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我々青春同好会は、全力で青春を謳歌することを誓います!  作者: KOりおん
我々青春同好会は、全力で新入生を勧誘することを誓います!
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1.陽碧学園に入学します!

 陽碧学園。

 全校生徒が千人を超える、超人気高校。

 他の高校とは全く異なる独自のカリキュラムを持ち、

 生徒の自主性に重きを置いたその校風は、全高校受験生の憧れの的。

 受験の倍率は、全高校の中でも群を抜いている。

 そんな陽碧学園のことは追々説明するとして、まずは自己紹介から入ろう。


 俺の名前は、「御形(ごぎょう) 伊久留(いくる)」。

 陽碧学園に入学が決定した、ピッカピカの一年生だ。


 そこまで成績が良くない俺だったが、

 それは周りに恵まれたおかげでこうして陽碧学園の前に立つことができたってわけ。


 陽碧学園は、その名前にもある通りの陽碧市の中に存在する高校だ。

 少しだけ離れた大きな島全体を使って作られており、

 住宅街などがある陽碧市の中心部からは橋を渡って登校する必要がある。

 もちろん歩道と車道があるものだ。


 その橋を新入生が少し不安げな表情で歩いている。

 多分俺もその中の一人。

 その新入生をターゲットに、様々な部活の先輩達が部活勧誘のために孤軍奮闘していた。

 基本的にはビラを配る形をとっているが、今流行りのアニメキャラを書いた看板を持っていたり、どこかのご当地キャラか何かの着ぐるみを着ていたり、何やら怪しげな薬を配っている人達もいる。

 この場所に教師の姿はない。すべて生徒の手によって運営されている。


「こう見ると圧巻だな」


 生徒の数もさることながら、その生徒全員が学園の規則の下で自主的な行動をしていること。

 部活動の勧誘で騒がしいが、それでもよく見てみるとキチンと統制のとれた動きをしている。

 陽碧学園の素晴らしさはここにある。

 生徒それぞれが自分の考えで自ら動いている、なんて素晴らしい


「あ、いっくん!」


 部活動の勧誘を受けながらゆっくり歩みを進める俺の後ろから聞き馴染みの声が聞こえてくる。


「初衣ねえ、その呼び方はやめてくれよ」

「ふふ、いっくんだって『初衣ねえ』だなんて可愛い呼び方してくれるじゃない?」

「それはそれ、これはこれだ」

「じゃあ、私も。それはそれ、これはこれ、ね?」


 鐘撞初衣(かねつきうい)

 俺の二個上、つまり陽碧学園の三年生。

 昔馴染みというか幼馴染というか、近所に住んでいる気の合うお姉さん的な立ち位置。

 柔和な表情の中にも芯の通った凛々しさもある。

 という表現が今の高校生の中でダントツに似合うであろう初衣ねえ。


 パンフレットなどで紹介されているからか、

 「あれって生徒会長だよね?」という旨の言葉が周囲から漏れ始めた。

 新入生に認知されるほどの知名度が陽碧学園の生徒会長にはあり、

 そんな生徒会長は誰もが認める美人ときた。


 陽碧学園生徒会長。

 そんな高嶺の花の存在と話すことができる新入生、いったい何者なのだろうか。

 そんな話し声も聞こえてくる。

 今まで初衣ねえと過ごしてきたから、この状況にも慣れている。

 

 自分でも思うのだ、。

 完璧超人の隣に俺がいるのはおかしいのではないのだろうか、と。


「ふふ、私たちのことをみんな噂しているね」


 俺とは違い、初衣ねえは嬉しそうに今の状況を楽しんでいる。

 それがまた、悩みの種にもなっているのだが。


「ほら、初衣ね……会長はさっさと仕事に戻ってください」

「あ、もお! ちゃんと私のことは名前で呼んで」

「一応体裁ってあるだろ? 名誉ある陽碧学園の生徒会長様に、名前で呼ぶなんて恐れ多いと思って」

「いいのよ、いっくんは特別だから」

「特定の生徒を優遇するのは、生徒会長としてどうなの?」

「今は生徒会長じゃなくて、ただの一般生徒だから!」

「腕にしっかりと生徒会の腕章をつけているけどな」


 ああいえばこういうし、こういえばそういうのだ。

 これが俺達の関係。

 陽碧学園に入学しようとしたのも、初衣ねえの猛プッシュがあったから。


 元々陽碧学園に入学できる学力はなかった。

 昔から初衣ねえから勉強を教えられてきたから、

 中学では上位に食い込むぐらいの学力はあったのだが。

 それでも陽碧学園の合格判定はEだった。


「いっくんが入学したとき、絶対生徒会長になる。いっくんが楽しい学園生活を送れるようにしてあげるから、絶対に陽碧学園に入学してほしいの。きっと、最高の青春を送れるから」


 毎度毎度勉強を教えてくれた時にそんなことを言っていた。

 なんか言ってるな、なんて思っていたけど、

 まさか本当に生徒会長になるなんて驚きだった。


「会長、何をしてるんですか?」


 突然、初衣ねえの背後から誰かが声をかけてきた。

 さっきまで笑っていた初衣ねえだったが、

 その声が聞こえた瞬間表情が一気に崩れ去った。


「あらあらあらあら、(えん)ちゃんじゃないの? どうしてそんなに怖い顔をしているのかなぁ」

「他の生徒会メンバーが働いているのに、どうして会長はこんなところで遊んでいるのでしょうか? 確かに生徒会長は陽碧学園の代表であり普段自由があまり効かない立場ですから、こういった時間も大切です。ですが、流石に時間を費やしすぎですよ。生徒会メンバーはもちろん、その支持の下働いている風紀委員の方々に失礼だとは思いませんか?」

「う、うぅ……」


 タジタジな初衣ねえを初めて見た気がする。

 目の前で理知的な言葉を浴びせる女子生徒は、初衣ねえとは異なり、

 ただただ凛々しい存在と言えばいいのか。

 悪く言えば、冷徹な女性に見えた。


「それで、この新入生は知り合いですか?」

「……前話した、いっくん」

「ああ、この人が」


 冷たい視線が俺に向く。


「どうも、初めまして」

「生徒会副会長、大導寺掩(だいどうじ えん)。話は全て会長から聞いています。会長には会長の仕事がありますので。入学式もありますから、早く校舎に向かったほうが良いと思いますよ?」


 スッと、校舎のほうを指差す大導寺先輩。

 いや、呼び止められていたのは俺。


「そもそも、そのつもりでした。すみません。生徒会の仕事、頑張ってください」

「はい」

「いやだぁ、いやだよぉ、やあああああああ!!!!」


 大絶叫しながら大導寺先輩に引きずられていく初衣ねえ。

 実は、初衣ねえの生徒会長としての姿を見れることを楽しみにしていた。普段はほんわかしている人が、全生徒の代表として活動するカッコいい姿を見られるんだな、と。それがまさか、泣き顔を浮かべながら引きずられる滑稽な姿を見られるとは思いもしなかった。

 なんだかなぁ。

 新入生や先輩たちから変な視線を向けられてるし。


「まったくもう」


 さて、そろそろ俺もちゃんと入学式のために向かうとするか。


「ねえねえ」


 ……次から次へと。


「なんでしょうか?」


 背後から話しかけてきた人のために振り返る。


「これ、チラシよ!」


 そこにいたのは女子生徒。

 活発そうな見た目と、元気な声色。

 さっき会った大導寺先輩と真逆。

 太陽のような少女みたいな例えを聞いたことがあるが、

 まさしくそれだと人生初めて思う。

 予想外の出会いに、ちょっとだけ時が止まってしまう。


「受け取ってくれないの?」

「い、いえ、全然。欲しいです」


 目が合う。時が進み始める。

 恐らく部活の勧誘であろうチラシを受け取ると、

 女子生徒は何も言わずにさっさとどこかへ行ってしまった。

 他の人の勧誘にでも行ったのだろうが、

 ちょっとだけ残念に思う。


「なんだこれ」


 もらったチラシに書かれていたのは、端的にこの一文。


 『青春同好会、メンバー募集』


 達筆な文字でそう書かれていた。

 この青春同好会には、書道がえらく上手い人がいるようだ。


 というか、青春同好会って何? 

 団体の名前だけ書かれていて、メンバーになりたいならどうすればいいのか、とか、青春同好会はこういう活動しています、みたいなことは何も書かれていなかった。

 ただ名前を広めたいだけか、もしかしたらこの文章に何かしらの意味があるのか。

 というか、こんなこと考えるのも無駄か。

 歩きながら配られた勧誘のチラシをまとめて鞄にしまう。


「入学式までは、時間あるけど」


 とりあえず急いで、自分のクラスを確認しに行くとしよう。

 ふと周りを見ると、

 さっき貰った青春同好会のチラシがいたるところに貼られているところに気づく。

 校舎がある島へ向かう橋の壁や地面、校舎に向かう生徒の鞄などにも貼り付けてあった。


「見境なさすぎだろ!」


 思わず突っ込んでしまった。

 そんな衝撃的な事件と遭遇して、俺は『青春同好会』という名前を絶対に忘れないだろう。

注)陽碧学園は現実に存在しません

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