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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2024/2163

二千二十三話 鷲の砦強襲――紫電の幕と血宝具の輝き

 老人の言葉に、場が静まり返る。

 燃える家屋の爆ぜる音だけが、やけに大きく響いた。


「『紅夢の雫』の悪魔の薬、実験台についても、詳しく話せるか?」


 努めて冷静に問うが、声には自然とドスが効いてしまう。

 老人は、捕らえられた兵士たちを憎悪の目で見つめながら、震える唇を、


「……連れて行かれた者たちは、二度と戻ってきませぬ。ですが、噂によれば……山の奥深くにある『鷲の砦』で、化け物に作り変えられるとか、体から『雫』を絞り取られるとか……」


 と、絞り出すように語る。その瞳には、深い心の苦しみと恐怖が刻まれていた。


 アクセルマギナが、


「デアンホザーの体液と、人族の肉体を融合させる苗床……いえ、精製プラントとしての運用でしょうか」


 淡々だが、残酷な推測を口にした。

 ヴィーネの瞳が冷たく光り、


「ご主人様。あの瓶の中身、幻覚作用だけではないようですよ」

「ん、苦痛と恐怖に満ちた感情がある……」

「エヴァは感じ取ったか」

「ん」


 つまり、この紅夢の雫は、ただの薬物ではない。

 人の犠牲の上に成り立つ、呪いのような代物ということか。


「……吐き氣がするな」


 と言うと、皆も同意するように視線を巡らせる。

 レベッカが不快そうに口元を覆った。

 

 そこで、足下で伸びていた隊長格の男を見下ろし、「この男、ハインツ様への上納分」と言っていた。つまり、この男もその仕組みを知った上で、村人を狩っていたわけだ。


 全身に<血魔力>を込め、

 

「おい、起きろ――」


 男の脇腹を左足で軽く蹴る。

 男は、「げぇ」と横に転がり、素早く前進し、左足の踵で、その男の胸元を押さえるように踏みつける。


「……ぐ……」


 男は苦しそうな表情を浮かべている。


「お前たちは、随分なことをしているようだな」


 氷のような声と共に、踏み付けを止めた。

 だが安堵させる間もなく首根っこを掴み、無理やり顔を上げさせた。


「『鷲の砦』と言ったな。場所はどこだ? そして、攫った村人たちはまだ生きているのか?」

「ひ、ひぃぃ……! し、死ぬ! 殺されるぅ!」

「質問に答えなければ、死ぬよりも酷い目に遭うことになる。例えば……」


 チラリと横を見る。

 そこには、相棒が「にゃ~」と可愛らしく鳴きつつも、その背中から無数の触手を蠢かせ、触手の先端から骨剣を出し入れさせていく。


 更に、ヴィーネが<血魔力>と雷の魔力を指先に集めて、冷酷な笑みを浮かべている。

 ヴェロニカは<血魔力>を込めた魔の短剣を取り出して、俺が持ち上げている隊長格の男の首元に刃を当て、ラムーとファーミリアもわざと、近くで、得物で地面を叩いていた。

 隊長格の男は、


「わ、分かった、もう少し楽にしてくれ……」


 そこで力を緩めると、男は、


「懐に地図がある、これで――」


 男の懐を探ると、羊皮紙が出てきた。

 そこには、この村から北西へ半日ほど進んだ山間部にある砦の位置と、定期的な輸送ルートが記されていた。


「村人たちは……ま、まだ生きてるはずだ! 『精製』は満月の夜に行われる! 次の満月は明後日だ!」

「なるほど、まだ間に合うわけか」


 手を離すと、男は地面に崩れ落ちた。


「お、俺は喋ったぞ! 助けてくれ! 見逃してくれ!」


 男が懇願するが、皆と老人たちを見やる。

 家を焼かれ、家族を傷つけられた村人たちが、農具や石を握りしめ、震えながら集まってきていた。


 その目にあるのは、恐怖よりも強い、復讐の炎だ。


「……俺たちが手を下すまでもないようだな」

「えっ……?」


 男が顔を上げ、周囲を取り囲む村人たちの殺氣に氣づく。


「お前たちの処遇は、この村の人々に委ねる。好きにするがいい」


 そう言い捨てて、背を向けた。


「ま、待ってくれ! 俺たちは騎士だぞ!? こんな農民ごときに――ぎゃあぁぁぁ!」


 男の叫び声は、すぐに村人たちの怒号と、鈍い打撃音にかき消された。残酷だとは思わない。因果応報だ。

 アイテムボックスから、多種多様のポーションの入りの木箱を取り出し、老人の前に置いた。


「怪我人に使ってくれ。家屋の修復費代わりにもなるだろう」 「あ、ありがてぇ……なんて礼を言ったらいいか……」


 涙を流して感謝する老人たちに軽く手を振る。


「氣持ちだけで十分、胸くそ悪い連中を倒せてせいせいだ。そして、その根元も倒しに向かう……行くぞ、皆」


 地図を片手に、北西の山を見上げた。

 そこには、不吉な暗雲が立ち込めているように見えた。


「『鷲の砦』……ハインツの私兵団と、デアンホザーの研究施設か」

「ん、潰す」

「火種になってしまうかもですが、徹底的に、殲滅しましょう」


 ヴィーネの言葉に、


「タータイム王国の立場としての俺たちってことか」

「はい」


 エヴァたちは思案げな表情を浮かべていく。

 そこでシュリ師匠は、


「そうなっても、私たちなら大丈夫よ。弱者を痛めつけている連中を見た以上、九槍卿の一人として見過ごせない」


 その言葉に皆が同意した。

 セレスティアも、ドレスの裾を直し、静かに頷いた。


「悪意の根源を確認。排除行動を継続します」


 再び相棒に乗る。


「結構な人数がいるから<無影歩>は使わない。奇襲にはならないと思うが、いいな?」

「うん」

「了解」

「お任せあれ!」

「閣下と共に!」

「おう、では、行こう――」


 風のように村を後にした。

 目指すは山間の砦――山道を風のように駆けていく。

 結界や警戒を促すような罠はない。

 直ぐに山道から地続きに、険しい斜面の岩肌へへばりつくように建設された『鷲の砦』が姿を現した。

 文字通り、獲物を狙う鷲の如く山道を阻む形か。

 城壁には赤々とした篝火が焚かれ、見張りの兵士たちが影のように蠢いているのが見える。


 既に、俺たちがいたところで騒ぎが起きたことは、砦の兵士たちは知っていたように武器を構えている連中が多い。


「――結界はなかったけど」

「――リョムラゴン王国の兵士の中に魔通貝を使った連絡員がいた?」

「その線が濃厚ね」

「あるいは死に繋がることで、上司に連絡が付く仕組みがあるのかもです」


 レベッカとキサラとユイのカルードの言葉の後、大きい岩の前で足を止め、左肩を付けて、皆を見た。

 相棒は黒豹の姿に変化している。

 戦闘型デバイスを意識し、偵察用ドローンを数匹飛ばし、ガードナーマリオルスを戦闘型デバイスから出現させた。


「ピピピッ」

「ガードナーマリオルス、偵察用ドローンの映像を皆に見せてやれ」


 そう指示を飛ばすと、ヴィーネが隣に来て、


「ご主人様、城壁の上に弓兵と魔術師らしき影が八つ」


 と言うと、翡翠の蛇弓(バジュラ)を構えている。

 引かれた光線の弦には、光線の矢が出現していた。


「あぁ、向こう側は俺たちに氣付いているから、攻撃があるはずだ」


 と言った直後に、城壁から矢と魔法の雨が降ってくる。

 大きい岩と火球の魔法が何度も衝突した。


「先程の話の続きだが、氣配察知に優れた者がいる線もあるな」

「そうですね、狙い撃ちの状態です。ですが、わたしたちなら、制圧は可能」


 偵察用ドローンの映像をガードナーマリオルスが、皆に表示していく。その砦の出入り口に多くいる兵士、メイスと魔剣持ちが大半、櫓にいる射手、魔術師の位置を把握して、


「あぁ、反撃しようか、俺と相棒が直に乗り込む。その周囲にいてくれと言うが、大規模な魔法を使う魔術師がいたら、そいつを優先に倒そうか。ま、偵察用ドローンの映像を見ても、実際に動くのは俺たち、その場、その場の皆の判断で、敵を薙ぎ倒そう」

「にゃご」

「「「「はい」」」」

「「了解」」

「了解しました」

「がんばろう」

「うん」

「ん」

「任せてください♪」


 皆の言葉に頷き、アイテムボックスから愛用の魔槍杖バルドークを喚び出す。<握吸>と<勁力槍>を発動させ、柄を強く握りしめてから、「では、行くぞ――」と大きい岩から外に出た。


「ンン――」


 相棒も駆けてくる。

 城壁からの攻撃が激化したが、俺たちには当たらない。

 背後からクナとエヴァの言葉が響く。

 <血霊月ノ梔子>と白皇鋼(ホワイトタングーン)の盾を展開したんだろう。魔槍杖バルドークを旋回させ、飛来する火球や氷の礫を打ち払い、前方にいる盾持ち兵士が片手剣を<投擲>してきたから、それを右魔槍杖バルドークで叩き付け弾く、と同時に左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、伸びた<鎖>が、兵士の首を穿ち抜いて倒した。


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 そのまま<紫月>、<月冴>、<無方南華>、<無方剛柔>をも発動し、黒豹(ロロ)の機動を読むように触手骨剣で複数の盾持ち兵士の足を絡めて転倒させているところに向かう――。

 滑り込むように魔槍杖バルドークを振るう。

 <血龍仙閃>――。

 転んでいた兵士たちの腹や胸を一氣に斬り裂く。


「敵だ、敵がきたぞ――」

「やはり――」

「潰せぇぇ」


 敵兵士たちが掛け声を発し、一氣に戦争状態となる。

「ンン」

「相棒、合わせろ――」

「にゃ――」

 

 黒豹(ロロ)と共に地面を蹴り、それらの槍持ち兵士たちに突っ込んだ。そのまま魔槍杖バルドークを盾に槍衾を一度に引き受け、姿勢を低くした直後、黒豹(ロロ)が、俺の背を駆け上がって宙空に躍り出る。


 黒豹(ロロ)の体から伸びた無数の触手から出た骨剣が、槍を突き出していた兵士たちの頭部に突き刺さっていった。

 一氣に数十人の敵兵士を倒す。

 その直後、


「――<ヘグポリネの紫電幕>」


 後方からヴィーネの凛とした声が響く。

 俺は半身で敵兵士に肉薄し、魔槍杖バルドークを一閃。

首を刎ねると同時に、爪先を軸に半回転して魔矢を回避する。

間髪入れず、矢を放った射手に向け右手の<鎖の因子>から<鎖>を射出。正確無比な一撃が射手の頭部を貫き、ヘッドショットで沈めた。その<鎖>を左へ振るうように動かし、複数の敵兵士の足を絡め取る。「ごらぁ――」と、無理やり転倒させた兵士たちへ一氣に肉薄し、魔槍杖バルドークの<雷払雲>を繰り出した。


 雷炎槍流の雷炎を纏った穂先が敵兵士の腹を次々と穿ち抜いていく。またも、魔矢が飛来、爪先半回転を行い、魔矢を避けていく。そして、またも魔矢を寄越した射手に向け、右手の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、その射手の胴体を貫く。


 その直後、皆の頭上に紫電の幕が展開されたのが見えた。

 降り注ぐ矢の雨は、幕に触れた瞬間にことごとく焼き払われていく。圧倒的な熱量を持つ紫電が、物理的な矢さえも灰へと変えていた。すると、ヴィーネの<血魔力>と翡翠の蛇弓(バジュラ)が共鳴し、その背後に魔毒の女神ミセアと巨大な蛇の幻影がゆらりと顕現した。

 そんな翡翠の蛇弓(バジュラ)を背に回し、腰の戦迅異剣(コトナギ)古代邪竜剣(ガドリセス)を抜刀しているヴィーネは可憐だ。


 ――と、そこに、相棒の触手骨剣を防ぐ盾使いを視界の端に捉えた――直ぐに<雷炎縮地>を使用――。


 その盾使いとの距離を詰めた直後――。

 <魔皇・無閃>を発動。

 斜めに振るった魔槍杖バルドークの紅斧刃が、盾ごと、その敵兵士の半身を斬り捨てた。すぐに跳躍し、魔矢を避け、横壁を走りながら、近くにいた兵士の首を<妙神・飛閃>で仕留めていく。


 その間にもヴィーネは<血魔力>と稲妻の纏いを強めているのが見えた。

 第二関門、<光魔銀蝶・武雷血>を使ったんだろう。

 バチバチと音を立てる雷光をも備えている。肢体を包み込むオーラのような<血魔力>が凄まじい。


 更に、その左右からファーミリア、フー、ベリーズが前に出て、片手斧を<投擲>してきた敵兵士を斬り捨て、射貫き倒し、次の片手半剣(バスタードソード)持ちの大柄の兵士と対峙、コンマ数秒で、その大柄の兵士を倒している。


「――前に出ます!」


 雷の如き血を纏ったヴィーネの体がブレる。

 着地際の俺と、左前にいて敵兵士を喰らっていた相棒の左前方に移動し、ガドリセスを振るい、敵兵士の肩口から胸を両断。


 続けての逆袈裟を、右にいた槍の穂先とすれ違い様に、ガドリセスの刃を浴びせていた。

 更に、ヴィーネは身を捻りながらガドリセスを振るい、敵兵士の首を刎ねる。更に、残像すら置き去りにする神速の踏み込みから、槍兵たちが反応する間もなく、ヴィーネの二刀が閃く。

 舞うような斬撃の軌跡に、雷状の血が追従し、敵を焼き斬っていく。


「――ナイスだ、ヴィーネ!」


 彼女が切り開いた道を、相棒と共に駆けた。

 城門は目前――俺は魔槍杖バルドークの石突きに魔力を収束させた。


「開門ッ!!」


 ドォォォォン!!

 爆音と共に、分厚い鉄の扉がひしゃげ、蝶番を引きちぎって内側へと弾け飛ぶ。土煙を巻き上げながら、俺たちは砦の練兵場へと雪崩れ込んだ。


「侵入者だ! 実験体を出せ!」


 怒号と共に、奥から異形の集団が殺到してくる。

 筋肉が異常に膨張し、理性を失った実験体たち。その数は五十を下らない。その時。軽やかな足音が戦場に響いた。


「あ~あ、汚いのがいっぱい。ねえ、メル、ベネット。あいつら片付けちゃっていいよね?」


 金髪のツインテールを揺らし、ヴェロニカが茶目っ気たっぷりに振り返る。その可憐な姿とは裏腹に、手には波打つ刀身を持つ魔剣〝ベイホルガの頂〟が握られていた。


「……はしゃがないの、ヴェロニカ。総長が見てますよ」


 短剣を構えたメルが呆れたように、しかし愛おしげにため息をつく。

 その横で弓を構えたベネットがニカっと笑った。


「へへっ、ヴェロっ子は張り切ってんだよ。あたいらの出番だ、派手に行こう!」


 かつて闇ギルド月の残骸で背中を預け合ってきた、家族の絆。ヴェロニカが胸元の徽章に<血魔力>を注ぎ込む。


「いくよ二人とも! ――〝血宝具カラマルトラ〟!」


 赤い粒子が弾け飛び、瞬く間に三人の全身を覆う。

 形成されたのは体に密着し、そのラインを際立たせる真紅の血の甲冑。ヴェロニカだけでなく、メルとベネットも同時に強化される――これこそが彼女の指揮官としての真価。


「まずは私から! <血白狐閃>!」


 ヴェロニカが魔剣を一閃させる。

 血の魔力を纏った斬撃は、白い狐が駆けるような幻影を伴い、先頭にいた実験体の首を鮮やかに跳ね飛ばした。


「ナイスだ、ヴェロっ子! 次はあたいだ!」


 ベネットが強化された弓を引き絞る。

 放たれた矢は生き物のように空中で軌道を変え、盾を持って突進してきた実験体の死角を突き、眉間を正確に撃ち抜いた。

 <血魔術・導具>による精密誘導射撃だ。


「隙だらけですね」


 メルは音もなく敵の懐に潜り込んでいた。

 血の甲冑で敵の剛腕を受け流しつつ、逆手に持った紅孔雀の攻防霊玉の魔剣で心臓を一突き。更に、横回転し、魔矢と雷撃を避けると、跳ぶ。

 メルは、宙空から魔矢を射出した射手との間合いを詰める。

 そして、踵から伸びた黒い翼のような黒い閃光が、その射手の首に吸い込まれたように見えた蹴り技が炸裂していた。


「――ふふん、どう? 私たちにかかればこんなもんだよ!」


 敵の前衛をあらかた片付け、ヴェロニカが得意げに俺の方を見る。メルがハンカチを取り出し、ヴェロニカの頬についた返り血を、慣れた手つきで拭ってやる。


「はいはい、よく出来ました。でも、まだ奥が控えてますよ」

「うん♪」


 その様子を見て微笑む。

 そしてバフハールとルリゼゼとカルードが仕留めた数を競うように、兵士たちを薙ぎ払っていくのが見えた。

 レベッカのナイトオブソブリンが兵舎の一つにのし掛かるように首をもたげると、咆哮と共に、雷の嵐のようなブレスを繰り出し、直下にいた多数の兵士たちを一瞬で黒炭へと変えていく。

 

「にゃおおぉ――」


 黒豹(ロロ)が跳躍し、その雷撃ブレスに驚いている。

 戦場だから油断はしないが、宙に躍る相棒の腹が見えて、可愛くて笑ってしまう。そんな皆の戦いっぷりを見てから、


「頼もしい。このまま中枢へ攻め込むぞ!」

「「おう」」

「「はい」」


 魔槍杖バルドークを握り直して走り出した。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

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