二千百四十八話 魔科学実験都市ボレノン
ジンザとセンリが、真剣な面持ちで深く頷く。
「ンンン――」
相棒が駆けて、センリの脛と脹ら脛に頭部を擦りつけていく。
そして、その相棒のシャンプー談義を先程までしていたレベッカやエヴァ、ヴィーネたちが奥から戻ってきた。
「センリちゃん、新しい服、本当に似合ってるわよ。ジンザさんも、無理しすぎないようにね」
「ん、困ったことがあったら、いつでも連絡して。私たち、家族だから」
「えぇ。このタンダール支部は、貴方たち兄妹の城です。どうか健やかに」
皆の温かい言葉に、ジンザはまた目を潤ませ、センリは花が咲いたような笑顔で「はいッ!」と力強く応えた。
カリィとハンカイも【大鳥の鼻】の事務所から帰ってきた。
書類をメルたちに渡している。
その間に、耳に嵌めている魔通貝に指を当て、アキレス師匠とアシュレイに、
『――師匠、アシュレイ。今、観光をしながら、ジンザとセンリに【天凜の月】の事務所を案内したところです』
『わしはアシュレイと共に武神寺に戻った』
『シュウヤ殿と模擬戦がしたかったが、また今度にしよう』
『はい、アシュレイ。師匠、俺たちはメルたちをここに残し、魔法都市エルンストを経由して、新しいボレノンという都市に向かう予定です』
『聞いている。【魔法都市エルンスト】の闇のリストの連中、闇ギルドや大商会たちの海千山千連中、フィクサーたちとの絡みの仕事だな』
『はい、師匠も活躍できる相手が多いはず。来ますか?』
『ふっ、それはまた今度にしよう。今は若い者の指導をし、武の氣を堪能しておく。クナのセーフハウスの転移陣から、サイデイルやゴルディーバの里に転移できるのだろう?』
『はい、できるはず。何かあれば魔通貝で連絡をください。また、タンダールには、メル、キッカ、ヴェロニカ、ベネットが、【天凜の月】の新しい事務所に少しの間、滞在予定のようです。潰したはずの【髑髏鬼】が【天衣の御劔】と合流し、ここに流れてきた流れから【鉄角都市ララーブイン】にも【天凜の月】の最高幹部を残すべきかの話し合いも行われている』
『あぁ、それは聞いている。メルは常に忙しく魔通貝や血文字を行っていた。【天凜の月】の切り盛りは大変そうだ』
『はい、メルがいての【天凜の月】です』
『ふっ、盟主のお前が言うんだからそうなんだろう』
『はい、俺はただの筋肉馬鹿の、槍使いですから』
『はは、わしもだ』
『『ははは』』
「「『ふふ』」」
師匠とアシュレイに、この場で魔通貝の会話を聞いていた皆も笑った。
『では、また後ほど』
『うむ』
頼もしい二人の武芸者との魔通貝の通信を切る。
エヴァたちに、
「【魔法都市エルンスト】に出戻りだが、〝レドミヤの魔法鏡〟に、エルンストの場所を記憶させていなかったから、二十四面体を使う」
「はい」
「了解~」
ユイが片手を上げて一緒に行くような仕種を皆に向けている。
カリィとハンカイは手を上げ、
「ボクも総長と一緒♪」
「フッ、俺はセナアプアとサーマリア王国関連に備え、セナアプアの仕事に回ろう」
「ん、シュウヤとボレノンに行く」
「わたしも」
「はい、ご主人様と共に」
「うん」
レベッカたちの頷きを見ながら、戦闘型デバイスのアイテムボックスから、多面体の魔道具二十四面体を取り出した。
「キュベラス、応援にきてもらって間もないがエルンストには一緒に来てもらう」
<筆頭従者長>のキュベラスが、優雅に一歩進み出た。
「はい、お任せを。ドマダイたちには鉱山都市タンダールの警邏とどのような都市かの把握をさせています。後に【天凜の月】の事務所の警護、及び、副長の命令を聞くように命じてます。そして、私も皆様の足代わりとなる<異界の門>の出番が、そろそろかな? と考えていました」
その言葉に、ヴィーネたちが頷く。
「おう、エルンストやボレノンへの<異界の門>は無理かな」
「はい、現在は無理。私は、黒の預言者としての異名持ち。闇神リヴォグラフ側の戦力として永く神界側から敵対視され、要注意人物として追われる身でもありました。また、大魔術師たちの影響で、これまで記憶できませんでしたが、エルンストに移動した際には記憶しておきます」
「了解した。では、二十四面体で普通に転移しよう」
「はい!」
そこで、見送りに並んだジンザとセンリに向き直った。
「そういうわけだ。ジンザ、センリ。タンダールを頼んだぞ。またな」
「はいッ! 道中、どうかお氣をつけて!」
「いってらっしゃいませ、シュウヤ様、皆様!」
「おう、またな~」
「にゃ~」
センリが新しいワンピースの裾を揺らしながら、両手を大きく振ってくれている。ジンザも深々と頭を下げた。
二十四面体に魔力を送る。
十八面の赤色の溝を指でなぞると緑色に変化すると光を帯びるや急回転。
面と面が、折り紙が自然と畳まれるように幾重にも組み合い重なって変化していく。中心から溢れ出した魔力が光の塊となって弾け、空間を切り裂くように弧を描いて拡がると、瞬く間に、鮮やかな光のゲートが形成された。
そこで、センリたちに手を振り返す。
光のゲートの先に映るペントハウス内を見ながら、その見慣れた魔塔ゲルハットのペントハウスへと。光のゲートを潜った
「ひゅぅ~♪ 一瞬だねェ」
カリィの声に頷く。
いつもの馴染みの机に、左にはキッチンがある。
ヴィーネが、
「タンダールから少し右上のセナアプアですが、随分と遠い都市に感じます」
と、ソファの傍を歩きながら語る。
「あぁ、そうだな」
「今まで一度も行ったことがなかったからね」
「うん、セナアプアとペルネーテとサイデイルが、わたしたちの主力だった」
ユイたちがそう語ると、ペントハウスのキッチンと、浮遊岩のある出入り口付近にいたペレランドラたちが、こちらにやってきた。
「「「皆様、お帰りなさいませ!」」」
「師匠と、皆様、お帰りなさいませ」
「器!」
「「器様~」」
「シュウヤ様~♪」
「シュウヤ様に、ロロ様、お帰りです」
「盟主!」
<筆頭従者長>のレザライサ、ビーサ、ルビア、ルマルディ、ビュシエ、クレインもいる。
<従者長>のカットマギー、サラ、ベリーズもいる。
アルルカンの把神書、イモリザ、【星の集い】の盟主アドリアンヌ。
シキ。
沙・羅・貂。
元狂言教の十二長老だったカットマギーの傍らには、譲った魔剣アガヌリスが静かに収まっている。
レザライサが、
「血文字で聞いているが、早速【天凜の月】が活躍か、そして、【大鳥の鼻】が大人しく軍門に降るとはな」
「軍門に降ったと、本音では思うが、建前としてはまだ俺たち【天凜の月】との同盟に過ぎない」
俺がそう言うと、レザライサは視線を鋭くさせ、
「……それよりも、今後はどうする。魔傭兵団アレグションの残党狩りからのサーマリア王国関連を進めるのか、それともマダム・ルージュの情報通り進めるのか」
そのレザライサの問いに、はっきりと頷いて、
「マダム・ルージュの情報、【魔科学実験都市ボレノン】へ向かうのが最優先だ。和平を邪魔した魔傭兵団アレグションの残党狩りや、サーマリア王国の裏の動きは、レザライサ、お前の【白鯨の血長耳】とペレランドラたちの情報網に任せたい。引き続き、セナアプアから睨みを利かせて裏取りを進めてくれ」
「承知した。サーマリアの軍需派やピサード大商会の動きは、我らが確実に把握し、いつでも狩れるよう、首根っこを押さえられるように、引き続き調査をしておく」
レザライサが不敵な笑みを浮かべ、胸に手を当てた。
カリィが、
「レザライサ、ボクも参加したほうが良イ?」
「ハッ、どちらでも良いが、仕事が増えるぞ。カリィ目当ての大海賊団連中や邪道流の連中が、下界にはわんさかいるからな」
「イヒッ、まぁ、ボク的にはその迎撃も楽しいんだけど、総長たちの絡みと、その支えの行動が、妙に、ボクの力となっているんダ。だから~総長と一緒♪」
「……そうかい好きにしろ……」
レザライサの冷たい言葉にカリィは、両手を上げるジェスチャーを取る。
レザライサは、俺を見て、
「しかし、実力は本物。カリィならお前の影、否、闇の部分を補える分、光が目立つようにはなるか……」
「そうさァ~」
レザライサはカリィの変な笑い声に、
「ハッ」
と笑う。蒼い瞳には、俺への絶対的な忠誠と、裏社会を牛耳る者としての鋭い光が宿っていた。
「ペレランドラ、カットマギー。セナアプアの状況はどうだ?」
「はい。魔塔ゲルハット、および砂城タータイムの防衛は極めて平穏です。大連盟の運営も順調そのもの。各所との連絡網も完璧に機能しております」
ペレランドラが淀みなく答える。
「えぇ。残存する狂言教の動きや、各所の【幻瞑暗黒回廊】の監視につきましても、厳重に警戒を続けております」
カットマギーも恭しく頭を下げた。
「クレインも、留守番ご苦労だったな」
「私の方も問題ないさ。シュウヤたちが無事に帰還してくれて、タータイムの中にいるシャナたちも喜んでいるよ。アキレスとアシュレイの話を聞くに、私も手合わせしたい氣持ちが高まったが、ね。ふふ。こちらも少々話が必要な連中がいるから、動けない。だから、ここで防衛と鍛冶屋組のサポートに精を出しているさね」
クレインが朗らかに笑いながら語る。
ビーサやルビア、アドリアンヌたちも、安心したような、それでいて頼もしい笑みを向けてくれる。
「よし、皆がセナアプアをしっかり護ってくれているおかげで、俺たちは北のボレノンへ集中できる。助かるよ」
俺の言葉に、待機組の面々が誇らしげに顔をほころばせた。
「では、これより魔塔の転移陣を使って【魔法都市エルンスト】へ飛ぶ。そこでクナやルシェル、それにエッジランナーのザイクたちと合流し、ボレノンへの侵入ルートと最新情報を整理してから乗り込む」
「はい。エルンストの支部長リアカリスタや大魔術師アキエ・エニグマたちとの会話内容を、血文字で受け取っていました」
ペレランドラの言葉に頷く。
「おう。では、前に使った極秘の転移装置から、【魔法都市エルンスト】へ向かう」
「ンン――」
相棒が駆けた。
先にペントハウスの左の巨大な窓硝子のドアの前に移動。
「ん、ロロちゃん、待って」
エヴァが扉を開けると、黒猫は庭を駆けていく。
そこで神獣の大きさに変化。
俺たちも、ペレランドラやレザライサ、カットマギーたちセナアプア待機組に見送られながらペントハウスの庭に出た。
植物園を見ながら巨大な相棒に皆で乗り込む。
皆で飛翔し、セナアプアの魔法ギルド本部近くに聳える【大魔塔グラン・オラクル】へと向かう。
大きい魔塔と浮遊岩が連結した壮大な威容を見据えながら――。
多数の飛空挺が停泊している中層区画の出入り口へと着地した。
「ングゥゥィィ」
肩の竜頭装甲は、自然と衣装に、臨時大魔術師の印を生み出す。
一般の魔術師たちが行き交う賑やかな回廊を抜け、こぢんまりとした倉庫のような印象を受ける【魔塔ソフィアステラ】の前に到着する。
出入り口には、以前と同じくラバに乗った怪しげな魔術師ドード・マハカナンが巨大な煙管を吸い、魔煙を吐いていた。
「ドード・マハカナン。中を利用させてもらう」
声をかけると、ドードは煙管を咥えたまま俺と背後のヴィーネたちをひとしきり見て、
「……あぁ、臨時大魔術師殿か。了解した」
と呟き、振り向いて指を鳴らす。
一瞬で背後の空間が歪み、円形の扉が出現した。
「ありがとう」
軽く会釈をして中に入り、以前アキエが案内してくれた壁にカモフラージュされた行き止まりの空間へと進む。
壁の特定のレンガに魔力を流し込むと、音もなく石壁がスライドし、無機質な金属の通路が現れた。
近未来を思わせる通路の奥を進む。
幾重にも魔法陣が刻まれた重厚な魔鋼の扉の前に立った。
中央の水晶レンズが赤い光線を放ち、俺の網膜と魔力波形、そして胸元の臨時大魔術師の徽章をスキャンしていく。
キュィィンと、一昔のハードディスクを読み込むような音が至る所から響く。
『――臨時大魔術師シュウヤ・カガリ。生体認証、及び徽章の波長を確認。多重防衛プロトコルを解除します』
機械的な合成音声と共に、ガチャンッ! と重低音を立てて扉が開く。
中に広がるのは、床一面に緻密な転移陣が描かれたドーム状の部屋。【魔法都市エルンスト】へ直結する極秘の転移装置だ。
皆で転移陣の上に立つと、魔法陣が青白く発光し、視界が光に包まれていく――視界を白く染めていた魔力光が収束――。
足下から石畳の冷氣が伝わってくる。
到着したのは、エルンストの裏社会にクナたちが用意したセーフハウスの地下室、魔導ランプの淡い光に照らされた空間には、すでに俺たちの到着を察知していたクナとルシェルが、静かに待機していた。
「お待ちしておりましたわ、シュウヤ様」
クナが月霊樹の大杖を床に軽く突き、妖艶な微笑を浮かべて優雅に一礼する。その背後で、ルシェルも恭しく頭を下げた。
「クナ、ルシェル。エルンストの監視、ご苦労だったな。状況はどうだ」
「えぇ、ご主人様たちが南マハハイム地方で大暴れしている間、こちらも退屈はしませんでしたわ。……あちらに、お待ちかねの猟犬たちがおります」
クナが杖の先で部屋の奥、薄暗い影が落ちる一角を指し示す。
そこに、壁に背を預けて葉巻状の魔煙草を吹かしているザイクと、巨大な魔導散弾銃の手入れをしているディータ、そして静かに宙を浮遊する使い魔のベイカーがいた。
「よう、盟主。セナアプアでのテロ騒ぎ以来だな」
ザイクが魔煙草を携帯灰皿に揉み消し、義眼の奥に鋭い光を宿して歩み寄ってくる。
「あぁ。エルンストの掃除は進んでいるか?」
「ボチボチってところだ。マダム・ルージュの野郎が幅を利かせ始めてるのが氣に食わねぇが、俺たちエッジランナーが睨みを利かせてる限り、派手な真似はできねぇよ」
ディータがポンプアクションをガシャッと鳴らし、ニカッと笑う。
ベイカーも静かに会釈した。
かつて死線を潜り抜けた顔つきには、確かな誇りと余裕が漂っている。
「それでボレノンの件だが、ルージュから得た情報と、俺たちが独自に裏取りした結果がまとまった」
ザイクが顎でしゃくると、ベイカーが指先で宙空に複雑な魔力陣を描き出した。ホログラムのように浮かび上がったのは、巨大な都市の立体地図。
それが【魔科学実験都市ボレノン】か。
「……これがボレノン。エルンストの純粋な魔法至上主義とは違い、魔力と機械工学を強引に融合させた、まさに鉄と蒸氣の街よ」
ベイカーが透き通る声で解説を始める。
地図には、巨大な煙突群から立ち昇る汚染された魔導蒸氣や、街を囲むように配置された武骨な防衛砲台の数々が詳細に記されていた。
「ルージュの情報通り、【ラゼルフェン革命派】の残党がこの街の最深部……地下大工廠に潜伏しているのは確実ね。ピサード大商会の資金と技術援助を受けて、新型の魔導兵器を量産しているわ」
ベイカーの言葉に、ミスティが身を乗り出す。
「魔科学と兵器の量産……わたしの魔導人形とは違う、兵器としての魔機械ね。興味深いけど、趣味が悪いわ」
「えぇ。しかも、その革命派を匿っているのは、ボレノン支部の魔法ギルドの重鎮たちよ。腐敗の根は想像以上に深いわ」
クナが怪しげな笑みを深めながら補足する。
腕を組んで、
「なるほどな。魔法ギルドの腐敗した連中と、ピサード大商会、そして革命派の残党。まさにクズの掃き溜めだ」
呟くとザイクが「ハッ、同意するぜ」と鼻を鳴らした。
「で、問題はどうやってそのボレノンに潜り込むかだ。あの街はエルンスト以上に排他的で、防衛網は最新の魔導レーダーでガチガチに固められている。空から神獣様に乗って派手に突っ込めば、街ごと吹き飛ばす戦争になっちまうぜ」
ザイクの懸念はもっともだ。
相棒に乗って空から強襲するのは簡単だが、ボレノンの規模を考えると、無関係な一般市民を大量に巻き込む大惨事になりかねない。今回はあくまでも革命派と腐敗高官の掃除が目的だ。
「……正攻法で正面ゲートから入るか?」
「それも危険かと、ギルドの腐敗高官たちが牛耳っている以上は、光魔ルシヴァルの顔は割れている可能性が高いです」
と、ヴィーネが冷静に指摘する。
すると、ディータがニヤリと笑って巨大な銃身を肩に担いだ。
「だから、アタシたちが裏ルートを用意したってわけよ! ボレノンへ物資を運び込む、地下の『廃棄魔導管』を使うのさ!」
ディータがホログラム地図の下層、都市の地下を走る太い管を指差す。
「廃棄魔導管……下水のルートか?」
眉をひそめると、ザイクが首を振った。
「下水じゃねぇ。ボレノンの魔力炉から排出される超高温の魔力廃液と蒸氣を捨てるための、特殊な排熱ダクトだ。常人なら数秒で肺が焼け焦げて死ぬ。だからこそ、あの街の防衛レーダーの完全な『死角』になっている」
「なるほど。だが、俺たちならその程度の熱や毒は問題にならない」
「そういうことだ。それに、このルートなら革命派の潜伏先である地下大工廠の直下に出られる。奇襲にはもってこいってわけさ」
ザイクの提案に、皆の表情が引き締まった。
「ふふ、面白そうじゃない。わたしとゼクスの防壁なら、超高温の蒸氣なんてそよ風みたいなものよ」
「ん、私も結界で皆を守れる」
ミスティとエヴァが力強く頷く。
キサラもダモアヌンの魔槍を握り直し、
「敵の懐へ一氣に潜り込み、首根っこを直接押さえる……暗殺者の定石ですね」
と、静かな闘志を燃やしていた。
「よし、侵入ルートは『廃棄魔導管』に決定だ。ザイク、案内を頼めるか?」
「おう、任せとけ。俺たち猟犬の嗅覚を見せてやろう」
方針が決まると、すぐさま出発の準備を整えた。
キュベラスは、
「<異界の門>を記憶。今後は、傷場が必要な魔界など以外ならば、魔法都市エルンストに転移可能です」
「了解した」
クナとルシェルはエルンストのセーフハウスに残り、引き続き情報収集と後方支援を担当することになる。
「シュウヤ様、お氣をつけて。エルンストの裏の掃除とパブラマンティちゃんとの特別なお仕事は、私たちにお任せくださいませ」
クナの特別の部ニュアンスが氣になったが、ルシェルが俺に何かを言うように右手を少し振っている『氣になさらず』だろうか。
ま、後で報告を聞くか。
今はボレノンへの潜入が最優先だ。
「……あぁ、頼んだぞ、クナ、ルシェル」
妖艶に見送る二人を背に、皆でセーフハウスを後にした。
エルンストの地下から、ボレノンへと続く廃棄魔導管の入り口までは、かつての旧市街の廃墟を抜けていく。
ザイクの先導で、薄暗く湿った地下道を音もなく進む。
「……この先に、ボレノンへの排熱ダクトが通っている」
やがて、ザイクが巨大な鉄扉の前で足を止めた。
扉の隙間からは、すでに陽炎のように歪む超高温の熱氣と、耳を劈くようなシューッという蒸氣の噴出音が漏れ出している。
「開けるぞ」
ザイクが制御盤をハッキング――。
重厚な鉄扉が軋みを上げて開かれた瞬間――。
肺を焼くような猛烈な熱風と、鉄錆の混じった不快な匂いが吹き付けてくる。
「にゃごっ」
相棒の黒猫が少し熱そうに鼻をひくつかせた。
「皆、結界を展開しろ。一氣に駆け抜けるぞ」
「「「はい!」」」
ミスティがゼクスを起動し、青白い魔法防壁を展開。エヴァもサージロンの球を浮遊させ、白皇鋼の冷却結界で周囲を包み込む。
――<闘気玄装>を強め、<水の神使>の加護を意識して熱を遮断した。
俺たちは、熱氣と赤茶色の魔導蒸氣が立ち込める巨大なダクト内へと飛び込んだ。
ダクトの内部は巨大な怪物の食道のような印象――。
直径数十メートルはあろうかという巨大な円筒形の通路が、果てしなく奥へと続いている。格子状の足場の下には、煮えたぎるマグマのような赤黒い魔力廃液が轟音を立てて激しく流れていた。
時折、ダクトの壁面から高圧の蒸氣が間欠泉のように噴き出し、行く手を阻む。
「――アハ♪ これはまた、最高にスリリングなアスレチックだネェ!」
カリィが悪態笑顔を浮かべ、噴き出す蒸氣をアクロバティックな動きで躱しながら進む。
「――この程度の熱、私の蒼炎に比べれば温いくらい~」
レベッカも平然と蒸氣の中を突っ切っていく。
光魔ルシヴァルの強靭な体は、この過酷な環境は障害にはならない。
だが、この廃棄ルートが単なる道ではないことを、すぐに思い知らされることになった。
先頭を走っていたザイクが、
「――止まれ!」
と、鋭い声で警告を発した。
魔導銃キルガを構える。
皆で即座に足を止め、武器に手を掛けた。
すると、ダクトの前方、濃密な赤茶色の蒸氣の向こう側からガチャッ、ガチャッという無機質で重々しい金属音が複数近づいてくる。
「……防衛機構か?」
<闇透纏視>と<隻眼修羅>を発動し、蒸氣の奥を凝視する。
そこから現れたのは、ボレノンの魔法ギルドが廃棄したと思われる、異形のスクラップ機械たちだった。
「ゲギュルルル……」
金属の軋む音と怨嗟のような不気味なノイズを漏らす。
<闇透纏視>と<隻眼修羅>で凝視、廃棄された魔導人形の残骸や巨大な歯車、錆びた刃などが流れ込む魔力廃液の熱と瘴氣によって異常な突然変異を起こし、一つの生き物として結合している。
「ちっ、廃棄されたゴミ共が魔力溜まりで化け物に変異しやがったか。防衛レーダーの死角でも、掃除屋はいるってことだ」
ザイクが舌打ちをし、撃鉄を落とす。
ヴィーネが銀色の瞳を冷徹に細め、
「……ちょうどいい準備運動ですね」
と言いながら、翡翠の蛇弓から光線の弦を引き絞った。
ユイもイギル・ヴァイスナーの双剣を抜き放ち、静かに腰を落とす。
「一瞬でスクラップに戻してあげるわ」
「皆、音は極力抑えろ。地上に氣付かれないよう、迅速に処理するぞ」
「「「了解!」」」
ヴィーネの放った光線の矢が静寂を切り裂き、スクラップ魔物の頭部機構を正確に射抜いた。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




