表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍使いと、黒猫。  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2204/2219

二千二百三話 激戦・『重血の鎖陣』の大爆発

 視界の先、大平原コバトトアルの戦場は、あらゆる魔素が激突し、爆散する混沌の極みにあった。

 翡翠色の毒霧を撒き散らす魔毒の女神ミセアの蛇薔薇波動と、空間を紫黒に濡らす淫魔の王女ディペリルの魅了香氣が激しく渦巻いている。その下方、地を割って湧き出す悪神デサロビアの屍兵どもが、十層地獄の王トトグディウスの魔獣騎兵部隊と牙を剥き合って衝突し、更に闇神アスタロトの黒鋼軍団と諸侯の強者たちが、血と鉄錆の臭いを撒き散らしながら貪り食い合う地獄絵図を展開していた。

 

 足下の相棒は「にゃごぉ」と氣合いの声を発している。

 

「『ボォォォン』」


 巨大な移動基地でもある骨鰐魔神ベマドーラーが、俺たちの帰還と大厖魔街異獣ボベルファの進軍を祝福するように、大氣を震わせる重低音の咆哮を響かせた。

 ベマドーラーの口腔から放たれた、超高密度の魔線の群れ――まるで極太のジェット噴流と化した光条が宙空を薙ぎ払い、前方に陣取っていた異形の頭部を持つ敵魔術師部隊を、その防衛結界ごと一瞬で消し飛ばし、虚空へと霧散させていく。

 

 砂城の天蓋から急降下した炎竜ヴァルカ・フレイムと雷竜ラガル・ジンが、その圧倒的な竜威を解き放つ。紅蓮の業火と白銀の雷刃が織り成す猛烈な嵐が、宙空を埋め尽くしていた蝙蝠の羽根を持つ複眼四腕の異形モンスター部隊を包み込み、悲鳴を上げる隙すら与えず、一瞬にして虚空の塵へと変えていった。

 

 猛烈な火の粉が雪のように舞い散る中、俺の視界の先に、レンが『血鬼化:紅』の暴風を纏って鉄壁の指揮を執る白亜の城【砂城タータイム】と、強固な魔導要塞陣地が聳え立つ。

 だが、その防衛線を脅かしている敵の本陣――死の地平に蠢く肉の壁で築かれた『肉の玉座』に座し、毒油を滴らせる敵の大眷属の姿があった。その足下に控える巨大な移動要塞、魔街異獣ゲルマドーが率いる長大な軍列の無防備な横っ腹が、俺の眼下、一直線の突撃軌道上に晒されている。

 

「魔毒の女神ミセアと淫魔の王女ディペリルと戦いながら、十層地獄の王トトグディウス側と悪神デサロビアの戦力も押し込めている」

「ん、強い。闇神リヴォグラフの大眷属」


 〝幻夜の転晶体〟を使った際に淫魔の王女ディペリルの視界にて見えていた敵方の指揮官。


「見た目が、もう、アレだから、絶対にそうでしょ?」

「……闇神リヴォグラフの大眷属、そして、あの姿は、深紅の大魔公爵ヴェデルアモボロフという名のはず」

「ふむ、醜悪な伝説は幾つも知っている」


 キスマリとルリゼゼが、デラックスな大魔族の名を教えてくれた。


 呼吸を整え、全身の魔脈を活性化させる。

 <魔闘術>系統の<トガクレの魔闘氣>を体表に巡らせ、水神アクレシス様の神威を宿す<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>を直列に駆動。更に、<月冴>と<経脈自在>によって魔力の奔流を完璧に制御しつつ、宗主としての血を滾らせて<魔闘血蛍>と<煌魔葉舞>を多重発動する。全身の毛穴から、湯氣のような魔力と薄紅色の蛍火、そして煌めく魔葉の粒子が吹き荒れ、周囲の空間を支配していった。


「ゼメタス、アドモス、行くぞ。敵の先陣を食い破る」

「「ハッ! 我らが主君の露払いを、この骨身に代えて!」」


 光魔魔沸骸骨騎王の二名が、相棒の頭部から先に飛び立った。

 宙空で、漆黒と真紅の魔力を爆発させ、文字通り死神の如き速度で前衛へと飛び出していった。

 星屑のマントをたなびかせる姿は、格段に渋い。

 

 大氣の魔素を強引に霧散させる<神殺しの塵芥>が肌をピリピリと刺す。

 動じず、アイテムボックスから霊湖の水念瓶を取り出す。

 

 瞬時に〝霊湖水晶の外套〟も展開した。

 同時に王級水属性魔法《(スノー)命体鋼(・コア・フルボディ)》を起動。


 塵芥の干渉を受けながらも、闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)の強靭な外装の表面に、清冽な極低温の魔力の膜が、確かな強度を持って張り巡らされていく。


 持ち上げた霊湖の水念瓶の内部では、深みのあるサファイヤブルーの聖水がキラキラと輝いている。

 その輝きの一つが、独自の生命を宿したかのようにトクンと脈動した。

 その神秘的な液体の中へと<血魔力>を注ぎ込むと、中身の〝レイペマソーマの液体〟が眩い光彩を放った。

 液体の深淵にマンデルブロー集合の無限連鎖が連続的に浮かび、多次元の理を示す神聖幾何学模様が鮮烈に描き出されていく。まさに、高次元の意思を秘めた叡智の雫。

 液体そのものがミクロ単位で、振動しているようで水念瓶もかすかに揺れていた。

 

 時折、宇宙的な幻影を発し、何もない漆黒の闇の点に『光あれ』といったように音波が響くと、そこから閃光が発せられていた。不思議だ。

 

 その間に光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが加速力を強めて降下していく。

 

 敵陣を形成する二眼四腕の戦士たちと射手部隊から、一斉に禍々しい魔矢と魔刃の雨が飛来する。

 だが、それらの面制圧攻撃を、愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊を交差させて完璧に防ぎ切ったゼメタスとアドモスは、敵の先頭集団へと容赦なく急降下した。

 立ち塞がる大柄の魔族戦士が分厚い鉄盾を掲げるが、二人が振るう名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙の双刃が、その盾ごと肉体を脳天から縦一文字に両断。血飛沫を散らして沈む敵の屍を踏み越えた。

 

 そこで、


『――霊湖の水よ、我が意志を理として響け』


 <水念把>を発動させた刹那、ボトルから溢れ出たサファイヤブルーの聖水が、重力を無視して螺旋の軌跡を描きながら口内へと滑り込む。

 

 冷徹な知と無限の活力が喉を焼く。

 俺の「声」が戦場全体へ向けて意識を拡張するように皆へと――。


『「――レン、ビーサ、ケーゼンベルス、魔裁縫の女神アメンディ様、ヘルメ、ミラシャン、フィナプルス、リサナ、グィヴァ、ミレイヴァル、ナギサとイトスにベントラー、ザガとボン、イモリザ、シュレ、アキ、アチュード、ベベルガ――待たせた!」』


 参戦のシャウトと共に<水念把>を轟かせる。

 展開された水の膜が声に合わせて激しく振動した。

 

 空間にクラドニ図形の神秘的な模様が伝搬するように拡がり、発光を繰り返しながら咆哮を極大に増幅させていく。世界を震わせる言霊へと変質した俺の意志が戦場を圧する。

 その振動は空氣の分子を叩き、フラワーオブライフの波紋となって魔界の汚れた大氣を清冽に焼き払っていった。


 同時に<隻眼修羅>と<闇透纏視>で周囲の戦況を完全に把握する。


「閣下! お帰りなさいませ!」


 前線で水流を操っていた常闇の水精霊ヘルメが歓喜の表情で飛来し傍らへと滑り込む。

 

「おう、留守をよく守ってくれたな」

 

 彼女の愛おしげな声に短く応じつつ<血道第三・開門>と<血液加速(ブラッディアクセル)>を連続駆動。全身から溢れ出る圧倒的な熱量を、<ルシヴァル紋章樹ノ纏>と<闘気玄装>へと瞬時に変換していく。

 

 <血道第四・開門>――。

 <霊血の泉>を発動。

 ルシヴァルの霊氣を帯びたような深紅の輝きを帯びた血が、敵の<始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>のような<暗黒魔力>の根本を破壊するように侵食していく。

 

 すると、瞬時に、血の湖面となるように<血魔力>が宙空に拡がった。

 血の湖面を蹴って一直線に宙を駆ける。光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスに前方の露払いを任せた。

 ――魔力知覚が、左翼に展開する闇神リヴォグラフの厖大な軍勢を捉えた。

 

 魔導要塞陣地を背後に、それを守る斜めの防波堤として機能しているのは、魔毒の女神ミセアと淫魔の王女ディペリルの連合軍。

 その連合軍が、異形のモンスター兵を次々と屠っているがミセアの配下であるダークエルフ風の女性兵士たちもまた、激しい消耗戦の中で命を散らしている。その光景に胸の奥で、宗主としての、そして彼女たちの無念の死に、悲しみと怒りが燻る。

 

 空には、悪神デサロビアの眼球擬きの化物兵士が多い、十層地獄の王トトグディウスの軍隊は右側に多いか。

 

 それらが起伏のある地上にびっしりと並びながら移動、戦っている。

 宙空の陣形も多彩で、激戦区は、爆発のたびに、蝶々と蝶々の群れが霧散し合う光景に見えた。

 

 殺到する無数の【闇神異形軍】の魔族兵どもから、一斉に遠距離攻撃の嵐が放たれた。

 漆黒の魔矢、紫電の雷撃、爆炎の火球、そして空間を切り裂く魔刃の雨。

 

 <仙魔・桂馬歩法>を駆動し、斜め左前へと瞬転――。

 一度に数十の火球と魔矢を避けた。

 ――息を吸う間もなく、今度は斜め右前へと跳躍。残像を置き去りにする。

 またも、空間の座標を飛び越えるように斜め左前へと跳躍し、避けた。

 次に、数十と迫ってくる火球と魔矢の軌道を<隻眼修羅>で読みながら――前進を続け、また直ぐに斜め右前へと跳ぶように、<暗行ノ歩法>も使い、雷撃と魔刃の合間を縫うようにして、敵の本陣目掛けて高速飛翔した。


 同時に、敵の弱点を探す――。

 光属性が有効なら<血鎖の饗宴>による広域殲滅も視野に入るが――。

 まずはこの包囲を物理的に食い破るのが先だ。


 背後で、神獣(ロロ)の頭部にまだ乗っていたヴィーネたちが一斉に離れたと把握。

 そして、身軽になった相棒が巨大な黒虎となって俺の背を追従してくる。


 眼下にひしめく敵将の部隊を視界に捉え、上空から《(スノー)命体鋼(・コア・フルボディ)》を起点とした大規模魔法の展開を試みる。

 だが、コバトトアルの大地に立ち込める、神格の力を阻害する<神殺しの塵芥>の濃度があまりにも高すぎる。氷の龍頭が数体顕現しかけたものの、その輪郭は魔力の結合を解かれ、霧氷となって虚空へと霧散してしまった。


 ――ならば、小細工は不要。

  この手に握る槍の武威をもって、敵のすべてを粉砕するまでだ。


 手前に布陣していた闇神異形軍の連弩部隊の頭上から、流星の如き速度で急降下する。

 着地の瞬間、右足から<湖月魔蹴>を放ち、爆風と共に敵陣の中央を強引に蹴り破った。

  同時に、魂の深淵に眠る<四神相応>の理を起動。

 右手に青き炎を宿す青炎槍カラカンを瞬時召喚。

 <握吸>と<握式・吸脱着>の神速の連携によって、槍を吸い付くように操り、立ち塞がる敵重装兵の首を瞬く間に連続で刈り取っていく。全身から無数の<血魔力>の刃を放出しながら、<青龍ノ纏>と<煌魔・氣傑>、そして<青龍蒼雷腕・破>を重ねて発動した。


 左腕と右腕に荒れ狂う青龍の魔力が生み出され、推進力が爆発的に加速する。

 左手に神槍ガンジスを顕現させ、殺到してくる異形兵の壁へ向け<雷式・血光穿>を放つ――。

 正面の異形兵を極太の血光と雷の穿ちが貫いた。

 左右と、その背後にいた異形兵の胴体も、極太の血光と雷の穿ちが貫く。

 同時に<血鎖の饗宴>――体から放出されていた<血魔力>の血が宝珠のような輝きを示しながら無数の血鎖に変化し、一氣に拡がって数十人の異形兵の体を蜂の巣状にぶち抜き、その体を溶かすように屠った。

 

 血飛沫を吸収しながら、右前に<雷飛>――。

 長柄を両手に持つ四腕魔族との間合いを、一瞬にて槍圏内に納め、間髪入れず――。

 左足の踏み込みと同時に右手の青炎槍カラカンを突き出す<青龍雷赫穿>――。

 青き雷炎の螺旋が、四腕魔族の魔槍を弾き、その腹をぶち抜いた。

 

 刹那、前方斜め横を直進していた巨大な移動要塞ゲルマドーから漆黒の魔刃が飛来――。

 純粋な闇属性なら吸収も可能だが、それはないだろうと、大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、その<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を斜め前方へと直進させ、俺に直進してきた漆黒の魔刃を防ぐ。

 

「ギュゴォォォォ」


 前方の移動要塞ゲルマドーから鳴き声と地響きが轟く。

 から次々にミサイルのような遠距離攻撃が飛来してくる。左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、ミサイルのような形の骨の塊を次々にぶち抜きながら、両足に<血魔力>を込め、<雷光跳躍(ボルトリープ)>――。


 一氣に宙空高い場所へと出た。

 そこから斜め下にいる移動要塞ゲルマドー。

 頭部と段々畑のような装甲部と蔵と櫓台から、魔矢や雷球が飛来してくる。

 背と腹部の装甲からミサイル状の遠距離攻撃が射出された。

 

 それは対戦車ミサイルを彷彿とさせる弾頭。それが一斉に向かってくる。

 その光景に一瞬、恐怖を覚える。神格を得ていても変わらない――。

 

 <血魔力>を神槍ガンジスに大量に込めたところで、頭部へと<ブリンク・ステップ>――。

 

 空間を飛び越えるように、宙空に跳躍し、巨大な移動要塞ゲルマドーの頭部へと肉薄した刹那――。

 ゲルマドーの巨大な頭部を見下ろしながら、左手の神槍ガンジスを引き絞る。

 狙うは、頭殻の奥に眠る魔力の核。風槍流内観法の極意を以て一の槍に万事を込め、戦神イシュルルをも注視させる血槍魔流の独自奥義――<血龍天牙衝>を放った。

 ――溜め込まれた莫大な<血魔力>が、神槍ガンジスの双月刃に龍の形となって収束する。

 周囲の戦場の魔素をも貪欲に取り込み、咆哮を上げる血の龍と化した一撃がゲルマドーの分厚い外殻装甲を溶かすようにして真っ向から貫くまま上昇、血の龍を纏う双月刃が咆哮を上げながら移動要塞ゲルマドーの頭部装甲を溶解し、中身の頭蓋骨を一氣に貫通――巨大な頭部は大爆発した。そのまま斜め下の地面近くに展開していた異形の魔族兵士たちを吹き飛ばしながら、地面を穿って着地――。

 

 巨大な移動要塞ゲルマドーはゆっくりと爆発を繰り返しながら横に倒れていく。

 それを見ながら<雷光瞬槍>――。

 前にいた猪頭で、上半身が裸で、三つの足を持つ魔族と相対し、神槍ガンジスで<血穿>――。

 その猪頭は斧を盾にした。その斧ごと腕の破壊を狙うように<神聖・光雷衝>で粉砕。


「――なに!?」

 

 後退した猪頭の横に<仙魔・龍水移>――。

 と、同時に左手に召喚した無名無礼の魔槍で<魔皇・無閃>――。

 柄の『バイ・ベイ』の梵字が輝きながら、その穂先が、猪頭の首を捉え、両断。

 猪頭は吹き飛ばず、頭部を失っても左右の両腕を動かし、魔剣と斧で攻撃しようとした。

 その機動に合わせ、身を捻り半身で避けつつ右腕一本に全魔力と推進力を乗せる。持ち手を末端にずらし、限界までリーチを伸ばした超高速の片手突き<風柳・単撤手たんてつしゅ>を放つと、裸に見えた体表の魔力防御層を文字通りぶち抜き、心臓のコアを貫いてその巨体を内から破壊し尽くした。

 

 即座に、前に跳ぶ――。

 低空を<武行氣>で飛翔しながら、次の射手の首目掛け<闇雷・飛閃>――。

 射手の首を斬るが、魔矢が飛来したので、右に跳び、魔矢を避けた。近くにいた槍使いと魔剣師の一閃と袈裟斬りを紙一重で往なし避けるまま、神槍ガンジスと無名無礼の魔槍で、その腹を狙う<血龍仙閃>――。

 

 姿勢を下げたままの一閃が、二人の腹の血を喰らうごとく、腹を消し飛ばした。

 宙に舞った四つの肉塊を、<血鎖の饗宴>の無数の血鎖で粉砕しながら――またも飛来した魔矢を<刺突>で分解、右前方から飛来した魔矢と魔刃の群れを<超能力精神(サイキックマインド)>で止める。

 

 そのまま<超能力精神(サイキックマインド)>で魔矢と魔刃をすべて潰すように対処した。

 すると、追いついてきた相棒の黒虎が前に出た。

 

「にゃごぁぁ――」

 

 紅蓮の炎を吐き散らす。頭部が猪タイプと人族タイプの魔族兵士、約数百を一度に炭化させて倒した。

 直進した相棒は、四肢から黄金の爪を伸ばしながら敵兵を踏み潰すように地面ごと突き刺してまた、数十と重装歩兵と、指揮官と思われる魔界騎士をあっさりと倒す。

 

 圧倒的な無双劇。

 

 ヴィーネやキサラ、ユイら<筆頭従者長(選ばれし眷属)>たちも敵の将校クラスを瞬く間に解体し、ゼメタスとアドモスの双刃が軍列を左右から切り裂いていく。


 遠目に見える『肉の玉座』に重厚な体格の大魔族が見えた。

 あれが、ヴェデルアモボロフ。肉厚な背から大量の闇ランスを繰り出し、ミセアの毒と雷が合わさったような一閃を簡単に弾いている。確実に闇神リヴォグラフの大眷属、しかも魔毒の女神ミセアと互角に見えるし、淫魔の王女ディペリルの攻撃も効いていない。

 

 その淫魔の王女ディペリルは、部下の強者たちから攻撃を浴びて、その対処に苦戦しているようだ。


 大眷属、深紅の大魔公爵ヴェデルアモボロフを<隻眼修羅>と<闇透纏視>で確認するが、まだ遠いから良く視えない。相棒が俺を飛び越え、左から寄ってきた魔槍使いの魔槍を前爪で弾き、触手骨剣で、その魔槍使いを仕留めて、着地。

 

「ンン、にゃごぉ」

「相棒、陣地を飛び越えて奥に行こう――」

「ンンン――」


 黒虎(ロロ)と共に前に出たが法螺貝のようなモノ、魔太鼓のような音が響きまくる。

 途端に、陣形の形が変化し、魔矢が飛来、左右から闇神リヴォグラフ側の精鋭が駆けよってくる。

 

 まぁ、当然か、と、宙空に光線の矢と白皇鋼(ホワイトタングーン)が見える。

 ヴィーネとエヴァの攻撃速度からして、俺の斜め後方――距離にして五百メートル前後か。

 皆は大丈夫として――。

 相棒と共に相対した魔界騎士と目される魔槍使いの魔槍の穂先を神槍ガンジスで横に弾き、無名無礼の魔槍で<刃翔刹穿・刹>を繰り出し、腹を穿ち倒す。

 

 その直後、空氣が重く淀んだ。

 倒れた魔槍使いの血が地面に吸い込まれる間もなく、周囲の空間に赤黒い魔法陣が重層的に展開される。


「お前が光魔の神殺しだな!」

「囲め!」

「氣を付けろ、神獣は看破するぞ」

「しかし、あのわずかの間で……第一波の陣を容易く抜くかよ!」

「ベスダ、弱音を吐くな!」

「おう、我らが、『重血の鎖陣』の中では、あの魔毒の女神ミセアでさえも、泥に沈むのだ。こやつとて、それは同じ!!」

「「おう!!」」


 吠える複数の将校クラスの精鋭たち。

 彼らの足元から這い出した赤黒い血が、周囲の地脈と結びつき、重層的な『重血の鎖陣』を完成させた。

 空から泥の雨が降るかのような、強烈な重圧が肩にのしかかる。

 <神殺しの塵芥>が濃いこの戦場において、これほどの結界を維持できるのは、彼ら自身の命と血を術式の媒介にしているからか。


 足下の石畳が腐り、赤黒い沼へと変貌していく。

 そこから、棘の付いた太い血の鎖が無数に飛び出し、俺と相棒の四肢を縛り上げようと殺到してきた。


「ロロ、跳べ!」

「にゃごぉぉ!」


 相棒が四肢に力を込め、重圧を物ともせずに跳躍する。

 宙空で体を捻りながら、極太の触手骨剣を連射。迫る血の鎖を空中で次々と串刺しにし、物理的に粉砕していく。俺も<仙魔・桂馬歩法>で斜め前方へと機動――。

 だが、見えない泥に足を絡め取られるように、通常の速度が出ない。


「逃がさんぞ、神殺し! <重血・怨刃>」


 ベスダと呼ばれた将校が己の腕を斬り裂きながら巨大な血の刃を飛ばしてきた。

 同時に、左右に展開した精鋭たちが、柄の長い大鎌や魔槍を構え、連携して襲い掛かってくる。

 冷静に<隻眼修羅>と<闇透纏視>を維持。

 迫る血の刃と鎖、そして精鋭たちの得物の軌道を、白黒の魔力流として完全に捉えた。


「血の陣なら、力比べと行こうか――」


 霊湖水晶の外套はそのまま維持。

 <血道第四・開門>――。


「ングゥゥィィ!」


 <霊血装・ルシヴァル>を発動――。

 口元が一瞬でガスマスク状の面頬となる。

 <血道第五・開門>も発動。

 <光闇ノ奔流>が自動的に発動された。

 宗主の血が沸き立ち、頭上に光魔ルシヴァル宗主専用の吸血鬼武装たる<血霊兵装隊杖>が顕現、血の錫杖が不氣味な音色を立てて浮遊する。

 

 胸甲、鈴懸(すずかけ)、不動袈裟風の衣装防具、そして霊湖水晶の外套が意思に応じて一瞬で融合。

 神座の光を帯びた生体竜頭金属甲ハルホンクが、強固な防護服として全身に展開されていく。

 左右の肩に現れた竜頭の装甲が、俺が獲得した<神律の還顕(しんりつのげんけん)>と<縫合の理>に呼応し、神格の余韻を帯びてその形状をより鋭利に変貌させた。

 新たな装甲から、オレンジ色の神炎を帯びたドラゴンの髭のような魔力繊維が無数に展開。迫り来る血の刃と鎖を容易く絡め取り、襲い掛かってきた魔族の精鋭たちを得物ごと遥か後方へと吹き飛ばした。

 

 右肩の竜頭が、次元の軋みのような魔蒸氣を噴き上げながら、耳障りな金属音を響かせて吼える。

 

「――――喰エ、喰エ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星……ングゥゥィィ……神格ヲ、喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク、ココニ覇王二帰参セリ、ングゥゥィィ!」


 ハルホンク、神座の理を喰らって、言葉の精度まで引き上がっている。

 同時に過去、呪神テンガルン・ブブバに呪われていた店主の言葉を思い出す。


『暴喰いハルホンクの金属皮膚。魔界にて、覇王ハルホンクとも呼ばれたモノが凝縮したようなモノが込められた金属甲です……使い手、装備者の精神力を試す部類のギミックがあるようですが……詳しくは不明。呪いの品、極めて第一種に近い、第二種危険指定アイテムに分類されます』


 「覇王ハルホンク」と呼んでいた、この生体金属の真の格が、俺の神格化に伴って目覚めつつある。


 敵の数は一時的に減ったが、ここは本陣の範疇――。

 吹き荒れる血煙の向こうから四眼四腕、二眼四腕、六眼二腕、獅子の頭部を持つ四腕魔族、単眼で六腕魔族、二眼二腕の魔族、漆黒の魔甲冑を身に纏った精鋭が近付いてきた。


「ひるむな、あの<血魔力>の源泉を押さえろ!!!」

「「おう」」


 一部の魔術師タイプの部隊により、赤黒い沼が上下に動き始めた。

 それが、大きい波のように、波動的な飛来してくる――。

 それらを見据え、<霊血の泉>から溢れ出す<血魔力>を活かすように、<水月血闘法>を発動――。

 己の<血魔力>と血の分身も活かし、赤黒い沼のような波動攻撃へと<血鎖の饗宴>を放つ。

 全身から飛び出た無数の血鎖が、赤黒い波動のような物を貫いた。波の面を次々に貫きつつ――ギィィィンッと、魔力と魔力が削り合い散っていく、不快な音が何度も大氣を震わせていく。

 

 <血鎖の饗宴>の血鎖は、赤黒い沼のような波動攻撃を押しのけていく。

 光魔ルシヴァルの霊氣を帯びた純度の高い血鎖だ。神格得た以上は、これもパワーアップしている証拠か。

 敵の呪血を徐々に侵食し、圧倒していく。


「なっ……我らの血陣が、逆に喰われているだと!?」

「ひるむな! 押し潰せ!」


 精鋭たちが焦燥の声を上げながらも、大鎌を振り下ろしてきた。

 わずかに前に出て、左手に無名無礼の魔槍で<風柳・上段受け>で受け、背に迫る大鎌の刃には、神槍ガンジスの柄を背に回し、<風柳・背環受け>で防御し、横に移動しながら<血龍仙閃>――。

 正面の胴を抜き倒しながら横へと<風柳・異踏>で移動し<双豪閃>――。

 神槍ガンジスと無名無礼の魔槍による連撃を、相対した魔族たちに次々と当てていく。

 そのまま、右手の神槍ガンジスに<青龍ノ纏>を込め――。

 <握吸>でグリップを確かめながら、敵の防陣の隙間へと踏み込んだ。


 ――<雷炎縮地>。

 陣の重圧を純粋な魔力と筋力で強引に引き裂き、魔界騎士らしき者の懐へと肉薄する。


「ば、馬鹿な、この重圧の中で……!?」


 驚愕に見開かれた四眼の瞳。

 その視線が下を向く前に、下から突き上げるような神槍ガンジスの<魔雷ノ風穿>が、奴の顎から脳天までを兜ごと貫いた。蒼雷を纏った双月刃が脳髄を焼き切り、魂の核を消し飛ばす。


「ベスダーーッ!!」

「おのれ、よくも!」


 仲間を殺された将校たちが激昂し、血走った目で群がってくる。

 背後から迫る魔槍の突きを上半身をわずかに捻って避け、足下は右足を上げ、左足を上げると同時に跳躍し、<闇雷・飛閃>で、下段薙ぎを繰り出した魔族の左右下腕を両断。

 宙空から無名無礼の魔槍の石突きで、その魔族の鳩尾を強打――。

 くの字に折れ曲がった魔族には、跳躍していた相棒の黒虎が飛び掛かっていた。

 前爪を体に突き立てながら地面ごと圧殺した。


 すると、新たに十数体、漆黒の魔甲冑を着た連中が右から駆けよってきた。

 

 現れた十数名の新たな精鋭たちは武器を向けることなく一斉に不氣味な笑みを浮かべながら己の心臓を自ら大鎌や魔槍で貫き、命を賭した呪詛を叫ぶ。


「――大眷属閣下に、絶対の勝利を……!」


 己の心臓が複数あると分かるが、そのもう片方の心臓までも貫くだと……。

 

「「我が血肉のすべてを捧ぐ!」」

「「我ら血刃衆の絶命連鎖! 神殺しよ、塵となれ!」」


 彼らの肉体が次々と異常な膨張を起こし、破裂した。

 莫大な黒い血が周囲の陣を急激に圧縮し、巨大な血の球体を生み出す。

 神意力を含む威力はあると咄嗟に理解、<超能力精神(サイキックマインド)>で相棒を遠くに飛ばす。


 巨大な将棋の駒<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾として展開させるが、


「にゃご――」


 直後、空間そのものを押し潰すような黒血の過負荷が爆発。

 強固な盾たる八咫角が、その衝撃波の質量を受けて吹き飛ぶ。だが、爆発は一つではなく、隣り合う血の球体へと引火でもしているように大反響が脳と耳朶を潰すように連鎖的に起爆していく。激しい痛みを味わうが、即座に回復――しかし、爆発の連鎖は続く――。


「――十数人の同時自爆による連鎖起爆か!」


 予想を超えた呪力の膨張速度に背筋に冷たいものが走る。

 自爆を起点とした空間そのものを押し潰すような衝撃波が吹き荒れ、次々と自爆していく他の魔族たち、隣り合う黒血の球体へと連鎖的に引火。またもドゴォォン、ズガァァン! と逃げ場のない爆縮の檻が俺たちを包み込んだ。再度、引き寄せた巨大な将棋の駒<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾として利用するが、呪血の凄まじい質量で、連鎖爆発の過負荷は異常――<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は吹き飛ぶ。

 だが、駒から膨大な魔力を得た。

 

 そのまま痛みと回復が連続的に行われ、強制的に後退させられる。

 結局逃がしたつもりだった相棒の体に包まれる――。

 

「にゃごぉぉ!」

「踏ん張れ、ロロ! まだだ!」


 左右と頭上からも黒血の爆発が連鎖し、完全に逃げ場が塞がれていく。

 空間そのものを圧殺する自爆同然の結界の収縮――。

 

 このままでは相棒ごと呪血の圧縮波に呑まれる。

 さすがの深紅の大魔公爵ヴェデルアモボロフの戦力、強すぎる、だが、舐めてもらっては困る――。

 

 その極限の爆音と血の嵐の中で<隻眼修羅>を限界まで研ぎ澄ました。

 白黒の魔力流として視覚化された世界の中で――。

 

 連鎖爆発を繋ぎ止めている魔線の結節点と――。

 この自爆陣を構成する術式の不完全な『設計図ルーン・シーケンス』が、脳裏に克明に浮かび上がる。

 

 よし、視えた――。

 

 深く息を吐き神槍ガンジスを構え直す。

 意識するのは織神の核を喰らったことで俺の血肉となった引き裂かれた魂を本来の場所へ還し、外法の支配を解く――<神律の還顕(しんりつのげんけん)>の理。

 

 狂信的な執念が込められた連鎖爆発の術式、自爆の連鎖そのものを内から完璧に解体する。


「――お前たちの命の連鎖は、ここで断つ」


 両足に<血魔力>を込めて爆風の渦中を前傾姿勢で突き進み、神槍ガンジスを突き出す。

 迫り来る黒血の圧縮波の中心――連鎖を繋ぎ止めている最大の結節点へと渾身の<血穿>を叩き込んだ。放った光魔ルシヴァルの絶対的な光を帯びた<血魔力>と共に<神律の還顕(しんりつのげんけん)>の理が敵の術式回路へと一氣に逆流していく――キィィィンッ! 空間が悲鳴を上げるような、鋭い結晶破壊音が響き渡った――連鎖起爆を伝達していた魔力流が完全にショート――。

 今まさに俺たちを圧殺せんとしていた『重血の鎖陣』の爆発が、時間そのものを止められたかのようにピタリと静止した刹那――。

 残存していた巨大な黒血の球体と重層的に展開されていた魔法陣のすべてが非常に美しい光の破片となって粉々に霧散していった。

 ……それはステンドグラスがミクロで共鳴し、原子ごと砕け散るかのように見えた。

 

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻発売中」

コミック版1巻-3巻発売中。【お知らせ】設定資料・外伝等の保管庫(note)を開設しました。


https://note.com/kenkou_novel/n/n745c32bdb4ba

最初の投稿として、書き下ろし限定SS『迷宮都市イゾルガンデの裏側で』(ロロとフォティーナの活躍劇)を公開しています。今後はシュウヤ視点の小話や、本編では書ききれなかった設定をまとめた「槍猫」の総合アーカイブとして、無料・有料を織り交ぜながら更新していく予定です。魔界の最新地図を載せました。近いうちに槍猫とは関係のない、新作短編をリリース予定!


本編とあわせて、ぜひこちらもお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ