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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千百三十四話 南の樹海、そして、特異個体と遭遇

 ガイとヨミに、


「急にか。たぶんだが、モラサが己を対価に、旧神ゴ・ラードの加護か恩寵を得たんだろう」

「ん、たぶん」

『『はい』』

「そうですね、魔界でも戦えるほどの戦力強化ですから、モラサには、元々の下地の力が相当あったはずですよ」


 とキサラも指摘した。

 ガイは、


「旧神……道理で、通常の武技や魔法とは次元が違う圧を感じたわけだ。ともかく、助かった……」


 と発言し、胸に手を当てて、俺たちに深く頭を下げてきた。


 隣のヨミもそれに倣う。

 ガイとヨミは、頭をあげると、


「――我ら【大鳥の鼻】として正式に礼を言うと共に、此度の戦いにおいて可能な限りの協力を約束しよう」

「以前、地下オークションの会場で顔を合わせた際、お前たちは、利のない場には現れないと理解している。協力の申し出は、あの時のようにビジネスとして受け取っていいのか?」


 問いかけると、ガイとヨミがわずかに表情を引き締める。


 そこに、傍らに控えていた<従者長>カリィが、ボサボサの髪を揺らしながら、悪態笑顔(カーススマイル)を深くして二人をねめつけた。


「……盟主。彼らの言う『協力』が、バメルの指示による一時的な保身か、あるいはボクたちの動向を探るための布石か、見極める必要があるヨ♪ 元【影翼旅団】の視点から言わせてもらえば、彼らのような手合いは、握った手の裏に常に次の算段を隠し持っているものだからサ」


 カリィの放つ、かつての暗黒街を震撼させた暗殺者としての毒々しい威圧感に、ガイが息を呑むと同時に視線を強め、


「……相変わらず、裏の論理には目敏いな」

 

 ニカッと笑うカリィに、ヨミが、苛ついたように影を体から出すが、路地裏の深い影から足音一つ立てずに歩み出た<筆頭従者>メルが現れると、影の動きを止める。


 メルは皆と会釈。

 カリィは、


「アハ、事実を言っているまでだヨ。君たちの立ち回りが、ボクたちの利益を損なうようであれば、その時は容赦しなイ。ボクを興奮させるような強者が、君たちの仲間に居ることを期待していいのかナァ?」


 カリィが如何わしい視線を巡らせるのを制するように手を上げた。


「そこまでだ、今は彼らとここで争う利点はない」

「――総長、その件につきましては、わたしが対応いたしましょう」


 メルが宙空に浮かせている〝ラヴァレの魔義眼〟が、暗がりの中で妖しい光を放っている。


「メル。先程のモラサとの戦いでは姿を見せなかったな」

「はい。トリヴァラスと連絡をし、鉱山都市の事務所の場所把握と……彼ら【大鳥の鼻】の伏兵、その【大鳥の鼻】を狙う【天衣の御劔】と【髑髏鬼】の残党たちが、この周辺で特異な動きをしていないか、などの監視を強めていました」


 副長らしい先を見据えた行為だ。


「なるほど」

「はい」


 メルは恭しく一礼してから、鋭い視線をガイとヨミへと向け、


「モラサ以外にも強者がいるのでしょうか」


 ガイとヨミは頷き、


「あぁ、いる。魔剣師ジジル、奇術師パグアなどが厄介だ。そして、闇の枢軸会議の大枠たち、闇の八巨星の闇ギルドたちは、ほぼ壊滅しているところもあれば、その逆もあり、台頭してきた新参に乗っ取られているところもある」


 ガイの言葉にメルたちは頷いた。

 メルは、


「総長、未開スキル探索教団との重要な目的がありますし、ここは私にお任せください。私が彼らの案内で盟主バメルの元へ直接赴き、我々にとって優位な確固たる協定を結んでまいります」


 メルの頼もしい提案に頷いた。


「分かった。メル、バメルとの交渉はお前に任せよう」

「ふふ、なら、セナアプアにて休暇中のヴェロニカとベネットを、クナがかつて使用していたここの都市のセーフハウスに呼び寄せます」


 頷いた。


「マイロード、私も【天凜の月】の筆頭顧問として、メル副長と共に同行しましょう」

「了解した」

「では、行きましょう、ガイとヨミ案内を頼みます」

「承知した、こちらです」

「メルさん、ヨミです。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、ふふ、でも、まさかこうして語り合う立場になるとは」

「ふふ、はい」


 メルとガイとヨミはカルードと共に歩き始める。

 俺たちはバメルの元へ向かう背を見送った。


「んじゃ、少し進むか」


 と言いながら通り進むとカリィが、


「アハ、メル副長なら上手くやるだろウ♪」


 楽しげに怪士ノあやかしを指先で弄びながら、数歩後ろを付いてくる。


 魔通貝で、トリヴァラスに連絡。


『今、バラモン大通りを進んでいるが、事務所の場所は、斜面かな』

『はい、左側の坂を上れば、すぐに分かります。今、目印の赤線を打ち上げますので』


 途端に、ピューッとした音が上空に響く。

 赤い信号弾か。


『了解した、近くだな』

『はい』


 山の斜面に建つ【未開スキル探索教団】の事務所へと足を向ける。

 急な石段を登りきった先、古びた石造りの建物が見えてきた。あれが教団の拠点か。


 扉の前には、以前の女王サーダイン戦を生き抜いた手練れの教団員たちが、鋭い眼光を周囲に走らせている。

「待っていましたシュウヤ殿たち!」


扉が開くと同時に、教団の左長トリヴァラスが姿を現した。その顔には、隠しきれない焦燥と、それ以上の執念が刻まれている。

 事務所は奥行きが広い建物。奥へ通されると、職の神レフォトの巨大な像が中央に鎮座していた。横の壁一面には『スキル封印水晶』が並び、不気味な脈動を繰り返している。


「……ほう。これほど多くの封印水晶が並ぶ光景は、なかなか壮観だな」


 アキレス師匠が感心したように声を漏らす。

 レベッカたちが周囲の異様な魔力を警戒しつつ見守る中、トリヴァラスへ向き直った。


「では、早速、樹怪王側とゴ・ラード側の『特異なスキル』の件だが」


 トリヴァラスは深く頷き、


「はい、例の『特異スキル』を宿した個体たちの追跡は終わっています。しかし、確実に抽出するには、我々の封印術だけでは純度が足りんのです……」

「だからこそ、連れてきた専門家の出番だ。――ホフマン、前へ」


 促すと、影のように控えていたホフマンが、燕尾服の裾を翻して優雅に一礼した。その瞳には、信仰対象である、俺に対する濁ったような悦悦たる熱が宿っている。


「――我がメシア。このホフマン、主の御為であれば、魂の一滴までをも捧げる覚悟にございます。クク……教団の玩具と、私の<脳切血盗>が交われば、これまでにない純潔なる『力』を主に献上できるでしょう」


 ホフマンはトリヴァラスを一瞥もせず、ただこちらだけを見つめて跪く。

 彼は恭しい態度で、


「千年王国の夢を追っていた頃から、真なるメシアのために貢献ができる、今、最高の氣分であります」


 ホフマンの過去を考えるに、永いなんてもんじゃないからな。地球の中世から近代にかけてのヨーロッパからの転生者、そこからのセラの歴史を吸血鬼(ヴァンパイア)として生きてきた彼ならではの思想には、相当な知見が詰まっている。


 彼との因縁が深かったキサラも表情は穏やかだ。

 そのホフマンを見て、


「おう、よろしく頼む」

「ハッ」


 ホフマンが恭しく頭を下げるのを見届け、トリヴァラスが重々しく口を開いた。


「……では、目標の最終確認を。先立って報告した通り、ターゲットは南の樹海の最深部で暴れている二体――いや、二つの陣営の特異個体だ」


 トリヴァラスが机の上に魔力マップを広げる。

 そこには、悍ましい緑と赤の魔力反応が入り乱れる中、ひときわ巨大な二つの光点が瞬いていた。


「樹怪王側に現れた特異個体は、鹿頭の魔獣型魔剣師。角から強力な雷撃を放つ八眼六腕の化け物だ。既に旧神ゴ・ラード側の眷族を三体屠り、多種多様な蜻蛉型のモンスター兵を圧倒している」

「角からの雷撃、八眼六腕の魔剣師か」

「はい。そして、ゴ・ラード側にも『特異なスキル』持ちが出現しています。魔剣型と魔槍型で、蜻蛉の頭部が石突と柄頭に付いている不気味な代物だ。どういうスキルを持つかはまだ不明だが、魔眼系であることは確実と見ている」

「魔剣型と魔槍型で、蜻蛉の頭部付き。そして魔眼か……」


 アキレス師匠が己の槍の柄を撫でながら、目を細めて笑う。


「うむ。未知の魔眼と魔槍が相手となれば、風槍流の腕が鳴るというもの。面白い相手だ」


 傍らではカリィが、悪態笑顔(カーススマイル)を崩さぬまま、怪士ノあやかしを弄んでいる。


「アハ、面白そうだネ♪ 未知の魔眼持ちなんて、ボクの暗殺術でどこまで追い詰められるか試してみたいヨ。ホフマンくんも、抽出の失敗は許されないヨ♪」

「クク、案ずるな、メシアの<従者長>よ。主の御前で不覚を取るなど、あり得ん……」


 ホフマンが冷ややかに応じた。

 カリィとホフマンを見ていると、なんか、別種の緊張感を得てしまう。

 エヴァとヴィーネにレベッカを見て


 さて、目標は定まった。トリヴァラスへ向き直る。


「トリヴァラス、案内を頼む」

「承知した。教団の精鋭も、周辺の隔離に全力を尽くしましょう。……行きましょう、あの地獄へ」


 教団事務所を後にし、一行は蒸せ返るような緑の魔力が渦巻く、南の樹海へと足を踏み出した。



◇◇◇◇



 相棒に乗って南の樹海を直進。


 そこは、まさに怪獣大決戦の様相を呈していた。空を覆う巨大な蔦がうねり、旧神ゴ・ラードの眷属である異形の軍勢と、樹怪王の生み出した植物系の魔物たちが、血と樹液を撒き散らしながら殺し合っている。


『閣下、毎度の激戦区。ですが、教団の方々が上手く結界を張り、雑兵の侵入を阻んでくれています』

『あぁ』


 視界に映っていた常闇の水精霊ヘルメが周囲に水飛沫を飛ばしながら消える。


 その視界の端で、未開スキル探索教団の教団員たちが幾重にも青白い光を放つ魔杖のような物を打ち込み、周囲の魔物たちを隔離していくのが見えた。


 あれは魔法ギルドの魔術師、魔法使いたちが用いていた結界に近い。


 その結界の隙間を縫うように、すり鉢状になった窪地へと一氣に駆け下りた。


 ――バチィィィンッ!


 耳を劈く雷鳴と共に、窪地の底で六本の剣を振り回す巨体が躍動していた。


 鹿の頭部を持つ八眼六腕の魔獣型魔剣師。


 トリヴァラスの言葉通り、その巨大な角から青白い雷撃を周囲に撒き散らし、ゴ・ラード側の蜻蛉型モンスターたちを次々と炭化させている。


 そして、その猛威に正面から対峙している異形の姿があった。

 手にした武器の石突と柄頭に蜻蛉の頭部が蠢く、不気味な魔剣型と魔槍型の武装を持つ個体。


 その武器に備わった無数の魔眼が、ぎょろぎょろと不気味な光を放ち、周囲の空間に異様なプレッシャーを与えている。


「皆、まずはあの鹿頭の雷撃を抑えるぞ!」

「にゃごぉ」

「「はい!」」

「緊張スル!」

「メシア!」

「ホフマンとカリィ、少し氣負いすぎ、ユイよりも後ろに下がって強襲前衛の立ち位置に戻って! 炯々なりや、雲雨鴉。ひゅうれいや――」


 キサラが珍しく注意してからの<魔嘔>も聞こえてくる。


「百鬼道ノ六なりや、雲雨鴉。ひゅうれいや――」


 さて、俺も――。

 八眼六腕が放つ広範囲の稲妻攻撃は、すべてを防ぐ必要はない。俺たちが踏み込むための道となり得る要所だけを遮断すればいい――。


 視線を走らせ、宙空の要所に《闇壁(ダークウォール)》を連続して展開する。

 更に、分厚い防御網を築くため、大きな駒である<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を漆黒の壁の合間へと滑り込ませた。


 更に、キサラが放った無数の黒い烏の幻影が、鹿頭の魔剣師の八つの眼球を的確に狙うように殺到し、その視界を塞いでいく。

 <握吸>と<握式・吸脱着>を発動。

 魔槍杖バルドークの握りを強める。


 全身を覆う<闘気玄装>の練度を極限まで高めながら、眼前に迫る旧神ゴ・ラード側の戦力――無数の蜻蛉系モンスターたちを睨み据え――。


 牽制と間引きを兼ねて、極寒の《氷縛柩(アイシクル・コフィン)》を上空から次々と投下。群れを潰すように倒しまくる。

 続けて、地上を這う個体には《連氷蛇矢フリーズ・スネークアロー》の軌跡をぶち当て、進軍を物理的に粉砕していった。

 

 鹿頭の八眼六腕の魔剣師はキサラの遠距離攻撃を往なしながら、こちらに雷撃を向けてきた。


「ご主人様、ここは私たちが! 」


 ヴィーネが高速に飛翔し、和弓と洋弓が融合したコンパウンドに変化している翡翠の蛇弓(バジュラ)に<血魔力>を送る。


 パッとキラキラした紫電の魔力が周囲に走る。

 

 翡翠の蛇弓(バジュラ)から<ヘグポリネの紫電幕>が展開された。

 

 圧倒的な質量の雷撃と正面から衝突し、空間を削るような音を立てて蒸発するように打ち消していく。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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