二千百三十話 絡繰の暗殺者カシンカシとの戦い
<闇透纏視>と<隻眼修羅>を発動。
カジノフロア全体の魔力と物理的な動きを俯瞰――。
同時に、大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を動かし、おっさんを外の廊下側に押し出してから、他の方々も守るように大きい駒を動かし人々を助けていく。
一般客の多くは、エヴァの白皇鋼の盾や、ヴィーネの<ヘグポリネの紫電幕>と、相棒の巨体による防壁に守られ、パニックを起こしながらも出入り口へと逃げ込んでいた。
良しっと思う一方、VIPルームの前では、魔導銃の男とツインテールの少女、そして彼らと共に乱入してきた魔術師の女が、ワイヤーを扱う強者の男と対峙している。
アブーと呼ばれたツインテールの少女は巨大な魔導散弾銃のポンプをガシャッと鳴らし、
「オラァァァッ!」
と叫びながら至近距離から爆発性の散弾を放つ。
シッドと呼ばれた魔導銃の男が撃鉄を連続で落とし、マズルフラッシュと共に魔弾が射出され、ワイヤーを扱う男に向かう。
ワイヤーの男は横に移動し、両腕左右に動かす。
その十指は、奇妙に曲がり続け、指先から出ている伸縮自在の極細の魔鋼ワイヤーが縦横無尽に動き、散弾と魔弾を弾く。
極細の線は、モーターを積んだチェーンソーの如く超高速で回転し、けたたましい駆動音を響かせている。
十指が空を弾く。宙に不可視の滑車でも存在するかのように、鋼糸は増殖しながら四方八方へと展開した。瞬く間に生成された疑似的な不可視の壁が、散弾も魔弾も容易く弾き落としていく。
シッドと呼ばれていた男は、「しゃらくせぇ――」と叫びながら魔導銃から強力そうな特殊そうな長い魔弾をぶちかます。
その不可視の壁を貫くが、そこで爆発して長い魔弾が大きい薬莢ごと消えていた。
しかも、爆発もワイヤーの一部が取り込む。
ワイヤーは光を帯びていた。
シッドは構わず、魔導銃の弾倉を変えて、魔弾は連続的に放つ。
魔弾が、回転する鋼糸に触れると火花を散らしながら削り落とされ、あらぬ方向に逸らされていた。
更に、少女の放った散弾に対しても、男は空間に口を開けた影の沼から柄のない漆黒の魔剣を無数に自動射出し、宙空で散弾の粒と的確に衝突させて相殺してみせながら、ワイヤーを二人に飛ばす。
ワイヤーは女魔術師が繰り出した氷の息吹を浴びて途中で止まっていた。
「――チッ、相変わらず硬い、だが足下だ!」
横に移動しながら飛来した鋼糸を避け、魔導銃をぶっ放している男の声が響く。
女魔術師が、
「シッド――」
と、呼び、氷の魔力を床に這わせる。
ワイヤーの男の足下を凍てつかせようとするが、奴は踵で床を軽く叩いた。
すると、床の絨毯の下に予め仕込まれていたであろうワイヤーが弾け飛び、振動によって氷の魔力を粉々に粉砕する。
「……猟犬どもが。貴様らの動きはすべて『絡繰』の想定内だ」
ワイヤーの男が両腕を大きく交差。
すると、カジノの天井、壁と床に張り巡らされていた不可視のワイヤーが一斉に収縮を開始した。
魔導銃の男と女たちだけでなく、逃げ遅れた客や俺たちのいる安全地帯ごと――。
空間そのものを巨大なスライサーで細断しようとする死の網が飛来した。
物理的な張力と、幾何学的に計算され尽くした魔導機械的な罠の極致。
「相棒、あれは俺が対処する――」
前に出た――。
大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は一般の方々の守りに使う。
<血道第三・開門>、<血液加速>を発動。
<闘気玄装>を強め、<滔天仙正理大綱>、<滔天神働術>を発動。
<風柳・異踏>を使う。
連続的な無音のステップで――。
死の網が収縮する中心点へと滑り込んだ。
<隻眼修羅>が、無数に交差するワイヤーの結節点と、張力の基点、その魔力の流れを完全に可視化している――。
迫り来る極細の鋼糸の群れに対し――。
更に、前方の空間を縛るワイヤーの結節点へ向けて《氷縛柩》を放った。
極度の低温に晒された金属の張力は脆くなる。
<隻眼修羅>で見切ったワイヤーの群れに向け、右手の雷式ラ・ドオラで<雷払雲>を繰り出した。
下から上へと薙ぎ払う紫電の槍撃が凍結した鋼糸の群れを、ガラス細工のように無残に粉砕していく。
砕けた魔鋼の破片がカジノの光を反射して散った。
ワイヤーの男の無機質な瞳と、右目の赤い瞳が驚愕に見開かれた。
「――先程の男……お前、お前たちは、闇のリストの同業者か?」
「闇のリストではないが、大魔術師の仲間入りしたばかりの、槍使い。【天凛の月】の盟主と言えば分かるかな」
「……てん……【天凛の月】……あぁ! 南マハハイム地方の【血月布武】の名の片方か!!」
ワイヤーの男は理解したように表情を変化させた。そこに、魔導銃の男が俺の横をすり抜けて突進する。
「よそ見してんじゃねぇぞ、死神ッ!」
男の魔導銃から放たれた魔弾が、ワイヤーの男の右肩の装甲を掠め、血飛沫を上げさせた。
「チッ……!」
ワイヤーの男は体勢を崩しながらも、影の沼へと身を沈めて距離を取る。
だが、その退路を塞ぐように、エヴァが魔導車椅子から白皇鋼の刃を飛ばし、影の沼の発生源を物理的に塞いでいた。
魔導銃の男は追撃を止め、俺の方を振り返る。
その視線は、胸元の【輪の真理】の臨時徽章と、今しがた俺が行ったワイヤーの解体作業を交互に見て、困惑に揺れていた。
「おい、あんた……その徽章を付けてるのに、なんで俺たちを庇うような真似を……」
雷式ラ・ドオラを肩に担いで、
「――俺たちは、ここを利用していた客に過ぎん。そして、そこのワイヤー野郎の攻撃は、無差別すぎた。だからといって、お前の味方でもない。お前が武器をこちらに向け、攻撃していたら、俺たちはお前にも攻撃していただろう」
「……」
男は無言のままワイヤー野郎が横に跳び天井を駆けたが、ユイとカルードの斬撃をワイヤーで防ぎ、後転しているのを凝視。
ワイヤー野郎は、ヴィーネの〝思考共鳴の魔導輪〟を用いた無詠唱の《雷魔外塔》をもろに浴び、雷塗れに痺れながら天井に張り付けにされる。
続けて、〝思考共鳴の魔導輪〟を活かした雷属性の雷帝迅閃がワイヤー野郎の体に決まったかに見えたが、ワイヤー野郎は、防護服も特殊か。
<隻眼修羅>で確認したが、防護服の表面に薄らとしたエネルギーフィールドが展開されているが見えた。それでダメージがほぼ消えている。
そこに、ドッとした重低音と共に、ユイの《怒崩象歯群》が炸裂。
ワイヤー野郎ごと天井を大きく窪ませる。
更に、ミスティのミニ鋼鉄矢が、ワイヤー野郎の体に突き刺さっていくが、ワイヤー野郎は横に転移するように移動を繰り返す。
そして、天井は結構頑丈だ。
この魔塔には、対魔法防御の仕組みが随所に施されてあるようだ。
魔法の威力は減退されていた。
ワイヤー野郎にルシェルの光の十字型の刃が向かうが、ワイヤーに弾かれている。
あれは、烈級:光属性の聖光癒刃か。
ワイヤー野郎は、横斜めに吹き飛びながらも、ワイヤーの幾つかを、体に絡ませ衝撃を殺し、大きい家具と魔道具を引き込みながら、盾に利用。
カジノのコインが弾けて消えていく。
相棒の近くで皆を守っていたキサラも、<真眼・白闇凝照>と〝思考共鳴の魔導輪〟を活かし、烈級:風属性の風翼刃把剣を繰り出していく。
ワイヤー野郎に光の翼と刃が融合したような魔刃が向かうが、不可視の壁に阻まれたように、ワイヤー野郎に当たらず、宙空で不自然に弾けて爆発。
ワイヤー野郎は、無数の漆黒の魔剣を宙空に生み出しては操作、魔剣は自律稼働もあるのか、師匠たちの追撃を的確に防ぎ、反撃し、避けていた。
かなりの強者、魔界の戦場でも活躍はできるだろうな。しかし、つくづく思うが、塔烈中立都市セナアプアにも獣人系魔族の賞金稼ぎが居たように強者の世界は、実に多種多彩、多種多様だな……。
女魔術師が魔導銃の男の傍に寄り、俺の佇まいと、背後で圧倒的な威圧感を放ちながらも静かに控えている黒豹を見て、警戒を解くように両手を軽く上げた。
「……シッド、カシンカシと戦ってくれている、この人たちは明らかに【魔術総武会】の連中じゃない。それに、総武会の犬が、見ず知らずの客の多くを庇ってまで、あの死神の糸を解体するはずがないもの」
女魔術師は、時折、肌の上にフィースフィールド的な薄い防御魔法を展開させている。肌色は時々、ヴィーネのように銀に輝くこともあったから、人族ではないのかな。片腕の表面に眼球のような模様も出現することがあった。
その女魔術師の言葉に、シッドと呼ばれた男は奥歯を強く噛み締め、俺の胸元の徽章から視線を逸らした。
「……すまねぇ。相手を間違えた。あんたたちの遊び場を壊したことには謝る」
男はそう言うと、再び鋭い殺氣をVIPルームの奥――ワイヤーの男と、その背後で腰を抜かしている豪奢なスーツのドワーフへと向けた。
「俺たちの敵は、そこの【白金天秤商会】のファルデンと、【魔術総武会】の腐敗した高官、その守り手の大魔術師たち、そして、そこのカシンカシも大敵だ」
腐敗した高官か。
サケルナート、テツ・リンドウの名を想起する。
大魔術師たちの【魔術総武会】の要職を兼ねた魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問サケルナート。
サケルナートは、闇神リヴォグラフの大眷属ルキヴェロススだった。
そうしたように、闇神リヴォグラフ側の戦力が【魔術総武会】に紛れ込んでいたのは事実だからな、彼が俺の徽章を見て、狂犬のように噛み付いてきた理由を考えるに、大魔術師を憎む深い理由があるんだろう。
その魔導銃を扱う男と身軽そうな少女と、幽鬼系の綺麗な女性を見て、
「……客と身内の安全さえ確保できれば、お前たちの復讐劇に口を挟むつもりはない」
「おっ、なら話は早いわね。皆さんは、臨時の仲間ってことで、よろしく♪ 後で、聖魔銀行の口座か、ギルド銀行のことを教えてくれたら、白金貨数十枚を支払うから」
と気軽に語る少女は巨大なショットガン系の武器を、第三の魔機械腕が扱っているから不思議だ。
少女は、
「因みに、私の本名はディータ、そこの魔導銃を持つ男はザイク、更に、人族風の女魔術師の方は、エルンストの『魔導ネットワーク』や防衛術式へ直接ダイブ可能な特異能力者で、<幽鬼霊掌握>を持つ絶世の美女、名はベイカーよ。あ、ベイカーは使い魔でもある」
ベイカーは、ヴィーネとヘルメとグィヴァを合わせたような似たよう印象だ。
「なっ、お前、ここで本名を」
「もう! そんなことを言ってる場合ではないだろがッ」
ディータにザイクは尻を蹴られている。
雷式ラ・ドオラを消し、魔槍杖バルドークを右手に召喚し直した。
「……フ……舐められたものだ」
VIPルームの奥から、ドス黒い魔力が間欠泉のように噴き上がった。
ヴィーネの光線の矢とレベッカの蒼炎弾にゼクスの光剣の一撃が不可視の壁に防がれている。
その壁の向こう側にいるワイヤーの男がゆっくりと立ち上がった。
一瞬で、傷を回復させ、防護服を修復させた。
その十指からは、先ほどまでの冷徹な鋼色とは違う、禍々しい赤黒い光を帯びたワイヤーが垂れ下がっていた。
「契約は、ここまでだ。……これより先は、俺個人の『解体作業』……貴様ら全員、この魔宿の塵に変えてやる――」
「ほほっ――」
「漆黒の魔剣の連撃がウザいな――」
飛怪槍流グラド師匠と獄魔槍流のグルド師匠が飛来してくる漆黒の魔剣の遠距離攻撃を得物を振るい回し、横に天井に移動を繰り返して弾き、避けている。
ユイ、レベッカ、カルード、ルリゼゼも攻撃を加えようとするが、絶妙に間を保たれていく。
『御使い様、外に出てフォローに回ります』
『了解』
右目から闇雷精霊グィヴァが飛び出ていく。
カシンカシの動きを見て――。
王級:闇属性の《暗黒銀ノ大剣》――。
左腕の前方に巨大な闇と銀に輝く魔法の大剣が出現し、直進――<間歇ノ闇花>の闇の花の幻影が周囲に発生した。
――《暗黒銀ノ大剣》はカジノの床に火花を散らしながら、カシンカシのワイヤーと衝突、宙空で爆発が起きたが、巨大な《暗黒銀ノ大剣》は止まるとへし折れて消えた。
続けて、《氷縛柩》を衝突させようと送るがカシンカシのワイヤーに両断された。
「大魔術師の新参にしては、妙だな――」
カシンカシは何かを放る。
手榴弾か――。
<超能力精神>でその手榴弾っぽい塊を宙空で縫い止め防ぐと、それは爆発した。
「――チッ」
と、飛来した鋼糸を横に移動して避け、《氷命体鋼》を発動、《連氷蛇矢》を連射――。
「ハッ、魔法戦の練度は高いようで異なるのか――」
――《連氷蛇矢》は上下からの不可解な圧力か何かで消えたが――。
<雷飛>――。
カシンカシとの間合いを一瞬で零――。
そのまま魔槍杖バルドークで<魔皇・無閃>――。
「ぐぉ――」
カシンカシのワイヤーと防御魔法と片腕をぶったぎるが、カシンカシの右半身から出た幻影の魔獣が口を拡げて飛来。
返す<血龍仙閃>を、それにぶち当てるが、衝撃と共に後退を余儀なくされた。
カシンカシは俺を追わず、血が噴出している片腕を失ったところから新しい片腕を生やす。
その背後、VIPルームの奥では、ザイクの放つ連続した魔弾やディータの散弾、ベイカーの魔法が絶え間なく降り注いでいるが、カシンカシの操るワイヤーの網目と、引き寄せられた高級家具の残骸が強固な防壁となり、それらの飛び道具を防ぎ続けていた。
その物陰では、豪奢なスーツ姿のドワーフが自身の手持ちの防御用魔道具まで展開し、脂汗を流しながら執拗な射撃を凌いでいた。
やがて、防壁の隙間から、ドス黒い魔力とは質の違う紫色の魔煙が間欠泉のように吐き出される。
ドワーフか?
その分身も多数出現。
「ええい、カシンカシ! 何を手こずっておるか!」
と、指示を飛ばしていた。
カシンカシの雇い主か。
<隻眼修羅>で、噴き上がる紫色の魔煙の奥を凝視する。
分身は幻影というより、魔力で編まれた一時的な泥人形のようなものだ。本体は、VIPルームの最も奥、頑丈そうな金庫の陰で震えているのが見える。
「ファルデン――」
ディータの散弾がドワーフの分身を撃ち抜く。ザイクも魔導銃から魔弾を射つが、
「――どれが本物だ!? クソッ、ちょこまかと!」
「全部撃ち抜けばいいのよ!」
ディータの巨大なショットガン系の武器から火花が散る。散弾が、ドワーフの幻影を次々と吹き飛ばす。
紫色の魔煙に触れると弾が溶解していくように見えた。
ベイカーが指先で複雑な印を結び、
「……その煙、ただの目眩ましじゃない。魔力回路を狂わせる毒素を含んでる。不用意に吸い込まないで」
ザイクたちに警告を発していた。
今はあのドワーフにかまけている余裕はない――皆の動きに合わせ、カシンカシに近付く。
そのカシンカシは、皆に牽制の衝撃波と共にワイヤーを数発放つと、姿が掻き消えた。否、上か。
天井から無数の赤黒いワイヤーを蜘蛛の巣のように張り巡らせたカシンカシが、重力に逆らうように逆さに立っていた。
「……計算外の動きをする。だが、この空間は既に俺の『解体領域』……」
カシンカシの十指から伸びた赤黒いワイヤーは、先ほどまでの精密な防壁とは全く異なる動きを見せた。
大蛇のようにうねり、カジノの豪華なシャンデリアや太い柱に絡みつくと、それらを豆腐のように易々と切断しながら、こちらへ殺到してくる。
飛来してくるワイヤーを<超能力精神>で吹き飛ばす。
と、右の空間が湾曲、漆黒の魔剣の刃が伸びた。それをスウェイの動きで視ながら避け、反転、床を蹴り、<雷光瞬槍>で加速、<仙魔・桂馬歩法>で跳躍し、飛来してくる赤黒いワイヤーと、漆黒の魔剣を避けるように前進――。
距離を取るカシンカシは、
「死ね――」
無機質な声と共に、幾重にも重なった赤黒い斬撃の網を寄越してきた。
背後のことを考え、避けず――。
前方へ踏み込み、<風柳・中段受け>で魔槍杖バルドークを盾にして防ぐ。
――重い。先ほどの鋼色とは比べ物にならない質量と魔力が込められている。弾かれたワイヤーが床を抉り、深い溝を刻んだ。
そのゼロコンマ数秒の間に、エヴァの白皇鋼の刃が、俺の左右を越えた。
網の隙間を縫うようにカシンカシに向かう。牽制には十分――。
こちらに迫る赤黒い斬撃の網は減るが、横から更なる無数の魔矢が飛来し、後退して魔矢の他に<投擲>された魔剣、雷状の魔法攻撃、火球、風の魔弾、軽機関銃のような魔銃による無数の魔弾が飛来――。
咄嗟に、背後から<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>――。
大きい<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で無数の飛び道具を弾く。
左に移動ながら<握吸>と<勁力槍>を発動。<月読>と<月冴>を発動。
月の紋様が目の前に出現。
<血魔力>を込めて魔槍杖バルドークを、破壊されている窓から侵入してきた新手に向け<投擲>――。
魔槍杖バルドークは新手が用意した魔法の防壁をぶち抜き、その魔術師の腹をぶち抜いて宙空を進んでいく、<握吸>でそれを引き寄せた。
そして、
「御使い様を煩わせる羽虫は、私が落とします!」
先程右目から宙空へ飛び出していた闇雷精霊グィヴァが外に出ていたようだ。
グィヴァが空中で旋回しているのが見えた。
圧縮された闇と雷の豪雨を放射する。
降り注ぐ闇雷の群れが、乱入しようとした暗殺者たちの魔導障壁を貫き、次々と床に縫い付けていく。断末魔の悲鳴と、魔導機械がショートする爆音がカジノに響いた。
だが、カシンカシの背後と、その雇い主のドワーフ、ファルデンの周囲の空間が不自然に歪み、光学迷彩を解くように複数の影が出現。
完全武装したドワーフの重戦士。
異形の魔導機械の義肢を持つ暗殺者たちが現れる。
「奴らを皆殺しにしろ!」
ファルデンの命令を受け、護衛たちが一斉に得物を構えてカジノフロアへと躍り出た。ユイたちが一斉に左右斜めに後退。
代わりに相棒が前に出て、
「にゃごァ――」
紅蓮の炎を吐いた。
完全武装したドワーフの重戦士。
異形の魔導機械の義肢を持つ暗殺者たちを、一氣に紅蓮の炎が飲み込む。
「……チッ、使えん肉盾どもが」
ファルデンが舌打ち。
カシンカシは、
「お前ら――」
十指から伸びる赤黒いワイヤーの一部を束ねて巨大な槍のように変形させる。
俺の《暗黒銀ノ大剣》を折った禍々しい張力だ。
更に、一部の赤黒いワイヤーは蛇の群れの如くの動きで飛来し続けている。
左右の<鎖の因子>から<鎖>を射出しながら、<光条の鎖槍>を五発繰り出す。
「ンン――」
黒豹が黒触手を無数に伸ばして、上空から迫る残存ワイヤーを的確に弾き落とすが、数が多い。
ヴィーネは古代邪竜ガドリセスを出現させて、<月光の纏>を発動し、影のように滑るように移動しながら加速。
更に<血道第二・開門>から<光魔銀蝶・武雷血>を発動させたように、光と雷、血の魔力を帯びた銀色の蝶が舞い散るような、神速の連撃で、赤黒いワイヤーを弾き飛ばしていた。
直進しながら古代邪竜ガドリセスを振るいまくり、周囲から巻き返してくる赤黒いワイヤーの群れを一気に斬り刻んでいく。
カシンカシは赤黒い大きい凶器を展開しつつ宙空を転移するように移動し、俺の<光条の鎖槍>を避けきっているが、レベッカのペルマドンが吐いた炎を避けれず、蒼炎弾を体に浴びる。フォースフィールドの一部が消し飛び、体の一部が燃焼していたが、それは一瞬で、回復、地面に着地し、
「チッ、皆、一線級の大魔術師とはな……だが――」
と、赤黒いワイヤーの巨大な槍を放とうとした瞬間、
「ザイク! 今のうちよ!」
女魔術師のベイカーが、肌に眼球の模様を浮かび上がらせながら叫んだ。
彼女の特殊な能力か、無数の積層とした魔法陣が意識を持っているように動き、カシンカシの床下ギミックを強制起動させたように、床の隠しパネルが跳ね上がった。
「なっ――」
大技を放とうとしてたカシンカシの姿勢がわずかに崩れる。
そこへ、ザイクが魔導銃の撃鉄を連続で落とし、特大の魔弾を撃ち込んだ。
「オラァッ! 死神野郎!」
炸裂する魔弾が赤黒いワイヤーの網を削り飛ばし、カシンカシの防御に一瞬の死角を生み出した。
膨大な<血魔力>を柄へと注ぎ込み、<仙血真髄>の脈動を全身に巡らせる。
水流操作の理で周囲の空間を掌握し、<風柳・片切り羽根>の滑らかな歩法で――音もなくカシンカシの懐へと潜り込む――。
そのまま渾身の<風槍・理元一突>を繰り出した。
「――まだだ! <絡繰>は――」
残った十指のワイヤーと胸元から出たワイヤーで、カウンターを狙ってきたが、遅い。首を傾け、刃をミリ単位で躱し、肌が粟立つほどの死の風を頬に感じながらの、一陣の風そのものとなる神速の一撃が赤黒いワイヤーの結節点ごと、カシンカシの強力な胸部装甲を真っ向から粉砕し、胸を穿つ――。
穂先は螺旋の氣流と共に、甲高い突破音を置き去りにする。
背から防護服の破片と血飛沫を噴き出し、カシンカシの体が宙に浮く。ドッと遅れたように衝撃の風が吹き荒れた。
「ガ、ハッ……」
無機質な瞳が驚愕に見開かれたまま、頭部を残し上半身が消し飛ぶ。
下腹部と両足だったモノが、ドサリとカジノの絨毯に崩れ落ちた。
頭部だった物が天井に衝突。
「ひ、ひぃぃぃッ!」
頼みの綱だった死神が沈んだのを見て、ファルデンが黄金の煙管を落とし、無様な悲鳴を上げて後ずさる。
その顔からは先程までの傲慢さが消え失せ、醜い恐怖だけが張り付いていた。
「ま、待て! 金だ! 白金貨でも魔導兵器でも、好きなだけくれてやる! だから命だけは――」
だが、その命乞いを遮るように、ザイクが魔導銃の銃口をファルデンの額に突きつけた。
ディータも、背後の第三の魔機械腕に持たせたショットガンで周囲を警戒している。
ザイクは、氷のように冷たい目でドワーフを見下ろした。
「……お前のせいで、俺たちは多くを失った」
その言葉を聞きながら、魔槍杖バルドークを肩に担ぎ、黙って見つめる。
彼らには彼らの、復讐の理由があるのだろう。口を挟むことではない。
ザイクは俺をチラッと見て、礼を言うようにニヒルに笑うと、
「地獄で数えな」
無慈悲な宣告と共に引き金を引いた。
短い破裂音と共に、ファルデンの悲鳴は途切れた。
糸の切れた傀儡のように倒れ伏した巨体を見下ろしたまま、ザイクは静かに魔導銃を下ろした。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




