、ドッポは不気味な体勢のまま着地し、持ち直した。


「『やりおるな、光魔、お前はここで仕留めるしかなさそうだ――』」


 キル・ドッポと魔戦神キヴェレイの声が重なった刹那――。


 大氣の因果そのものが物理的な鎖となって全身へと絡みついてくる感覚に陥った。

 

 動こうとする俺の「意志」の先回りをされる感覚。

 槍を突き出そうと筋肉が収縮するより先に、空間の因果そのものがねじ曲げられ――。


 攻撃が外れる――。

 冷酷な未来の結果だけが、あらかじめ世界に縫い付けられているような手応えのなさ――。


 これが先程――。

 ――戦神キヴェレイの因果律改変の権能――。


 <雷払雲>から<風柳・単撤手>の連続攻撃も意味がないように避けられた。


 ドッポは加速しながら拳に生えた刃を活かすように突き出してくる。


 それを<風柳・異踏>で避けたが、左に転移してきたドッポの左拳の薙ぎ払いは避けきれず――右肩から胸元、顎、装備が破壊され、斬られた――。


 吹き飛びながら左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出――。


『「ほぉ――」』


 反応したドッポは<鎖>を拳に突き防ぎ、右上腕を突き出しながら前に出て<鎖>を掴んだ。


 刹那、視界が揺れる。

 <鎖>に輝く梵字が強く輝きながら氣を失いかけて<鎖>が消えるまま左から強烈な一撃を受けて吹き飛んでいた。


「シュウヤ!」

「ご主人様!」

「にゃご」


 視界が血で染まり、揺れるまま片膝で地面を擦らせながら立ち上がる。


 キル・ドッポは、


『「……狩魔の王ボーフーンを倒しただけはある」』


『――主、因果の網が強固になりやがった! 俺たちの煙を消したのも、槍を突き出す『原因』そのものを掠め取ってやがるからだ!』


 ナナシの焦った思念が脳髄を叩く。

 だが、右拳の<血仙拳>は確かにドッポの頭部を捉えて吹き飛ばした。

 武器を通じた<血魔力>や魔力の放出は因果で逸らされるが、肉体の内脈、経絡を伝う<魔手太陰肺経>と純粋な体術の質量ならば、因果の網を強引に突き破って肉へと届くということだ。


 持ち直したキル・ドッポが、背後のキヴェレイの魔線と同調しながら、四腕の槍状の武器を構えて前進。足跡を刻むことすらなく、空間の距離を因果ごと省略するような不氣味な速度で間合いを詰めてくる。

 

「シュウヤ様!」

「ん、シュウヤ、これ以上は――」


 背後からキサラとエヴァが叫ぶが、下がる選択肢はない。

 <魔仙神功>を限界まで維持し、<仙血真髄>を丹田の奥で沸騰させる。

 <脳脊魔速>もまだだ。


 再び、無名無礼の魔槍と魔槍杖バルドークを両手に実体化させたが、魔力や血は纏わせない。ただの強靭な硬度を持つ「物質の極み」として槍を保持。


 ドッポが四腕の槍を同時に突き出してきた。

 千の未来から、必ず俺の急所を貫くという確定した軌道。

 

 ――<月読>。

 ――<無方剛柔>。

 

 <隻眼修羅>でも軌道を読みながら、槍術の基本である「(らん)()()」の型を、今度は魔力に頼らず、己の筋力と関節の反動だけで超高速展開した。

 キヴェレイの魔線が宿るドッポの突きを、無名無礼の魔槍の刃で外側へと払い(攔)、魔槍杖バルドークの石突で内へと巻き込むように引っ掛けて軌道を逸らす(拿)。

 当たるはずの因果が、物理的な純粋な力(勁力)の衝突によって火花を散らし、ミリ単位で頬をかすめて後方へと流れていく。


『「何っ、神格の理をただの武の軌道で――」』


 ドッポとキヴェレイの重なった声が驚愕に揺らいだ。

 

 逸らした刹那――。

 <導想魔手>をフェイクに、魔槍杖バルドークで<闇雷・一穿>――「『かかった!』」とそれは予想済み、魔槍杖バルドークは横に弾かれるまま、スキルではなく、荒い素の風槍流『籠手返し』の神槍ガンジスの双月刃がキル・ドッポ・魔戦神キヴェレイの腕と幻影を削ぐ――。


『「ぐぇ、なんだ。その武の質は……八槍卿の復活といい、お前は……」』

「あぁ、風槍流だ。そして八槍卿ではない。魔界九槍卿だ」

『「……<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の文字か……フッ」』


 両手の槍を再び消滅させ、踏み込む。

 腕の経絡――<魔手太陰肺経>に意識を極限まで集中させ、肉体の内脈を流れる勁力のみを練り上げるまま、ドッポ・キヴェレイの不可視に思える槍の攻撃を避けた。

 そして、<握吸>で引き寄せられてきた魔槍杖バルドークが、ドッポ・キヴェレイの背に衝突するまま無名無礼の魔槍で<闇雷・一穿>を繰り出すが、それは神の摂理のままに虚空に消えるようにスカるまま、<導想魔手>に握らせた魔星槍フォルアッシュで風槍流『風研ぎ』をドッポ・キヴェレイの首に喰らわせ「ぐぇあ」と仰け反らせたが、瞬時に再生したドッポ・キヴェレイの因果の網に捕まるように魔槍杖バルドークで<血刃翔刹穿>を繰り出すが、やはり魔槍杖バルドークは横に弾け飛ぶ。


 構わず、腰の回転、肩の入り、すべてを物理法則の極限へと同調させた左足の踏み込みから渾身の<血仙拳>の二撃目を、ドッポの胸の傷口へと叩き込んだ。拳がドッポの肉を捉え、背骨の再生が再び止まるほどの衝撃が突き抜ける。


 ドッポはたまらず「ごふっ」と血の塊を吐き出しながら後退。


 だが、その背後のキヴェレイの魔線が不氣味に膨れ上がり、ドッポの吐き出した血を吸って、周囲に無数の半透明な槍を生成する。


『「変幻自在な槍使い……か、ならば――」』


 と、消えた。

 否、間合いを詰めてきたドッポ・キヴェレイは半透明な槍で突いてくる。

 無名無礼の魔槍と魔槍杖バルドークで往なすが、無名無礼の魔槍と魔槍杖バルドークは拳の感覚が狂い、弾け跳ぶ。

 更に――反応が遅れ、右脇腹を抉られ、吹き飛ぶように後退した。

 ドッポ・キヴェレイから四つの怪光線が飛来したが――。

 <火焔光背>を使用し、右手に陽槍ルメルカンドを召喚、盾にし、怪光線を防ぎ、吸収していく。

 更にアイテムボックスから雷光の心臓石ライトニングハートストーンを放りつつ――斜め後方に後退しながら、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を防御に使わず、ドッポ・キヴェレイに送る。


『「チッ――」』


 ドッポ・キヴェレイから舌打ちが響いたが、背に衝撃を受けて、氣付いたら地面を乱雑に転がされていた――。


『「――」』


 <仙魔・龍水移>――。

 次の攻撃は転移で避けられたが、俺が転がった地面は大規模に地盤沈下していた。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は遠くに弾き跳び、陽槍ルメルカンドをも地面に転がっていた。

 <握吸>で陽槍ルメルカンドを引き寄せて消す。


「お前ッ!」


 ヴィーネの鋭い叫びが戦場に響き渡る。

 彼女の頬の銀蝶が激しく明滅し、その肩に刻まれた無色透明の中庸の徴が、極小の魔皇碑石のように美しく白銀の光を放った。

 彼女が引き絞った翡翠の蛇弓から放たれた光線の矢には、今までにない、澄み切った白銀の神意力が混じり合っている。


 そのコヒーレントな極光の矢が、ドッポ・キヴェレイが展開する因果の半透明な槍と正面から衝突した。空間の因果を強引に射抜くような白銀の光が、ドッポの不可侵の槍を一本、根元から爆砕して消し飛ばした。

 

「これ以上好きにはさせません――」


 翡翠の蛇弓(バジュラ)からまたも、澄み切った白銀の矢が射出された。


 神意力が混じり合っている矢が、ドッポ・キヴェレイの半透明な槍の一つと衝突し、その槍を消し飛ばす。


 次の白銀の矢だが、ドッポ・キヴェレイに当たらず、ゆらりとした動きで、次の白銀の矢を避けるとヴィーネを視ながら、白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃を拳で弾き、紅蓮の炎を拳から出た波動で吸い寄せていく。


「『光と闇か。我の知らぬ理とは……』」


 ヴィーネに向けドッポ・魔戦神キヴェレイは間合いを詰めようとしたが、すかさず――。

 切り札の<脳脊魔速>を発動。


 一歩で側面を歩くドッポ・キヴェレイとの距離をゼロにした。


「おおぉぉぉッ!」


 咆哮と共に魔力を完全に排した純粋な肉体の質量――<滔天拳>の絶技を繰り出す。


 因果の網がどれほど精密であろうと、それを上回る圧倒的な物理の連撃を叩き込めば、未来の選択肢ごと粉砕できる!


 踏み込みの衝撃が大平原の石畳を粉砕し、俺の右拳がドッポの腹部を捉えた。因果律改変が追いつかない神速の物理衝撃。間髪入れず、<空数珠玉羅仙格闘術>で両拳の武器と籠手と大きい数珠での連続攻撃から、<玄智・陰陽流槌>――左肘、右肘、<魔経舞踊・蹴殺回し>の回し蹴りと、ルシヴァルの体そのものが持つ大真祖の膂力を限界まで叩き込む<光魔形拳>の連打へと繋ぐ――。


 ズガガガガガッ!


 と、大氣を爆発させる打撃音が連続して響き渡り、キヴェレイの魔線が一本、また一本と物理的に引き千切れていく。


 最後の一撃――全体重を乗せた掌底がドッポの胸の傷口を真っ直ぐに撃ち抜き、戦神の幻影ごと、その巨体を遙か後方へと豪快に吹き飛ばした。

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皆様に楽しんでいただけたら幸いです。

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