二千百四十九話 廃棄魔導管の突破と地下大工廠の蹂躙
ヴィーネの光線の矢が直進し、鋼が密集したスクラップ状のクリーチャーに向かう。
同時に熱氣と蒸氣が渦巻くダクト内での強行突破を開始した。
<魔闘血蛍>と<月冴>を発動、<闘気玄装>を強めながら――。
正面のクリーチャーに――《氷縛柩》を発動。
ビュシエの<血道・石棺砦>の石棺のような使い方で物理的に衝突させ、吹き飛ばし、壁に激突させて、押し付けていく。
ヴィーネの光線の矢が、歪な単眼レンズを正確に貫くのが見えた。
更に『思考共鳴の魔導輪』の《雷魔外塔》を使ったようで、周囲に雷塔の群れが走り、スクラップ状のクリーチャーを感電させ、動けなくさせていた。
ユイとカリィとザイクのフォローに――<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を送る。
右の壁に湧いたスクラップ場の鋼のクリーチャーの数体を壁に押し付けて潰すように倒す――。
ヴィーネは連続で光線の矢を射出。
クリーチャーの頭部を突き抜け、その背後の、クリーチャーの単眼レンズの眼球に突き刺さって止まる。
最初に突き抜けたクリーチャーの頭部から、幻影の蛇の群れが紫電のように走った。
次のクリーチャーの頭部をも、光線の矢が突き抜けた。
光線の矢が突き抜けた頭部から、幻影の蛇の群れが紫電のように走ると、次々に、その頭部が爆発。
数体のクリーチャーの頭部は、内から魔導回路が爆発したように爆ぜて、動きが止まるクリーチャーもいれば、止まらないクリーチャーもいた。
「次はアタシに任せな!」
ディータが魔導散弾銃を背に回し、代わりに第三の魔機械腕から高周波のチェーンソーブレードを展開した。
小柄な体を弾丸のように飛ばし、迫り来る歯車と刃の化け物の懐へ潜り込むと、駆動音を極限まで抑えたブレードで敵の関節駆動部だけを狙って的確に切断していく。
「アハ♪ 解体作業はお手の物だヨ!」
カリィも、
「お嬢ちゃん、ユイとはまた違う華麗さあるネ――」
悪態笑顔を浮かべながら、壁面を縦横無尽に跳ね回り、加速前進――。
鞭のごとくしなやかに腕が動き、短剣『怪士ノあやかし』を振るう。
刃がスクラップが重なった装甲の隙間にシュッと吸い込まれる。
切断された箇所から血飛沫のような油と魔力が噴出した。カリィは返り血を避け、流れるまま蹴り技を披露し、その斬ったスクラップのクリーチャーを蹴り飛ばし、次のクリーチャーに向かう――。
「<流残重剣>――」
かすかに聞こえた短剣技を繰り出す。
怪士ノあやかしと両腕が、その名の由来を示すようにゆらりゆらり二重に揺れながらブレていく。
先程のしなるような機動ではない四肢の動きの剣術で、四肢に分類されるだろうスクラップの根元を寸断し倒すと、そのまま次の標的のクリーチャーに向かったカリィ、怪士ノあやかしを振るう。
<流残滓剣>と思われる短剣技で、銀色の残像を宙に描くと魔力が循環するケーブルの束を断ち切る。
そのカリィの足下の背後と天井から、鋼のクリーチャーの頭部がいきなり伸びてきた。
左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出、鋼のクリーチャーに装甲に突き刺さった。
《連氷蛇矢》を連射、『思考共鳴の魔導輪』のただの礫を無数に作り、その礫で《《連氷蛇矢》を強化するように連続的に繰り出す。
同時に<鎖>を収斂させ、鋼のクリーチャーを引き寄せながら、強化された《連氷蛇矢》で鋼のクリーチャーの全身を蜂の巣にして吹き飛ばした。
皆と共に湧いた新手の鋼のクリーチャーに突撃。
右手に白蛇竜小神ゲン様の短槍を召喚。<握吸>を発動させ、<血道第三・開門>――。
<血液加速>を使うと同時に踏み込む――。
<白蛇穿>を繰り出し、鋼のクリーチャーを穿ち倒す。
すると、ユイが、左の横壁を走り、蹴って跳躍し、地面ではなく天井へと加速――。
天井にも現れていた歪な鋼のクリーチャーの頭部らしき物を、神鬼・霊風の刃で真っ二つ。
そのユイは天井付近を飛翔しながら、両手持ちの神鬼・霊風を右から左、左から返すように<燕式・飛燕斬>らしき剣術を披露していく。
その華麗なユイの後方の天井から鋼のクリーチャーが生まれ、宙空にもスクラップ状の鋼が集積するように飛来していく。急いで、<超能力精神>を発動――。
それらの宙空に生まれ、集積していた無数のスクラップ状の鋼の群れのすべてを、宙空で縫い止めるように、止めてから――<星想潰力魔導>。
一つ一つのスクラップを深海に圧力を喰らわせるように潰していく。
カリィは、体から放出された<血魔力>で姿を隠す。
その血から分身を生み出し、相対した鋼のクリーチャーを、その分身と本体で、斬り刻む。
大きな破壊音を立てず、確実に機能停止へと追い込んでいく。
ザイクも俺たちと共に、鋼のスクラップ状のクリーチャーを、キルガの銃身の下に備え付けられた銃剣で確実に斬り倒していた。
「……随分と手際が良イ」
カリィの言葉にザイクが、
「伊達に下層の泥水を啜って生きてきたわけじゃねぇからな」
魔導銃キルガの銃身下部に備え付けられた銃剣を振るい、迫る敵の刃を往なし、下段蹴りで、クリーチャーを怯ませ、キルガを斧のように下から振るい、顎を破壊、そして、喉元にあたる動力パイプへと銃剣を突き刺す。
皆と倒しながら前進。
閉鎖空間に移行した。大振りは壁を叩くことになるから、<風柳・槍組手>の理合で立ち回る。
――最小限の動きで敵の攻撃を受け流し、<風研ぎ>の鋭い刺突のみで敵の中枢コアを確実に穿っていく。
ガシュッ、プスッという、肉と金属を貫くくぐもった音だけがダクト内に響く。
「ンン、にゃご」
相棒は黒猫から、少しだけ大きい、山猫の姿で戦っていた。
影から影へと跳躍し、鋭い爪で敵のセンサーアイを的確に潰して回っていた。
「マスター、この子たち、ただのスクラップの寄せ集めじゃないわね。ボレノンの魔法ギルドが意図的に『廃棄物処理』のプロトコルを残したまま捨ててる。……なんて悪趣味なのかしら」
ミスティがゼクスの光剣で敵の胴体を溶断しながら、呆れたように呟く。
彼女の指先から放たれる<地電流>が、スクラップの電子頭脳を瞬時にハッキングし、敵同士を同士討ちさせるように誘導していた。
「なるほど、つまりこのダクトを通る不純物を自動で排除する、生きた防衛システムってわけか」
次々と現れるスクラップ魔物を、ユイの双剣が音もなく解体し、エヴァの白皇鋼の刃が縫い留めていく。レベッカも蒼炎の爆発を抑え、指先から放つ高熱のバーナーのような炎で、敵の装甲を静かに溶け落としていた。
連携は完璧だった。
ダクト内にこだまするはずの戦闘音は、魔力廃液の流れる轟音と蒸氣の噴出音に完全にかき消されている。
やがて、前方の視界が大きく開けた。
廃棄魔導管の終端――巨大なファンがゆっくりと回転する、巨大な排氣口だ。
「……着いたぜ。このファンの向こう側が、ボレノンの地下大工廠だ」
ザイクが銃剣の血を払いながら、ファンの隙間を指差す。
ファンの向こう側からは、けたたましい機械の駆動音と、魔力炉が発する重低音が響いてきている。
「ベイカー、防衛網のハッキングを頼む」
「えぇ、任せて」
ベイカーが半透明な体を揺らめかせ、ファンの制御盤へとスッと手をかざした。
紫がかった毛細血管のような無数の魔力が制御盤の隙間へと入り込み、骨の鳥の幻影を生み出す。
数秒の後、巨大なファンが静かに回転を停止した。
「今よ!」
「一氣に突入だ――」
ベイカーの合図と共に停止したファンの隙間を抜け、工廠の内部へと音もなく降り立った。
――そこは、エルンストの洗練された魔法施設とは対極、鉄と油と魔力排氣が混ざり合う巨大な地下空間だった。
見上げるほど高い天井まで無骨な鋼鉄の足場とパイプが幾重にも張り巡らされている。
空間の中央では、巨大なベルトコンベアが稼働し、見たこともない形状の『魔導兵器』のパーツが次々と運ばれては、無数の作業アームによって機械的に組み立てられていた。
そして、その作業を監督するように、完全武装した私兵たちや、異端の魔術師たちが忙しなく立ち働いている。
彼らの胸や肩にはピサード大商会の紋章と、それとは別の……刃と歯車を組み合わせたような見慣れぬ紋章が刻まれていた。
物陰から眼下の光景を見下ろし、
「……あれが【ラゼルフェン革命派】の紋章か。ルージュの情報通り、ピサードの私兵と完全に混ざり合っている」
と言うと、ザイクがギリッと義眼を光らせた。
「あぁ。しかも、あの量産ライン……ただの魔導銃やゴーレムじゃねぇ。魔界の技術まで取り込んで、無理やり魔科学と融合させてやがる……」
ミスティも眼鏡の奥の瞳を険しく細める。
和平会合を狙ったテロは防いだが、奴らの計画は一つではなかったということか。
「えぇ……あれは『自律型の魔導爆弾』よ。魔力炉の暴走を意図的に引き起こすように設計されている。あんなものがエルンストや他の都市にばら撒かれた場合は、厄介ね」
量産ラインが完成し、兵器が外へ出回れば、南マハハイム地方どころか、世界中が火の海になりかねない。
「うん、なまじ魔導だからね」
「そう。結界系の魔法、魔術をすり抜けてくる。でも、看破する側が柔軟なら発見は容易い」
「でも、最低限の魔力で強力な武器が運用できるということよ?」
レベッカの言葉にミスティたちは頷く。
ヴィーネは、
「危険は危険ですが、魔道具の一つ。冒険者たちが常に量産している迷宮産のアイテム類は多様にあります」
皆が頷いた。ミスティは、
「うん、スクロールやポーション爆弾のほうが優れている面もあるけど、ま、一長一短ね」
「はい、魔法ギルドのスクロールの利権も絡んでそうですね」
「「たしかに」」
ヴィーネたちがはもる。
「……どちらにせよ、死の商人に変わりない。工場ごと、すべて本物のスクラップにしようか」
白蛇竜小神ゲン様の短槍を強く握り直す。
ヴィーネやユイ、キサラたちも、静かな怒りを燃やして武器を構えた。
「――行くぞ。ボレノンの腐った腸を引きずり出す」
廃棄魔導管の出口である巨大なファンの隙間を抜け、足場のない宙空へと身を投じる。
眼下に広がるのは、煌々と魔導ランプに照らされた広大な地下大工廠――。
無骨なベルトコンベアが蠢き、未完成の魔導爆弾が次々と運ばれていく光景だ。
落下しながら、左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出。
天井の太いパイプに<鎖>を巻き付け、ターザンのように軌道を変えながら工廠の中央、警備の私兵たちが密集しているエリアへと急降下した。
「オラァァァッ! 派手にぶっ壊すぜェ!」
俺たちより一足早く動いたディータが、第三の魔機械腕で巨大な魔導散弾銃を構え、上空から豪快にぶっ放した。爆発性の散弾がコンベアの制御盤と周囲の私兵たちをまとめて吹き飛ばす。
火花と黒煙が上がり、ようやく工廠内に甲高い警報のサイレンが鳴り響いた。
「な、なんだ!? 上から敵襲――」
私兵の一人が叫ぶより早く、ザイクの魔導銃キルガが火を噴く。
連続する乾いた銃声。放たれた絶魔弾が、防御結界を張ろうとした魔術師たちの眉間を正確に射抜いていく。
「ベイカー、ラインの魔力供給を断て!」
「えぇ、任せて!」
ベイカーが半透明な体を揺らめかせながら、工廠の中枢と思われる巨大な魔力炉の端末へと飛翔する。
彼女の指先から放たれる紫の魔力が、防衛術式を次々と浸食し、強制的にショートさせていった。
浸食によって巨大な魔力炉の一部が「ガシュゥゥッ!」と悲鳴のような排氣音を立てて明滅する。
工廠全体を照らしていた魔導ランプが不安定に点滅し始めた。
「俺たちも派手に行こうか――」
パイプに巻き付けた<鎖>を消し、着地と同時に<雷飛>を発動。
一瞬で私兵の部隊長らしき男の懐へ潜り込んだ。
男が慌てて魔剣を抜こうとするが、遅い。
右手に握った白蛇竜小神ゲン様の短槍を、下から斜め上――。
ボクシングのハートブレイクショットを打つように突き出す――<白蛇穿>。
白き蛇の幻影を纏った切っ先が、男の胸甲を紙細工のように貫き、その体を宙へと放り投げた。
「にゃごぉぉぉ――」
着地と同時に、相棒が黒豹へと姿を変え、咆哮を上げる。
無数の触手骨剣が全方位へと伸び、コンベアの周囲にいた私兵たちを次々と串刺しにしていく。
更に口からは紅蓮の炎を吐き出し、ラインに並んでいた魔導爆弾の試作品ごと、周囲一帯を火の海に変えた。
「――迎撃しろ! 侵入者を逃がすな!」
点滅する視界の中、ピサード大商会の紋章をつけた重装兵たちと、革命派の魔術師たちが次々と通路の奥から湧き出してくる。彼らが構えているのは、見たこともない形状の魔導銃と、腕と一体化したチェーンソーのような魔機械兵装だった。
黒豹の相棒が、まだ生きている魔術師たちに、
「にゃご――」
体から無数の触手骨剣を繰り出していく。
相棒の炎を防いだ魔術師たちは、得物の魔杖の魔刃やチェンソーで弾きまくる。
魔機械兵装から防御用のエネルギーフィールドも展開されていたが、「ロロ様――」キサラの<血刃翔刹穿>による無数の血刃により、エネルギーフィールドを展開していた魔道具が破壊される。
それでも物理的な装甲を瞬時に生み出してきた魔術師たちだったが、相棒の触手骨剣と何度も衝突を繰り返すと、ガトリングガンから放たれる魔弾のような連続突きの骨剣のほうが火力は上だったようで、相対した相手の、頭部と胴体を穴だらけにして倒していく。
魔術師たちが魔杖や魔銃から一斉に魔弾を射出してくるが――。
『思考共鳴の魔導輪』の防御を宙空に敷く。更に、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と<鎖>で、皆への魔弾の攻撃を防ぎまくる。
「ん、数が多いだけ――」
近くに着地したエヴァが、魔導車椅子から身を乗り出すようにして両手を広げる。
無数のサージロンの球体が浮遊し、周囲に出していた白皇鋼の刃が魔術師たちへ飛来し、鋼の暴風となって前方へ吹き荒れる。
重装兵たちが構えた魔導盾ごと、彼らの鎧を紙切れのように切り裂き、血飛沫と火花を同時に散らした。
「させるか! 迎撃システム起動! 防衛ゴーレムを出せ!」
奥のガラス張りの監視室から、白衣を着た魔術師が声を張り上げる。
その指示に応え、工廠の壁面が開口し、全高三メートルを超える重装甲の魔導ゴーレムが複数体、ズシン、ズシンと重低音を響かせて現れた。
両腕にはガトリング形式の魔弾砲が備え付けられている。
「ふふ、あんな鈍重なオモチャ、わたしのゼクスの前では標的にもならない」
ミスティが眼鏡の奥の瞳を輝かせ、指先でタクトを振るうように指示を出す。
ミニ鋼鉄矢を放ち、宙空にわずかな<血魔力>だけで構成された<虹鋼蓮刃>を無数に展開。
更に、皆の<血魔力>を吸収したゼクスが青白い光剣を展開して飛翔。
ゴーレムが放つ魔弾の雨を、ゼクスは立体的な機動で軽々と避け、そのまま敵の懐へ。
光剣の一閃が、ゴーレムの装甲の継ぎ目――魔力関節部を正確に両断し、巨体を機能停止へと追い込んだ。
<虹鋼蓮刃>も飛翔し、蓮の刃を浴びたゴーレムたちは両断はされないが、傷を帯びては、ミニ鋼鉄矢に付いていた爆弾が爆発し、派手に連鎖爆発して吹き飛んでいた。
「ん、ミスティ、新しい武器――」
エヴァが魔導車椅子から浮上し、<霊血導超念力>を全開にする。
宙に浮かべた白皇鋼の刃の一部をザイクたちの防御に回すと、一部の白皇鋼を、巨大な円盤状のノコギリのように変化させ、それが回転し始めた。
それがゴーレムの群れへと直進し、分厚い魔鋼の装甲をバターのように切り裂き、内部の魔力炉ごと真っ二つに粉砕していく。
「こっちは一氣に燃やし尽くす!」
レベッカが城隍神レムランの竜杖を掲げる。
無数の蒼炎弾、皇級:火属性炎神鳥の囀りを発動。
<光魔蒼炎・血霊玉>をも複数生み出され、それがコンベアの奥――魔導爆弾のパーツが山積みになっている区画へと飛来した。着弾と同時に、蒼い炎の竜巻が巻き起こる。
誘爆を防ぐ特殊な結界が張られていたようだが、レベッカの神性を帯びた蒼炎はそれすらも容易く焼き尽くし、量産ラインの一部を完全に灰へと変えた。
「クソッ! なんだこいつらは!?」
「退け、退けェ!」
ピサード大商会の私兵たちが、恐怖に顔を引き攣らせて後退し始める。
だが、その退路を塞ぐように、銀と漆黒の閃光が走った。
「逃がしません」
ヴィーネが<光魔銀蝶・武雷血>を発動。
雷状の血魔力を纏い、古代邪竜ガドリセスと戦迅異剣コトナギの双剣を振るう。
交差する刃が、対峙した魔剣を弾き、胸を斬る。
左右からショットガンのような魔導武器、魔銃から放たれた散弾も、加速したヴィーネには当たらない。
ショットガンの銃身をガドリセスの刃が通り、真っ二つ。
そのまま、その魔銃持ちの首を、戦迅異剣コトナギが刎ねていた。
逃げ惑う私兵たちの背を正確に十字に斬り裂き、雷の余波が周囲の敵を麻痺させていく。
「隙だらけ――」
ユイは、三刀流用の新ホルダーを展開している。
<刹魔獣功>と<銀靱・壱>を組み合わせ、加速し、死角から敵の集団へ飛び込んだ。
イギル・ヴァイスナーの双剣が踊るように閃き、悲鳴を上げる間も与えず、咥えた神鬼・霊風の刃が、敵の胴を輪切りに切断していた。次々と敵の首を刎ね飛ばす。その動きはまさに死の舞踏だ。
「往きなさい、<補陀落>」
キサラが放ったダモアヌンの魔槍が、一直線に並んだ私兵の胴体を一列に貫き、螺旋状のフィラメントが彼らの動きを完全に封じ込めた。
皆を守るように、両手から<鎖型・滅印>を使い、梵字に光る<鎖>を繰り出しまくり、フォローしていく。
皆の活躍もあり、広大な地下大工廠は、わずか数分で阿鼻叫喚の地獄へと変わっていた。
両手から<鎖>を消し、
「……順調だな」
白蛇竜小神ゲン様の短槍を軽く回しながら、周囲の状況を俯瞰する。
生産ラインの大部分は破壊され、私兵も半数以上が無力化された。
残るは、奥のガラス張りの監視室に立て籠もっている【ラゼルフェン革命派】の魔術師たちと、彼らを指揮する幹部クラス。
『奥の硝子は、魔法の結界と物理の防御力も高そうです』
ヘルメの思念に頷く。
「シュウヤ、奥の部屋にかなり高密度の魔力よ。大魔術師級ね」
ユイが双剣の血を振り払いながら、監視室を睨みつける。
ヴィーネも、
「【ラゼルフェン革命派】の幹部でしょう」
と指摘、頷いて<闇透纏視>と<隻眼修羅>で視界を強化した。
分厚い防魔ガラスの向こう側。
そこには、血走った目でこちらを睨みつける初老の男と、その両脇を固めるように立つ二体の『特注品』と思われるゴーレムがあった。
更に男の足下には、禍々しい紫色の光を放つ巨大な魔法陣が描かれている。
「……あれは、空間を歪めるタイプの転移陣か?」
ミスティがゼクスを自らの傍らに呼び戻し、
「マスター、あの魔法陣、都市の地脈から魔力を強制的に吸い上げている? あの男、工場ごと私たちを道連れにして自爆する氣よ!」
警戒の声を上げる。
「なんだと!?」
ザイクが舌打ちをし、魔導銃を監視室へ向けるが、分厚い防魔ガラスに阻まれて弾丸が通らない。
「ハァーッハッハッハ! 遅い、遅いぞ光魔の犬ども!」
監視室の魔導スピーカーから、初老の男の狂氣じみた声が響き渡った。
「我ら【ラゼルフェン革命派】の悲願、このボレノンを浄化する偉大なる計画は、貴様らごときに邪魔はさせん! この地下工廠に蓄積された魔導爆弾のエネルギーと、地脈の暴走……これらが合わされば、この都市の下層半分は消し飛ぶ! 貴様らも仲良く灰になるがいい!」
男が両手を高く掲げると、魔法陣の紫色の光が一層激しく明滅し始めた。
同時に、工廠の至る所に設置されていたパイプから、異常な高温の蒸氣が噴き出し、空間全体がミシミシと嫌な音を立てて軋み始める。
「チッ、イカレたテロリストめ。自爆なんて安い三文芝居、付き合ってられるかよ!」
ディータがショットガンを構え直すが、状況は一刻を争う。
防魔ガラスを破壊し、あの男を止めるには――。
「ヴィーネ、レベッカ、エヴァ! ガラスの防御を削れ! キサラ、ユイ、俺の道を開け!」
「「「はい!」」」
指示と同時に、仲間たちが一斉に動く。
レベッカの蒼炎弾とヴィーネの光線の矢が、防魔ガラスの同じ一点に集中して着弾する。
エヴァの白皇鋼の刃が、その熱と光の衝撃で脆くなった部分へ、パイルバンカーのように激突した。
強固な防魔ガラスが、クモの巣状にヒビ割れ、ついに粉々に砕け散った。
「今だ!」
<雷炎縮地>を発動。
ガラスの破片が舞い散る中――一瞬で監視室の内部へと飛び込んだ。
「な、バカな!? この特注の防魔ガラスを……や、やれ! 殺せ!」
男が狼狽えながら指示を出すと、両脇に控えていた数名の男と、二体の特注ゴーレムが動き出した。
衝撃波が飛来し、それを『思考共鳴の魔導輪』の防御で防ぐ。
続けて《闇壁》で射線を防いだが、無数の魔弾、雷撃、火球を浴びて消える。
特注ゴーレムの得物からブゥゥゥンと音が響く。黒光りする装甲と、六本の腕を持つ異形の機体。
それぞれ、鋼の柄巻のムラサメブレード・改や、ヒートブレードと、魔弾砲を構え、俺の行く手を阻む――。
右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍を<握吸>で強く握り、<勁力槍>を発動。
更に、<滔天仙正理大綱>、<水神の呼び声>、<滔天神働術>、<仙血真髄>を発動。
全身に巡る氣と魔力を、短槍の切っ先へと集中させる。
向かってくる一体目のゴーレムの六本腕の連撃――。
それを<隻眼修羅>で見切り、<風柳・中段受け>の要領で短槍の柄を使ってすべて弾き返す。
敵の体勢が崩れ、ガラ空きになった胸部のコアへ向けて――。
――<白蛇竜異穿>。
短槍から無数の白蛇竜の幻影が迸り、ゴーレムの強固な装甲を内側から食い破るように貫通した。
ドォッ! という重低音と共に、一体目が機能停止して崩れ落ちる。
すぐさま二体目が背から迫るが――<仙魔・龍水移>――。
魔術師の背に転移、「な!?」と、驚く魔術師の片腕は魔導銃と化していて、それをぶっ放していた。
その背を、左手に召喚した魔槍杖バルドークの<魔雷ノ風穿>で穿つ。
背の一部が変形し金属製の防御層を構築していたが、それごと<魔雷ノ風穿>が穿ち抜いた。
「ぐえぁ」
まだ生きているが、<血鎖の饗宴>で始末――。
そこに殺氣――。
上と右から飛来した魔弾を<風柳・異踏>で避け、続けて<仙魔・桂馬歩法>を実行。
予測不可能な軌道を描いて回避。片足で地面を突くまま、ターンし敵の死角へ回り込み、右手の短槍の石突で膝関節を粉砕――崩れ落ちたゴーレムの頭部へ、渾身の<雷飛>を乗せた突きを叩き込んだ。
護衛たちを倒し、スクラップに変えていく。
初老の男の目の前へと着地した。
「ヒィィッ……! く、くるな……」
腰を抜かし、後ずさろうとするが、すでに魔法陣の起動プロセスから逃れられない状態になっていた。
紫色の光が彼の体を包み込み、暴走の臨界点が間近に迫っている。
「地脈の暴走……止められるものなら、止めてみろォォッ!」
男が狂氣の笑い声を上げる。
確かに、この魔法陣は一度起動すれば術者を殺しても止まらない、自立連鎖型の暴走術式のようだ。
だが、
『ヘルメも協力を頼む――』
『はい、<精霊珠想・改>――』
左手を前にかざすと左目から液体状の常闇の水精霊ヘルメが飛び出た。
同時に<水神の呼び声>と<滔天仙正理大綱>を極限まで意識する。
体内の水屬性と<血魔力>と、左目から出た液体状の常闇の水精霊ヘルメの水の魔力が融合し、清冽な冷氣となって掌に集束していく――。
「――<水流操作>、そして<霊血の泉>」
足下から溢れ出した血と水の奔流とルシヴァルの紋章樹を模りながら男の足下で暴走する紫色の魔法陣を覆い尽くすように展開していく。
地脈の熱と暴走する魔力をルシヴァルの紋章樹の根が吸収――。
キラキラと光を帯びていく根が、男の足下にも絡み付いていく。
「……げぇ」
その皮膚から血を吸っては少し干からびていた。
構わず、圧倒的な冷却と浄化の力で強引に中和させていく。
ジュウウウウッ! という激しい水蒸氣爆発が監視室に響き渡る。
「……な、魔力を吸い上げ、否、地脈のエネルギーを、……精霊の力も借りて抑え込むだと……!? ありえん、ありえん!」
男の絶叫と共に、紫色の光が徐々に弱まり、やがて完全に鎮火した。
地鳴りのように響いていた工廠の振動も収まり、沈黙が訪れる。
俺は白蛇竜小神ゲン様の短槍の切っ先を、腰を抜かした男の喉元へと突きつけた。
「……元氣な爺だな、まずは現実を見ろ」
実体化したヘルメも片腕を氷剣に変え、男に突きつけ、
「閣下、殺しますか」
「いや、まだだ」
「ハッ、シュウヤ殿、さっさと殺しちまおうぜ」
ザイクは魔導銃を男に突きつけ、
「待った、折角生きているんだ。後は言わずもがなだ」
俺の言葉に、ザイクが肩をすくめた。
「……ハッ、あんたも意外に怖いな」
カリィを一瞬見てから、両手を拡げ、
「怖い?」
と発言。するとカリィが楽しそうに割り込んで、
「イヒ、うちの総長は、怖いなんてもんじぁなイよ?」
と、カリィがふざけ始める。
ヴィーネたちも「「ふふ」」と微笑むが、俺たちを見ている敵だった爺さんは恐怖に表情を引き攣らせ、ガタガタと震えながら頷くしかなかった。
そこに残党の制圧を終えた皆が、こちらへと集まってきていた。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




