二千百三十五話 黒虎に乗るアキレス師匠と鏡の防壁
圧倒的な質量の雷撃と<ヘグポリネの紫電幕>が正面から衝突し、空間を削るような音を立てて蒸発するように打ち消していく。
その紫電の残滓を突くように魔槍杖バルドークを<投擲>。
八眼六腕は、三腕の先に積層した魔法陣を多重に重ねて、魔槍杖バルドークの紅矛を防ぐ。即座に<握吸>で魔槍杖バルドークを引き寄せ――そこに魔槍杖バルドークと交差するように白銀の閃光が地を這った。
「遅い!」
ユイだ。<銀靱・壱>の神速の踏み込み――。
八眼六腕の鹿頭魔獣の懐へと潜り込む。
三刀流、神鬼・霊風とイギル・ヴァイスナーの双剣が下から上へと交差し、鹿頭の強靭な胴体装甲に深い十字の亀裂を刻み込んだ。
「グルルォォォッ!」
鹿頭が苦痛の咆哮を上げ、六本の腕が持つ魔剣を無差別に振り下ろす。
だが、その凶刃はユイには届かない、長剣が横合いから割り込んだ。
「大振りが過ぎる――」
アキレス師匠だ。<導魔術>で操作された長剣が、振り下ろされる六本の魔剣と衝突し、次々に弾く。力任せの斬撃を柔よく剛を制す理合いで完璧に逸らしていた。更にアキレス師匠本人が八眼六腕の鹿頭魔獣との間合いを詰め、風車の如くの黒槍の一閃が、八眼六腕の脇にクリーンヒット。
「ぐぇ」
八眼六腕の鹿頭魔獣は体をくねらせながら後退しつつも、魔剣から魔刃をアキレス師匠たちに繰り出す。
その魔刃はアキレス師匠たちには当たらない。
老練な風槍流の動きで的確に避ける。
八眼六腕の魔獣は体勢を強引に直し、前に出ようとした、
「――師匠、合わせます!」
「おうさ!」
体勢を直したばかりの鹿頭との間合いを<雷炎縮地>で潰す。
左足の踏み込みと共に、ガラ空きの胸へ<魔雷ノ風穿>を放つ。
紫電を纏った螺旋の突きが分厚い毛皮と筋肉を貫き、鹿頭を大きく仰け反らせた。
そこへ、「シュウヤ様――」キサラの声が響く。
その背後のキサラの声に合わせ<風柳・異踏>を使い、右に軸をずらすように移動して射線を作ると、その射線を一直線に<投擲>された<血魔力>が込められたダモアヌンの魔槍が直進していくのが見えた。
<投擲>する。
――<補陀落>だろう。
放たれた魔槍が鹿頭の太腿を貫き、螺旋状のフィラメントが展開してその巨体を地面に縫い留めた。
鹿頭を完全に制圧したかに見えた刹那――。
頭上の空間が不自然に歪み、鼓膜を圧迫するような不快な羽音が響き渡った。
「横槍か――」
旧神ゴ・ラード側の特異個体。
蜻蛉の頭部が石突と柄頭に付いた異形の魔剣と魔槍を持つ姿。
その武器にびっしりと埋め込まれた無数の魔眼が、ぎょろぎょろと一斉にこちらを睨み据えた。
瞬間、周囲の重力が泥のように重く変質したように――。
視界の端がぐにゃりと湾曲する。
大きい<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を向かわせるが、左の遠くに転移し、紫色の網のようなモノが絡まっていた。即座に消す。
そこで『思考共鳴の魔導輪』の恩恵を受けた無詠唱の<古代魔法>の防御陣形を展開させる。湾曲した空間にて爆発が起きていく。
「――重力異常と空間の歪曲……厄介な魔眼――」
ヴィーネが〝星見の眼帯〟を装備し、翡翠の蛇弓を陽迅弓ヘイズに変化させ、月迅影追矢ビスラを連続的に射出していく。
その月迅影追矢ビスラは、湾曲した空間を突き抜けたが、虚空に消えた。
直後、魔剣型と魔槍型の特異個体が更に異能を振るう。
宙空に「鏡のようなモノ」を無数に生み出し、俺たちを取り囲むように迷宮じみた陣形を展開した。
鏡から空間を歪ませる音波のような波動が繰り出されるが、俺が皆を守るように個別に用意した無詠唱の<古代魔法>の防御陣形が作用し、波動はあまり皆には届かない。
そこへ、強烈な雷鳴と共に無詠唱の烈級:雷属性、雷帝迅閃の雷刃が直進する。
だが、その強大な雷撃すらも無数に浮かぶ鏡に反射され、軌道を乱された。逸れた雷刃は、偶然にも八眼六腕の魔獣が用意した防御魔法陣を斬り裂き、そのまま魔剣ごと片腕を切断する。
片腕は即座に再生していくが、この厄介な鏡の防壁に対応すべく皆が動いた。ヴィーネが反射の角度を計算して次弾を放ち、ユイやエヴァ、キサラたちも、鏡を割り砕くための魔法や斬撃を一斉に繰り出していく。
魔剣型と魔槍型の特異個体にユイが<バーヴァイの魔刃>を繰り出す。
魔剣型と衝突し、魔剣型は蜻蛉の幻影を生み出しながら宙空を回転していく。
魔槍型は<バーヴァイの魔刃>を避けたが、ヴィーネの月迅影追矢ビスラを喰らって爆発していた。
その乱戦の最中、相棒が「ンン、にゃご――」と鳴き声を上げながら、巨大な黒虎へと変化して前線へと突撃していった。
「む、神獣様!」
前衛に出ていたアキレス師匠が嬉しそうに相棒の触手を掴むと、そのまま強引に引き寄せられ、巨大な黒虎の背へと跨る。
「おぉぉぉ!」
アキレス師匠の若々しく興奮した声が面白い――。
「にゃごぉ!」
師匠を乗せた黒虎が巨体を躍動させた。
邪魔な鏡の群れに対し、前足の鋭い爪による強烈な斬り払いを放ち、次々と粉砕。更に宙空でしなやかに体を捻ると、強靭な後ろ足の蹴りを叩き込み、特異個体が放った魔法や残る鏡をまとめて粉砕し、弾き飛ばした。
その圧倒的な機動力の背に乗るアキレス師匠は、右手にタンザの黒槍を構えつつ、<導魔術>を発動。
宙空に二振りの長剣と、一振りの光剣を浮遊させ、自在に操作する。
浮遊する三つの剣が、黒虎の攻撃から漏れた鏡を的確に割り砕きながら敵の死角を見事に突き、アキレス師匠本人は、相棒から離れ、風車の如き黒槍の連撃で八眼六腕の魔獣を激しく牽制していく。
そして、相棒が後退して着地したタイミングに合わせ、再びその背に乗るアキレス師匠が渋い。再び、師匠と黒虎は、特異個体が宙空に生み出し続けている鏡を次々と割っていく。ユイとカリィも鏡を割りながら、八眼六腕の魔獣にも牽制攻撃を繰り返す。
相棒は師匠と離れると紅蓮の炎を吐いて魔剣型をまたも吹き飛ばす。
そして、八眼六腕の魔獣に特大の触手骨剣を衝突させ、跳躍、魔槍を後脚で蹴り飛ばし、鏡を喰らうように砕きながら螺旋回転、その背後の鏡から出た魔剣は俺の<鎖>がぶち抜いた――。
鏡の防壁を力と技で完全に突破した黒虎は、着地と同時に身を沈め、体表から無数の触手骨剣を展開。
縦横無尽に伸びた触手骨剣の群れが、迎撃に出ようとした鹿頭の魔獣の六腕を絡め取り、完全に封じ込めた。
カリィが、
「ナイスだよ、神獣ちゃん!」
怪士ノあやかしを<投擲>。八眼六腕の魔獣の体に突き刺さった。
更に、突き刺さった怪士ノあやかしを手元に引き戻し、飛剣流進行性の剣法の袈裟斬りで八眼六腕の魔獣の腕の数本を斬り捨てた。
エヴァは、
「ん、押し返す」
魔導車椅子から浮上し、全身から紫色の魔力と<血魔力>を放出した。
腰ベルトのアイテムボックスから出した白皇鋼の金属板が俺たちの頭上と足下に展開され、物理的な支柱となって、旧神ゴ・ラード側の特異個体の、蜻蛉の頭部が石突と柄頭に付いた異形の魔剣と魔槍が繰り出している異常重力場を強引に相殺してくれた。
「ナイス、エヴァ! 羽虫の親玉なんて、燃やし尽くしてあげる!」
レベッカが城隍神レムランの竜杖を高く掲げる。
杖の装飾から解き放たれたペルマドンとナイトオブソブリンが巨大なドラゴンへと実体化し、特異個体へ向けて炎と雷のブレスを吐き出した。
旧神ゴ・ラード側の特異個体、蜻蛉の頭部が石突と柄頭に付いた異形の魔剣と魔槍は防御魔法陣を展開するが、それらの防御魔法陣は一部が消し飛ぶ。
レベッカは《炎塔攻防陣》を発動。局所的な炎の壁が敵の周囲に幾重にも発生し、その機動力を削ぐ。
逃げ場を失った蜻蛉の特異個体へ、彼女が放った<光魔蒼炎・血霊玉>の勾玉が直撃し、魔眼の一部を激しく焼き焦がした。
更に、クレインの<朱華帝鳥エメンタル>や鳳凰ラーガマウダーのような大きい火鳥がレベッカの蒼炎を発している体から生まれ出る。
皇級:火属性炎神鳥の囀りだろう。
そのフェニックス・ロアが蜻蛉の特異個体の防御の魔法陣を破壊し、魔剣型と衝突、魔槍型にはエヴァの土属性の新魔法だと思われる大きい岩が衝突して弾かれていた。魔剣型の特異個体には、ホフマンは<ヴァルプルギスの夜>を展開、半身を<血魔力>で構成した、炎、霧にも見える異質な、独自の心象世界に変えている。
その内部から無数の魔剣を持った骨腕が出現し、鴉と首ナシ騎士も召喚され、特異個体に突撃し、消えては、何回も<ヴァルプルギスの夜>から骨腕やら奇怪な怪物を生み出して、魔剣型の特異個体が繰り出す反撃を押さえ、逆に、追い詰めていく。
「ギャリリリリッ!」
「グボァァ」
「ギュゥ!!」
特異個体たちが苦悶の声を上げ、魔眼の呪縛が緩む。
その一瞬の隙を逃さない。
<雷飛>で宙空へと跳躍し、蜻蛉の特異個体の眼前に迫った。
左手に召喚した神槍ガンジスを突き出し、強烈な光の刺突<光穿>を放つ。
方天画戟に似た双月刃が、敵の武器の柄頭に付いた巨大な魔眼を真っ向から貫き潰した。
視界を奪われ狂乱する特異個体の胴へ向け、今度は右手の魔槍杖バルドークで必殺の<魔皇・無閃>を振り抜く。
紅斧刃が魔剣を持つ腕を根元から切断し、特異個体は緑色の体液を撒き散らしながら地面へと墜落していった。
一方、地上ではカリィが八眼六腕の魔獣が放つ反撃の魔光線をバク転で回避。そのまま跳躍し、宙空に見えない足場があるかのように両足で蹴って反動を得ると、魔獣の死角である背後へと転がり込む。
ところが、八眼六腕の魔獣は背中からカリィへ向けて、奇怪な肉の塊のような弾を放射してきた。
カリィは、片手で地面を叩き、浮かぶと、目の前を通り過ぎる奇怪な塊を伸ばした舌で舐めるように避け、長細い片足で地面に着地し、腰をくねらせ、悪態笑顔を浮かべる。
そのカリィのフォローに<鎖>を八眼六腕の魔獣に差し向ける――。
八眼六腕の魔獣は真上に跳躍し、<鎖>を避けると、体から奇怪な塊を生み出し、皆に繰り出してくる。
それらの奇怪な塊は、相棒の触手骨剣と衝突し、弾かれた。
更に、飛び掛かった黒虎の前足の爪を防御した八眼六腕の魔獣は、衝撃を殺せず地面に激突。更に、「にゃごぁ」と鳴いた相棒の紅蓮の炎を全身に浴びて爆ぜたが、八眼六腕の魔獣は体を燃焼させながら飛び出て、その燃焼した体から奇怪な炎塊を乱暴にいたるところに放射――。
カリィは、短剣『怪士ノあやかし』を左手から右手に運び、また左手に運ぶように動かし、飛来した炎塊を左右に弾く。
「――アハ♪ タフな鹿サンだネ!」
と、<短剣・荒四肢>の変幻自在な体術で近づき、鹿頭の死角を舞う。
アキレス師匠と相棒も前に出て連携を仕掛ける。俺もそれに呼応し、
「合わせます――」
二人の動きに合わせ、右手の魔槍杖バルドークで豪快な薙ぎ払い<龍豪閃>を放ちつつ、左手の神槍ガンジスを下段へと構え直した。
そのまま足元を目掛け、大地を砕く勢いで<戦神流・厳穿>を叩き込む。
「グエェァ」
八眼六腕の魔獣の片足を完全に粉砕した。
相棒の触手骨剣やカリィと師匠の一撃、ヴィーネの月迅影追矢ビスラが突き刺さっていく。ユイの神鬼・霊風一本による<血刃翔刹穿>のような新技も決まり、エヴァの宝魔異槌ソム・ゴラの連続攻撃も決まった。
特異個体たちは、俺たちの猛攻の前に戦闘能力を喪失し、地べたに這いつくばった。
「トリヴァラス! 今だ!」
合図と共に、後方で待機していた未開スキル探索教団の精鋭たちが一斉に動いた。
「ウノ、マレガ、アレイザ! 結界を展開しろ! モナア、リックスは封印の準備だ!」
左長トリヴァラスの鋭い号令が飛ぶ。
ウノが<オアネスの紐>を射出し、鹿頭と蜻蛉の特異個体を亀甲縛りのように厳重に縛り上げる。アレイザが幻影の霧を散布して敵の感覚を完全に狂わせ、マレガが二槍流の正確な突きで敵の魔力結節点のみを削いで反撃の余地を奪った。
「大人しくしなさい!」
上空からモナアが朱色と蒼色の刃を躍らせて、敵の四肢を地面に固定する。
最後にリックスが怪しげな液体を周囲に撒き散らし、魔力の渦を造り上げた。
「そのまま<環封印>。〝ハム底〟を展開する!」
リックスの呪文と共に、地面に描かれた魔法陣が青白く発光し、三体の特異個体は完全な静止状態に置かれた。
「よし、対象の完全固定を確認! これより第一個体のスキル抽出に移行する! 封印水晶を用意しろ!」
トリヴァラスが額に汗を浮かべながら叫ぶと、リックスとモナアが掌に収まるほどのユニーク級アイテム『スキル封印水晶』を掲げた。
あれが教団独自の秘術の行使か。
トリヴァラスが鹿頭の魔獣型魔剣師の額に手をかざし、複雑な詠唱を紡ぎ出すと、職の神レフォトの幻影が無数に宙空に展開していく。
更に、樹海の鐘の音が響くと、天から一直線に光の筋が走り、トリヴァラスのマントの内に宇宙的な煌めきが起きた。
そして、鹿頭の魔獣型魔剣師の額から上が半透明と化して、脳の一部、無数のニューロン、樹状突起が煌めくのが見えた。その脳から渦巻く青白い燐光が、掲げている水晶へと吸い寄せられていくと、バリバリッ! と激しい火花が散り、鹿頭の巨体が呪縛の中で激しく痙攣していく。
「……くっ、特異個体ゆえに反発が強い! ウノ、マレガ、結界の出力を上げろ!」
「「了解!」」
教団員たちが総出で魔力を注ぎ込み、数分に及ぶ拮抗の末――。
ようやく鹿頭の額から光の塊が引きずり出され、水晶の中へと吸い込まれていった。
「……ふぅ。皆さんのおかげで、なんとか第一個体の抽出に成功しました」
「「おぉ」」
「成功ですね、おめでとうございます」
「ん、初めて見た、凄い魔法技術、スキル!」
「はい、興味深い、雷属性もあるのでしょうか」
ヴィーネの質問に、トリヴァラスは深く頷いた。
「はい。雷属性と時空属性系統と思われます。その特異スキルが定着した……正式な名については、解析結果で分かるはずです」
トリヴァラスが荒い息を吐き、眩い光を放つ水晶を掲げてみせる。
だが、その顔には明らかな疲労が滲んでおり、残る蜻蛉の特異個体たちを前に教団員たちも息を乱していた。
それを見て、魔槍杖バルドークを肩に担ぎ直し、
「見事な抽出技術。しかし、かなり骨が折れるようだな。周囲の敵は散ったとはいえ、長居は無用、次は、うちの専門家に任してくれないか」
「はい、そうですね、ホフマン殿協力をお願いいたします」
ホフマンは、前に出て、
「はい! お任せください。トリヴァラス様、そして、千年王国の夢の果て……真なる神たるメシア、我のシュウヤ様の御為に、このホフマンが至高の『力』を抽出してご覧に入れましょう……クククッ!」
ホフマンが両手を広げる。
と、その指先が鋭利な血のナイフへと変質する。
彼は迷いなく、無力化された残り二体の蜻蛉の特異個体の額に血の刃を突き立てた。
「――<脳切血盗>」
ズチュッ、という悍ましい音と共に、ホフマンの腕を伝ってドス黒い魔力の奔流が一瞬にして吸い上げられていく。
教団員たちが数分がかりで抑え込んでいたスキルの反発など一切許さない。敵の肉体がビクビクと痙攣し、断末魔の代わりに純度の高いスキルそのものが形を成して強引に引きずり出されていく。
「おおぉ……素晴らしい! これぞ神の恩寵! 不純物の一切を排除した、純度百パーセントの特異スキル!」
ホフマンは抽出した光り輝く二つのスキルの塊を、己の血で編み上げた網で優しく包み込んだ。そして、驚愕で固まっているトリヴァラスが持つ教団の『スキル封印水晶』へと、その血の網ごと流し込む。
カアァァァンッ!
水晶が先程よりも眩い、強烈な光を放つ。
一瞬、職の神レフォトの幻影が出現したかに見えたが、それを塗り潰すようにルシヴァルの紋章樹の模様が次々と浮かび上がった。神の奇跡を上書きするかのように、水晶の内部に複雑な幾何学紋様が深く刻み込まれていく。
やがて、その暴力的とも言える光はゆっくりと収束していった。
「な、なんと……一瞬で、これほど高純度なスキルを二つ同時に……!?」
「「おぉ」」
リックスとウノたちが驚きの声を発した。
トリヴァラスも、
「シュウヤ殿、ホフマン殿、感謝の言葉もない! これこそまさに奇跡の業だ!」
と言うと、震える手で封印水晶を掲げ、感極まった声を上げた。
ホフマンは満足げに一礼し、静かに俺の背後へと退がる。
トリヴァラスに、
「一先ずはこれで完了かな」
「はい、協力に感謝いたします。それでは、報酬として、鉱山都市の事務所にて、最高のものをご用意しておきます」
「了解」
未開スキル探索教団のメンバーたちが周囲を警戒するように移動しているが、すでに樹怪王軍とゴ・ラード軍の雑兵たちは、特異個体の敗北と教団の凄まじい結界に恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと撤退していた。
カリィが悪態笑顔を浮かべながら、短剣『怪士ノあやかし』を弄んで嗤う。
「アハ♪ 鹿サンも蜻蛉サンも、随分と脆いネェ! ホフマンくんの手際も最高だヨ♪」
戦闘の熱氣が冷めやらぬ中、アキレス師匠が槍を肩に担いで豪快に笑った。
「あぁ! 見事な手際だ。さて、大仕事も終わった。シュウヤよ。約束通り、わしの古巣である【武神寺】へ顔を出してみんか? あそこの武装僧侶、住職に、師範代たち、今なら神王位たちもいるかもだ」
「えぇ、喜んで。師匠のルーツでもある場所ですからね」
「お前さんの槍を見れば腰を抜かすじゃろうて!」
「はは、それよりも武神寺ならではの修業があるはず。挑戦したい」
「にゃ、にゃぉぉ~」
俺の言葉に相棒が笑ったように反応し、皆も笑うと、
「ははは、言うと思ったわ! そして、そのシュウヤならば、風槍流の新たな氣づきを得るかも知れぬ」
アキレス師匠の言葉に皆が笑顔のまま頷く。
ヴィーネやエヴァたちも期待に顔をほころばせた。
黒猫に戻っていた相棒が、「にゃおぉ」と鳴いて、トコトコと歩き始めると、体を一瞬で巨大な黒虎に変化させる。そのままタンダールの街の方向へ向かって歩くと、その体から、いつものように、無数の触手が伸びてきた。皆の体に触手が絡まる。
「なんと!?」
「きゃ」
「おぉ」
「これが神獣様の――」
突然の事態に慣れていない未開スキル探索教団の面々は、驚きの声を上げながら一瞬で相棒の頭部へと運ばれていった。
俺にも触手が飛来したが、それを避けて駆けていく。
<武行氣>も使い、低空を飛翔し、ホップ、ステップ、ハイジャンプ――。
黒虎の触手を避けまくりんぐ――。
相棒の「ンンン――」悔しそうな喉声を聞きながら、その巨大な黒虎の横を通り――。
「相棒、遅れなよ――」
「にゃごぉ――」
「ん、ロロちゃん、シュウヤに負けないで!」
「にゃぁ~」
皆で、活氣あふれる鉱山都市タンダールへと向かった。
続きは明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




