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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百三十六話 風雷のアキレス師匠と古巣【武神寺】


 巨大な相棒に捕まった。体中を触手の肉球でスタンプされる悪戯を受けたが――。

 そのままなすがままで、相棒の頭部に戻る。


 その相棒と皆と共に――南の樹海を北へと抜ける。

 活氣あふれる鉱山都市タンダールへと戻ってきた。


 山の傾斜を活かした渋い街並みの鉱山都市タンダール。

 煙突から濛々と湧く煤煙に、石焼き芋を売る馬車が多いし、人族とドワーフとエルフと獣人の冒険者に商人たちも非常に多い。あらゆるところで活氣に溢れている。


 闘技場の建物もいたるところにあるようだ。

 そんな鉱山都市の街並みを見るように進む。

 山の斜面に建つ【未開スキル探索教団】の事務所が見えてきた。


 そこで、同乗している【未開スキル探索教団】の左長トリヴァラスとメンバーたちを見る。

 

「――そろそろ着くぞ。あそこの斜面だ」


 指し示したのは、山の斜面に建つ教団事務所のすぐ側。

 巨大な相棒は俺の意思を汲み取り、空を切るような鋭い角度で急降下を開始した。

 風が鼓膜を叩き、景色が猛烈な勢いで迫る。


「うおぉっ!?」

「相変わらず凄まじい機動――」


 トリヴァラスたちが悲鳴に近い声を上げていく。

 相棒は事務所へと続く急な坂の石段の真上辺りで、橙色の魔力を噴出すると、急激に静止、そのまま羽根が落下するように柔らかく踊り場付近へと着地した――。


「「おぉ」」

「すげぇ、というか気持ち良さも半端ねぇな」

「「あぁ」」

「しかも、このモコモコ具合も最高なんだけど!」

「「たしかに!」」


 相棒の挙動になれていないリックスたちが、感動しているように声をハモらせていた。


「ンン――」


 喉声を鳴らした相棒は、そんな未開スキル探索教団のメンバーたちの体に無数の触手を絡ませては、事務所の前に降ろしていった。


 そんな相棒の巨大な眉の長い毛の根元に――手を当て、


「相棒、ご苦労さん、いつもありがとな」


 と言いながら、撫でていくと、「ンンン、にゃぉぉ~」と鳴いている神獣(ロロ)に、俺の頭部にも無数の触手が飛来、髪をグチャグチャに撫でられていく。


 耳も引っ張られる始末――。


「分かったから――」


 と言いながら、相棒の悪戯から逃げるように立ち上がり、飛び降りた。


「ンンン」


 神獣(ロロ)の不満そうな声が面白い。


「ん、ロロちゃん、ありがと――」

「ロロ様、ありがとです――」


 皆も、飛び降りてくる。

 皆が降りると相棒は、周囲を見てから一瞬で黒豹へと姿を変え、俺の足下へ着地した。


「やっぱり飛ぶのは気持ちいいわね」

「ん、おかげで、速くタンダールに戻れた」


 レベッカやエヴァが髪を整えながら歩き出す。

 トリヴァラスは腰を抜かしそうになりながらも、無事に帰還できた安堵からか苦笑を浮かべていた。


 事務所に入ると、左長トリヴァラスが奥へと案内してくれた。

 事務所の奥、職の神レフォトの像が鎮座する祭壇の前に先ほどホフマンが抽出した二つの封印水晶が安置されている。


「皆様の協力に、改めて、此度の尽力に深く感謝いたします」


 トリヴァラスの言葉に、


「にゃおぉ~」


 と黒豹(ロロ)が反応。

 そのトリヴァラスの足に頭突きを行い甘えてから、反転し、俺の近くでゴロンと寝転がると横っ腹を見せつつ右の前足を、俺に伸ばしながら黒猫に戻る。

 

 腹の産毛と肉球に、前足から出た爪先が元の前足に戻る。

 それが可愛い。

 

「ははっ、神獣様の貢献があっての出来事でしたな!」

「にゃ」


 足下の黒猫(ロロ)が右や左に猫転がりながら返事をしていた。

 トリヴァラスは、


「そして、我らの抽出技術と、ホフマン殿の<脳切血盗>の融合……まさに歴史的偉業です」


 その言葉にホフマンは、


「ハッ、真なる神たるメシアの御威光の前に、不可能などありません。教団の器も、なかなかに優秀でしたよ」


 と語り、恭しく一礼。


 トリヴァラスも満足げに頷く。

 トリヴァラスは水晶の一つを手に取り、俺の前に差し出した。


「では、約束通り、この特異スキルはシュウヤ殿に提供しよう。我々で解析した結果、蜻蛉の特異個体から抽出したものは『重力異常と空間歪曲』を伴う複合魔眼スキル<旧神・空歪魔眼>。そして鹿頭から抽出したものは『雷属性と時空属性』を併せ持つ特殊な雷撃スキル<天瞬・雷霆時角てんしゅん・らいていじかく>だった。どちらを望まれるかな?」


 二つの水晶が皆の魔力に呼応するように脈動している。

 <隻眼修羅>と<闇透纏視>で凝視――。

 

 片方には幾重にも折り重なる空間の歪みが、もう片方には紫電と白銀の螺旋が封じ込められていた。


「質問があるが、雷と時空属性限定?」

「いえ、このスキルは職の神レフォト様からの祝福でもある。本人に、属性がなくとも使うことは可能。無論、かすかでも属性の能力があれば、それが倍増します」

「了解した。では、空間を歪める魔眼も魅力的だが……鹿頭の、雷と時空の複合スキル<天瞬・雷霆時角>にしようかと」

「承知した。では、この水晶を……」


 トリヴァラスが手渡そうとするのを制し、傍らに立つアキレス師匠へと視線を向けた。


「いや、俺ではなく、アキレス師匠に受け取ってほしいんだ」

「なっ、わしにか!?」


 アキレス師匠が目を丸くする。


「はい。師匠は風属性が強いことは知ってますが、関係ないようですからね」

「雷属性、一応は持つが……」

「それならば尚のこと――」


 更に、アイテムボックスから一つのフルーツのような実を取り出した。

 かつてラムーがフニュアンの宝箱から得た物を鑑定した、神話(ミソロジー)級の果実――〝バーマアドの実〟。


 取り出した瞬間、室内に清冽な風の魔力が吹き荒れる。


「な、なんだその膨大な風の魔力は……!」

「……神の氣すら感じるが……」

「神界ではなく魔界の風……」


 教団の面々が息を呑む。構わず、師匠に差し出した。


「これも師匠に。食べれば<狂風バーマアド>などの風の能力が得られる神話(ミソロジー)級の実です」

「しゅ、シュウヤ……自分が何を言っておるのか分かっておるのか!? これほどの秘宝と特異スキル……お前さんが使えば、更なる高みへと昇れるのだぞ?」


 頷いた。


「分かっています。風槍流を極める師匠にこそ、この風の至宝と雷のスキルは相応しい。レファにプレゼントするのもいいかとは思いますが、いきなりの膨大な能力付与は、まだ成長途中には、危険かもですからね」

「……ふむ……だから、わしか……」


 里を旅立ってから、途方もない距離と過酷な旅路を隔てていたが……。

 今、改めて、その存在の大きさを痛感する。


 アキレス師匠の教えは、常に槍と共にあった。


 魔人武王ガンジスやベフェキラのような規格外の強敵と対峙した極限状態でも、師匠から授かった基礎が、言葉が、導いてくれた。


 アキレス師匠には、一日でも長く生きて共に居続けてほしい。

 

「これは俺の我儘でもある。師匠には、これからもずっと元氣に槍を振るってもらい、長生きしてほしいんです。だから、受け取ってください」


 その言葉に、アキレス師匠の目から大粒の涙が溢れ出した。


「……バカ弟子が。師匠を泣かせるでない……」


 震える手でスキル水晶とバーマアドの実を受け取った師匠は、「……ありがたく、頂戴する……」と言うと、深く、深く頷いて、笑顔で、


「……お前さんの心意氣、わしの魂に刻み込もう!」


 アキレス師匠は水晶と実を掲げると、皆が拍手をしていく。

 相棒も嬉しそうに師匠の足に頭部を寄せていく。


「にゃおぉ~」


 と、鳴くと、師匠の右肩に跳躍し、首元をペロペロと舐めていく。


「ぬぉ~くすぐったい! ははは、神獣様、嬉しいですが、このままでは腰が曲がってしまいますぞ!」

「相棒、祝福の氣持ちは十分伝わっている。降りて、食べさせてあげてくれ」

「にゃお~」


 黒猫(ロロ)はアキレス師匠の肩から離れて着地。

 皆が笑う中、師匠は、


「では、水晶から挑戦しよう――」


 途端に、アキレス師匠の手に握られた『雷・時空』の複合水晶が眩い紫電と白銀の螺旋を放ち、師匠の腕を伝って体内へと一氣に吸い込まれていく。

 特異な雷撃スキル<天瞬・雷霆時角>の力が定着したかな。


「成功した。雷撃スキルを得た!」

「おめでとうございます」

「「おめでとうございます!」」


 アキレス師匠は、


「ありがとう。次は、この実を――」


 師匠は手にした『バーマアドの実』を躊躇いなくかじった。

 ドッと鈍い音が師匠から響くと、師匠の体から、凄まじい暴風と紫電が噴き上がった。


「おおおぉぉッ!」


 事務所の床や壁がミシミシと軋むほどの魔圧。

 神々しい風のオーラと、時空を歪めるような雷光が噴出し続けた。

 

 老練な武人の体を若々しく活性化させたように見える。


「おぉ、力が……風と雷の理が、かつてないほどに鮮明に視えるわい!」


 タンザの黒槍を握るアキレス師匠の姿は、まさに風神と雷神が合わさったかのような圧倒的な威容を放っていた。


「見事です、師匠」

「うむ! シュウヤよ、本当にありがとうな!」


 その圧倒的な風の魔力に当てられ、ふと師匠の渾名の一つを思い出した。

 魔界で入手していた『風神セードノ戦兜』。それを取り出し、師匠へ向き直る。


「師匠、もう一つ。かつて師匠が『風のアキレス』と呼ばれていたと聞いて、これもプレゼントしようと思っていたんです。風神セードノ戦兜です」


 取り出した瞬間――。


「ングゥゥィィ、ソレ、魔力アル、ゾォイ!」


肩の竜頭装甲(ハルホンク)が顎を鳴らし、兜へ向けて強い食欲をアピールしてきた。

 その自己主張の激しさに思わず苦笑する。

 アキレス師匠は少し驚いたように目を見張ったが、すぐに豪快に笑い飛ばした。


「カカッ! 相変わらず食い意地の張った竜頭よ」

「悪いが、ハルホンク、これは師匠に渡す」

「ングゥゥィィ、主、想イ、ワカッタ、ゾォイ!」

「ハハッ、シュウヤ。わしは十分だ。その兜は、ハルホンクに取り込ませるがいい。同時にシュウヤも強くなるのだからな」


 皆も賛成するように、目が合うと頷いていく。


「分かりました。ではお言葉に甘えて……ハルホンク、喰え――」

「ングゥゥィィ!」


 ハルホンクが顎を割り、風神セードノ戦兜を丸呑みにする。

 ガリィィッ! と硬質な破砕音が響き、装甲の隙間から翠緑の風の魔力が吹き出した。

 すると、その風の属性とアキレス師匠の風槍流の氣に呼応するように、恒久スキル<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>が反応し――半透明な猫の姿をした『イーフォス』がふわり、と顕現した。


「にゃ~」

「にゃ?」


黒猫(ロロ)が不思議そうに首を傾げ、半透明なイーフォスの鼻先をクンクンと嗅ぐ。

 イーフォスは風のように軽やかに周りを回り、すりすりと体を寄せた。

 エヴァやヴィーネたちは、既に見慣れたその光景に「あ、また出てきた」


「魔界ではなくとも出てくることは可能なのですね」


 ヴィーネの言葉に皆が頷く。

 皆、温かく微笑んでいる。


「……では、トリヴァラス。俺たちはこれで」

「シュウヤ殿たち、はい。光魔ルシヴァル、及び、サイデイルのキッシュ殿によろしくお伝えください。また【血星海月雷吸宵闇・大連盟】とも末永い付き合いを望みまする」

「それはこちらも同じ、俺たちの立場を理解しているなら、そのまま同盟は維持だ」

「はい、勿論です」


 トリヴァラスと固い握手を交わし、俺たちは教団事務所を後にした。

 そこで、


「師匠、武神寺を見てみたいです」

「了解した。古巣の【武神寺】に案内しよう」

「かつての同僚や、修業時代の仲間たちはいるんでしょうか」

「いるかもだ。住職、師範代に、今なら神王位たちの何人かも、修業していると思うぞ」

「なるほど」

「ふっ、今のわしたちの槍を見れば腰を抜かすじゃろうて!」


 アキレス師匠の先導で、俺たちは鉱山都市の上層に続く階段を上る。

 松と竹が鬱蒼と群生する山道へと足を踏み入れた。

 水氣に満ちた華厳の滝と似た水場を過ぎる、喧騒に満ちた下層とは打って変わり、この一帯は澄んだ靈氣に満ちている。


 石段を登るごとに、木刀が打ち合う音や、鋭い氣合の声が風に乗って聞こえてきた。


「ん、空氣が違う。武道の聖地って感じ」


 エヴァが紫色の瞳を細めて周囲を見回す。

 やがて、苔生した巨大な石門が見えてきた――。


 門の扁額には力強い筆致で『武神寺』と刻まれている。

 石門の左の柱には、青龍のような存在が描かれている。

 右の柱には、白虎のような存在が描かれている。

 

 玄武と朱雀の模様も石門のレリーフに刻まれている。


 確実に魔力が宿っているし、日光東照宮の「見猿聞か猿言わ猿」のように、高度な呪術的暗号が隠されていそうだ。


 そういえば、江戸を呪術的に設計した天海僧正は、実は明智光秀だったという有名な仮説がある。本能寺の変で織田信長を裏切ったというのが正史だが、内実は全く異なるのかもしれない。


 信長の遺体は、結局見つからなかった。


 一説には、イエズス会など西洋の列強による日本植民地化の野望――布教を隠れ蓑にした奴隷貿易や代理戦争の思惑――をいち早く察知した信長と光秀が、裏で手を結んで引き起こした壮大な偽装劇だったとも言われている。


 そこに秀吉や家康も深く関わっていたのかもしれない。


 表舞台から姿を消した信長は、海を渡って『ジョルダーノ・ブルーノ』と名乗り、ヨーロッパの地でカトリック教会の闇と戦い続けていたという、荒唐無稽だがロマン溢れる説すらあるほどだ。


 信長の遺志を継いだ秀吉や家康たち権力者層が、カトリックの侵略を退けるためにプロテスタントのオランダとのみ貿易を続け、完璧な防壁として江戸幕府の『鎖国』を完成させたと考えれば、数々の歴史の謎がピタリと符号する。奇しくも、天下分け目の戦いを経て日本が統一へ向かった一六〇〇年。その年にジョルダーノ・ブルーノが火炙りに処されているという史実も、何か数奇な運命を感じさせる。


 異世界の東洋的な寺院を前にして、ふと地球の壮大な歴史ミステリーに思いを馳せてしまった。


 と、そんなことを思いだしつつ……門を潜る――。


 そこには広大な白砂の訓練場が広がっていた。


 様々な種族の武闘僧や剣士、槍使いが、滝のような汗を流しながら修練に励んでいた。

 剣と槍、それぞれの三大流派の熱氣が渦巻いている。


 アキレス師匠は、まず中央に鎮座する神々の像へと向かった。

 戦神ヴァイス、大地の神ガイア、秩序の神オリミール、正義の神シャファ。

 神界セウロスの偉大なる神々の像たちへと、師匠は丁寧に感謝を込めてお辞儀をし、俺たちもそれに倣った。


「オラァッ! 腰が高いぞ! 風の理を感じろ!」


 訓練場の中央で、一際大きな声を張り上げている巨漢の男がいた。

 頭を丸め、顔には無数の傷跡。手には巨大な木槍を握り、若い僧侶たちを次々と薙ぎ倒している。


「……相変わらず乱暴な指導をしとるのう、ジメクの奴は」


 アキレス師匠が呆れたようにため息を吐く。

 その声に反応し、巨漢の男――ジメクがピタリと動きを止めた。

 アキレス師匠の姿を捉えた瞬間、その強面が驚愕に歪む。


「……アキレス!? 生きてやがったのか、この野郎!」

「カカッ! 久しぶりじゃな、ジメク」


 ジメクが駆け寄り、二人は無言のまま互いの胸を思い切り拳で叩き合った。


「ガハハ! で、そっちの兄ちゃんが噂の弟子か?」


 ジメクの鋭い視線が俺に向けられる。

 アキレス師匠が、俺を「わしを超えた自慢の弟子」と紹介すると、訓練場の空氣が一変した。


「……アキレス様を、超えただと?」


 震えるような声と共に、奥の道場から一人の槍使いが歩み出てきた。

 山吹色の長髪を花の髪飾り一本の束に纏めて肩にかけた、大柄で美しいエルフの女性だ。

 彼女の紺碧の鋭い瞳は、やがて、俺を通り越す。


 アキレス師匠の姿をジッと見つめて、


「ほ、本当……なの……」


 と、呟きながら歩いてくる。

 道着の上からでも分かる鍛え抜かれた体躯が、かすかに震えている。


「……魔技のアキレス……」

「おぉ、アシュレイ。息災であったか。相変わらず良い歩法をしとる」

「っ……生きて、いたのか……!」


 エルフの女性――アシュレイは、足早に駆け寄ると、アキレス師匠の前で感極まったように片膝を突いた。その顔には、隠しきれない深い敬愛と歓喜の色が浮かんでいる。


「ふん、立たんかアシュレイ。お前さんほどの実力者が、容易く膝を突くものではないぞ」

「い、いえ……! あの日、貴方の『<刺突>に始まり<刺突>で終わる』槍に敗れてから……私の槍は常に貴方と共にありました。再びこうしてお会いできたこと、武神に感謝いたします」


 アキレス師匠の言葉に、アシュレイは弾かれたように立ち上がるが、その態度は弟子のようでもあった。師匠の知り合いか。それにしても、尋常ではない慕い方だ。


 ジメクが豪快に笑い、


「ガハハ! あのアシュレイが、こうも豹変とは!」


 アシュレイは頬を朱に染め、キッとして、ジメクを睨む。


「フンッ、分かってて聞くな!」

「ははは、それよりアシュレイよ。驚くのはまだ早いぜ。そっちの黒髪の兄ちゃん、アキレスが自ら『自分を超えた自慢の弟子』だってよ!」

「……なに?」


 アシュレイの鋭い紺碧の瞳が、俺へと向けられた。

 彼女の視線が、俺の足下から重心、そしてかすかに漏れる魔力へと舐めるように這う。

 

 そして、わずかに息を呑んだ。


「……凄まじい魔力密度と、隙の欠片もない自然体の歩法。なるほど、只者ではないな。……私はアシュレイ・アキレス。お前の名は?」

「シュウヤです」


 短く答えると、アシュレイは「シュウヤ……」と反芻するように呟き、深く頷いた。


 鋭い視線だが、明らかに質が変化。

 確かな敬意を、彼女の美しい瞳に感じた。

 

 そこに、


「おいおい、あの魔技のアキレス様を超えただと……?」

「冗談じゃねぇ! ポッと出の角ありの若造が、アキレス様やアシュレイ様以上の武を持ってるっていうのか!」

「面白い。豪槍流のこの俺、『砕岩のゴルゴン』がその実力、試してやる!」


 怒号と共に、白砂の訓練場にいた十数人の猛者たちが、殺氣を孕んだ視線を俺に叩きつけてきた。

 ジメクが、


「お前たち……」

「ふっ、ジメク、放っておけ」


 と、アキレス師匠はジメクとアシュレイを止めるように片腕を出している。

 ジメクとアシュレイは俺と、周囲の武芸者たちを見ては、溜め息を付き、


「おい、アキレスらしいが……」

「ふっ、なるほど、門弟たちの教育にもなるといいたいんだろう」

 

 とアシュレイは不敵に笑う。

 ジメクは俺を見て、「……」なんとも言えない表情を浮かべる。


 とりあえず、ゴロニャンコを繰り返している黒猫(ロロ)と、それをあやしているようなレベッカに、ヴィーネ、キサラ、エヴァたちとアイコンタクトをしていく。

 

 皆、微笑のまま『お任せです』という表情だ。

 俺はボディランゲージで、『Why?』と言うように、両手を上げる。


 しかし、アキレス師匠の凄まじさを骨の髄まで知るアシュレイやジメクとは違い、血気盛んな他の門弟たちにとって、「アキレスを超えた」という言葉は到底受け入れられるものではなかったようだな。

 ジメクは、


「この者たちは、八槍神王の下位、十位から二十位台に位置するランカーたちでもある」

「へぇ、そうなんですね」


 ゴルゴンと名乗った槍使いが、


「師範代! 俺たちが挑戦しても?」


 ジメクは師匠とアシュレイと、俺たちを交互に見遣る。

 師匠は俺を見て、静かに頷いていた。

 ならば、


「……俺も戦いは好きですからね、一向に構いませんよ」


 アキレス師匠も止める様子はなく、ニヤリと笑って俺を見ている。

 ジメクやアシュレイも、俺の真の実力を見極めようと静かに一歩下がった。


「ハッ! 言うじゃねぇか」


 ゴルゴンの頭部の禿げた額には、六文銭のような印がある。

 少林寺の修行僧的な武芸者か。


 得物は何が良いか……と迷っていると……。


「シュウヤ、これを――」


 アキレス師匠がタンザの黒槍を放ってくれた。それを掴む――。


「ありがとうございます――」

「風槍流を見せてやれ」

「はい」


 タンザの黒槍を胸元に置くように、皆にも拱手。


続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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