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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百四十一話 巨嘴鳥の化石と相棒を包む風の魔力


 黒豹(ロロ)を跳躍して越えて、階段の踊り場に着地。

 そのまま武神寺の階段を下りながら鉱山都市タンダールの街並みを見ていくと、


「――シュウヤとアキレス様!」


 背後からアシュレイの声が響く。

 飛ぶように階段を跳躍、山吹色の髪が美しく靡く。

 華麗に着地したアシュレイは、


「良かった間に合った」


 アキレス師匠は、


「どうしたのだ」

「あ、二人が、タンダールにどれくらいいるのか聞きたかった」


 アキレス師匠は俺たちをチラッと見てから、


「……まだしばらくは、この都市にいるつもりだ。シュウヤたちも良いかな?」

「はい」

「ん」

「「うん」」

「鉱山都市タンダールの観光も少しだけですからね」

「「たしかに」」


 と、皆が語ると、アキレス師匠は微笑む。

 そのアキレス師匠に、


「では、メルたちと合流してから、泊まる宿を後で決めましょう」

「――あ、なら、武神カシナハの大宿がお勧めだ」


 アシュレイが勧めてきた。


「ふっ、カシナハか……」


 師匠も馴染みの宿が武神カシナハの大宿か。

 アシュレイは、


「あぁ、あのカシナハだ。私も支援している魔温泉商会をも持つ大金持ちでもあるカシナハ。この武神寺からも近い、右手のグレートイスパルの大滝からも近い。山の高みから鉱山都市を見渡せる露天風呂は最高だ」

「それは氣になる!」


 アシュレイの言葉にレベッカが反応すると、アシュレイは笑顔を見せる。

 エヴァとヴィーネとキサラも微笑む。

 

「あぁ、皆も氣に入るはず。そして……その、シュウヤ殿、その宿には多様な温泉と医療設備も整っている。専門的な鍼師や按摩も多く、わたしたちのような存在が、存分に戦える道場もある。武芸者、強者たちが集まる宿でもあるのだ。そこで改めて、模擬戦を頼みたい。槍武術の稽古をつけてくれるとありがたい!」

「それは嬉しい申し出です。是非とも模擬戦をやりましょう」

「良かった! では、今宵にはカシナハに向かいますので、また後で」

「了解」


 アシュレイは拱手をすると、皆に一礼してから、身を翻し、階段を素早く上がっていく。

 アキレス師匠は微笑みながら見上げ、


「……アシュレイは、昔のままだな」


 昔を懐かしむように語る。


「ンン、にゃ~」


 先に階段を下りていた黒豹(ロロ)が、石柱の天辺からこちらを見上げ、『速く来いにゃ~』と言うように鳴いていた。


「相棒、ちょい待った。今、血文字をメルに――」


『メル、急遽の【大鳥の鼻】との会合は、どうなった』

『総長、会合よりも、戦いに巻きこまれてしまいましたよ』

『なんだと、【髑髏鬼】の残党かな』

『あ、そのようです。また、その肩書きを強者が利用したかもです。そして、戦いは大丈夫。今しがたバメルたちと共同で、敵の大半を倒し、会合の続きをしていたところでした』


 皆もメルの血文字を見て、顔色を変えた。

 ヴィーネは〝星見の眼帯〟を嵌め、翡翠の蛇弓(バジュラ)を出現させて、少し体を浮遊させる。

 エヴァは魔導車椅子を浮遊させて、眼下の鉱山都市タンダールを見据えた。

 メルに、


『……なるほど、<血魔力>を放出しといてくれ。それを追う』

『分かりました』


 アキレス師匠は、


「鉱山都市タンダールも、昔から地上、地下で、様々な存在と戦いがあった」

「はい」


 そのまま階段を下りて路地に入る。

 【大鳥の鼻】のアジトである崩れかけた煉瓦造りの建物へと辿り着いた。


 アジトの壁は無惨に爆砕されたようだ。

 煉瓦と建材の破片が多数散らばり、辺りには乾いた土埃の匂いが立ち込めている。

 凄惨な外観とは裏腹に、内からは静まり返った氣配しか感じられない。


 崩れた壁の隙間から中へと足を踏み入れた。

 瓦礫は少ないが、いたるところに傷跡がある。


 黒豹(ロロ)が「にゃご」と、皆へ向けてではなく、建物の奥を睨みながら氣合いの声を発していた。

 警戒したのか? 同時に、その奥に膨大な魔力を見知。


「ングゥゥィィ」


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)も反応した。

 自然と翠緑の風の魔力を体に纏う。

 同時に恒久スキル<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>も反応。

 ――半透明な猫の姿をした『イーフォス』がふわり、と顕現し、『ふふ、奥から、古い風の魔力を感じます』


 ナイアが念話で教えてくれた。


『はい。しかし、精霊ちゃんは少ないです』


 常闇の水精霊ヘルメもすかさず補足してくる。

 メルたちは氣にしていないが、エヴァたちはアイコンタクトをしている。

 そのヴィーネたちと『このまま無難に』と視線で言葉を交わし、進む。


 半透明な猫のイーフォスは、黒豹(ロロ)の背の上に着地している。

 唯一無事だったであろう円卓の傍らで、メル、ヴェロニカ、ベネット、カルード、ハンカイの五人が涼しい顔で控えていた。


「総長、お待ちしておりました」


 メルが優雅に歩み寄り、恭しく一礼した。


「マイロード。ネズミの掃除は滞りなく完了しております」

「遅かったじゃな~い、総長。襲撃を受けたけど、戦いは終わっちゃったわよ♪」


 カルードが静かに告げ、ヴェロニカが妖艶な微笑を向けてくる。


「あぁ。ご苦労だったな、皆」


 円卓へと歩み寄る。

 魔剣を傍らに置き、椅子に深く腰掛けた大柄な女性――【大鳥の鼻】の女盟主バメルがいた。

 その背後には、かつてペルネーテのオークション会場で見かけた幹部のガイとヨミが、緊張で顔を強張らせて立っている。

 俺の姿を認めたバメルは、ゆっくりと立ち上がった。

 その瞳にかすかな魔力が籠もる。魔眼を発動したか。

 

 彼女の視線は、メルたちへの警戒以上に、俺への警戒を怠っていない。

 その振る舞いには、強者ゆえの冷静な判断力が宿っていた。


「……シュウヤ殿、このたびは、お仲間さんたちに、随分と世話になったわ、ありがとう。この借りは必ず返すわ……後、今、そのことを含めてメル殿と友好的な条約について確認をしていたところよ」


 メルは俺たちに会釈するように頷く。

 皆を見てからバメルに、


「あぁ。無事で何よりだ」


 お互いに己の格を保ったまま、無駄な説明を省き、現状の着地点を冷静に確認し合う。

 そこに、ボサボサの髪を揺らしながら<従者長>カリィがひょっこりと顔を出した。


「アハ♪ ボクたちの古巣で随分と痛い目を見たようだネェ、バメルのお姉サン♪」


 カリィが悪態笑顔(カーススマイル)で皮肉る。

 だが、バメルは顔色一つ変えずに低く鼻を鳴らした。


「……相変わらず減らず口のイカレ野郎だ」


 バメルは軽く受け流し、大人の対応を見せた。

 カリィとバメルたちの間に壁を作るように、レベッカとヴィーネが移動した。


 バメルは意匠袖の模様を見せるように両腕を拡げるジェスチャーを取る。

 バメルの両腕の前後に魔札の幻影が浮かぶが直ぐに消えた。

 彼女の能力は魔剣師が元と聞いてたが、魔術師、魔法使いでもあるのかな。

 メルたちは傍で見ていて知っているはずだから、後で聞くか。

 すると、黒豹から黒猫に姿を変えて、机に乗っていた相棒が、


「ンン、にゃお」


 鳴いて、アジトの奥へ向かって鼻をひくつかせた。

 先程から感じていた奥の魔力か。

 アジトの空間にかすかに残る強烈な風の魔力の大本かな。


「……特殊な風の力を感じる。この地下に何かあるのか?」


 俺の問いに、バメルは頷いた。


「えぇ。このアジトの遥か地下深層には、かつて大昔の戦いで墜ちたという荒神……『巨嘴鳥きょしちょうガ・ホウザ』の巨大な嘴の化石が眠っている。それが、我ら【大鳥の鼻】の名の由来であり、先ほど私が使った『風の理』の源泉だ」


 当たり前だが、隠し立てするつもりはないようだ。


「それが【大鳥の鼻】の名の由来であり、バメルの強さの秘密かな」

 

 バメルは静かに頷き、その鋭い双眸を細めた。


「……その通り。だが、強さの源泉であると同時に、我々にとっては呪いのようなものでもある。あの大嘴から漏れ出す『風の理』は強大すぎる。更に、風神セードのような神界側の穏やかな恩恵ではないからね。適合できない者が触れれば、たちまち荒れ狂う風の刃に魂まで切り刻まれるわ」


 バメルが厳しい表情で語る間に、黒猫(ロロ)が机から離れ、黒豹化。

 そのままトコトコと、アジトの奥へと続く分厚い鉄扉の前まで歩み寄る。

 

 前足を扉にかけて「にゃご」と鳴いていた。

 爪は立てていない。どうやら、奥から漏れ出る魔力にかなり惹かれているようだ。


「相棒が随分と氣になっているようだ。……少し、見せてもらうことは可能か?」


 俺が尋ねると、幹部のガイとヨミが顔を見合わせて険しい表情を作った。

 だが、盟主であるバメルは手で彼らを制する。


「本来ならば、部外者を立ち入らせる聖域ではない。……だが、【天凜の月】は我らの窮地を救ってくれたからな」


 バメルはそう言って、ガイとヨミに目配せをした。

 二人は不本意そうながらも頷き、鉄扉の脇にある魔力装置へと手を触れる。

 重々しい駆動音を立てて、鉄扉がゆっくりと左右に開いた。


「それに、私自身も確認しておきたいことがある。ガ・ホウザの『風』が、先ほどから妙にざわついているのだ。……ついてくるといい」


 バメルが先頭に立ち、地下へと続く石造りの幅広い階段を下りていく。

 俺たちも後に続いた。

 黒豹(ロロ)は相変わらず興味津々な様子で、鼻をひくつかせながら俺の先を歩いている。

 背に乗った半透明の猫のイーフォスも、ピンと尻尾を立てていた。

 階段を深く下るにつれ、肌を撫でる風が強くなっていく。

 ただの地下の冷氣ではない。濃密で荒々しい『風の理』だ。


「ふむ……風の魔力が滾る……」


 アキレス師匠の角先から風雷の魔力がバチバチと放出されていた。

 カリィが、「おぉ~♪」と興奮。

 ホフマンは、「メシアの師匠様の魔力もまた洗練され続けていますな、喜ばしい……」


 と呟いている。ヴィーネとキサラは天井の壁画を見ながら階段を下りていく。

 メルとヴェロニカはハンカイと共に階段を下りていた。

 ベネットとエヴァとレベッカは、お菓子を交換している。


「……地下深層はかなり広い。昔の採掘場とも繋がっていてね」


 バメルが振り返らずに説明する。

 その言葉通り、階段を下りきった先に広がっていたのは、想像を絶する巨大な地下空間だった。

 地下特有の暗さや湿っぽさは微塵もない。

 岩壁の至る所に設置された大型の照明魔道具が、真昼のように煌々と空間全体を照らし出している。

 更に巨大なクレーンのような魔機械や、魔力で駆動する掘削機が幾つも稼働し、低い駆動音を響かせていた。


 ここは単なる遺跡ではなく、現在進行形で発掘が進められている大規模な研究施設でもあるのか。

 空間の中央には、天を衝くほど巨大な『鳥の嘴』の化石が鎮座している。

 長い年月を経て石化した表面からは、目視できるほど濃密な翠緑の風の魔力が絶え間なく溢れ出し、肌を刺すような荒々しい『風の理』を空間全体に充満させていた。

 だが、それだけではない。

 周囲の岩肌からは、正体不明の巨大な骨の欠片や、古びた神具の残骸らしきものが無数に顔を覗かせている。

 そして、嘴の化石の真下には、精緻な紋様が刻まれた古代の祭壇までが綺麗に発掘されていた。


「――あ、バメル様! お疲れ様です!」

「やあ、総長。そちらのお客人たちは?」


 祭壇の周囲や魔機械の足場で作業をしていた人族の研究者たちが、次々と手を止めて挨拶をしてくる。

 皆、土埃に塗れながらも充実した顔つきだ。

 バメルは鷹揚に頷き、彼らに作業を続けるよう手で合図をしてから俺を見た。


「見ての通り、ここは神々の残骸が眠る巨大な化石の発掘場だ。あの『巨嘴鳥ガ・ホウザ』の大嘴を中心に、様々な古代の遺物が埋まっている。……実は、この鉱山都市の地下には、ここ以外にも手付かずの荒神の遺跡がいくつか眠っていてね。我々【大鳥の鼻】が独占している、最大の鉱山利権の一つというわけだ」


 そう語るバメルの横顔には、組織の長としての誇りと野心が滲んでいた。

 彼女は俺に向かって、ニヤリと唇の端を上げる。


「外部の者にここを見せるのは初めてよ。これも、窮地を救ってくれた【天凜の月】への『貸し』の一つ……いや、未来の盟友への誠意として受け取ってちょうだい」

「なるほど。随分と氣前のいい誠意だな」


 俺が応じると、アキレス師匠が興味深そうに周囲の神々の残骸を見回し、


「ふむ……風の魔力だけではないな。様々な時代の、多様な神氣を感じる。これほどの規模の神々の痕跡が、ひと所に集まっているとは……」

「ンン、にゃぁぁお!」


 黒豹(ロロ)が嬉しそうに嘶き、巨大な嘴の化石と古代の祭壇へ向かってトコトコと歩き出す。

 背に乗っている半透明の猫のイーフォスも、尻尾をピンと立てて周囲の風の魔力に喜んでいるようだ。

 エヴァは魔導車椅子を進めながら、研究者たちが操作する魔機械に視線を釘付けにしている。

 ヴィーネとキサラも、古代の祭壇の装飾や神々の残骸を真剣な目で見つめていた。

 レベッカが、


「ミスティたちもここは見たかったはず」

「ん、そうかもだけど、パブラマンティ教授とクナたちといる【魔法都市エルンスト】も大事」

「うん」


 レベッカたちの会話を耳にしながら遺跡を再度見ていく。

 注目したのは、巨大な翼竜かティラノサウルスの頭蓋骨のような骨。慎重に削り掘り出された結果だと思うが、どれも生々しいほどリアルだ。しかも、その骨には魔力が宿っているし、注連縄のような物が表面に張り付いているものまであった。

 祭壇の名残もあるから、一種の古代の神社、祭場だった可能性もあるな……。


 まさに、古代のロマンだ。

 すると、黒豹(ロロ)が、「ンンン」と鳴いて、研究者たちの指と、その手が持っていた骨の匂いを嗅いでから、奥の一際大きい巨嘴鳥の骨に近付くと、自然とそこから風が発生し、相棒の体がふわふわ浮き上がった。半透明な魔力猫の<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>のイーフォスから魔力が発生しているからな。

 その相棒は宙を普通にトコトコと歩く。足下には、可愛らしい肉球の形の魔力の光が発生していた。

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