二千二十四話 鷲の砦の異形実験体と融合魔人兵の計画
ドォォォォン!
爆音と共に分厚い鉄の扉がひしゃげ、蝶番を引きちぎって内へと弾け飛ぶ。
土煙を巻き上げながら、俺たちは砦の練兵場へと雪崩れ込んだ。
「侵入者だ! 実験体を出せ!」
「グゥゥ、オオオオォォッ!!」
怒号を掻き消すように、獣じみた咆哮が練兵場を震わせた。
奥の施設から溢れ出してきたのは、人の形を辛うじて留めた異形の集団。筋肉が異常に膨張し、血管が破裂しそうなほど浮き上がった肌は土氣色。理性など欠片もなく、ただ殺戮衝動だけを瞳に宿した実験体たちだ。その数、およそ数百。
どす黒い殺意の波が物理的な風圧となって押し寄せてくる。
「グオオオオオッ!!」
大氣を震わす咆哮と共に、影の中から三体の巨躯が躍り出る。
先程の実験体よりも二回りは大きいか。
全身が赤黒い筋肉の鎧で覆われている。
更に正面の実験体は、腕を巨大化させ、攻城槌のような腕を見せるように、俺たちに近づいてきた。
ヘルメが「閣下、殲滅戦ですね!」と十八番の《氷槍》を繰り出し、グィヴァが「すべて仕留めましょう!」と<雷雨剣>を繰り出す。
アクセルマギナも「はい!」と魔銃を撃っていく。ソー師匠が<魔略・妙縮飛>を使い、異形の実験体との間合いを詰めたのが見えた。
相棒と俺も異形の実験体との間合いを逆に詰める。
そして、異形の実験体が繰り出した直線的に迫る腕を見るように、横に跳び避けた。
ドッ――と鈍い音と共に巨大な腕が衝突した地面は窪み、土煙を上げる。即座に地面を蹴り、その隙だらけになった懐へと滑り込む――低空から魔槍杖バルドークを突き出す<風研ぎ>を繰り出した。
風を纏った紅矛と紅斧刃が、実験体の岩のような胸から顎らしき部分を下から突き抜けた。
ドッと破裂音が響く。
頭部だったか不明な部分ごと豪快にぶち抜いた。
串刺しとなった異形の実験体の体の重さを感じながら、それを振り払うように、死骸に蹴りを入れッ、魔槍杖バルドークを引き抜くように振るう――。
蒼く燃えだしている異形の死体が吹き飛んでいく。
すると、他の異形の実験体がメイスのような巨大な腕を突き出してきた。
それを魔槍杖バルドークを盾に、<風柳・上段受け>で受け止める。<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を発動させ、力を強めながら魔槍杖バルドークを斜め下へと流し、柄を下げた。
――メイスのような巨大な腕を地面に叩き付け、更に<風柳・風蛇左腕>を行う。柄と腕を回転し、立ち関節技の理合のまま、巨大な腕を豪快にへし折った。即座に、横回転の<血龍仙閃>――。
紅斧刃が異形の体を斜めに薙ぎ払った。
黒豹も紅蓮の炎を直線状に吐き、異形の怪物を焼き払う。
ヴェロニカとルリゼゼが、
「右はもらうわ」
「主たちは中央を――」
と右前に出ていくのが見えた。
ルリゼゼはバフハールから離れたか。
ヴェロニカは、
「うひゃぁ~汚いのがいっぱい――」
鈴を転がすような軽い声と共に、ベイホルガの頂を振るう。
殺到していた異形の群れは、体の一部をメイス状に変化させ突き出していたが、そのメイス状の腕をあっさりと両断。
ヴェロニカは、そのフランベルジュのような魔剣ベイホルガの頂をまたも振るい、真横に両断した。更に逆袈裟も決まる。
異形の体は細断され散った。
血飛沫が舞う。
金髪のツインテールを揺らしながら右へ左へと移動し、その前後左右にいる異形の存在が細断されていく。
そのヴェロニカの動きに合わせ、黒豹と前に出た。
正面の二体の異形の実験体はメイスのような両腕を突き出すが、遅い――左手にルヴォーグレイブを召喚し、<双豪閃>――。
魔槍杖バルドークの紅斧刃とルヴォーグレイブの薙刀が、異形の実験体の体を真横から捉え、その太い背骨をも真っ二つ。
相棒も無数の触手から骨剣を伸ばし、異形の実験体の体を蜂の巣にするように穴を空けまくっては前爪で裂かれていく。
そこにフーが左に見えた。
異形の実験体の体に〝古竜の砕牙〟を突き刺す。
動きを止めると、メルが飛び掛かった。
紅孔雀の攻防霊玉の魔剣を横に振るい、頭部を真横に両断し、回し蹴りと同時に、その左足の踵付近から出た黒い刃で、頭部を失った異形の実験体の体を薙ぎ払っている。
ベネットは魔弓から聖十字金属の魔矢を射出し、盾を構え突進してくる実験体の死角を突くように、その眉間を正確に撃ち抜いた。
ヴィーネの光線の矢も見えた。
相棒を攻撃しようとしていた兵士の射手を射貫く。
その相棒は、無数の触手骨剣を振るい回し、異形の実験体を吹き飛ばし、ファーミリアが<龕喰篭手>を<投擲>、更にユイが、大上段の構えから一氣に唐竹割りを繰り出す。
巨大な異形の実験体は頭部から体が左右に分かれていく。
そのユイの横をカルードが駆け、小柄の異形の実験体を流剣フライソーと幻鷺によって両断、そんな皆へ雷球が迫るが、その雷球ごと狙うように<鎖の因子>から<鎖>を射出し、魔槍杖バルドークを<投擲>――。
<鎖>が雷球を破壊し、壇の高い場所にいた射手たちを魔槍杖バルドークが貫いた。続けて、ルヴォーグレイブを魔導星槍に変えた。
その魔導星槍で、高い場所にいる魔術師たちへと<魔導拡束穿>を使う――。
託されたハティアの想いとナ・パームの超技術。
魔導星槍は星屑の光を放ちながら直進し、同時に、穂先から放たれた収束魔線は螺旋状に絡まりながら一直線に迸った。
収束魔線は魔術師が生み出した半透明の防御魔法を溶かし貫き、柵と魔術師を貫いて、床と壁の建物を突き抜けた。
轟音に閃光と衝撃波が発生。
魔導星槍は飛来し、左手に戻ってきた
右手に魔槍杖バルドークを<握吸>で引き寄せ、魔導星槍を消し、右前に跳んでルリゼゼを追い越しながら魔槍杖バルドークで<魔皇・無閃>――異形の実験体の体を斜めに両断し、片足から着地し、横回転しながら、状況を見る。
ユイが<ベイカラの瞳>を発動。
イギル・ヴァイスナーの双剣を振るい、小柄の異形の実験体を薙ぎ払い、前進し、大柄の異形の実験体に近づく。
大型の異形の実験体はメイス状の腕を突き出すが、ユイはイギル・ヴァイスナーの双剣を盾にするようにクロスし振るった。
メイス状の腕は、ユイの光を有したイギル・ヴァイスナーの双剣の刃に喰らい、×印状に深い傷が生まれていく。
骨にまで到達したかのような切れ味。
ユイは、咥えていた神鬼・霊風をも上下に振るう。
<銀靭・参>の連続斬りが、異形の実験体に決まった。
「ナイスだ――」
と褒めながら、ユイの横を跳ぶように前に出て、異形の実験体の首を飛ばすように魔槍杖バルドークの<豪閃>で薙ぎ払った。
<雷炎縮地>を使い、横に飛び、次の異形の実験体の脇腹辺りを<魔雷ノ風穿>で穿ち倒し、ユイのフォローに<鎖>を右手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出。
ユイの左右にいた異形の実験体の一体は<鎖>で動けなくなった。
ユイは、直ぐに反応し、左の実験体の足を、スパッと膝から斬る。
そして、前のめりに倒れ込む巨体の背へ軽やかに飛び乗るや、否や逆手に持ち替えた刀を深々と背に突き立てた。
――<死臓ノ剋穿>か。
刀身から放たれた壊死の魔力が、実験体の内臓を一瞬で破壊する。巨人は声にならない断末魔を上げ、ビクリと痙攣して沈黙した。
メルは数人の援護を受け、音もなく敵の懐へと潜り込むのが見えた。
実験体の剛腕が振り下ろされるが、メルは手に持った紅孔雀の攻防霊玉の魔剣で、それを軽々と受け流し、流れるような動作で、ガラ空きになった胴へ逆手に持った魔剣を一突き。
更に横回転し、飛来する魔矢と雷撃を回避すると、跳躍。宙空から魔矢を射出した射手との間合いを詰め、旋回するメルの踵から、黒い翼のような閃光が伸び、ドッと短い音が響くまま、吸い込まれるように炸裂した蹴りと黒い閃光の刃が、射手の首を刈り取った。
メルは、くるっとその場で横回転をして、首を失った射手が崩れ落ちるより早く着地していた。
そのメルと視線が合う。
彼女は無言で頷くと、流れるように次の標的へ向かった。
「ば、馬鹿な……我が最高傑作たちが、こうも容易く……!」
奥の施設入り口で喚いていた男。
白衣のような魔導服を着た指揮官らしき人物が、戦慄に顔を歪ませて後ずさる。その周囲を守っていた親衛隊らしき重装の実験体が、主を守ろうと壁を作るように動いた。
「いけっ、時間を稼げ! 私が逃げるまで――」
男が踵を返し、施設奥の頑丈そうな扉へ逃げ込もうとする。
「――逃がすか」
右腕を突き出し、手首の<鎖の因子>を意識した。
乾いた音ごと斬り裂くように直進し、地を這いながら、立ちはだかる重装実験体たちの隙間を縫って逃走する男の足首に食らいついた。
「ぎゃアッ!?」
男が無様に転倒する。
そのまま<鎖>を手首の<鎖の因子>に修錬させた。
ズルズルと床を削りながら引きずられてくる男が、「助けてくれぇ!」と情けない悲鳴を上げる。
「オオオオッ!」
主の危機に、重装的な、大柄の実験体たちが怒号を上げて俺に殺到しようとした。だが、その頭上から漆黒の影が降り注ぐ。
「にゃご――」
相棒だ。黒虎ロロディーヌが、天井の梁を蹴って落下――。
背と胸から無数に触手が伸び、先端から出た骨剣が、雨あられと実験体たちに降り注ぐ。
ドスドスドスッ!!
硬質な刺突音が何度も響き渡る。
触手骨剣は実験体たちの脳天や延髄を正確に貫き、その巨体を沈黙させた。相棒は倒れ伏した実験体の上に着地すると、喉をグルルゥと鳴らし、赤い瞳で周囲を威圧する。
他の異形の実験体は、まだいるが、バフハールとシャイナス、師匠たちの手に仕留められていく。
残っていた研究員たちは、その神獣の如き威容に腰を抜かし、ガタガタと震えて動けなくなっていた。
<鎖>を消し、引き寄せた指揮官の男の前に立った。
魔槍杖バルドークの石突きを、男の顔のすぐ横の床に突き立てた。
カォンと硬質な音が静まり返った広間に冷たく響く。
「さて……『実験体』とやらと、この施設の目的。洗いざらい吐いてもらおうか」
首筋のネックレスに触れながら、男を見下ろす。
「黙秘権はないぞ。俺の相棒はお腹が空いているらしいからな」
脅し文句に合わせて、黒虎が「ガァァッ」と牙を剥いてみせると、男は「ひぃぃッ! は、話します! 何でも話しますからぁ!」と泣き叫びながら平伏した。
「わ、私はベルマン……ここの研究主任です……! め、命令されただけなんです! 逆らえば私が実験体にされると……!」
「誰の命令だ? ハインツか?」
名を出すと、ベルマンと呼ばれた男はヒッと息を呑み、痙攣するように頷いた。
「そ、そうです……! ハインツ将軍……いや、ハインツ様が、この『鷲の砦』を拠点に、新たな軍団を組織しろと……」
「軍団だと? あの理性のないバケモノどもがか」
視線を周囲に転がっている肉塊に向ける。
ベルマンは震える指で、奥の培養槽を指差した。
「あ、あれは失敗作です……! 我々が目指しているのは、百足魔族デアンホザーと貴重な百足高魔族ハイデアンホザー、更に複数の人族、グリフォンの亜種、ゴブリン、トロール、ゲムラヒッチャーなどを融合させた、融合魔人兵なんです……!」
「百足高魔族ハイデアンホザーなどか……」
百足魔族たちも利用されるとはな。
影が見え隠れする。
再生能力や生命力と、ゲムラヒッチャーの名は知らないが無数のモンスターと人族を掛け合わせるだと? 最悪の組み合わせだ。
道理で、周囲から漂う魔力の残滓が混ざり合い、不快なわけだ。
「ンン、にゃお」
相棒が、ある一つの培養槽の前で足を止め、硝子をコンコンと爪で叩いた。緑色の溶液の中に浮いているのは、人の形をしているが、背中から黒い甲殻質の突起が生え、腕が太く少しだけ半透明化し、カマキリのような鎌のように変質している実験体だった。
「シュウヤ様、あのカマキリのような刃はゲムラヒッチャーです」
「うん、ゴルディクス大砂漠にも湧くのよね」
「はい」
キサラとレベッカの言葉に頷いた。
ピクリとも動かないが、わずかに生体反応がある。
近くにいるヴェロニカが魔剣ベイホルガの頂を肩に担いだまま、嫌悪感を隠そうともせず、「……氣持ち悪いわね」と吐き捨てる。
「ご主人様、どうしますか? こいつと、この施設」
「決まっている」
魔槍杖バルドークを消し、ベルマンを見下ろした。
「情報は貰った。だが、こんな非道な実験を続けていた罪は重い」
「ひぃッ! み、見逃してくれ! 金ならある! 貴重な資料も全部やるから!」
「いらん」
短く告げると同時に足元の床を踏み抜いた。
ドォンッ! と衝撃波が走り、ベルマンが氣絶して白目を剥く。 殺しはしないが、村人たちへの贖罪はしてもらう必要がある。
「ヘルメ、<珠瑠の紐>でこいつらを頼む」
「はい!」
「縛り上げを強めていい、後で村の人々に引き渡す」
「了解です」
常闇の水精霊ヘルメは球根のような形に変化させた指先から<珠瑠の紐>を伸ばし、ベルマンたちを拘束していく。
皆を見渡した。
「よし、施設を破壊しようか。クナたち、何かのプラスになるなら、少し回収してもいいが、培養槽も、研究資料も灰にするからな」
「了解」
「「はい!」」
「分かりました。では、少しだけ――」
クナは素材と資料を少し拝借している。
「では、燃やしちゃうわよ、いいのね?」
「あぁ、いい」
レベッカが青い炎を掌に浮かべる。
魔槍杖バルドークを掲げ、培養槽に向けて切っ先を向けた。
「やるぞ――」
掛け声と共に、皆で一斉に魔力とスキルを解放した。
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