3.入学式が始まります!
陽碧学園の入学式が始まった。
入学式の前にタブレットを含めた今後の学園生活の案内が行われた。
今日はこのまま入学式が終わるとそのまま下校となる。と言っても、部活や委員会などの見学などが午後から行われるので全員一斉に下校ということでもない。
入学式も全員が体育館に集まるわけではなかった。そのまま教室に待機したまま、映像を繋いで行われる。ほとんどがこの学園の理事長や生徒会などの偉い立場の人から挨拶をいただくだけだから、わざわざ全員で集まる必要もないというわけだ。
目の前の映像では、パンフレットで見たことがある顔の理事長が何やらありがたい話をしてくれている。
さっきタブレットで確認した『理事長の部屋』という場所で書かれていた内容とほとんど同じだったためそこまで深くは聞いていない。だがやはり流石というべきか、クラスメートのほとんどが真剣に理事長の話を聞いていた。物音一つも聞こえない。
あの舘向と水無瀬ですら、しっかりと話を聞いているようだった。
『以上陽碧学園理事長の挨拶でした』
司会の声がそう告げた。
さて、次第通りに行けばこの次は……。
『続いて、陽碧学園生徒会会長鐘撞初衣より挨拶を賜りたいと思います』
来た。初衣ねえの出番だ。
『新入生の皆様初めまして。陽碧学園生徒会会長鐘撞初衣です』
入学式の最後を飾る初衣ねえの言葉。
若干心配していたのだが、初衣ねえの口からまるで歌のように流れてくる言葉を聞いて、それは杞憂だったと思った。朝の登校時間で見た初衣ねえの姿とは違う、俺の見たかった初衣ねえの姿がそこにあった。
『部活や委員会、行事等、学園に関わるもののほとんどが生徒会が主体となって生徒一丸となって作り上げていきます。一見自由に活動を行っているように見えますが、そこはとても重たい責任の上で成り立っているのです。自主性、という言葉を履き違えずに、今後のが……く』
ん?
『が……く…せ…あ、あ………なにご……』
『い……そい……広報委員か………を』
『はい……せん、が…………げんい』
ざわざわとなる教室。
俺を含めて全員が目の前で起こっていることへの整理がついていない。
映像が突然途切れ始め、徐々に砂嵐が濃くなっていく。映像の奥から何かトラブルに巻き込まれているような声が聞こえてくるが、それも砂嵐が濃くなるのと並行して、最後には聞こえなくなった。
そして砂嵐も突然ブラックアウトした。
「おい、御形。これってなんかのサプライズか?」
「知らん。俺も困惑してる」
「ま、そりゃそうか。水無瀬は?」
「……嫌な予感がする」
水無瀬は暗い画面を見ながら、なぜか苦笑いを浮かべていた。
なにか思い当たることがあるのか、と聞こうと思った瞬間のこと。
『えー、てすてす』
ブラックアウトの画面から、『SOUND ONLY』と書かれた画面が突如として現れた。
その画面の奥から、どっかで聞いたことのある声が聞こえてきた。
『え、これもう聞こえてるの? それを早く言いなさいな!』
『ほら、そんな時間かけられないからはやく』
『おほん。えー、我々は青春同好会、同好会。青春を全力で謳歌するための部活』
『同好会ね』
『今は同好会だけど、いつかは部活になるんだからいいじゃない!』
『ほら、ツッコミは必要ないって』
『凍里、あんた覚えときなさいよ』
『お姉ちゃん、もう切られそうだよ!! はやくはやく』
『そろそろお暇しないと風紀委員に捕まってしまいますよ~』
『え、ちょっと待って。なにはなせばいいんだっけ?』
『だから台本預けたのに、燃やしたのは美琴でしょ?』
『だって、本当に覚えたと思ったんだもん! 仕方ないじゃない!』
『私は覚えましたけどね~』
『陽乃女は別。あんた暗記科目得意じゃん』
『で、何を喋ったらいいの、凍里』
『それは自分で考えてよ、リーダー』
『それは参謀の役割じゃないの、凍里!』
『あ、風紀委員がこちらに向かってきてるみたいですね』
『あわわ、もう切断切れます!!!』
『え、ちょっとまだ自己紹介もそこまでできてな……』
ブチッ!!!
と、『SOUND ONLY』の画面はブラックアウトした。
結局、これが朝勧誘のチラシを受け取った青春同好会による騒動だってことが分かった。ただそれだけ。なんかコントでも見せられた、と言えば正しい気もする。
教室の皆も何が何やらわからないようで、困惑の言葉がちらほら聞こえてくる。
画面のには、『少々お待ちください』という言葉がいつの間にか表示されていた。
「おいおい、今のは何なんだ?」
「陽碧学園の闇の部分のような気もするがな」
入学式という学校の大切な行事を、どうやらハッキングの技術を使って横取りをしたようだが。
青春同好会。とんでもない奴らが、この陽碧学園に潜んでいるようだ。
数分後、無事に通信が回復したようで、初衣ねえからの状況説明があった後に入学式は終了となった。
何やら外が騒がしかったが、特に俺には関係ないと思うので無視。
「御形はどうすんの?」
「俺はちょっと用事があるから」
「ん、そうか。水無瀬……は?」
「どうしたんだ?」
隣の席の水無瀬は、何故か頭を抱えているようで。
「最悪だ……」
「何がだよ」
水無瀬の表情が、とんでもなく絶望したものをしていたので、とりあえず俺と舘向で、慰めのジュースを一本あげることにした。