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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2162/2165

二千百六十一話 影への弔いと孤児院の裏庭を照らす光の天道虫


 王城のロルジュ公爵の執務室。

 敗者たちへの簡易的な葬式が速やかに行われていた。


 部屋の中央に並べられた二つの真新しい棺。

 一つには、六百年続いた公爵家の誇りを守り、自らの手で幕を引いたロルジュ公爵。もう一つには、その公爵を『親父殿』と慕い、最後まで彼の盾として命を燃やし尽くした【ロゼンの戒】の統括者、プルトーの骸が納められている。


 公爵の棺の上には血に染まった銀のロケットが、プルトーの棺の上には彼が使っていた白銀の細剣が静かに添えられていた。


 ソーグブライト王太子は、憎き政敵であり、王都を火の海にした大罪人である彼らの棺の前に進み出た。

 そして、怒りや憎しみを押し殺し、この国の暗部を背負い続けた者たちへ向けて、静かに目を閉じて黙祷を捧げた。

 

 軍師アドルフも眼鏡の位置を直し、深く頭を下げる。

 ガリウスやレオン、そして俺たちもそれに倣い、影に生き、影に散った武人たちへ静かな祈りを送った。


 張り詰めた静寂の弔いが終わると、部屋の隅で無様に丸まっていた男が、王太子の近衛騎士たちによって乱暴に引き起こされた。


「……ひぃッ! お、お待ちを! い、命だけは……私はすべてを話す! ピサード大商会のことも、軍需派の隠し資金の場所も! だからどうか……!」


 顔面を蒼白にさせ、見苦しく命乞いをわめく元上院評議員、ドイガルガ。

 彼の両手首には、ヘルメの<珠瑠の花>の光の紐に代わり、極厚の『封魔の拘束具』と重い鉄鎖がガシャンと音を立てて嵌め込まれた。魔力回路を強制的に遮断され、もはや自害すら許されない、大罪人としての完全な拘束だ。


「……連れて行け。法の裁きと民の怒りが、貴様を待っているぞ」


 レオンが炎の剣を肩に担ぎながら、冷たく吐き捨てた。

 近衛兵に引きずられていくドイガルガの醜態を見送った。


 そこで、ソーグブライト王太子とガリウスへ向き直った。


「……引き続きの事後処理は任せます」

「うむ、ドイガルガの身柄は、たしかに預かった」

「はい」

「エヴァが読み取った貴重な情報は必ず役に立つだろう。そこの積み重なった書類も一通り他の羊皮紙を書き写したが、後ほど、そのすべての資料を私の事務所に運ぶ。ここにも要員を残して調べるが、もう何も出てこないだろう。それと、早速、私の部下が見つけたドイガルガが隠していた魔導キーだ――」


 と、魔力を帯びた鍵を幾つかを渡される。


「いいのですか」

「無論だ。そこのペレランドラたちの資金源、【天凜の月】、【血星海月雷吸宵闇・大連盟】なんでも使うがいい」

「ありがとうございます」

「……先程の金言といい、礼はこちらのほうだ」


 ソーグブライト王太子の言葉に恐縮するまま


「……はい。少しでも貢献できたなら嬉しいです。ま、内実は、ハイグリアたちも無事だったことのほうが、俺たちには重要だった。今は、国がどうこうよりも、安心感のほうが強いです」

「ふっ、痛いほど分かるが、いや、為政者としては簡単に頷いてはいけないところか。それにしても、本当に欲が無いというか……それではペレランドラ殿が心配するのも分かるな……」

「え?」


 傍らに立つ<従者長>ペレランドラが、苦笑混じりに会釈した。塔烈中立都市セナアプアで行われた平和会合の前後で、ペレランドラたちと王太子は会談を重ねていた。少し仲が良いのか。一方、ハイグリアはどこか勝ち誇った表情を浮かべ、豊かな尻尾を振り回しながら、眷族たちの回りをこれ見よがしに練り歩いている。

 レベッカがその尻尾を引っ張ってじゃれつき、キャッキャッと女子高生のような賑やかな会話が広がりかけたが、ヘルメが「シッですよ」と窘めると、すぐに静かになった。その切り替えの早さに、皆からドッと温かい笑いが起きる。

 王太子はコホンと一つ咳払いをしてから、


「……私は、サーマリア王国の次期国王だ。その国を救った貴方たち【天凜の月】は、本来であればもっと強引に、莫大な見返りを要求して交渉できる立場にある、と言いたかったのだ」

「あぁ、なるほど。正直に言えば俺個人としての報酬は特に求めていないです。しかし、完全に固辞するのも無作法にあたるだろうから、正当な対価として受け取ろうかとは、思っています。ですが、それは後回しでいい。今は、先程の言葉を受け止めてもらえるだけで十分です」


 胸元に手を当てラ・ケラーダの想いを込めてポーズを取る。

 ソーグブライト王太子と軍師には、国民を思う真摯な氣持ちは伝わっているはずと思いたい。

 そんな風に考えつつ、


「……細かなことは、そこのペレランドラと、今はタンダールで忙しいですがメルたちと交渉を重ねてもらえたらと考えています。そうしてから、【天凜の月】と【血星海月雷吸宵闇・大連盟】への対価を、お願いすることになると思います」

「……ふっ、面白い男だ。思慮深さ、謙虚さ、豪快な性格に、圧倒的な武力まで持つ……まったく……」


 少し呆れ顔で笑うイケメン青年が、ソーグブライト王太子だ。そう思いながらも、俺は静かに拱手して、


「……今後のサーマリア王国の栄光に幸があらんことを願います」

「承知した。シュウヤ殿たちには何度命を救われ、国を救われたか分からない。この恩は、必ず報いよう!」


 ソーグブライト王太子が、王族の威厳を持ちながらも深く頭を下げる。ガリウスも青白い魔剣を鞘に納め、静かに頷いた。


 そこで皆を見て、

 

「では、王都の外縁、第七スラムにある『コマハル孤児院』へ向かう」

「プルトーが密かに支援していた孤児院か。第七スラムは、王都でも最も貧しく、光の届かぬ区画でもある」


 ガリウスの問いにカルードが、


「敵として戦ったが、できれば降伏してほしかった。だから俺が倒し殺した相手だが、墓は用意してやりたいと考えている」

「はい、私たちは、彼の遺志を継ぎ、少しばかりの物資を届け彼の魂を弔いたいのです」


 その言葉に、レオンやアドルフ軍師も静かに目を伏せた。

 レオンは、


「権力の争いで、王都を戦場に変えた罪は大きいが、公爵も自害だ。プルトーも忠義を示した。そして、歪んだ彼らもサーマリア王国を想っての行動だからな……」


 と発言。

 

 ソーグブライト王太子たちも頷いた。

 そして、ハッとしたように顔を上げ、すぐさま背後の騎士に指示を出す。


「ならば、城の備蓄から食料や物資をいくらでも持っていくといい。大型の馬車を用意させよう。……せめてもの、彼ら影に生きた者たちへの手向けだ」

「王太子、氣遣い感謝する。では、このプルトーの遺体は俺たちが運ぶ」

「うむ」


 そのソーグブライト王太子たちに会釈。

 広い執務室を出て、廊下を進む。

 階段を下りてホールを抜けて玄関から外に出た。


 アーチ状の城門を抜けて、裏手の広場。

 そこには、王太子の指示で手配された大型の荷馬車が数台待機していた。


 城の兵士たちが、新鮮な魔獣肉の塊や野菜、毛布などを次々と積み込んでいる。


「――シュウヤ様〜!」


 旭日を背に、金髪を美しくなびかせたルマルディが空から舞い降りてきた。

 その傍らでは、『アルルカンの把神書』が猫の足跡マークを陽氣に点滅させながら、パタパタとページを羽ばたかせている。


「おう、ルマルディ、アルルカン。空の制圧、ご苦労だったな」

「えぇ! 残党は完全に降伏しました。アルルカンも大活躍でしたよ!」

「フハハ、俺様のおかげ!」


 アルルカンの把神書が陽氣に笑うと、足下に降りていた黒猫(ロロ)が「ンン」と喉声を発し、跳躍。

 

 そのままアルルカンの把神書の上に乗って、本の角に噛み付いていく。


「神獣ゥゥゥ、俺は歯磨き本じゃねぇぇぞ!」

「ンンン――」

「アァァ、そこを噛み付くとクシャミがァァ――」


 そのやりとりが妙に面白く、


「「あはは」」


 と皆で、笑う。

 光精霊フォティーナも混ざるように、アルルカンの把神書や相棒の頭部へ着地しては跳ね、横回転しながらまた着地し、ふわりと浮かんで宙空を踊る。

 また跳ねて、横回転しながら、また相棒の頭部に着地し浮かぶ、宙空でヘルメのように踊ると、珍しく体から放出している水飛沫を押さえていたヘルメもかすかに浮遊して、ゆったりと踊り始める。


 黒猫(ロロ)は氣にせず、アルルカンの把神書の角っこを奥歯で噛み噛みしていた。


 続いて、ズシン、ズシンと地響きを立てて、巨大な骨馬ヒョードルとザレアドを駆る光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが到着する。


「閣下! 王城周辺の憂いはすべて排除いたしました!」

「公爵に与していた邪道流一門、大海賊たちを倒しましたぞ!」

「おう、二人とも最高に頼りになる」


 ゼメタスとアドモスが旭日の前立てを輝かせ、嬉しそうに胸を叩く。その後方からは、ミレイヴァル、フィナプラス、ファジアル、シキ、ハビラ、霧魔皇ロナドたちが、それぞれ担当していた区画の避難誘導を終えて合流してきた。


 更に、上空からアドリアンヌが美しい漆黒の翼を広げて着地し、シャナ、ファーミリア、ホフマン、アルナード、ルンスたちも集ってくる。


「ふふ、シュウヤ様。私の《闇炉彗炎球ブラック・コメットファイア》も良い花火だったでしょう?」

「あぁ、アドリアンヌ。最高のタイミングだった」

「メシア、此度の聖戦、我らも魂が震える思いで戦い抜きましたぞ」


 ホフマンが燕尾服の裾を翻し、狂熱を帯びた瞳で恭しく頭を下げる。

 その後ろでは、ビュシエ、ビーサ、エトアたちが、怪我人の治療を終えて安堵の表情を浮かべていた。


 過去の激戦を共に潜り抜け、名を挙げてきた強き眷族たち。

 こうして一つの場所に集結し、互いの無事を喜び合い、笑顔を交わしている。

 皆、背中を預けられる最高の家族だ。


「……皆、本当にご苦労だった。お前たちがいてくれたからこそ、王都を致命的な崩壊から救い、被害を最小限に抑えることができた。感謝する」


 深く頭を下げると、集まった眷族たちは一斉に姿勢を正し、胸に手を当てて臣下の礼をとった。


「「「すべては、シュウヤ様の御為に!」」」

「ご主人様!」

「「閣下!」」

「マイロード!」

「「主!」」


 力強くも温かい声が陽に照らされた王都の広場に響き渡る。

 プルトーが血塗られた手で護ろうとした家族の形を思い出し、改めて、目の前にいるこの大所帯の絆の重さを噛み締めた。


 すると、ミレイヴァルが進み出て、王家の馬車に積み込まれる大量の物資と棺桶を見て、首を傾げた。


「主、これからどこかへ移動を?」

「あぁ。第七スラムの『コマハル孤児院』へ行く。……俺たちと戦い、散っていったプルトーという男が、裏で命懸けで支援していた場所だ」


 と語ると、眷族たちの間に静かな波紋が広がった。

 プルトーの葬式や火葬か土葬についての文化もカルードたちに聞いてから、土葬に決まる。


 すると、ユイがアゼロスとヴァサージの鞘を優しく撫でながら、


「……彼は暗殺者として血に染まりながらも、孤児たちを雨から護ろうとしていた。敵で強かったけど、内情を知ったからには、ね、それに私たちには、元同僚って感じが、どうしても残る」

「……」


 カルードは沈黙しているが同意していると分かる。


「うん、光の一面を知ったからには、私たちも、できることはする」


 レベッカの言葉に、

 シキが、


「なるほど……影に生きながらも、護るべき光を持っていたのですね」


 懐中時計の幻影を弄びながら優雅に一礼し、ロナドも静かに頷く。ホフマンが燕尾服の裾を翻し、恭しく頭を下げた。


「メシアのその深き慈悲……我らも魂が震える思いです。ならば、我々もその歩みにお供いたしましょう」

「えぇ! 荷物なら、私たちがいっぱい運べます!」


 ビーサやエトアが元氣に手を挙げる。

 ゼメタスとアドモスも愛馬の背を叩き、


「このヒョードルとザレアドの背も、荷車代わりに使ってくだされ!」


 と豪快に笑った。


「ありがとう、皆。なら、大所帯になるが全員で行こう」


 雷炎槍流のシュリ師匠や、上空警戒から戻った()()(テン)たちも加わり、俺たちは荷馬車と共に王都の外縁へと進み出した。


 王都の中心部の喧騒とは対照的な第七スラムの貧しくも逞しい生活の風景。


 光魔の眷族たちが大挙して歩く姿はスラムの住人を驚かせたが、エヴァやレベッカたちが優しく微笑みかけると、警戒はすぐに解けていった。


「マイロード、あそこです」


 御者台のカルードが指差した先。

 傾いた古い教会の跡地と、それに隣接する古びた木造の『コマハル孤児院』が見えてきた。

 馬車の音や、ゼメタスたちの骨馬の足音を聞きつけ、庭から子供たちがわらわらと顔を出した。


「わぁ、お馬さんだ! すっげぇ、骸骨の騎士様だ!」

「おぉ、バブーシュタ!!」

「初めてみた!」

「骸骨のバブーシュタだ!」

「すげぇ、本当にいたんだ」

「うん、魔界の強者!」

「光の妖精さんも初めてみた!」


 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスは、子供たちに囲まれる。ヴィーネたちを見て、


「バブーシュタとはなんだろう」

「絵本の物語だと思う」

「はい」


 ユイたちがそう語る。

 子供たちは、


「あ、本が浮いてる!」

「黒猫ちゃんもいる!」

「黒い服のお兄ちゃんのお友達? 今日はお肉ある?」


 無邪氣に尋ねてくる。

 相棒も子供たちに近付くと、「にゃおぉ~」と鳴く。


「わぁ~光ってる~」

「パチパチ凄い~」

「精霊様を使役している魔術師は初めてみた!」


 アルルカンの把神書と光精霊フォティーナは、子供たちの周りを飛び回り、不思議な光の粉を降らせて大人気だ。


 その微笑ましい光景を見つめながら、ユイとカルードが子供たちと同じ目線にしゃがみ込んだ。


「……皆、お肉、たくさん持ってきたわ」

「黒い服のお兄ちゃんは~?」

「あ、黒い服のお兄ちゃんは……遠い国へ、長い旅に出たの」

「えっ、もう来ないの?」

「……あぁ。だが、お兄ちゃんはこれからは風になって、ずっと空から君たちを見守ってくれる。これは、そのお兄ちゃんからの贈り物だ」


 カルードが優しく頭を撫でると子供たちは少し寂しそうにしながらも「そっかぁ」と頷いた。

 そのやり取りを孤児院の入り口に立っていたシスターが静かに聞いていた。


 温和そうな女性。

 彼女は口元を震わせ、静かに両手を組んで涙を流した。

 多くを語らずともプルトーの身に何が起きたのかをすべて察したのだろう。


 シスターに歩み寄る。


「……彼が愛した場所に、この大切にしていた遺品と遺体を残させてほしい。そして、これからだが、彼の代わりに、俺たち【天凜の月】が、この孤児院を支援させて頂きたいが……」


 シスターは深く頭を下げ、


「……あ、ありがとうございます! 皆さんの支援はありがたいです」

「良かった」

「うん」

「ん」


 皆も笑顔となった。

 シスターは、


「……あの方の魂が、どうか安らかでありますように……」


 泣きながら、お祈りをしている。

 物資の運搬と子供たちの相手は、シュリ師匠、イルヴェーヌ師匠、ソー師匠たちと、()()(テン)、キュベラス、カリィ、ハンカイたちが相手をしていく。


「できれば、墓となりえる場所があれば」

「あ、はい」


 シスターは切ない表情を浮かべて、


「……そうですね、皆様、こちらに――」

「「はい」」

「では、運びまする」

「頼む」


 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスたちが馬車から棺桶を取り出してきた。

 シスターを見守りながら、皆で裏庭の石畳を歩いて進む。苔が付いた岩がアシンメトリーに並び、風情を感じさせると、綺麗な花壇と魔神の彫像が並ぶ、質素な和風と西洋がミックスされた庭で、不思議と心が落ち着く。

 光精霊フォティーナは、そのシスターを慰めるように周囲を回っている。


 シスターは、


「この裏庭を共に歩いたんです。……あ、あの大きな樹の下をお使いください」


 と、許可をくれた。

 眷族たちも皆、静粛な面持ちで後に続く。

 大きな樹の前には、木刀が数本落ちていた。

 シスターは、


「ここで、彼は、子供の数人に剣術を教えていたんです」

「……そうでしたか」

「ん」


 エヴァが土魔法で静かに土を退け、小さな空間を作る。

 

 そこへ、棺桶とプルトーが使っていた細い魔剣、そして『暗剣の風スラウテルの腕甲』をそっと置いた。


 エヴァが土を被せようとした刹那――。

 胸元の<光の授印>が突如として熱を持ち光を発した。

 

「……シュウヤ?」


 レベッカが驚いた声を上げる。

 俺の胸から溢れ出した眩い光が、無数の『光の天道虫』の幻影となって宙を舞い始めた。


「にゃおぉ~」

「マイロード……」


 黒猫(ロロ)が目を丸くして光の粒を見上げる。

 光の天道虫の群れはフワフワと浮遊して、俺たちと裏庭を神秘的に照らし出す。

 そのまま墓穴の中の〝暗剣の風スラウテルの腕甲〟へと群がるように降り注いだ。


 ジュウウウッ――。


〝暗剣の風スラウテルの腕甲〟から、蒸発するような音と、金床で鍛冶師に叩かれているような多重的な音が響き渡る。

 腕甲にこびりついていた血や、凄惨な戦いの呪詛のような濃厚な魔力の残滓が、光の魔力によって浄化されている部分もあれば、強固になっている部分もあるように思えた。

 光魔ルシヴァルの<血魔力>も作用している?


 同時に、腕甲から放たれる魔風の勢いは、より一層強まっていた。魔神の一柱、暗剣の風スラウテルの魔力だろう。


 すると、天道虫の群れの幻影は浮上する。

 光と風の魔力が渦を巻くと、上部にオーロラのようなモノが現れ、魔界の広陵とした土地が映し出された。そして、天道虫の群れが導くように集まり、一人の青年の幻影を形作った。


「……プルトー……」


 ユイが震える声で呟き、背後のカルードやルマルディたちも息を呑む。光の中に現れたプルトーの幻影は、土に還ろうとしている銀剣と暗剣の風スラウテルを優しく見つめ、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。


 その顔には、暗殺者としての影も、復讐の呪縛も、もう何もない。


 彼は視線を俺に向け、エヴァが土を被せようとする手を制止するような仕草を見せた。

 そして、無言のまま『暗剣の風スラウテルの腕甲』を指差し、俺の胸へと押し当てるような動きをする。


 ――この力は、お前が使え。

 言葉はなくとも、確かにそう伝わってきた。


「……分かった。お前の遺志、確かに受け取ったぞ」


 頷くと、プルトーの幻影は最期に憑き物が落ちたような清々しい笑顔を向け、光の天道虫たちと共に、朝の心地よい風の中へ溶けるように消え去った。


 静寂が戻った裏庭。

 土の中から浄化された『暗剣の風スラウテルの腕甲』を取り出し、アイテムボックスへと収めた。


「……逝ったわね。本当の光の中へ」


 ヴィーネが静かに祈りを捧げる。

 カルードとユイも、かつて同じ暗殺者として生きた男の墓標に、深く一礼した。

 背後に並ぶゼメタスたち眷族一同も、かつての敵に最大限の敬意を払い、静かに頭を垂れた。

 エヴァが土を被せ、綺麗な花を添える。


「弟子~、荷降ろし、終わったわよ!」

「弟子~子供たちに綿菓子をあげたからな~」

「焼いたランターユをあげたからな~」

「子供たちの魂は無事だ」


 裏庭の入り口から、シュリ師匠、グルド師匠、トースン師匠たちの明るい声が届く。

 そして、相変わらずマイペースなセイオクス師匠の渋い言葉に、裏庭にいた皆からフフッと温かい笑い声が漏れた。


 その背後では、()()(テン)たちが子供たちと追いかけっこをして遊んでいる。


「おう、今行く」


 陽が、孤児院の古い屋根と、プルトーの小さな墓標を温かく照らし始めていた。


 振り返り、大勢の頼もしい家族たちと微笑み合う。


「メルたちとアキレス師匠にも連絡し、クナとミスティとパブラマンティ教授の【魔法都市エルンスト】のなんかの進化具合が氣になるが……このドイガルガの魔導キーのお宝をチェックするか」

「「「はい!」」」

「ん」

「賛成~、お宝~」


 と、レベッカはワクワクが抑えられないようで、小躍りを始めている。


「ンン、にゃ、にゃぉ~」


 相棒もレベッカと一緒に跳躍をしては、そのレベッカに、「ロロちゃんゲット~」と捕まっていた。


「……ドイガルガが隠し持っていた資産……どんなのがあるのか、楽しみです」


 キサラも期待している。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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